天界のお仕事
書きたいことが多過ぎて説明する文が多かなってしまいました。
「最近君みたいなのが増えて困ってるんだよ。やれ異世界転生だなんだって。そんな誰でもできるわけないでしょ。仮にできたとしてもいつになるかわかんないし、俺TUEEEもNAISEIもハーレムもないよ?君に与えられる選択肢は3つ。1つ、転生する。2つ、ここで働く。3つ、そこの脇にある待合室で異世界転移、転生ができるのを待つ。ちなみに」
最後まで聞かずに目の前の少年は「待合室」と書かれた看板の立つ、ロープで仕切られただけの空間に向かっていった。異世界転生の話をするものはいつも同じ行動をする。そしていくら待っても異世界にはいけないことを悟り最終的には諦めて他の選択肢を選ぶ。
ここは天界「振り分けの間」。我々天使が生前の記録を元に魂のいく先を決める場所だ。善行をたくさん積んでいれば天国に行けるし、重い犯罪を犯していたら地獄に行く。どちらでもないものたちは転生するか、天界で働き、善行を積むことで天国にいく。わたしもその天国に行くために善行を積む一人だ。
〜
「それではハンコ押すのでおでこ見えるように前髪上げてもらっていいですか?これで転生に関する手続きは終了です。あちらの3番出口に進んでください。」
サラリーマンらしき男性の手続きを終え、手元の死亡者リストに目を通す。
「田中さーん。田中さとしさーん。2番窓口にどうぞ。」
リストにはその魂の情報が事細かに書かれている。名前、生年月日、性別などなど基本的なものから初恋の人やパーソナルカラーなんかものっている。
リストによると今度の魂は死にたてほやほやのヤクザの下っ端みたいだ。軽犯罪が目立つが、地獄に送るほどのものでもない。地獄の方からキャパが足りてないから重犯罪以外は送らないでくれと言われている。まあこの内容なら天国に行けるわけもないし転生する方向で話をしよう。
「あなたは死んでしまいました。ここではあなたの魂のいく先を決める手続きをします。残念なが「アニキは…アニキはどうなった。」」
目の前の金髪モヒカンが被せるようにそう呟いた。彼はヤクザ同士の抗争で撃たれそうになった兄貴分を庇って死んだらしい。
彼には悪いがこれは教えない方がいいだろう。善行を積むためとはいえこの仕事にやりがいを感じている。転生する際に影響はないが彼には「組織のために体を張ったもの」として気持ちよく転生してもらいたい。
「申し訳ありませんがお答えできません。」
「いいから教えてくれよ!あんたなんか知ってんだろ!」
「申し訳ありません。他の方の情報を無闇に教えてしまうとあれがこうで最終的に教えた私もそれを聞いたあなたも爆散します。」
なんだかめんどくさくて嘘をついてしまった。嘘をついたのをきっかけに頭上に浮かぶ輪っかのメーターが減ってしまった。
天使は善行をためると輪っかの色が変化していく。私のように天界で決められた「悪いこと」をするとメーターが減り、天国行きが遠のいてしまう。
「なんだよそれ!意味わかんねえこと言ってんじゃねえぞ!」
流石に金髪モヒカンだからと言ってもこれには騙されないか。
「あまり騒ぐようですと裏から怖い鬼いさん呼びますよ?直で地獄行きですよ?あの隣の人みたいに」
そう言って兄のマークがついたボタンをチラつかせながら隣の騒がしい窓口を指さす。
「話逸らしてんじゃ…って、アニキ?!」
どうやら隣の受付で手続きしている人が彼の兄貴分らしい。
担当はニコラス君だ。彼は基本的に困ったらボタンを押しとけスタンスなので多分今回もすぐ…あっ押した。
「いいから元のとこ戻せって言ってんだろうが!俺が誰だか知ってんのかゴラ!地獄だかなんだか知らねえが、やっと俺が組のトップに…」
それは後もなく現れた。空間の割れ目が突如現れ、そこから黒く、禍々しい炎を纏った手が伸び、先程まで騒いでいた田中さんの兄貴分(以下アニキ)を握りしめた。
「ぐおぉ、なっなんだこれ!あっあぢい!はなせっ!」
「先ほど言ったようにあなたは殺人、誘拐、強姦その他諸々の犯罪を犯し、地獄行きになることが決定しています。私が気に入らないのは自分が組の長になるために敵対組織と戦わせたところです。あなたにはあなたの国のところで言う『仁義』がない。そしてあなたは私の話を聞かず楯ついた。本当はこうしてあなたと話すのも嫌なのですが、この鬼いさんボタンを押すときは対象者に押すにあたった理由をきちんと説明しなければいけないのです。それではさようなら。」
苦しむアニキに淡々と、事務的にニコラス君はそう告げた。
「それじゃああとはよろしくお願いします。」
ニコラス君がそう言うと、手は空間の割れ目に消えていった。
「嘘だ…兄貴が、そんな…」
真実を知ってしまってショートしている田中くんには悪いが転生の手続きを進めてしまおう。
「先ほど申し上げた通りあなたには天国に行く資格も地獄に行く必要もありませんので転生の手続きを取らせていただきます。」
自分の足で転生用の出口に行ってくれそうにないので、今回は強制的に転載させる緊急時用の転生ハンコを田中君の手にポンッと押す。ニコラス君が押した鬼いさんボタンや私が押した緊急時用のハンコは最終手段のような者で、正当な理由がないと前科ポイントが減らされてしまう。今回は微妙なラインなので後で通知が来るだろう。
「はぁいつになったら天国に行けるのだろうか」
これが私の天界のお仕事だ。