85.勉強会…魔法はムズイ
メイカさんとケランさんが準備といって用意したのは、いつも冒険に持っていく装備といくつかのアクセサリー類、そして本だった。
「それじゃあまずは…う〜んと……」
「メイカさん、まずはコウスケが魔法をどう認識してるかを聞きましょう」
「ん、そうね。コウスケ、そこら辺どうなの?」
「魔法の認識…ですか……んー……」
そうだなぁ……。
ちとむずいなぁ……。
「そうですね……まずは、便利…ですかね。1つの属性が使えるだけでも十分だと言えるほど」
「ふむ…そうだね。確かに魔法は便利だ。でも、そもそも魔法とは?魔力とは?そういったことを考えたことはあるかい?」
「魔法と魔力……俺の考えは、魔力は体の一部である、ですね」
「へぇ…それはなんで?」
ケランさんの問いに答えると、メイカさんが興味深そうに聞いてくる。
「魔力のことはある程度マグに聞いています。そこで、魔力は自然回復する…と聞いたので、それなら空気中に魔力があると俺は思いました」
「うんうん」
「人は空気が無いと生きていけません。その生命維持に必須なものの中に混じっているのなら、魔力もなんらかの形で、この体を維持する役割を担っていると思ったからです」
「うん、さすがだね。コウスケの言う通り、魔力は空気中にある。これは、場所によって魔力の濃度が違うということから、研究者たちが調査し、確証を得たものだ」
(…?魔力の濃度が違うからって…どういうことでしょう……?)
「ふむ?」
魔力の濃度が違うから……多分あれだな。
「それは、魔力が薄いところだと酸素不足のような症状が出て、逆に濃いところだと酒に酔ったような症状が出る…ということですか?」
「!よくそこまで分かるね!」
(わっ!すごいですコウスケさん!)
「ふふふ…まぁね」
ありがとうファンタジー系作品の数々。
おかげでめっちゃ褒められた。
素直に嬉しい。
「そういうわけで、魔力が空気中にあると考え、調べた人がいたんだよ」
「なるほどぉ…」
「でも、なんで魔法が使えるのか、なんで人によって適性が違うのかってことは、未だに解明されてないんだ」
「それは……難しそうですもんね……」
(?)
「(くいくい)……なんで?」
ん…子供組が分かってないか……。
「んーとね…魔力が人が生きるのに必要ってことは分かったでしょ?」
(はい)
「……(こくり)」
「でも、同じ魔力を吸っているはずなのに、属性が違う魔法を使えてるでしょ?」
(ん……言われてみれば……)
「……たしかに」
「それって、体の中で吸った魔力を自分の適性にあった属性に変換してるってことかもしれないじゃん?」
(……そうですね…)
「……(こくり)」
…2人の返事がいい感じに噛み合ってて面白い。
いやぁ…お風呂で何話してたんだろうなぁ……。
きっと仲良く話してたんだろうなぁ。
そう考えながら俺は話を続ける。
「んで、そうなると、それを調べるためには人の体を調べる必要があるわけで……」
(調べる……透過魔法とか?)
「……透過魔法?」
お、今度は答えが被ったぞ。
やっぱり仲良いな。
しかし透過魔法か……。
その手が…あー…いや、
「ケランさん…」
「うーん…無理だね。透過魔法は壁や宝箱の中身なんかは見ることができるけど、厚みや魔法耐性でこっちの使用魔力量が変わるし、人に使うにしても、服を着込むだけで簡単に対策出来るからあんまり実用的では無いね。せいぜいポケットの中を見るとかぐらいだよ」
「だそうです」
(そっかぁ……)
「……ざんねん」
ありゃりゃ、しゅんとしちゃった。
俺はそんなメリーちゃんの頭を撫でながら、話を戻す。
「んでまぁ透過魔法以外の手段なんだが……簡単に言えば「解剖」だな」
(解剖……?)
「……?」
んー…分からんかぁ……。
これ説明するのはなぁ……。
「あー…ディッグさんたちは分かります?」
「んー…まぁな…」
「そうねぇ…」
「これの説明となると……」
「…あんまりこの子に変なこと教えないで欲しいのだけど……」
んー…大人組は知ってる…か……。
…しゃあねぇ……。
「…解剖ってのは、生き物を解体して中身を調べることだよ」
(ひっ!?)
「っ!?」
「あぁ、もちろん死体な?生きてるやつを解剖はしないさ」
(そ、それでも怖いですよ……)
「(きゅっ)………(ふるふる)」
「あ〜…まぁ怖いやな」
マグが怯えて、メリーちゃんが俺の服の裾をつまんで首を振る。
……やらんよ?
そんな俺の代わりにケランさんが説明を引き継ぐ。
「でも解剖することで分かることも多いんだよ?弱点や生態が分かれば、魔物なら次に戦うとき有利になるし、他の生物でも色々と分かることがある」
「ま、怖いのは分かるが、そのおかげで今の俺たちがいるってこった」
(「…………」)
ディッグさんがそうまとめると、マグとメリーちゃんは何か考えてるのか黙りこくった。
…死体をいじってメカニズムを解明する。
文字に表すとなかなかパンチがあるが、その恩恵を受けてる身としては、文句は言えないな……。
ま、何事にも感謝の心をってな。
「まぁそういうわけだから、なぜ魔法が使えるか、適性があるのかってのを調べるのは難しいってこと…じゃないかな?」
「うん、それであってるよ、コウスケ」
メリーちゃんにそう語りかけるが、途中で俺も教わる側だったということを思い出し、ケランさんに確認をする。
よしよし、ケランさんのお墨付きをもらったぜ。
魔力のなぜ何が終わったところで、メイカさんが話を進めた。
「それじゃあ次は、魔法の仕組みをおさらいしましょうか。コウスケ、前に教えた詠唱の仕組み、覚えてる?」
「はい。詠唱は【対象】[威力、範囲などの規模]【どんな効果を】の、3小節詠唱が基本なんですよね?」
「うん、それさえ出来れば大体の魔法は使えるの。でももちろん制限はあって、魔力残量を超える魔法は使えないし、魔力が少なくなると体がだるくなったり、頭が痛くなったりって問題が起きるの」
魔力の残り…MPだな。
この世界では自分の体力…HPとこのMPのどちらかが無くなった時点で戦闘不能ってわけか……。
ふむ…気をつけないとな……。
んー…そうなると自分のMP残量を知る術が欲しいけど……なんかないかな?
「メイカさん、自分の魔力の残りが分かる方法とかってありますか?」
「う〜ん…自分の体の調子ぐらいでしか分からないんだよねぇ……。だから1番良いのは無理をしないこと。まだいけるって思ったときが1番危ないからね」
「…分かりました」
まぁそうだよなぁ……。
ハルキみたいに見れるんなら、「魔力」じゃなくて「MP」って言っててもおかしくないし……。
(コウスケさん、魔力を上げる方法って無いんでしょうか?)
「ふむ……メイカさん、マグから質問です」
「なになに!?なんでも聞いて良いよ!」
「魔力を上げる方法はありませんか?というご質問です」
「む〜…マーガレットちゃんが答えてくれるわけじゃないのね……」
「(すみません……)」
多分マグはもう大丈夫だと思うんだけど、今は俺が出てた方が話が早いからな……。
我慢してくれ、メイカさん。
「まぁいいわ…それで、魔力を上げる方法だけど……これは毎日魔法の練習をするのが1番ね。他にもいろいろあるけど、やっぱり地道にコツコツいくのが良いわ」
「なるほど……それならとりあえずは、今のままで問題無しってことですね」
「うん、コウスケは毎日魔法の練習をしてるし、多分上がってるはずだよ。そのまま頑張ってね」
「はい」
良かった、アレで合ってたんだ。
正直アレは魔法がどの程度制御出来るか、どれぐらい応用が効くかを調べてたんだが……。
研究と経験値稼ぎが両立出来るんなら、これほどありがたいことは無い。
「それじゃあ後は実際に練習しながらかな?」
「そうですね。コウスケ、ちょっと魔力球を出してみてくれるかな?」
「分かりました」
魔力球を出すだけならポンといけるんだけど…せっかくだし詠唱してみるか。
あ、手からポポポポーンと出したら喜ぶかな……?
ちょっと試してみよう。
「……よし。《【我が意志に応える雷[玉]】よ、[我が手より現れ出でよ]!【サンダーオーブ】!》」
詠唱の終わりと共に、俺の右手に魔力が集まり、電気を放ち始めた。
そして、俺の右手から手のひらサイズの雷の球が生まれる
(ふわぁ……!)
「へぇ……!」
「……きれい……!」
おしおし、マグとフルールさんとメリーちゃんの反応はいい感じだ。
俺がちょっと得意げにその球を宙に放ると、俺の右手から続けて3つ、同じものが放ったオーブの後を追う。
俺はそのオーブたちに、頭の中で俺の周りを1周するよう念じる。
すると雷のボールは俺の思い描いた通りに、俺の体をぐるりと周り、俺の目の前の机の上に1列に並んだ。
よし、成功!
こういうⅤのオプションみたいな使い方したかったんだよね!
さぁどうよ!とみんなを見ると、メリーちゃんが目を輝かせているが、他は一様にポカーンとした顔をしている。
(えっ?どうしたの?)
(きっと綺麗な魔法に驚いてるんですよ!)
(そうなのか?)
俺がどういうこっちゃと戸惑っていると、ケランさんが体を震わせながら俺に聞いてきた。
…あ、なんかデジャブ。
「コ、コウスケ……?今のは……?」
「えっ?いえ…ちょっとしたサービス精神で……」
「…どの辺がサービスだったんだい……?」
「えっと…オーブを4つにしたところです……」
「…………」
えっ?なにっ?怖い。
そんなもん誰でも出来るわってか?
サービスになってねぇよってか?
「…いいかい?コウスケ……」
「は、はい…なんでしょう……?」
「魔法をそこまで自由に動かすのは本来難しいことなんだよ……?」
「えっ…そうなんですか……?」
じゃあどうやってみんな魔法で攻撃してんの……?
「例えばアロー系の魔法なら、「精製→発射」の2行程で終わる。これだけなら簡単だけど、これを動いてる相手に当てるには、こっちも相手に当たるように軌道を変えられるようにしないといけない。これは分かるね?」
そう聞きながら身を乗り出してくるケランさんに圧倒されながらも答える。
「は、はい……相手に回避行動を取られても当てられるようにですよね……?」
「その通り。そしてそれは集中力が必要なんだ。相手の動きに合わせる必要があるからね。それを4つ同時に動かすのはかなり大変なんだよ?それを君は「サービス」といってサラッと成し遂げた……。…自分が何をやったのか分かったかい?」
「あい……分かりましたので落ち着いてください……」
「……おっと…ごめんよ」
ケランさんは俺の近くまで身を乗り出していたことに気がつくと、そう謝ってから席に戻った。
そうかぁ…ダメなのかぁ……。
そんなに難しいことだとは……。
んー…でも今のは4つ動かしたんじゃなくて、先頭のやつに着いて行かせただけだからそんな難しいことじゃ無いんだよなぁ……。
あぁでも、全9属性の魔力球を作って一斉に動かしたことあったわ。
そこで適性って大事だなって実感したんだった。
忘れてたぜ。
んー…そうかぁ…これも気をつけないとかぁ……。面倒だなぁ……。
俺はそう考えながら机に並べた魔力球を動かし、フォーメーションを組ませる。
陣形でまず思い浮かぶのが楔形陣形…パンツァーカイルだ。
最初に呼んだやつを1号車として、2個目を右に、3と4個目を左に移動。
1号車を上に移動。
2号と3号も少しだけ上に移動。
4号はそのまま。
傘のような形にして、そのまま動かしてみる。
…あー……確かにちょっとこれやりながら他のことすんのはキツいかも……。
陣形を維持するのに結構集中力使うから、これをやりながら水を飲むのも大変だ。
ん……これ良いかも知んないな……。
陣形を組ませながら別のことをやる…うん、集中力を鍛えるのに良いかも。
「……(くいくい)」
「ん……どったの?メリーちゃん」
「……最初のやつ、もう1回やって……!」
メリーちゃんが服を引っ張り、目を輝かせながらおねだりしてきた。
う〜ん、かわいい。
それはそうと最初のやつというと、あれか。
出したやつをくるっと1周させたあれか。
いいでしょう、ほ〜れお前たち、このかわいい妹分の周りをくるっと漂ってあげなさい。
そう念じると、オーブたちはゆっくりとメリーちゃんの方に並んで近づき、メリーちゃんの前でジェットコースターのような縦回転をすると、そのままメリーちゃんの周りをくるくる回り出した。
メリーちゃんはそれをキラキラしたお目めでそれを眺めている。
あぁっとメリーちゃん、雷だから触ると痺れるよ?
まぁ威力は最低値だからちょっとビビッと来るだけだけど。
あ、ほらビビッと来た。
驚いてるけど…はは、好奇心が勝ったな。
指でツンツンしてる。
可愛らしいことで。
「ふふふ…今日のところはこれぐらいにしておこうか。明日、実際にいろいろやってみよう」
「はい、お願いします」
サンダーオーブと戯れるメリーちゃんをみんなで微笑ましく眺めながら、その日は解散となった。
…ちなみにメイカさんは、戯れるメリーちゃんを見てまた倒れていた。
「あぁ…尊い……!」




