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9.駄々っ子現る…私は困る

ハルキとの話し合いが終わり、俺たちはみんなと合流するべく部屋の扉に手をかける。


今いるこの部屋はギルドスタッフ用の休憩室らしい。


取り乱し倒したマーガレット嬢に眠りの魔法をかけ、すぐ近くにあったこの部屋のベッドに寝かせたのだとハルキが教えてくれた。


ちなみに眠りの魔法を使ったのはチェルシーちゃんではなく、あの時いた知らないおじさん…ギルドマスターだったらしい。


チェルシーちゃんは頼まれたこととはいえ、自分のかけた魔法でマーガレットちゃんが錯乱の限りを尽くしたことにパニックに陥ってしまい、そっちのケアにも時間がかかったのだとも教えてくれた。


そして、自分が指示したことだから責めるなら自分を責めてくれと迫るハルキに、


「とりあえず俺から言うことは無いかな。本人に聞いたわけじゃないから分かんないけど、少なくとも俺は感謝してるよ。おかげで身の振り方も定まってきたしな」


俺はそう返した。

彼は一言、「…ありがとう」と言った。


そんなこんなですっかり遅くなってしまった。


こうなると次はメイカさんが正気を保っているかどうかと心配してしまうなぁ、と冗談半分に考えながら扉を開ける。


「どぅっ!!」


瞬間俺は、前世で車に跳ね飛ばされた時と似たような感覚に襲われる。


メイカさんだ。

俺はメイカさんが抱きついてきた衝撃で後方に軽く吹っ飛び、(したた)かに背中を打った。


「ゔっ!!」

「マーガレットちゃん大丈夫?何もされてない?どこか触られたりしてない?脅されたりしてない?変な約束とか交わしてない?」

「今し方受けたダメージ以外にこれといったことは起きてないです……」


俺に抱きついたまま、(まく)し立てるように質問攻めをしてくるメイカさんに、痛みでちょっと泣きそうな俺はなんとかそう返した。


「もう話はいいのか?」


知らない男性…ギルドマスターさんがハルキに話しかける。


「えぇ、確認したいことは終わりました」

「傷心の女の子と二人きりになってまで確認したいことって何よ!?」

「おいメイカやめろ……。もう終わったことだろ……」

「なによディッグ!?コイツはチェルシーちゃんに指示して、マーガレットちゃんの思い出したく無い記憶を引っ張り出したのよ!?そんなやつを私は信用してないんだからね!!あんた分かってるの!?」

「えぇ、それはもちろん」


ハルキに喰ってかかるメイカさんを、ディッグさんが止めようとするが、メイカさんはそんなディッグさんにも喰ってかかり、台詞の後半でまたハルキに矛先を向けた。


途中で名前を出されたチェルシーちゃんは、またビクッと体を震わせ縮こまってしまった。


「落ち着いてメイカさん。別に何かされたわけじゃ無いから……」

「マーガレットちゃんは優しすぎるのよ……!」


俺も止めようとするがメイカさんは止まってくれない。


どうしたもんか……。


そこに救いの手を差し伸べたのはギルマスだった。


「それぐらいにしておけ。それで?お前たちはこの後どうするつもりだ?」

「…本当は今日はもう宿を取って、明日から迷宮に入るつもりだったんだが……」

「この辺りの宿は全部埋まっちまってるよ。キャンセル待ちのやつが山ほどいらぁ」

「マジかよ……」


ディッグさんが(うめ)くように言う。


主観的にも客観的にも「俺は悪くねぇ!」と声を大にして言えるのだが、それでもなんだかちょっと申し訳ない気分になる。


そんな微妙な感情により、頬を指で掻きながら目を逸らすと、その先には今にも泣きそうなチェルシーちゃんの姿があった。


この子、会ったときはどこか大人びたオーラがあったのに、俺が起きてからはずっとビクビクと震えてたもんな。


そんで誰かがハルキを責めたり、自分の名前が出るたびに体を縮こまらせて、泣くのを我慢してるように見えた。


きっと根は優しい子なんだろう。

後でちゃんとお話ししないとな。


とりあえず今はメイカさんが離れる気配がないので、ひたすら頭を撫でてみる。

…メイカさんなんとなく喜んでないか?


「でしたら、ギルドが用意した寮はいかがですか?」

「なんだそりゃ?」

「迷宮都市のギルドで働くにギルドスタッフのための集合住宅があるのですが、現在新しく出来た3軒目にはまだ人がいないので、そこを仮拠点として使っていただければと」

「ほーん、こっちとしちゃありがたいが…見ないことにはそう易々と決められないからなぁ」

「それはもちろん。見ていただいて気に入らなければ、こちら持ちで宿を都合することもできますので」


俺が未だ倒れた状態でメイカさんの頭をよしよししている間に、ディッグさんとハルキが話を進めている。


というか俺、この件が無かったらずっとこの人たちにおんぶに抱っこしてもらって生活することになってたかもしれないのか……。


さすがにそれは申し訳ない。

できれば俺も働いて、自分の生活費ぐらいは賄えるようにしたい。


…一応考えが無いわけじゃないけど……。

ハルキに相談しとけばよかったかなぁ……。


まぁ何はともあれ…


「メイカさん、立てないんでちょっと離れてください」

「やだ」

「やだって…」

「やだやだやだやだ」

「数言えば良いってことではなくてですね…」

「やだやだやだやだやだやだやだやだ」

「あぁはい分かりましたから、じゃあせめて私を立ち上がらせてください。床が硬いです」

「うん♡分かったぁ」


そうしてようやく立つことができた俺だが、メイカさんは今度は俺の後ろに回り込み抱きついてくる。


まぁ前が見やすいからいいかな…と考え始めた俺は確実に毒されている。


「あの、ハルキさん」

「ん…どうした…ゔぅん!どうしました?」


思いっきり素が出そうになってる……。

俺らの関係はややこしいから仕方がない。


「その第3寮舎ってどこらへんにあるんですか?」

「それは…そうですね、地図の方がいいかな。ギルドマスター、この街の地図を見せてください」

「あいよ、ちょっと待ってな」


しれっとギルドマスターを使いパシるハルキと、文句も無く部屋…あそこは会議室だったかな?…に入っていくギルドマスター。


この感じだとギルマスはハルキのことを知ってるのかもしれないが、ギルドマスターパシらせる商人とかいないんじゃないか?


「あんた…ギルドマスターをアゴで使うとか、何者なんだ…?」


ほら言われた。


それに対してハルキは


「しがない商人ですよ」


と、一見クールに答えたが、ハルキの人となりを知った俺は気付いた。


コイツこれが言いたかったんだな、と。

君、どこか得意げに言ったもんね。

気持ちは分かるよ。俺もいつかやりたいもの。


そんなやりとりをしてる間にギルマスが地図を持って戻ってきた。


「ありがとうございます。さて、ご質問の第3寮舎の場所ですが…このギルドの近くにある建物が第1、反対側の少し離れたところにあるコレが第2寮舎です。第3寮舎はこの東門に続く大通りから入れる脇道に入ってそのまま少し進んだ所にあります。」


お、東門側ってことは白兎亭がある大通りか。場所も白兎亭とギルドの真ん中あたり、どっちかというとギルドよりかな?


なんにせよ、そこならモニカちゃんに会いやすいし、俺も()()()()()()()()


「ふむ…立地は悪くねぇが…やっぱ実際に見てみたいな。今から行けるか?」

「はい、問題ありません」

「んじゃあ行くか」

「あ、でもマーガレットちゃんは大丈夫?もしまだキツイなら僕らだけで見に行くけど……」


早速宿地見学、というところでケランさんが俺にそう聞いてくる。


そういや一応病み上がりか。まぁ忘れるほどだし、大丈夫じゃろ。


「大丈夫です。なんなら踊ることもできます」

「そ、そう。でも無理はしないでね。何か変だなと思ったらすぐに誰かに言いなよ?」

「はい!ありがとうございます、ケランさん」


心配してくれたケランさんにお礼を言い、未だくっついているメイカさんを若干引きずりつつも、俺たちはギルドの二階から降りる。


下は相変わらずいろんな人でごった返している。その光景にちょっと脳内で組み立てていた計画を見直そうかと少し考えたが、思いとどまる。


「お、ギルマスとリンゼさんとチェルシーちゃんだ」

「はぁ〜…やっぱリンゼさん綺麗だよなぁ…」

「あぁ…是非ともお付き合いしたいぜ……」

「やめとけやめとけ。お前らじゃ無理だよ。せめてBランクに来てから言え」

「なんだと!一昨日Bランクに上がったばかりのくせに上から目線で言うな!」

「それでもBランクはBランクですー。Dに落ちかけてるCランクさんは黙っててくださーいw」

「あんだとゴラァァ!!!」

「おうやんのかコラァ!!」

「うるせぇぞオメェら!!!」


うーん、これぞ冒険者って感じはするが、ああいう人とは出来れば関わりたくない。

怒鳴られたくない。

ワタシ、ココロ、ヨワイノ。


脳内計画を本気で見直すべきだろうか……。

でもここが一番都合が良いんだよなぁ。


「ようチェルシーちゃん、新しい友達か?」


また別の冒険者がチェルシーちゃんに話しかけている。


「あ、えっと…」


対してチェルシーちゃんはしどろもどろ。

多分さっきのことをまだ引きずってて、遠慮してるんだろう。


「初めまして、マーガレットと言います!今日この街に着いたばかりなので色々と教えてもらってるんです!」


なので俺は彼女の手を取り、元気に挨拶をする。


「マーガレットちゃんか!その子、寂しがり屋だから仲良くしてやってくれよ?」

「もちろんですとも!」


俺としてもこのままってのは嫌だからな。


というか今気付いたが、何人か俺のことを生暖かい目というか、慈しむような目で見ているような……?


そうこうしながら、ギルドの入り口にたどり着いた。


「それじゃあな」

「ハルキ様、よろしくお願いします。マーガレット様、お大事にどうぞ」

「うん」

「ありがとうございます、リンゼさん。ギルドマスターさん」


ギルドマスターとリンゼさんが見送ってくれ、俺たちは宿泊候補地の第3寮舎に向かうのだった。


…出来れば今日中に、チェルシーちゃんとの(わだかま)りを無くしたいなぁ……。

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