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きみのそばに  作者: ひろゆき
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 第一章  ~  バカみたい  ~  (6)

 長澤芽衣。

 彼女をつい敬遠してしまうのかもしれない。

 声が体を冷たく通り抜けていく。

 風が関節を縛り、締めつけるような痛みが襲う。

 目がじっと訴えていた。

 伝わってくる。

 嘘はついていないと。

 だからこそ、胸に重たく問いが染み込んでくるのである。

 困惑で瞬きをしていると、心臓を鷲掴みにされたみたいに訴えていたものが湧き上がっていく。

 あぁ、そうだ、と息を呑んでしまう。

 長澤芽衣。

 彼女にどこか近づくのを敬遠している節があった。

 それは苦手とか、嫌いだからではない。どこか幼さが残る表情から醸し出される雰囲気に魅力があった。

 きっとどこかで高嶺の花だと意識が身構えていたんだろう。

 ただ、やはり強い印象を抱いたのは、修学旅行の予定を話しているときである。

 周りのみんなが明るく、赤い色が体から醸し出されているなかで感じた、あの白く見えたのがきっかけだったのだろう。

 白さは何も色がないからこそ、触れるのが怖くなっていたのである。

 それは漫画やアニメで表現されるような、輪郭を線で書いただけで、表情の温もりが感じられなくなっていた。

「……何バカなこと言ってんだよ」

 震える声が途切れるようにこぼれた。

 それが最大限の反応であった。

「別にバカなこと言ってないよ。本気で言ったつもりだよ」

 淀みのない声が耳に沁みる。だからこそ、また芽衣のことが白く見えてしまいそうな錯覚に堕ちてしまう。

 現実に戻ろうと、すぐにかぶりを振った。それは芽衣の言葉を否定したと受け取られたのか、芽衣は苦笑する。

 すぐに温もりのある笑顔に戻り、ちょっと安堵してしまう。

「なんだよ、ったく。冗談に聞こえないんだよ、お前の顔は」

 首筋を擦っていると、ふと手が止まる。

「じゃぁ、一昨日のことも冗談なのか?」

「一昨日?」

「あの紙飛行機、「バカみたい」ってやつ」

 あぁ、と芽衣は頷き、体を反転させると三歩ほど歩き、後ろに手を組んだ。

「あれは冗談なんかじゃないよ。本当に修学旅行なんてバカげてると思う。そんな時間があるんだったら、バイトとかしていた方がよっぽどマシ」

 どこか語気が強まっている。芽衣の小さな背中がとても遠く感じる。それでいて、声が痛々しく肌に突き刺さる。

「……何かあったのか?」

 また芽衣から色が抜けていきそうで、息をすると溺れそうななか、かろうじて口が開いた。

 岡田美波と楽しそうに話していたじゃないか。別に芽衣はイジメに遭っているわけでもない。彼女を取り巻く状況に反する態度に、眉をひそめてしまう。

「だから、いろいろあるのよ」

 振り返る芽衣。日射しが顔を照らして明るいはずなのに、どうしてか暗く見えてしまう。

「だから、考えちゃうんだよ。ここから飛び込めば、気持ちも楽になってくれるのかなって」

「止めろよ、そんなことっ」

 あくまで軽い口調で話す芽衣。そこが逆に怖さでもあり、つい怒鳴ってしまう。

「そっか。ありがと」

 風に散ってしまいそうな儚い声。何を言ったのか聞こえず、身を乗り出してしまうと、芽衣は不意に目を細めた。

 曇りのない笑顔を献上され、色が抜けていきそうだった芽衣に温もりが広がっていく。

 赤くじんわりと。

「それじゃぁさ、もし私が飛び降りたくなったら、そのときは助けてね」

 冗談、嘘だろ、と言いたい。

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