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神がおちた世界  作者: 兎飼なおと
第5章
113/273

第113話

それからしばらく倉庫の壁にもたれかかったまま夜空を見ていた。

アンリのほうもコルトから聞いた事を頑張って考えているらしく、腕組みをしながらずっと考え事をしている。

そしてだんだんと空が朝焼けの色に染まってきた頃、コルトはそろそろ戻ろうと立ち上がった。

アンリも大きく伸びをして立ち上がった。


「それにしても、アンリ。僕結構大事な事を喋ったつもりだけど、反応薄いよね……」


すると、アンリはまた胡散臭いものを見る目をした。


「んな事言われても、大泣きしてる奴にいきなり自分は神の関係者ですなんて言われて、信じられるかっての」

「あっ、うん。やっぱりそうだよね」


泣き顔を見られたのが、今更恥ずかしくなってくる。


「まぁでも、とりあえずは信じるよ。あんまよく分かってないけど」

「分かってないのに!?」

「だってさぁ、お前らに会う前までは、ずっと教会の神を信じてただろ?でもそれは実は偽物で、大昔の魔族だって言われて、実は別に本物がいるって言われて、それが突然自分ですって一緒にいたヒョロいポンコツに言われたんだぞ。信じられるかっての」

「…なんか凄いバカにされた気がする」

「でも、お前が変な冗談とか嘘とかそういうのを言うタイプじゃないのも分かるし。とりあえず信じておこうかなってさ」

「なんかやっぱりあんまり信じてないよね?」

「実感わかないのに無理だって!別にお前が目の前でなんか凄い力を使ったとかって訳でもないし、寧ろ戦闘とかポンコツじゃん!走るとすぐ息切れもするしさ、なんかもう全身から弱そうオーラが凄いのに、実はこの世界を作った神ですって言われても信じらんないだろ」

「うっ……、それは、僕は頭脳労働担当なんだよ」


それもアンリはホントかよ、という目で見てくる。

確かに今まで頭脳面で活躍した記憶はないが、運動が全くダメなのでそう言い張るしかない。

それにアンリにはもう隠す必要は無いし、向こうにいけばそこそこ役に立つ筈だ。

それを聞いたアンリは、あっと声を上げた。


「これ、やっぱり他の奴らに言わないほうがいいよな」


当然ハウリル達や魔族に言うかどうかの事だろう。

正直コルトはまだ秘密にしておいて欲しい。

もしここで魔神をなんとかしろと言われても何も出来ないし、だからって今すぐに神本体を呼べと言われても出来ない。

現状彼らのためにできることは何もない。

するとアンリはニヤッと笑った。


「アイツラにこんなデカい秘密を隠しておくの、楽しいよな」

「たっ、楽しいかな…」

「やっぱまずいか?でも今までこっちには色々隠し事してたんだから、私らが秘密を持ったっていいだろ?まぁこの会話聞かれてそうだけど」

「……えぇ!?」


──聞かれてる!?


一応誰にも見つからないようにここまで来た……、のはアンリに見つかった時点であれだが、こんな重要な話をしているのに誰も来ないので、一応そんな事はないと信じたい。


「聞かれてるかは絶対じゃないけど、抜け出した事には気付かれてると思うぞ。そもそも魔族3人の感知から逃げられないだろ、絶対私らマークされてると思うし」

「うっ、心当たりしかない」


魔族の魔力感知は本当に厄介だ。

なんでそんな能力をつけて生み出したのか。


「まぁでもあのクソ鳥とか、真っ先に乱入して来そうなのに来なかったし、大丈夫そうかな?」

「あの人、ねちっこそうだしね」

「だな。さて、じゃあ怒られに戻るか」

「やっぱり怒られるかなぁ」

「そりゃ怒られるだろ、入るなってところに入ったんだし」

「だよね」


自分の正体がなんだろうと、怒られるのはやっぱり嫌だった。

2人はそれから人に見つからないように、慎重にこっそりと移動し始める。


「ところでさ、お前。自分が神の関係者ならわざわざ装置を探す必要ないんじゃないの?」

「それなんだけど、ごめん。僕の体はみんなと変わらないし、特別な力があるわけでもないから直接神に接触する事はできないんだ」

「そうなのか。それだと本当に自称神の関係者名乗ってる変な奴じゃん」

「自覚はあるからあんまり言わないでよ。あとはやっぱりこの目で向こう側がどうなってるのか見たいんだ。関係者としてその選択で人や文明がどうなったのか、しっかり見ておきたい」


神にどういう報告をするにも、まずはそれを見てからでないと判断したくはない。


「そっか、じゃあ気張って探さないとな!」


笑ってそういうアンリに元気が出てきて、こちらも笑顔を返す。

そうしてなんとか農園の出口まで来た。

のだが、案の定バレていたらしく、仁王立ちしたハウリルとコルネウス、と神妙な面持ちの司祭服の者と討伐員が数名。

そこから少し離れたところで、めんどくさそうな顔をしたルーカスが立っていた。

予想に反してあの魔族の姿が見当たらない。


「立ち入り禁止だと昨日言い渡したはずだが?」

「すいません…。でもそのどうしてももう一度彼らに」

「言い訳無用!!あの状態の彼らには、ただの睡眠の邪魔にしかならないと何故分からん!!少し考えれば分かることだろう!!そんな事も分からんほど頭の使い方を知らんのか!!」

「ひっ!すいません、すいません!!」

「わたしもアンリさんなら止めてくれると思ったのですが、どうしてあなたまで一緒になってるんです」

「同年代があんななってるのに、気にならないほうがおかしいだろ」

「それにしたって夜中に抜け出さなくたっていいではないですか、それにもう夜明けですよ。今まで何をしていたんです」

「せっかく誰にも見つからずに奥までいけたんだから、そりゃ探検しなきゃ損だろ!大体、分かってたんならさっさと連れ戻せば良かったじゃないか」

「あまり騒ぎにしたくなかったんですよ、察して下さい」

「ふーーーん」


アンリはハウリルをじっくり観察しているが、ハウリルは少し困った笑みを浮かべるだけだ。

一緒に怒られてくれるとは言っていたが、その態度はだいぶ反抗的で笑いそうになる。

すると隣でコルネウスが咳払いをした。


「ふん、全くこんな人の言うことも聞けないような子供が探索隊とは嘆かわしい。ハウリル、しっかり監視しておけよ」

「承知しております」


そういってコルネウスは部下を引き連れて立ち去っていった。

思ったよりあっさりと引き下がった印象だ。

とは言え、未だに困った顔をしているハウリルと、相変わらずめんどくさそうな顔をしているルーカスは残っている。


「何をしていたのか、詳しく聞くつもりはありませんが、あまり心配させるようなことはしないでください。わたしたちはここでは部外者ですから」

「分かったよ。それより、あの鳥野郎あたりにすっげぇネチネチ言われるかと思ったんだけど、どこ行ったんだ?」

「ネフィリスの奴は魔族領に戻ったよ。バスカロンももうアウレポトラに向けて出発した」

「昨晩、夕食後すぐに発たれそうです」

「バスカロンのほうはともかく、ネフィリスの奴は俺らにさっさと出ていって欲しいんだろ」

「へぇ!」


アンリがあからさまに嬉しそうな顔をしている。

コルトもこれなら会話を聞かれていないのでは、と少し希望が出てくる。

だがそう思ったのもつかの間、情け容赦なくルーカスのゲンコツが落ちてきた。


「いってぇ!何すんだよ」

「うるせぇ!お前らが余計な事すっと、俺らがスパイだのなんだの疑われんだよ!お前らが抜け出して報告して、俺らがクソほど怒られたんだぞ」

「だったら、抜け出して時点でさっさと連れ戻せば良かっただろ」

「それについては、わたしが止めました」


またいつものニコニコ顔に戻ったハウリルは、何故かそんな事をいいだしたので、再度やっぱり聞かれていたのでは?と警戒する。

だがその次の理由を聞いて、やっぱり杞憂だったのではと思いつつ、微妙な気持ちになった。


「昼間のコルトさんの様子を見て、あのまま放置するより気の済むようにやらせたほうが、納得するのではないかと思いました。怒られるのは分かっていたとしても、殺されるわけではありませんから、それならやったほうが得ですよね」


つい数時間前にも同じような事を言われたなぁ、と遠い目になってしまった。

ニコニコしながらとんでもない事を口にしたハウリルに、ルーカスが小さく”こいつに罪悪感あるのか?”と呟いているのも耳に入ってくる。

ここまであっけらかんとしていると、逆にコルトのほうに当事者としての罪悪感が今更ながら湧いてきた。


「では、コルトさんとアンリさんも戻ってきましたし、宿に戻って朝食にしましょうか。ネフィリスさんが戻ってくるのは最低で5日後の予定ですから、それまでに色々と準備をしなくてはなりません」

「向こうがどうなってんのか、誰も知らねぇからな」


その言葉に少し気が引き締まる。


「前回の情報って800年前だよな?」

「そうですね、大体そのくらい前と考えていいでしょう。その時点で最低でも3つの勢力があり、そのうちの2つがこちらに来ていますから、残りの1つがもしかしたらまだ向こうで活動しているかもしれません。少なくとも教会がこちらに逃げてきた時は確実に1勢力が残っていましたから」

「でもそいつらって無魔なんだろ?」

「無魔だからやべぇんだよ。俺が感知できねぇから、遠距離から一方的にやられる可能性がある」

「そんな方法あるか?」

「ラグゼルの彼らが持っていた武器をお忘れですか?」


アンリがあっ、と声をあげた。

確かに銃などそれと似たような効果を持つ何かが発展していてもおかしくはないとは思う。


「人を魔力を使わず一方的に安全圏から殺すなら、硬いものを遠くからぶつけるのが一番簡単ですからね。おそらく同じ原理の似たものがあると思ったほうがいいでしょう」

「魔力が使われないと俺でもどこから来るか分かんねぇからなぁ。一応弱点で音がかなりデケェし、威力を出すならそれなりに巨大化するから撃たれた後なら俺が逃さねぇけど、その初撃でやられちまったら意味ねぇ。何か対策は考えとかねぇとヤベェよ」

「近づけたならばこちらが一方的になると思いますが、それまではあちらが一方的でしょう」


その言葉に、コルトとアンリは一気に緊張感が増す。

そして同時に、できれば戦いになって欲しくないという気持ちが沸き立つ。


「なので、3人はその対策を。特にコルトさんは無魔の方との付き合いも長いでしょうし、他にどんな戦い方が考えられるか、何かアドバイスがあればお願いします。わたしはコルネウスさまと800年前の情勢を洗い直しておきたいと思います。どうやらコルネウスさまの家に伝わる当時の情報を見せていただけることになりましたので。……コルトさん、どうされました?」

「いえっ、もしまだ生きている人がいるなら、あまり戦いたくないなって思って」

「避けられる戦いなら避ける努力はいたしましょう。こちらの目的はあくまで装置の探索であって、侵略ではありませんから」

「……はい」


それが本心からなのかどうかは分からないが、気休めにはなった。

そして4人は宿に戻るべく歩き出す。

途中腹が鳴り、それが己の体が間違いなく弱い人の体であることを示していて、どうして人のままの状態で降ろしたのかと、神を責めたくなったのだった。


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