79.ロッサ村調査・探索依頼…発注
「マーガレットちゃんの料理……!はふぅ……幸せ♡」
確かに少しは教えてもらったが、結局ほとんどフルールさんが作った料理をメイカさんが感激しながら食べてくれた朝食を終え、それぞれの仕事に向かうべくギルドへと出発した俺たち。
…ちゃうねん。
料理が下手ってわけじゃないねん。
俺がお皿の用意をしてる間に野菜のカットとかの下準備が終わってんねん。
結局作り方を教えてもらっただけだったわ。
今度練習しよう。
あと、出かけるときメリーちゃんが起きてきて、ギュッてしてくれて…
「………いってらっしゃい…」
と、眠そうに目を擦りながら見送ってくれた。
俺とマグはほっこりし、メイカさんは倒れた。
そんなわけでギルドに到着。
メイカさんを途中まで引きずってきたディッグさんたちと別れた俺は(メイカさんは途中で起きた)、ララさんたちと挨拶を交わすと、朝の仕事、ダンジョンマスターとの会話をするべく連絡室へ向かう。
とはいえ……。
申し訳ないが今日はこっちからも相談があるんだよなぁ……。
まぁ、昨日一緒にいたから分かってるだろうけど。
そうして、連絡室に着いた俺は、早速テレフォンオーブを起動した。
「もしもし、ハルキ。おはよう、マーガレットですよぃ」
『はい、マーガレットさん、コウスケさん、おはようございます。フォーマルハウトです』
「あ、フォーマルハウト、おはよう。ハルキはまだ寝てるん?」
『はい、現在進行形で寝てます。とはいえ、昨日いろいろと手を回していたみたいなので、申し訳ありませんがまだ寝かせてあげてもらえますか?』
手を回してた……か。
ふむ…もしかしたら俺の件かもしれないしな……。
それに、寝不足はよろしくないからな。
俺はこっち来てから、ぐっすりと寝たことは無いが。まぁ後悔もしてないが。
「いや、構わんよ。それじゃあフォーマルハウト、悪いけど少しこっちの相談に乗ってくれないかな?」
『翡翠龍について…ですね?』
「そ、やっぱり話がいってたみたいだね」
『はい、昨日マーガレットさんの村の皆様とお会いできたと教えてもらいました。その後の事も…もちろん』
ん…なら話が早いな。
「そっか、じゃあ俺の相談なんだが……ロッサ村とその周辺の探索を依頼しようと思ってるんだ」
『ふむ…それは大事な事ですが……依頼ですか?』
フォーマルハウトが何か不思議そうに聞いてくる。
?
依頼するに決まってるだろうに。
「なんでそんな不思議そうなの?」
『いえ…てっきり私たちに協力をお願いするのかと……』
「いや、協力は要請するよ。でも、実際にハルキたちが行くのは避けた方が良いだろ?」
『それは…まぁ……』
「だから俺は隠密ギルドに依頼しようと思ってるんだ。あそこなら下手に命をかけるようなことはしないだろうからね」
それに、あそこの人たちはマーガレットの村のことを知ってるし、一応顔見知りではあるから話が早そうだし。
『ふむ…そういうことなら確かに隠密ギルドが適任ではありますが……あぁなるほど。相談というのは、報酬のことですか?』
「うん、その通り」
さっすがダンジョンナビ。
話が早いね。
「俺は、今回の依頼はかなり危険なものになるから、このマジックバッグを出しても良いと思ってるんだけど……」
『いえ、それはやりすぎですね。そんな美味しい話だと、希望者が殺到してしまいます』
「うっ……」
『…一応考えてはいたようですね……』
「そりゃあね……しかもこれ貰い物だし……」
確かに、龍被害の地の調査と探索…もしかしたら龍に会うかもという危険な仕事ではあるが、それを抜きにすれば、あの辺一体の魔物を余裕で倒せる冒険者たちにとってはかなり美味しい依頼だ。
そうなるとかなり大変だし、あまり報酬を豪華にしすぎると、仕事をなぁなぁで済ませる輩が現れるだろう。
そんなやつをダニエルさんやヘンリエッタさんたちが許すとは思わないが、そういう可能性を事前に潰しておいた方が良いというのは当然だろう。
「んー…でもそうなると、あと出せるのはお金ぐらいで……」
『ふむ…失礼ですが、おいくら持っておられるのですか?』
「えーっと今は…16万3千ゴルかな」
『それだけあれば十分ですよ。とりあえず、5万ほどで依頼を出して、有益な情報や収穫があれば追加で支払う、といった感じでどうでしょう?』
「なるほど。…しかし、5万か……」
危険の割にはちょっと安いんじゃないかなぁ……?
『大丈夫ですよ。マーガレットさんは今ギルドの職員です。ギルドの職員からの依頼ならば、報酬もしっかり貰えるという信頼もありますし、それにマーガレットさんはギルドでかなり人気なので、受けようと思う人は多いと思いますよ?』
「人気って……確かにマグは可愛いけど……」
(もうっ!コウスケさん!そういうことを他人に言わないでくださいよっ!!)
(おっと…ごめん)
『ふふふ、仲がよろしくて良いですね』
「(あうっ……)」
今の一瞬の間でも、フォーマルハウトは俺がマグと会話したのだと察したようだ。
…さすがダンジョンナビ……。
侮れないな……!
フォーマルハウトはクスクスと笑うと、俺の噂を並べていった。
『マーガレットさんは今、《戦慄の天使》と呼ばれているのはご存知でしょう』
「そうな……なんか知らんがそう呼ばれてるな……」
『マーガレットさんの名前は、その二つ名と共にこの街の冒険者たちに広まっていっております。ほとんどは耳にしただけで、誰かがいたずらに付けたものだと思われていますが…3日前のギルドでの揉め事を覚えていますか?』
3日前って言うと……
「Dランクに上がりたい冒険者たち…かな?」
『はい、昨日あなたにお礼を言いにいったあの者たちです』
…見られてたんか……。
まぁ、この街全部がダンジョンだもんな。
ダンジョンナビのフォーマルハウトが見ててもおかしくはないか。
『あの諍いを止めた者として、その場にいた者はマーガレットさんのことを尊敬と畏怖を込めた目で見ております』
「畏怖っ!?なんでっ!?」
あの揉め事を止めただけでっ!?
『いやぁ…ハルキに聞いた感じ…そう呼ばれても仕方ないかと……』
「えぇっ!?討伐数を倍にしたのそんなにダメだった!?」
本当はもっと多くしようかとも思ってたんだけどっ!?
『いえ、そっちではなくて……まぁ別に問題は無いのでいいですね』
「よろしくないっ!?」
『依頼の件はこちらからダニエルさんにご連絡させて戴きますので、コウスケさんたちは隠密ギルドで計画の後詰めをお願いします』
「話を終わらせようとしないでっ!!?」
まだ俺は納得してないよっ!?
『では、ハルキにも起きたら伝えますので、ご心配なさらずに本日もよろしくお願いします』
「話を聞かないっ!?」
『それでは失礼しま〜す。うふふふふ』
「確信犯っ!!」
プツッと通話が切れ、テレフォンオーブはただの水晶玉になる。
残された俺は、しばらくの間呆然と立ち尽くしていた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「というわけなんですよ……」
「ほ〜ん…そりゃ大変だったな」
隠密ギルドに来た俺は、早速ダニエルさんに背後を取られたので、そのままカウンターで依頼の件を話したあと、フォーマルハウトとの会話を彼に話した。
…のだが…
「大変だったな、って…あの二つ名のせいでギルドで働いてる時も、たまに「天使ちゃ〜ん」とかからかわれて本当に疲れるんですよ?」
「手ぇ振り返して愛想笑いしてやりゃ良いじゃねぇか」
「してますよ、そんなの既に」
だからなのか余計いろんな人にそう呼ばれるようになってしまった。
でも仕事だから無視するわけにもいかないんだよなぁ……。
「はぁ……ホント、《戦慄の天使》だなんて物騒な二つ名を付けた人には何かしらの天罰落ちないかなぁ……」
「しれっとそういうこと言うのが悪いんじゃないかなぁ……」
「え?」
「いえなんでも」
受付のお姉さんが何か言った気がしたんだけど……ふむ?
「まぁなんにせよこの依頼、ウチで受けさせてもらうぜ。もちろん早い方がいいんだろ?」
「えぇ、そうじゃないとあまり意味はありませんし…あれからもう6日ですからね。出来るだけ早い方がいいです」
「あいよ。それとこの追加報酬だが…」
「私が追加で出せるのはあと数万ゴルです。…まぁここでもらったものですが」
というかこれダニエルさんのものかな?
「ふむ…別に金じゃなくてもいいんじゃないか?」
「えっ?お金以外というと…」
「お嬢ならではの報酬があるだろ?」
俺ならでは……?
(私ならでは……?コウスケさん、分かりますか?)
(いや、分からん……)
俺らが頭を悩ませていると、ダニエルさんが答えを言った。
「お嬢ならではの報酬…それはな…?」
「(それは……?)」
「ハグだ」
「(…………?)」
…なぜハグ?
(えっと…ハグ…というのは…?)
(抱きつく、抱きしめる…簡単に言えばギュッてすること)
(ふむふむ……えーと…それが報酬…ですか……?)
そりゃ確かにマグにギュッとされるのは嬉しいが……え?何?狙ってるやついんの?
「ウチの子は渡しませんよ?」
「誰のこと言ってんだお嬢?」
思わず本音が漏れてしまったわ。
「私のハグが報酬になると?」
「おう。俺の見立てじゃあ、これ目当てで受けるやつも出てくるはずだ」
「競争率上げてどうするんですか」
「ハッハッハッ!だがお嬢は追加で金を払わずに済むし、相手さんもそれで満足できるんだから良いだろう?」
「いやいや…それでむしろ変なのに絡まれたりしそうじゃないですか、嫌ですよそんな面倒ごと」
「まぁ確かに妙なのに狙われそうだもんなぁ…お嬢」
でしょう?
マグ可愛いからなぁ……絶対みょんなのに絡まれるぜ?
そうなった時ちゃんと守れるか俺は心配だよ……。
魔法は少し使えるけど……やっぱりもうちょっとトレーニング増やそうかな……?
「ま、とりあえずは追加で最大5万ゴルぐらいにしとこう。それでいいか?」
「はい、お願いします」
なんだかんだで用件は済んだな。
…あ、そうだ。
「ダニエルさん、この前の試験で私が入った洞窟の部屋に、動く絵画がいたじゃないですか。あの子は何者なんですか?」
「うん?あぁ、あいつはベックがテイムした魔物でな。見てわかると思うがトラップボックス…いわゆる《ミミック》系統の魔物の一種だ」
「へぇ…そういうのって宝箱やツボやタンスぐらいだと思ってました」
「ツボやタンスのやつがいるなんてよく知ってんな!宝箱に擬態してるやつが一般的だから、そこまで知ってるやつは上位の冒険者でも割といないぞ?」
「まぁ?私も?冒険者ギルドで働いてますし?」
「腹立つぅ〜」
そっかぁ…箱だけじゃなくツボやタンスもいるのかぁ。
…気をつけないとなぁ……いやでも、俺迷宮行く予定無いしなぁ。
でもテイムかぁ……。
(テイム…ちょっと憧れますね……)
(やっぱり?)
(はい!それに、絵画のあの子、ちょっと可愛かったですし)
(確かに。でも迷宮に入る予定無いしねぇ〜)
(そうなんですよねぇ〜……)
マグが残念そうに言う。
う〜ん…俺もマグも冒険大好きっ子だからなぁ……やっぱりそういうのには憧れるよねぇ……。
でも、入るにしてももうちょっと強くなってからかなぁ。
装備だって整えないとだし。
「なんだ、お嬢。確か冒険者登録はしてあるんだろ?だったらあのキツネっ子あたりでも誘って一緒に迷宮に入りゃ良いじゃねぇか」
「いやぁ…足引っ張っちゃいそうだし、そもそも装備がありませんよ」
「あぁ…こればっかりは自分の感覚だからなぁ……」
ダニエルさんの言葉に頷く。
武器も防具も命に直結する大事な物だから、自分に合った物じゃなければ危険だ。
そしてそれは実際に使わなければ分からない。
(う〜ん…武器…か……マグは何か使ってみたいと思う武器とかある?)
(う〜ん…やっぱり剣でしょうか?冒険者って感じがします)
(わかる)
(でも私たちの戦闘スタイルだと、杖を持って魔法主体で戦う方が向いてる気がするんですよね……)
(めっちゃワカル)
(そもそも私の体だと、ナイフぐらいの大きさじゃないと満足に使いこなせそうにないです……)
(はちゃめちゃ分かる)
うん、保留。
ミミックってかっこいいと思うの。




