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きみのそばに  作者: ひろゆき
7/55

 第一章  ~  バカみたい  ~  (5)

 周りは気にせず、つい聞いてしまう。

           5



「昨日のあれ、お前?」

 どうもあの冷たい眼差しと笑みが頭から離れてくれなかった。何か、試しているような冷たさを。

 もちろん、彼女の仕業である証拠はない。

 それでも声をかけずにはいられなかった。

 朝のHR前の休み時間。芽衣が教室に現れて席に着いたところですぐに駆け寄り、聞いてみたのである。

 昨日に見つけた紙飛行機のことを聞くために。

 そばにいた岡田美波は途方に暮れていたけど、気にはしなかった。

 すると、芽衣は屈託なく笑い、放課後まで待ってくれ待ってくれ、と言われた。



 放課後。

 言われたとおり、屋上で待っていた。

 陽はまだ高く、淵に座り込んで太陽を見上げ、眩しさに手を掲げて遮り、隙間からの光に目を細めていた。

「……やっぱり気づいたんだね」

 眩しさが憎らしくなり、息を強く吐き捨てていたとき、校舎の扉が開かれ、明るい口調が耳に届いた。

 視線と手を下ろすと、こちらにゆっくりと芽衣が近寄っていた。

 普段は大人しく、アーモンドみたいな吊り目で近寄り難かった雰囲気が強まっている。

 今はどこか心を見透かされているみたいに、自信に溢れた表情をしていた。

 風になびいた黒髪を撫で、耳元で髪を押さえていた。

 いつもは幼げに見えたのに、今は大人びて見えた。

「あれ、なんだったんだ?」

 気持ちが乱れないうちに口を動かした。

「昨日帰るときにね、屋上から見えたんだ。紙飛行機が飛んでくるのが。誰が飛ばしたのかはわからなかったんだけど、ちょうど私の足元に落ちたの。それを拾ったのよ」

「じゃぁ、それがなんで僕のだってわかったんだ?」

「もしかしたらって思ったの」

 座っていた前に立つと、芽衣は嬉しそうに話し、グランドのある方向を眺めた。

 つられて振り向き、遠くを眺めてしまう。遠くの車道からのクラクションが木霊として聞こえた。

「あれ、なんだよ。嫌味かよ「楽しい?」って」

「どうだろ。まぁ、半分は自分に言ったのかな、もしかしたら」

「なんだよ、それ。意味わかんないよ」

「なんかさ、紙飛行機を遠くまで飛ばせば、ちょっと楽しくなるのかなっておもっちゃったんだ。まぁ、ダメだったんだけどね」

 遠くを眺める芽衣を眺めていると、わからなくなってしまう。どんな考えをしているのかを。

「でもさ、なんか紙飛行機が落ちていくのを見ているとさ、寂しくなって。それで書いちゃったんだと思う」

 寂しくなるのはわかる気がした。

 昨日、紙飛行機が急降下したときに感じた空虚感は今も覚えている。

「……なんか、人が落ちていくみたいな、ね」

 何気なく芽衣の呟きに顎が上がり、咄嗟に芽衣の顔を見上げてしまう。

 驚きで面喰らいながら。

 視線に気づいたのか、芽衣が寂しそうに頬を緩めた。

「……僕も同じイメージがあった」

 口が自然と動いて声が出てしまっていた。でも、それ以上息が続かなくなって固まってしまう。

「ふ~ん、そっか」

 どこか納得した様子で芽衣は頷き、一度瞬きをした。

 目を開いた芽衣は神妙な面持ちになっていた。悪い気配が背中から迫っているみたいに。

 口元が微かに動こうとしているのは感じた。どこか躊躇しているみたいに。

「じゃぁさ、今ここから飛び降りるって言ったら、どうする?」

 何かを試されているのか?

    それならなんでそんなことを?

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