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神がおちた世界  作者: 兎飼なおと
第5章
115/273

第115話

「ぱすわーど?って何?」


アンリが真っ先に口にした。


「これを使うための合言葉だよ、他の人に使われないように自分しか知らない言葉を設定しておくんだ。でもただの文字列の組み合わせだから、総当たりで突破できちゃうからあまり効果的とは言えないね。でも今回はそれで良かった。生体認証とかだったらどうにもならなかったよ」


生体認証や他のセキュリティシステムだったら諦めるしかなかった。

ハッキング用の機材も何もかもがここには無い。


「合言葉か。そういえば、これと一緒に口伝で意味不明な単語が伝わっていたな」

「すいません。それここに書いてもらえますか?」


メモ帳から1枚ページを破って渡すと、コルネウスはそこに文字列を書き込んだ。

それを見ると、確かに意味不明な文字の羅列だった。

コルトはそれを慎重に入力していく。


【パスワードが認証されました】


その音声とともに急速に浮かび上がったUIが変わっていく。


「すっげぇ!」


アンリが歓声をあげた。

周りの大人も声こそ出さないが、その表情は明らかに見たことのない新しいおもちゃを与えられた子供のような顔だ。

もちろんコルトも同じ気持ちだった。

ラグゼルに似たようなものがあるといっても、まだまだ平面上のディスプレイのみだ。

3Dホログラムは実用化の目処がたっていない。

それが目の前に、大量生産品として存在している事に、わくわくが止まらなかった。


【前回起動時から768年96日が経過しています。ネットワークに接続し、システムアップデートチェックを行いますか?】


「…どういう意味だ?」

「前回使ってから長期間空いたから、新しい機能があるか探しますよって言ってるんだよ」


どう考えてもこれをそれだけの間、保守し続けている人たちがいるとは思えないので、容赦なくいいえを押す。

そもそも繋がるネットワークがない。

それよりも電源が無いのに、前回起動時からおそらく正確に経った時間を記録しているほうが驚きだ。

いいえを押してからすぐにまたUIが変わり、今度は球体が浮かび上がると、その周りを複数のフォルダアイコンがゆっくりと旋回し始めた。

なので元の持ち主のコルネウスのほうに寄せる。


「こちらに渡されても困る、どうやって使うんだ」

「そんな事を言われても、僕だって初めてなんですけど……」


みんな初めてなのは変わらないはずだが、仕方なくコルトは再度タブレットを自分のほうに引き寄せた。

そしてホログラムの上で指を滑らせて行くと、それに合わせてフォルダアイコンも滑らかに回転し始めた。


「えっ、それ私もやってみたい!」


球の周りを滑らかに公転するフォルダアイコンにアンリは目を輝かせている。

そしていいよも何も言っていないのにルーカスから降りてくると、早速ホログラムに手を伸ばした。

だが、手をホログラムの中に入れすぎたのか、それとも触る位置が悪かったのか、アイコンが周ることなく拡大すると、フォルダが開くような動作をして中からまた複数のフォルダアイコンが展開表示された。

今度は行列を形成するように並んでいる。


「あっ、えっあっあっ、えっこれどうしよう!?えっ、何が起きた!?コルトこれ大丈夫か!?」


知らない挙動にパニックになっているが、コルトは冷静に大丈夫と返すと、アイコンの形とその下の文字を読んでいく。

フォルダ1つ1つに日付が書いてあるところを見ると、何かの記録だろう。

その中の1つだけ違う形をしたアイコンがあったのでそれを、書き分けて手で触れると、またUIが変わって巨大な長方形の枠組みと、その中の右端に複数カテゴリに分かれたリストが表示された。


「これは、研究資料でしょうか?」


いつの間にかコルトの横にきていたハウリルがリストを眺めている。

なので場所を譲ると、おもむろに手を伸ばしてたどたどしい手つきでリストをスクロールし始めた。


「どうやら魔力関係の研究記録のようです。共鳴力と魔力の相互作用や、他の生物への影響、こちらは教会保有の例の魔族と共族改造についての記録ですね」

「なに、おいちょっと見せろ」


魔族についての資料との事で、ルーカスが身を乗り出してきた。

周りも元々偽物と分かっていたとは、仮にも神とされていた魔族が気になるのか異論反論が出ない。

なのでその資料を開くと、再度UIが変わり、全裸の人体の3Dホログラムと、各部位やその他の詳細な記録が展開され始めた。


「竜人の男性体のようです。どうやら魔族側から提供されたというのは本当のようですね、当時の魔王の側近だったらしく、共族改造という時間稼ぎのために自ら志願したと記録されています」

「こっちには体の各部位を食した被検体の記録があるぞ。…詳細な結果もあるが、聞きたいか?」


青い顔の何人かが猛烈な勢いで首を横に振った。


「それにしても、これだけの記録を全てあと3日で調べるのは厳しいですね。一度に見られる記録は1つずつのようですし」

「ふん、今必要なのは向こうの情勢の予測に必要なものだけだろう。リスト化されているのだ、必要なものだけ抜き出せば良かろう。それに一部は紙に書き起こされていたからな、それ以外を見ていこうと思えばある程度は探れるだろう」

「そう言われるとそうですね。ではこれはコルネウスさまにお任せしてもいいでしょうか?仮にもご先祖さまが残された記録です、おいそれとよそ者が見ていいものではないでしょう?まだこちらの紙の山も全て見たわけではありませんし、それに少し3人の進捗も聞いておきたいので」


ニコニコしながら紙山を示してから、そのまま視線をこちらに寄越すハウリル。

体よく面倒なものを押し付けられたコルネウスは苦虫を噛み潰したような顔をしているが、別件対応中にコルトたちを呼び付けた手前、強く出られないらしい。

好きにしろとタブレットを手に取り、たどたどしい手つきで操作し始めた。

なので4人は適当に隅に移動する。


「それで、そちらは何か対策案は浮かびましたか?」


ハウリルはそう言いながら手近な紙の資料を手に取って眺めると、それがあった紙山を手元に引き寄せた。

どうやらそれを自分の分として確保する事にしたらしい。

引き寄せるだけ引き寄せて、体の向きを完全にこちらに向けた。

そして4人で頭を寄せてコソコソ話を始める。


「防げるだけの強度の実証は終わった。だが、それを即時展開する方法がねぇ。魔石を潤沢に使えるわけじゃねぇからな」

「今からでも魔石作る道具を借りられないかって話したんだけどな…」

「そう簡単に国外に出すとは思えないですし、許可が出ても追加1ヶ月はかかりそうなので、さすがにちょっと…というところです」

「なるほど。やはりそこがネックになりますか」


魔術さえ使えればなんとかなりそうではあるのだ。

なので何かいい案はないかハウリルに聞いてみる。

この中では一番魔術に精通しているので、何かしら出るのでは無いかと期待する。

そんな3人の視線をよそに、顎に手を当てて考え始めたハウリル。

たっぷり数分考えたところで、ようやく顔を上げた。


「先に確認しますが、武器に術式を刻むことは試しましたか?あくまで術式を構築出来ないから魔術が使えないのであって、とりあえずは術式に魔力が残っている間は魔術が使えるのではないかと考えているのですが」


理論上は魔力が命令を受け取れればいいだけなので、術式に残った命令を受けている魔力に触れられれば使える、という理屈だろう。

それ自体は分からなくはないのだが…。


「ルーカスの武器の素材が問題で、術式刻めるような素材を使ってないんです」


刃の部分である外装はオリハルコン製で、傷をつけることが難しければ、そもそも魔力を通さない。

魔術を使用するには全く適さない素材だ。

なら内側のミスリルはどうかと言うと、こちらは魔力は通るが、通しすぎる上に素材自体の強度が割りと脆い。

刻んでいる間に割れる可能性がある。

修復する手段がないので、ここで試す勇気がコルトにはなかった。

元々魔術の存在を知らず、その運用を全く考慮していない武器、と考えればそれも仕方がない話でもある。


「なるほど、今更他の剣に持ち替えるのも微妙ですよね」

「ずっとこれで慣れてるからな。他のは軽すぎる」

「…ずっと気になっていたのですが、どのくらいの重さがあるのですか?石床にずいぶんと深く突き刺さっていましたが」


ハウリルの疑問に知らねぇとルーカスがさらにコルトを見た。

コルトは記憶は掘り返して仕様を思い出す。

確か200kgを超えていたはずだ。


「そんなに重いの!?」


アンリが目を見開いてルーカスの剣を凝視している。


「ルーカスが使うならどれだけ重くしても問題ないだろって、開発局の人がウキウキでした」

「……それは、もはや剣というより鈍器では?よく宿屋の床が抜けませんでしたね、体重と合わせたら300は超えるでしょ?」

「宿屋じゃ一応浮かせてたんだよ、一晩くらいなら浮かせっぱなしでもどうってことねぇからな」


床が抜けると聞いてアンリがそわそわしているが、アンリの体重とハルバードを合わせてもルーカス一人分にはならないはずだ。

どうみても今のアンリが60kgを超えているようには見えない。

筋肉量を考慮しても50kg前半だろう。

とアンリの体重を考察していると、本人から睨まれた。

見すぎたようだ。


「とりあえず、武器にも見込めないというのは理解しました。そうなるとそうですね……」


と再度顎に手をあて、ルーカスを観察し始めるハウリル。

ルーカスはその視線に嫌な予感がしたのか、凄く嫌そうな顔をしている。

そしてその予感は当たっていた。


「魔石の魔術を見た時から試したみたかった事があるのです」


ニコニコしているハウリルが口にした魔族が魔術を使う方法。

さすがにそれは普通に考えたら嫌だろうな、とコルトも少し同情するような内容だった。


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