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87.特訓開始…つらぁい

チュチュン……


「ん……おはよう、マグ……」

(……んー…おはようございます……)


朝、目覚めた俺は、マグと挨拶を交わし体を起こす。


時計を確認すると、針は4時半あたりを指していた。


…う〜ん……こっち来てから当たり前のように5時、6時前に起きるけど…大丈夫なのか……?


確か睡眠は8時間は取らないといけないんじゃなかったっけ?


あーでも、どうせ夢の中でマグとイチャコラするし、いつ寝てもあんまり変わんない気がするなぁ……。


変わらず寝不足なんだよなぁ……。

でも気力だけは(みなぎ)ってるぜ!


…まぁ…しっかり休まないといけないのは変わんないからな……。

マグに会えないのは惜しいが、どっかでぐっすりスヤスヤ睡眠を取らないと……。


ぼんやりとそう考えながら、俺は朝支度を整える。


今日はトレーニングがあるので、半袖半ズボンスタイルにポニーテールで気合を入れて、マジックバッグにギルドの制服を突っ込み、俺は部屋から出た。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「よう、嬢ちゃん。おはようさん」

「ん、ディッグさん。おはようございます」


俺が体操と筋トレを終わらせ、魔法の練習をしているところにディッグさんが現れた。


ちなみに、練習といっても、さすがに中庭で9属性使うとかいうクレイジーなことはしていない。


基本的に、私有地とはいえ外である中庭では、誰かが見てるかもということで、自分の適性である雷魔法を中心に使い、たまに無属性魔法を使う、といった感じで練習してきた。


今日もそんな感じで、昨日やった魔力球による集団行動をしていたところだ。


これも十分凄いらしいが、練習すれば出来る様になることなので、まぁ大丈夫だろうと思ってやった。


リビングから声をかけてきたディッグさんは、そんな集団行動中の魔力球たちを一瞥(いちべつ)した後、俺に話しかけてきた。


「相変わらず綺麗なもんだ……。と、嬢ちゃん。今日練習用の武器を見てくる予定だから、朝は体捌きを教えようと思うんだが…構わないか?」

「はい、むしろそれが1番知りたいです!」

「そうか、それなら良かった。んじゃあ今から始めてもいいか?」

「あ、ちょっと待ってくださいね、この子らを戻しますので………おいで…よし…いい子………はい、お待たせしました」


俺は魔力球たちを自分の手に順番に乗せ回収する。


よし、魔法の制御は順調っと。

それじゃあさっそくディッグさんと特訓…と言いたいが…


「ディッグさん、体捌き…って何をするんですか?」

「そうだな。戦闘において、姿勢や立ち位置は重要なもんだ。それは分かるだろ?」

「はい」


アート作品みたいな、効果音が見えそうなどえれぇ立ち方で戦闘なんて普通出来ないしな。


立ち位置…ポジショニング…それはまぁ、全てにおいて大事なことだ。


「で、だ。今回嬢ちゃんは1対1の決闘なわけだろ?そして、聞いた限りじゃ相手は剣と盾を持った前衛。対して嬢ちゃんは魔法が主力の後衛だ。しかも力も速さも恐らく負けている」

「そうですね…相手は子供とはいえ冒険者…私はただのギルドガール…戦うこと自体がイレギュラーな組み合わせです…」


いや、ホント…改めて考えるとすげぇよな……。

話をまとめてくれたララさんには感謝してるけど…本来なら勝てるもんじゃないぞ?


でもなんでかララさんは勝てるって思ってるらしいし……困ったことに俺も負ける気はさらさら無いからな。


…一応保険はうっといたけどな……。

あんなのの子分は嫌だもの。


「そうだな。だからこそ嬢ちゃんは、相手に近づかれないように対策を講じる必要がある。そのひとつが体捌きだ」

「ふむ……体捌きが重要なことは分かりますが…さっき速さで負けてると言いましたよね?」


それじゃあ付け焼き刃の体捌きじゃ凌げないのでは?という疑問に、ディッグさんがしっかり答えてくれる。


「確かに速さで負けてる。だが、だからこそこれは必要なんだ。相手が速いと言っても目で追えないほどじゃないはずだ。まぁこの辺は俺も分からないから自分で調べてくれ」

「ふむ……」


じゃあとりあえず、ララさんに聞けるだけ聞こうかな。

多分フェアじゃないとか言われるけど、そもそものステータスに差があるのだから、簡単なことぐらいは教えてくれるだろう。


「それで話を戻すが、相手が自分より速くても、その速さが反応し切れないほどじゃなければいくらでも手はあるし、最悪接近されても落ち着いて対処することが出来れば問題無い」

「そのための体捌きですか……」

「そういうことだ」

(…え〜っと……?)


おん?

マグが分かってないか。

んじゃあ答え合わせも兼ねて、説明してあげよう。


「相手の速さに負けていても、細かいテクニックで相手の動きを(さば)いたり、自分の動きを最小限にする事で体力の浪費を無くす…て事ですよね?」

「おう。打ち合いになっても、相手の力を上手く受け流せれば、その分自分に有利になる。だから覚えておいた方がいいってこった」

「分かりました、お願いします」

「おう!」

(ってこと、分かった?)

(なるほど…ありがとうございます)


よし、それじゃあ早速教わっていこう!


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…!」

「おーう嬢ちゃん、生きてるかぁ?」

「は……はい…どうにか……」


ディッグさんによる特訓は、まずは体力を作るところからだと、ディッグさんが考えたトレーニングメニューをこなすところから始まったのだが……。


いかんせんマグの体はか弱いので、そうそう長続きしない。

なので現在中庭に仰向けで、両手足を投げだし倒れ込んでいる。


一応これでも鍛えてるはずなんだが……筋力に続き体力も、やはりそう簡単に付くものでは無いと言うことか……。


…これ先行き不安になってきた……。


(キッツイなぁ…これ……)

(コウスケさん………あ、あの…私が……!)

(変わるってか……?)

(はい……!)

(駄目…それだと練習時間が半減するだけだよ……)

(うぅ……でもぉ……)

(本来…特訓てのはこういうもんだよ……。だから大丈夫…必ず勝つためなんだから……)

(コウスケさん……その……頑張ってください!)

(お〜うまかせろぉい)


ふぅ……マグと話しながら息を整えたおかげで、ある程度楽になったな……。

そして心も回復した。


マグは自分が何も出来ないのを気にしてるっぽいけど、こういう特訓のときは、何か心の支えがあるかどうかでモチベーションが変わるもんだ。


そして俺は、マグに応援されてるだけで元気が湧く単細胞なんだから、マグは十分仕事してるんだけど……。

ちゃんと伝えてあげないとね。


そこまで考えた俺は、トレーニングの続きをするべく立ち上がる。


…おっふ…体にガタがきている気がする……。

力がほとんど出てねぇぞ……。


だが頑張らねば……!


「よっと……それじゃあディッグさん、続きを……」

「いや、今日はもう終わりにしよう。初日だし、嬢ちゃんはこれから仕事があんだろ?あんま体力使いすぎると仕事途中で倒れちまうぞ?」

「うっ…それは……」


ララさんが提案したこととはいえ、あれは結局個人間の問題…しかも子供のケンカだ。

だからと言って軽く見てほしく無いが、それで仕事に支障をきたして、周りに迷惑をかけるのは避けたい。


というか、現状すでに満身創痍気味なので、いくら気力が回復しても、体が追いつかないのでは、せっかく特訓を続けても身に付きにくい。


…しゃあねぇ……。

ディッグさんの言う通り、今日はお開きだな……。


俺は体の力を抜くと、ディッグさんにお礼を言った。


「ふぅ…分かりました…。ありがとうございました、ディッグさん」

「おう、嬢ちゃんも頑張ったな」

「…ずいぶん熱心にやってたわね……。もうご飯できてるけど…先に体を洗ってきてからね。そんな土埃塗れの状態で食卓には上がらせないわよ?」


いつから見ていたのか、リビングの窓辺にはフルールさんが立っていた。


ちなみに洗濯物を干すのを邪魔しないようにと、汚さないように多少ズレたところでしていた。


まぁそんなことしなくても十分広いのだが。


「…だそうだ。嬢ちゃん、先に入ってきていいぞ」

「いえ…ディッグさんからどうぞ……。そういうことならもう少し休ませてもらいます……」

「あいよ、じゃあお先」

「はい…いってらっしゃい」


そう言うとディッグさんは裏口方面へ向かっていった。

それを見届けた後、俺はその場に座り込む。


はぁ〜…正直助かった……。

さっきは「しゃあねぇ」とか言ってみたが、こうして座り込むととんでも無く体が重い……。

これでトレーニング続けたら、冗談抜きで倒れてたかも……。


危ねぇ……。


「大丈夫?ほら、お水」

「あっ、ありがとうございます、フルールさん」


座り込んだ俺に、わざわざフルールさんが水を持ってきてくれた。


ん……ん……ぷぁ……はぁ〜…しみるわぁ……。


「まったく……。よくそんなに頑張れるわね……元はそのいじめられてた子の問題でしょう?」


水を飲み終わり、一息着いたタイミングでフルールさんが話しかけてきた。


「確かに。でも、あのままは嫌だったんですよ」

「ふ〜ん…あなた、そんな性格じゃあ、向こうでも苦労したんじゃない?」


向こうってのは……俺の世界か……。


俺の世界では……。


「…そんなことないですよ」

「…そう。お水のおかわりは?」

「あ、いただきます」

「ん」


そう言ってコップを持ってリビングに戻っていくフルールさん。


…気を使わせちゃったかな……。


(…コウスケさん?)

(ん?)

(あの…もしかして、コウスケさんが元いた世界には、あまり良い思い出が無いんですか……?)

(ん……いや、そんなことはないけど……)


楽しい思い出はある。

友達だって少ないけどいた。

でも……こっちに比べれば向こうは……。


(…まぁ…向こうの世界も一筋縄じゃいかないってことだよ……)

(……そうですか……)


あ、やべっ!やってしまった!

こんな言い方じゃ、マグが気にしてしまうのに……!


(あぁ、いや……まぁ確かにちょっと疲れる世界だけど、俺の知識の大半は趣味によるものだから、楽しんでなかったって言えば嘘になるよ)

(へぇ…コウスケさんの趣味ってなんですか?)


おし、上手く話を変えられたな。


(俺は前にも言った「ゲーム」と、読書も好きだなぁ。あとは絵を描くのも好き。(たしな)む程度だけどね)

(十分上手でしたよ?あのちまっとしたかわいい絵、私好きですよ?)

(…そう言ってくれると嬉しいけど…ちょっと照れるな……)


なんか絵って、親とかに見られると気恥ずかしくなるんだよねぇ……。

あれ、なんでかねぇ……。


「はい、お待たせ」

「おっと、ありがとうございます」


そこへフルールさんが戻ってきて水を渡してくれた。


…………ふはぁ…水うめぇ……!


なんだろうなぁ……持久走の後の水ぐらい美味い。

やっぱ運動した後は体が水分を欲してるんだな。


「そういえばマーガレット、あなた着替えは今持ってるの?」

「あっはい、バッグの中に入ってます」

「そう、それならいいけど。…下着も必要なら変えときなさいよ?」

「……そうですね…汗でぐっしょぐしょです……」


…さすがにシャツ1枚で、とはいかないからなぁ……。


う〜ん…でも運動で使えそうな服がこれしか無いのはアレだなぁ……。

この世界にジャージ的なもん無いかな……?

ハルキに聞いてみるか……。


「お〜い嬢ちゃん、上がったぞぉ〜」

「あっ、は〜い!それじゃあ入ってきますね」

「えぇ、いってらっしゃい」


フルールさんに見送られ、禁止令の出てるリビングからは行けないので俺も裏口へと回っていく。


ふ〜む…今日もやることは沢山あるようだ。


ギルドの仕事をして、帰ってきたら一通り終わった後にまた練習。


出来ればユーリさんにも協力を取り付けたいし、武器の扱いなら鍛治ギルドの人が詳しそうだから話を聞いてみたい。


魔法のことは魔術ギルドがあるらしいけど…俺のはあまり人に言うのはやめた方が良いって言われてるから、このまま独学でいこう。


あとは…モニカちゃんとチェルシーの様子もちょくちょくチェックしておこう。


チェルシーの方はハルキたちがいるからいいけど、モニカちゃんはどうだろう?

もし、奴らが試合までにモニカちゃんをいじめていたら問答無用でシバき倒す自信がある。


それで決着着くならそれでもいいかな?とか思っちゃってるもん。


駄目だよ?俺。

そんなモニカちゃんを餌にするような解決方法。

俺が俺をどつくよ?


まぁとにかく、ちょっとでも様子がおかしかったら、隠密ギルドに依頼してでもチェックしよう。


やりすぎ感はあるが……悪いが子供のケンカだからと手を抜くつもりは無いぞ?


俺の友達泣かせたらどうなるか教えてやるのだ。


俺はそう決意を固めながら、風呂へと入っていった。

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