80.地元の悪ガキ集団…を煽る
午後です。
隠密ギルドから帰ったあと、仕事をして、お昼ご飯をララさんと珍しく早く来たチェルシーと食べて、戻ってきてまた仕事にして現在午後3時ごろになりやした。
俺がチェルシーとクエストボード貼り替え作業を終え、カウンターに戻ってくると並んでいる列の中に見知ったかわいい人影がおりやした。
その人たちにチェルシーが元気に話しかける。
「あれ?モニカちゃんとアリシアさんだ!」
「あ、チェルシーちゃんにマーガレットちゃん、こんにちは♩」
「こ、こんにちは…2人とも…」
「こんにちはモニカちゃん、アリシアさん。今日はどのようなご用件で?」
軽く挨拶を交わして本題に入る。
モニカちゃんがアリシアさんにべったりくっついてビクビクしてるからだ。
…人見知りな上に、冒険者ギルドの人たち厳ついもんなぁ……。
無理ないわな。
「材料の依頼だよ。モニカはその付き添い」
「へぇ〜!モニカちゃんこういうところ苦手なのにどうしたの?」
チェルシーがモニカちゃんにズバリ切り込む。
というかこの2人仲良いのか。
まぁ不思議じゃないか。
ハルキも白兎亭知ってたし。
あそこなかなか現代的な設備が整ってたし。
「え、えっと……その……」
モニカちゃんはもじもじと俺とチェルシーと自分の手元をローテーションで見る。
う〜ん…かわいい。
そこにアリシアさんからの援護が入った。
「ほらモニカ、アレ出しな、ア〜レ♩」
「う、うん……!」
モニカちゃんは持ってたバスケットから可愛いリボンで閉じられた小さな袋を取り出して、俺とチェルシーに差し出す。
これって…
「「クッキー?」」
「そ♩頑張ってる2人に渡すって張り切って作ってたのよ♫」
「も、もうっ…!お姉ちゃん……!」
「あらら、怒られちゃった♩じゃっ、私は依頼の紙作りに行くから、また後でねぇ〜♫」
そう言うとアリシアさんは空いたカウンターへと向かっていった。
残された俺たちは、とりあえず邪魔にならないところに移動してから話し始めた。
「モニカちゃん、これもらっていいの?」
「うん…!2人にあげる…!」
「やったぁ〜!ありがとうモニカちゃん!」
「うん、すごく美味しそう!…ちょっと食べて良いかな……?」
「う、うん……!どうぞ…!」
「わぁい!」
俺が聞いてモニカちゃんが答えた…瞬間にチェルシーが袋のリボンを取り、クッキーを食べる。
「もぐもぐ……美味しいぃ!」
「そう…?良かった…」
チェルシーの喜びようにモニカちゃんがホッと息を吐く。
(本当に美味しそう……私たちも食べましょうよ!)
「ふふ…それじゃあ私も…」
「あ!モニカだ!」
「っ!?」
俺が袋を開けようとリボンを解こうとしたとき、誰かがモニカちゃんの名前を叫び、突然呼ばれたモニカちゃんの体がビクッと震えた。
声のした方を見るとそこには同じ皮の鎧を着けて、それぞれ剣と盾、槍、杖を背中に担いだ、俺たちと同年代ほどの少年3人組が立っていた。
剣と盾を持ったこの集団のリーダーっぽい男子が口を開く。
「お前!いつも俺たちが遊んでやってたのに、なんで来なくなったんだよ!」
「ひっ!?そ、それは…」
「モニカのくせに口答えする気か!」
「そうだそうだ!生意気だぞ!」
なんだこいつら。
(…あぁ…アリシアさんが前に言ってたいじめっ子か)
(モニカちゃん…なんでこんなのと遊んでたんだろう……)
うわぁ、マグったら辛辣☆
「ちょっと!モニカちゃんはあんたたちとは遊びたくないのよ!それぐらい分からないの!?」
「んだようっせーな!ギルドで働いてるからって偉そうに上から目線かよ!」
「何よ!偉そうなのはあんたたちでしょ!?」
「なんだとぉ!」
((子供だねぇ……))
チェルシーとリーダー格の男の子の言い合いをぼんやりと眺めながらそう思う。
この街に来て今日で6日目。
今日までに話した相手は、同年代の子よりも大人の方が多かった俺たちにとって、目の前の子供のケンカはなんか凄く「あらぁ〜」って感じで見える。
…まぁ本人達にとっちゃかなりの問題なのも理解してるので、とりあえず俺はモニカちゃんを俺の後ろに避難させる。
「おいで」
「!……うん……」
後ろに隠れたモニカちゃんは俺の服の裾をキュッとつまんだ。
そんな動作に俺とマグはきゅんとした。
が、リーダー格の男の子がそれに気付いてこっちに突っかかってきた。
「あ、おい!何隠れてんだよ!」
「お前も何隠してんだ!どけよ!」
「なんで?」
「なんでじゃねぇよ、どけよ!」
うわめんどくせ。
「えー?モニカちゃん怖がってるしなぁ〜」
「お前には関係ないだろ!」
「モニカちゃんの友達として関係あるんだよなぁ」
「はぁ?」
「…マーガレットちゃん……」
モニカちゃんの裾を掴む手がより強くなった。
「マーガレット?」
向こうのグループの杖持ちの男の子が俺の名前を聞いて反応した。
そしてすぐに答えに辿り着く。
「あ!こいつ、今冒険者のみんなが話してる《戦慄の天使》だ!」
「何っ!?」
「そうなのかっ!?」
…ほ〜らめんどくさい事になった。
だから二つ名とかいらないんだよ……。
しかもそこにチェルシーがいらん追加情報を与えた。
「ふふん!マギーちゃんは大人といっつもお話ししてるんだから、あんたたちみたいなお子さまとはレベルが違うのよっ!」
「なんだとぉ!?」
チェル子や。
俺を使って煽るのはやめとくれ?
そこに槍使いの少年が口を挟む。
「ふん!こいつもお前も、どうせ大人にコビを売ってるだけだろ!」
「なんですってぇ!」
チェルシー、落ち着け。
そしてお前、絶対意味分かってないだろ。
カタコトだぞ?
まったく…そろそろ本格的にめんどくなってきたし、さっさと切り上げさせて……
「知ってるぞ?お前らサキュバスはエロいことして男をゆーわくするんだってなぁ!」
「なっ!?」
「うっわぁー!俺たちもゆーわくされるぅ〜!」
「はぁ!?そんなことしないしっ!」
「ホントかよぉ?ギルドに入ったのも男をゆーわくしたからだろぉ?」
「ちがっ…!」
「やーいエロ女ぁ!」
「「エロ女、エロ女ぁ!」」
「違う…違うもん……!」
「(…………)」
…そこはチェルシーが気にしてるデリケートな部分だ。
ガキとはいえそれを大声で馬鹿にするとは……。
俺とマグの心が冷えていく。
…ふぅ…落ち着け、相手は子供だ。
殺気を向けるのはさすがにやばい。
俺がそう落ち着きを取り戻そうとしているというのに、このバカどもはチェルシーを馬鹿にし続ける。
「「「エッロおっんな!エッロおっんな!」」」
「うぅ…違うもぉん……」
「あー!泣いたぞこいつ!」
「やーい泣き虫ぃ!」
「チェルシー」
俺は泣き出してしまったチェルシーの腕を掴み、モニカちゃんに渡す。
…はぁ…あれこれ考えてないでさっさと終わらせてればよかった。
ごめんチェルシー。
あとは任せて。
「よろしく」
「う、うん…」
「ぐすっ…マギーちゃん……?」
「んー?だいじょぶだいじょぶ」
俺はモニカちゃんにチェルシーを任せ、2人を背に悪ガキどもと対峙する。
「あーん?今度はお前かよ」
「2人に謝りなよ」
「はぁ?なんで俺らが謝んなきゃいけねぇんだよ?」
「そうだそうだ!」
「チビのくせに偉そうだぞ!」
(…ホント子供ですね……)
わぁマグさん、声がつめたぁい♫
まぁ俺も同じようなもんだけど。
「なんでって…バカなの?あ、ごめん。知ってたわ」
なので煽ります。
「あぁっ!?」
「バカって言ったほうがバカなんだよバーカ!」
「バーカバーカ!」
((バカじゃん))
⑨よりバカじゃないの?
可愛くもないし。
「大体、お前だってどうなんだよ!」
「どうって?」
「お前もギルドに入るのになんかしたんだろ!?」
「何かって?」
「それは…あれだよ」
「泣き落としたんじゃないか?」
「そう!それだ!泣いて大人に甘えたんだろ!」
「あっはっはバカだねぇ」
「「「何!?」」」
やべぇ、超◯塾みてぇw
危うく吹き出すとこだった。
「ここの人は泣く前に手を打つ敏腕ぞろいだわ、なめんな」
「はっ!?」
「何言ってんだこいつ!?」
「意味わかんねぇ!」
「それは君らが坊やだからさ☆」
「「「はっ!??」」」
(ふふ…ふふふ…坊やだからさ☆……あはははは!)
「ふふふ……」
「坊や…ふふ……マギーちゃん…ふふふ…」
やったぜ。
味方陣営に大打撃を与えたぞ。
俺のしょーーーりだっ!!
チェルシーとモニカちゃんに笑われたのが恥ずかしかったのか、少年グループは顔を赤くして俺に噛み付いてくる。
「ふ、ふざけんなよっ!誰が坊やだっ!」
「ん、ん、ん(指を差していく)」
「指差すな!」
はっはっは、顔真っ赤っかですな。
いい気味ですな。
はっはっは。
俺大人気ないですな。
まぁ気にしませんがな。
はっはっは。
俺は特に意味も無くその場でフラフラと左右に揺れながら話す。
本当はFPS仕込みの屈伸煽りを見せつけてやりたかったが、腰やるし足やるし頭揺れまくるしで、こっちの物理的なダメージが尋常じゃないし、そもそも今、モニカちゃんとチェルシーに服をつままれてるからそんな大きな動きはできない。
なのでとりあえず揺れといた。
「大体、人泣かせて偉そうにするって相当やばいよ?いじめだよ?傷害だよ?それを誇るとか正気じゃないよ?サイコパスだよ?」
「サイコパスとか意味分かんねえこと言ってんじゃねぇよ、このチビ!」
(むっ…)
(落ち着け、マグ。外見をバカにするってことはそれ以外に思いつかないってことだよ)
(ん……なるほど…)
「というかそのチビに3人揃って勝てないってww」
「ーーーっ!」
ありゃりゃ、お顔をもっと真っ赤にして……うん?
何剣の柄に手を伸ばしてんだ?
「て、てめぇ……!ぶっ殺してやる……!」
(「「ひっ!?」」)
「…うーわ……」
剣をぶっこ抜きやしたぜこいつ。
それやったら負けなのに。
「さすがにそれは見過ごせねぇなぁ…?」
「マーガレットちゃんが楽しそうだったから止めなかったが、剣を抜くなら話は別だなぁ…?」
「そもそもモニカちゃんをいじめてるってのが…ねぇ?」
ほーら、周りのコワァイお兄さんお姉さんが寄って来たよ?
「ど、どうする……?ルークぅ……!」
「うっ……き、汚ねぇぞっ!大人を味方に付けるなんてっ!」
「いや、思いっきり自爆でしょうに」
そもそもモニカちゃんとチェルシーに突っかかってこなきゃこうならなかったってのに。
んー…でもこのままだとアレだなぁ……。
こいつら大人のいないところで復讐してくるんだろうなぁ……。
…まぁバレなきゃ良いってのは常套手段だもんな。
誰にとっても。
「はいはい、そこまで」
と、そこにやってきたのはララさんとアリシアさんだ。
ララさんがパンパンと手を叩きながら来ると、冒険者たちも気を緩ませ、少年グループも少しホッとした表情を浮かべた。
「そんなに戦いたいなら、来週の日曜日にギルドで冒険者の教習会を開くから、その時に決着を着けなさい」
「教習会?」
しかも来週か……俺聞いてないな……。
「そ、前々からやろうとは思ってたんだけど、いろいろと事情があってね。ようやく開催の目処が立ったから、早速来週にってダンジョンマスターにも交渉したのよ」
「へぇ〜。あ、でもどこでやるんですか?」
そんな訓練場みたいな広い所なんてあったっけ?
俺が聞くとララさんは少し得意げな笑みを浮かべながら答えた。
「ふふふ…ここの迷宮の第1層にイベント用の闘技場があるの。そこで開く予定よ」
「へぇ!闘技場!」
(闘技場?)
ふむ…マグには後で教えるとして、今は話を進めよう。
「もしかして、そこで私とこの人で決闘でもしろと?」
「そういうこと」
「なるほど…」
(け、決闘って…なんで……?)
(んー…こうすることで俺が闇討ちされにくくしてくれたんだろうな。こうやって明確に決着を着けるぞって言っとけば、プライドやら何やらでその日まで手を出してくることはまぁ無くなるはずだ)
(へぇ…そういうことなんですね……)
まぁそれでも、汚いやつはとことん汚いんだけどな。
「ふ…ふふふ…いいぜ……!おい、お前!そこで俺と勝負だ!」
「いいですよ?私が勝ったらそこの2人もまとめて、今回のことを謝ってもらいます」
「ふん!いいぜ!俺が勝ったらお前は俺の子分だ!いいな!?」
俺は片眼をつむりフッと笑うとララさんの方を向いた。
「それで、その教習会は何時から始まるんですか?」
「朝の9時頃から午後4時ぐらいを目安にしてるよ。午前中はお勉強が多いけど、午後は実際に体を動かしてもらうつもりだから、その時に決闘をしようか」
「ですってよ?」
「望むところだ。逃げんなよ!」
「そっちこそ」
そうして決闘が決まった後、少年グループはギルドから撤収していった。
ら、後ろからクイクイと服を引っ張られた。
「マーガレットちゃん……」
「マギーちゃ〜ん……!」
モニカちゃんとチェルシーだ。
俺は2人の方を向いて、頭を撫でながら謝った。
「ごめんね?助けるの遅れちゃって……」
「……(ふるふる)」
「いいよぉ…それよりマギーちゃん…大丈夫なの……?」
「ふふん、こう見えて私、魔法が少しは使えるんだよ?だから多分いけるよ」
「マギーちゃん不安だよぉ……」
「……(こくこく)」
モニカちゃんが無言ながらも意思を伝え、チェルシーがめためたに心配してくれる。
…まぁ確かに、俺ももうちょっと動けた方が良いだろうなぁ……。
ま、いいや。
「ところでさ、モニカちゃん」
「……?」
俺はさっきから気になっていたことをモニカちゃん聞いた。
「あの人らなんて名前なの?」
「えっ!?今なの…!?」
モニカちゃんの驚きの声の後、アリシアさんや冒険者たちの笑い声がギルド内に響いた。
はぁ〜…どう料理したろうかなぁ……
2021.4/25(日)
悪ガキグループの取り巻きの少年がリーダーの名前を呼ぶ場面を、元は「ラング」であったのが「ルーク」に修正しました。




