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きみのそばに  作者: ひろゆき
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 第一章  ~  バカみたい  ~  (3)

 つい真剣に聞いてしまう。

 疑っているわけではないのだけど……。

           3



 なんで、そんなことを?

 脳裏に浮かんだ疑問が上手く声になってくれない。無駄に空気が口から漏れるだけでオドオドしてしまう。

「ただの暇潰し、かな」

「暇潰しって、なんだよ、それ」

「まぁ、いろいろとね」

 気のせいか、横を向いた芽衣は目を細めていても、どこか寂しげに見えてしまう。なんだろう、さっき外で感じた息苦しさにも似ていた。

「ねぇ、石原くんの班って、もうどこを観光するのか決まったの?」

「まぁ、大体はね。昼飯は結構もめたけど」

「村瀬くんでしょ。こっちにも聞こえてた」

 呆れて頭痛が起こりそうになる。それには同意して小さく頷いた。

 無駄に浩介の声がデカいことに。

 ラーメンと提案したのは半分は思いつきなので、却下されて悔しさはないけれど、別の班にまで聞こえていたのは恥ずかしい。

 うなだれていると、芽衣は笑い、日誌を書き始めた。

 長澤は? と問いかけて、止めてしまう。右手の指先が不意に熱くなる。いつしか紙飛行機を強く握っていた。

「これって、お前が飛ばしたんだろ?」

 一気に吐き出したのに、思いのほか弱々しくなってしまう。風になびけば散りそうな声に、シャーペンを持っていた芽衣の手が止まり、すっと顔を上げた。

 何? とおどける芽衣に、紙飛行機を見せた。すると、ゆっくりと瞬きをした。 

それは気のせいか表情から感情が抜けていくように見えてしまう。

 悪いことでも聞いてしまったのか、と眉をひそめて席に近づいた。彼女のものなら返しておこうと。

 近づきながら、感情の薄れた芽衣の眼差しと対峙した瞬間、鼓膜がギュッと圧迫されて体をざわつかせた。

 芽衣の机の横に着き、紙飛行機を置こうとすると、

「……なぁ、あの言葉の意味ってなんなんだ?」

 思わず真剣な口調となり、低い声で聞いて、芽衣を見下ろした。

 芽衣も口調から察してか、神妙な面持ちで見上げてきた。

 嘲笑するみたいに、ゆっくりと口角が上がる。

「……バカみたいって、どういう意味だよ」

「そのままの意味よ。本当にバカみたいだから」

 唐突に記憶が鮮明になった。

 昨日の紙飛行機を開いたときに現れた文字。

 ーー バカみたい ーー

「ねぇ、今度の修学旅行、意味あると思う?」

 芽衣のまっすぐな眼差しが体を突き抜けると、眉をひそめてしまう。

「そりゃ、みんな楽しみにしてるんだしーー」

「ふ~ん。私はそうじゃない。なんか、無駄に思えちゃうんだよね」

 割り込むように芽衣はかぶりを振り、日誌を閉じた。

 昨日の紙飛行機は修学旅行の案内用紙。

 ふとHRのとき、一人だけ距離を取っていた芽衣の姿がよぎる。

 あの空間を切り裂くような刺々しさが。

 何か不満でもあるのか、と口を開こうとすると、おもむろに芽衣は席を立つ。

「じゃ、私そろそろ帰るね」

 目を細めて笑うのに、笑っていなかった。

 どこか無理に目尻を下げているだけ。頬が攣っているみたいに見えた。

 しかし、何も言えなかった。教室を出て行く芽衣の後ろ姿を不様に眺めることしかできなかった。

 一気にまた息苦しくなってしまう。足元からじわりと水が湧き上がり、体を蝕んでいく。教室全体が重い水で充満していくみたいに。


 重い……。

  重い言葉がその笑顔に重なってしまう。


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