92.鍛治ギルドの試験場…愛されマーガレット
グラズさんの案内で、俺たちは鍛治ギルドの地下にあるという、試し振り用のスペースに訪れた。
そこには何人かの冒険者が武器を振っては何かを確かめるように手をグーパーしたり、近くの鍛治ギルドの人と相談したりしていた。
「結構広いんですね」
「うん、まぁね。時間の都合上、何人かまとめて見ることも多いし、場合によっては大剣や槍みたいな大物が重なることもあるからね」
「あぁ、なるほど。それは幅取りますね」
「グラズさん、あっちの方が空いてますよ」
「お、じゃあそこにしようか」
リオが指したところは試験場の端、そこそこ広いスペースが空いていた。
俺たちはそこに移動する…途中で色々と声をかけられた。
「お、グラズさん、お疲れ様です!…そちらはお客さんで?」
「あぁ、この子の初めての武器を選ぶところさ」
「へぇ…って、マーガレットちゃんじゃないか!冒険者になるのかい?」
「あぁいえ、これにはちょっと訳が……」
「うん?マーガレットちゃん?」
「あれ?ほんとだ!」
「おーっす!」
俺に気づいた鍛治ギルドのスタッフさんと話していると、それに気づいた冒険者を筆頭に、すぐに他の人たちにも俺の存在が広がり、あっという間に囲まれてしまった。
「マーガレットちゃんも冒険者になるの?」
「いえいえ、そういうわけでは…」
「あっ確か、昨日また揉め事に巻き込まれてなかったっけ?」
「あぁ、俺も聞いたな。なんでも、マーガレットちゃんの友達にちょっかいを出してた子供と試合することになったんじゃなかったっけか?」
「俺昨日見てたから知ってる!そのいじめられてた子って、東通りにある白兎亭の子だよ!」
「マジか!あそこ美味いからよく行ってんだけど!」
「しかもチェルシーちゃんにもそいつらちょっかい出して泣かせてたぞ!」
「あんだと!?許せん!俺が行く!」
「待て待て!お前が行って何する気だ!?」
「1発ガツンと言う!」
「絶対聞かないから大人しくマーガレットちゃんに任せとけ!お前よりよっぽど頭いいんだから!」
「なんだと!?そんなことは…………ない!」
「間が長いっ!」
「地面見んな!こっち向け!」
わぁい、一気に騒がしくなっちゃった☆
どうしよ。
「マーガレット……お前人気者だな……」
「…まぁ…嫌われてるよりかは良いけどね……」
しっかし、なぁんでこんなに人気があるかねぇ……。
マグが可愛いのは分かるけど、あとは他のスタッフと同じようにただただ普通に仕事してるだけなのに……。
「ねぇねぇ!マーガレットちゃんは何を使うつもりなの?」
「えっと…」
「やっぱりシンプルに剣じゃないか?」
「いやいや、マーガレットちゃんの体格なら短剣だろう!」
「槍とかも良いんじゃない?」
「大剣似合うと思うんだが…」
「というか何持っても似合うんじゃないか……?」
『確かに』
話が勝手に進んだと思ったら、まったく進んでなかった。
いや似合う似合わないじゃなくて、使いこなせるかどうかで選びたいんだけど……。
個人的には大剣が好きです。
太刀とヘビィボウガンも好き。
あと投げナイフ。
「ほらお前ら、自分の仕事は終わったのか?冒険者組もだ」
『えー!』
「えーって…そんなに気になります……?」
「だって《戦慄の天使》が何を使ってどう戦うのか気になるじゃないか!」
「うっ!」
またその二つ名が!?
「そうそう!それにマーガレットちゃんがちゃんと戦えるのかどうかも気になるし……」
「俺、その対戦相手を2階層で見たことあるが、スッゲェザクザク倒してたぞ?だがマーガレットちゃんは素人だろ?本当に大丈夫なのか?」
「ふむ……」
今のは結構ありがたい情報だな……。
2階層が楽勝なぐらいの戦闘力か……。
「あの…戦い方とか、倒してた魔物の種類とかって分かりますか?」
「え?う〜ん…そうだなぁ……。そのリーダーの戦い方は、力業だったかな……。とにかく力でねじ伏せるような戦い方だったなぁ……」
「脳筋か……」
「…まぁ…そうだね……」
「容赦ないなマーガレット……」
リオよ……これがリアルだから。
「それで戦ってた魔物の種類だけど……ごめん。俺が見たのはその1回だけなんだ……」
「なんだよ使えねぇなぁ」
「はぁ!?しょうがないだろ!他の冒険者パーティを尾行するとかしねぇし!」
「マーガレットちゃんのために頑張れよ!」
「無茶言うなよ!?そもそも見たのは先々週ぐらいだぞ!覚えてた方が凄いだろうが!」
確かに。
でもそうか……。
先々週……それに加えて試合は来週だから……その分強くなると思って考えると……ふむ……。
「マーガレットちゃん?」
「あれ?どうした?」
(先々週ってだけですでに2週間の経験の差が、アイツらがそれ以前から冒険者をやってるのなら、それ以上の差があるわけだ)
(それを1週間で埋めないとなんですね……)
(そう。しかも相手も同じ期間、練習に時間を割けるわけだ……が俺はそれが出来ない)
(えっ?)
(いや、頼めば多分休ませてくれるだろうけど……俺たちの目的のためには、出来れば休みたくはない)
(……龍、ですね……)
(そうゆうこと)
「マーガレット?」
「凄い集中力だな……」
(だがアイツに負ける気もさらさら無いから、結局頑張るしか無いわけだが……)
(…力じゃ勝てないでしょうね……)
(うん……やっぱりもう少し情報が欲しい。
情報を得て、その差を埋められるような作戦を立てる必要が……)
「マーガレットちゃん!」
「(うわっ!?)メ、メイカさん!?どうしました!?」
「どうしましたじゃないよぉ!1人で考えてないで私たちにも教えてよぉ!!」
「えぇ……」
マグと考え事をしていた俺にメイカさんが突然抱きついて来た。
周りを見ると、その場の全員が一様に俺のことを見ていた。
えっ?
そんな長いこと話してなかった気がするけど……。
「やっぱさっきのだけじゃ参考になんなかったんじゃないか?」
「うぅっ!?で、でもよぅ……!」
「いえ、情報はありがたいです。尾行しなかったのもとても人道的でいいと思います」
「そ、そっか…良かった……!」
うん、それやってバレたら確実に俺に被害及ぶし。
「う〜ん…やっぱり作戦が必要ですね……。スタミナにも差があるから短期決戦が良いんですけど……」
「そうだなぁ……。まぁとりあえずは武器を見てからじゃないか?それからゆっくり考えようぜ。オレも手伝うからさ」
「リオ……うん、ありがとう」
「良いってことよ!そのかわり、絶対勝ってもらうけどな!」
「それは当然、元からそのつもりだよ」
「よし!なら、どれがいいか選びに行くぞ!」
「おー!」
俺は走り出したリオについて行く…前に……
「と、有益な情報、ありがとうございました!」
「ん!?あぁまぁ、あれぐらいで良いんだったら良かったよ」
「はい!では皆さんも頑張ってくださいね!」
集まっていた冒険者や鍛治ギルドの人たちにお礼を言って、改めてリオのもとへと向かう。
「律儀なやつなんだなぁ、マーガレットって」
「え?良いものを貰ったらちゃんとお礼をしないとでしょ?」
「そりゃそうなんだけど、それをきっちり行える奴は少ないからさ」
「客商売なのに?」
「いやウチじゃなくて……まぁそういう奴もいるにはいるけど……」
((いるんだ))
まぁ、何故かそういう特徴的な人っているよね。
クラスに1人、やたらモノマネの上手い人とかいたよね。
「まぁそれは良いとして……。向こうも解散しだしたし、こっちもそろそろ始めようぜ?」
「うん。……ん?」
「ん?どうした?」
「いや……確か武器を選びに来たんだよね?」
「あぁ」
えっ、じゃあ……
「その肝心の武器は……?」
グラズさんもリオもそのままここに案内したけど、ここ何にもないよ?
ただの広間だよ?
ベンチがちょいちょいあって、的であろう鎧を付けた木の人形があるぐらいだよ?
武器、どこ?
「あぁ、それは…」
「お待たせマーガレットちゃん。向こうは無事に解散したよ」
「あ、お疲れ様です、グラズさん」
「もー!マーガレット、置いてかないでよぉ!」
「あ、あー…ごめんなさいユーリさん。…あれ?ディッグさんたちは?」
見ると、さっきまでいたはずのディッグさんたちがいなくなっていた。
「あぁ、なんかメイカさんが、走って行くマーガレットとリオちゃんの姿を見たら急に倒れちゃって、近くのベンチに寝かせに行ってるよ。ほら、そこ」
ユーリさんが俺の後ろの壁辺りを指差したので振り向くと、いつものようにディッグさんに担がれ、ケランさんの魔法で光っているメイカさんの姿が見えた。
「えぇ…いつのまに……?」
そのベンチは俺から少し離れているとはいえ、普通なら気付くような距離にあった。
なのに全然気づけなかった……。
「んー…しょうがないよ。だってディッグさんたち、凄く手慣れてるというか、メイカさんが倒れ始めた瞬間に支えて、迷わずにそこに連れてってたもん。まるで最初からこうなることを予想してたみたいだったよ」
「あぁ……なるほど……」
その人しょっちゅう倒れるからね。
俺のせいで。
中身がお兄さんだと知ってるはずなのにね。
よっぽどマグの外見がお気に入りなんだろうね。
可愛いもんね、仕方ないね。
でも、リオと話してたとはいえ、そこの距離を気づけないのはちとまずいかなぁ……。
(もっと視野を広げないとなぁ……)
(う〜ん…難しいですね……。どうしても集中しちゃうと見えなくなっちゃいますから……)
(だよなぁ……どうしよう……?)
(どうしましょう……?)
((う〜ん……))
「マーガレット、また考え事か?」
マグとまた一緒に悩んでいるところに、リオが話しかけてきた。
「ん……あー…ごめん、ちょっとね」
「まぁ色々考える気持ちは分かるけどさ。まずは武器だろ?武器」
「ごめんごめん、そうだったね。えーっと…あぁそうだ。それでその武器がどこにあるか聞いたんだっけ」
「あぁ。んで、その武器だけど……」
「こん中に入ってるよ」
と、グラズさんが見せてくれたのはマジックバッグ。
なるほど、そういうことか。
「あれ?でもそれ、いつも持ってるんですか?」
「あぁ、これは仕事用のやつだから、仕事に使うものは大体入ってるんだ。だから練習用の武器も入ってるのさ」
「あぁ、なるほど、納得です」
そっかぁ、マジックバッグかぁ……。
…なんで気づかなかったんだろう……?
「……それだけ緊張してるってことかなぁ……」
「うん?何か言ったかい?」
「いえ、思ったより緊張してるんだなって思っただけです」
「ははは、まぁ初めてならしょうがないさ。それに、武器は危険なものだからね。それぐらいがちょうど良いかもよ?」
「そうですね。振り回して怪我したら元も子もないですし」
さすがに本番前に怪我するわけにはいかないからな。
そんなヘマはしないし、やっちゃったとしてもケランさんに直してもらえるし。
…まぁそれでもやっぱり怪我しないのが1番だけど……。
「それじゃあ武器を出して行くから、一通り試してみてよ」
「はい、分かりました」
とまぁ、ここまで色々あったが、ようやく武器の試し振りをすることになった。
さぁて…何が良いかな〜っと♫




