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前編

 夜はずいぶんと静かなもので、また、不思議な時間でもあります。私達が眠りについている間に、これまたずいぶんと摩訶不思議な数々の出来事が起こっているのです。彼らもその一つでありました。


 彼らはゾウであり、夢の世界の、所謂番人でありました。


 彼らは灰色の大きくて薄い耳をパタパタとさせながら、金色で暖かな陽だまりの中におりました。それがやがて赤い夕陽に変わる時、彼らは目覚めるのです。群れの中でも一際大きなゾウが最初に目を覚ましました。巨大な体と長く立派な鼻と牙を持っており、真っ黒な瞳は漆のように静かでありました。彼こそが群れの長でありました。


 長は、足元で眠る末裔をその長い鼻で撫でました。末裔は瞳をしょぼしょぼさせて、それからあくびをしました。

「まだ眠いよ・・・」

 末裔はもごもごと口と鼻を動かしながら長に背を向けて、母の腹に潜り込もうとしました。母はそれで目を覚ましました。ずいぶんと美しいゾウでありました。長と同じように静かなまなざしは慈愛に溢れ、自分の腹の下で再び眠ろうとしている我が子にそっと語り掛けるのでした。

「ほら、坊や。もう起きる時間よ」

 末裔はまだもごもごと言っておりましたが、大きくとも彼らに比べればちっぽけなその体が、ゆったりと持ち上げられました。長がその鼻で彼を持ち上げたのです。


 嫌でも光を浴びなければいけなくなった末裔は、そのぱたぱたした耳でしっかりと両目を覆いました。それでも体を右に左に、上へ下へと優しく、ゆったり動かされるうちにだんだん楽しくなってきてしまい、ついにはすっかり目が覚めました。

「目が覚めたかい?」

 長の静かに響く声がしました。再び地面に足をつけた末裔は見上げるほど大きな父のそばに寄りました。

「ねえ、もう一回。もう一回やって」

 末裔はそうねだりましたが、長は瞳を細めながらどこかへと歩き出しました。母も体を起こすと後について行きます。数歩行ったところで、長は振り向きました。

「今日からはお前もついておいで」

 長のこの言葉が末裔にとってどれほど嬉しいものか。末裔はつぶらな瞳をきらきらさせてとたとたと父と母のもとへ駆けていきました。今まで末裔は、父と母がどこかへ行く時、決まってお留守番だったからです。そんな三頭の後ろを他のゾウ達も群れとなりついて行きました。彼らは夕日の光の世界から出ていきました。


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