8.同郷者との出会い…復讐心を添えて
前回重い話だったので、読み飛ばした人のために簡単なあらすじをバッ!
コウスケ眠らされる
夢の中で前世の自分の姿で、今世の自分と同じ姿をした少女を見つける
後ろの村が焼ける
村の入り口で元凶である緑の龍を見つける
ここから逃げようと少女に手を伸ばすがすり抜ける
それ以外のものもすり抜ける
龍が少女の両親を殺める
コウスケ目覚める
夢の内容をメイカ達に話す
ハルキが「日本という国を知ってるか」コウスケに問いかける
という感じでした。
では本編へどうぞ!
「君は…日本という国を知っているかい?」
「!?」
ハルキさんの言葉に目を見開く。
日本…日本って言った!?
「じゃあハルキさんはやっぱり…!」
「おっと」
興奮する俺を、ハルキさんは自分の口元に人差し指を当て言外に「それ以上はいけない」と伝えてくる。
確かに、転生者か転移者かは分からないがどちらも知られたら最悪、面倒な事になってしまうかもしれない。
俺は慌てて口を噤み、こくこくと頷いた。
そんな俺たちのやり取りをメイカさんたちは不思議そうに見つめてくる。
「すみません皆さん。少し大事な話があるので、二人きりにさせてくれませんか?」
「なっ!?」
ハルキさんの言葉にそう返したのは、未だ俺を抱きしめてくれているメイカさん。
「駄目よ。貴方の連れが何をしたのか忘れたの?そんな貴方たちとこの子を二人きりになんてさせられる訳ないでしょう?」
メイカさんから今まで聞いたことのない、ドスの効いた声が発せられる。
ディッグさんとケランさんもハルキさんを睨んでいる。
チェルシーちゃんがまた泣きそうな顔になってしまうが、それに対してハルキさんは飄々とした態度を崩さない。
…メイカさんたちの気持ちは嬉しい。
だが俺もハルキさんに聞きたいことが山のようにある。
だから俺からも頼む。
「メイカさん、ディッグさん、ケランさん。私からもお願いします」
「マーガレットちゃん!?」
「私もハルキさんに聞きたいことがあるんです。とても大事なことなんです」
「…それって、さっきの日本がどうこうって話?」
「はい」
「………」
メイカさんたちが目を合わせる。
ディッグさんが無言で頷いた。
それにメイカさんが不承不承ながらも頷き返し、こちらを見た。
「分かったわ。でもね、何かされたらすぐに私たちを呼んで。貴方もそれでいいわね?」
「えぇ、もちろん」
「…ありがとうメイカさん」
「いいのよ…大事な話なんでしょう?」
そう言いながら俺を抱きしめる手を離すメイカさん。
そうしてみんなが部屋から出ていき、俺とハルキさんの二人だけになった。
「それで…何から聞きたいんだい?」
「そうですね…まずは……貴方は転生者か転移者のどちらかですか?」
「うん、お察しの通り僕は転生者だよ」
「では次に…貴方はダンジョンマスターですか?」
「…よく分かったね」
「そういうお話が好きだったので」
「あぁ、なるほど」
小さく笑みを溢すハルキさん。
「それで他には?」
「貴方は他人のステータスを見ることが出来るんじゃないですか?」
「それもお約束からの推理かい?」
「いえ、さっき俺が話している時、自分の手元を見ているように見えたので」
「…マジで?」
「マジです」
「そうか…それは油断したなぁ……気を付けないと……」
俺はそれも演技だと思っていたのだが、どうやらそうではなかったらしい。
「うん、君の言う通り、僕は他の人のステータスを見ることができる。まぁ、自分よりも上の実力を持つ人には使えないけど……」
なるほど、お約束だ。
だが今の俺にそれを喜ぶ余裕は無い。
「それで?それを聞いてきたってことは…自分のステータスを教えて欲しいってこと?」
「はい」
「うん、いいよ。というか僕の方からもその件でいくつか聞きたいことがあるからね」
そう言うと、ハルキさんはまた自分の手元に視線を向ける。
俺は見えないが今あそこにステータス画面が映っているのだろう。
「じゃあ君のステータスを言うよ?」
「お願いします」
そしてハルキさんに教えてもらったステータスがこれ。↓
名前:マーガレット・ファルクラフト
性別:女性
年齢:10
血液型:A型
MP:20/20
体力:F
筋力:G
魔力:E
技術:D
敏捷:F
知力:C
状態:憑依 虚脱
「こんな感じだね」
「あ、ありがとうございます……」
ステータスが低いと感じるのはまぁ子供だし仕方がない。それよりも…
「憑依…ですか…?」
「うん… 君の体には、君とその体の元々の持ち主である少女の魂が入ってるってことだね」
「…………え?」
「僕の能力じゃ魂だけの君のステータスを見ることは出来ないけど…って聞いてる?」
憑依…憑依って、それってつまり…今まで転生した自分の体だと思ってたのは本当はマーガレットのもので、俺はそうとは知らずに好き勝手動かしてたってこと?
……やばくない?
「えっちょ、どうしよ…知らん男がいきなり自分の体乗っ取ってたとか怖っ…えっ怖っ」
「お、落ち着いて」
いや、落ち着けないよこんなん。
普通にトラウマ案件だよ。
10歳の女の子には酷すぎるよ?
「それなのに俺は「異世界転生だヤッホイ!」とかテンション上げ上げで呑気に魔道具見て昼飯食ってしてたの?やばっ、バカァ…アホゥ……」
「あーっと……そうだ、名前!貴方の名前をまだ聞いてなかったっ!」
自分の行動を思い返して暗くなる俺に、話題を変えようとハルキさんが聞いてくる。
そう言われてみれば、俺自身のことを全く話してなかった。
「そうですね、では改めて…俺は高嶋 浩輔と言います。歳は二十歳で、大学生でした」
「二十歳…ってことは僕よりも年上だったんだね」
「そうなんですか?」
「うん、僕は石井 春樹。こっちに来たのは15歳の時で、この前16になったばっかりの元高校生さ」
「新一年生ェ……」
「言わないで……」
俺の一言にハルキさんはうなだれてしまった。
しかし、15歳でこっちに来て今16歳ってことは、まだこっちに来てそんなに経ってないのかな?
確かこの街が出来たのも2ヶ月前って話だったし。
「あの、ハルキさんがこっちに来たのっていつ頃なんですか?」
「ん?あぁ、えーっと……3ヶ月前かな?コウスケさんは?」
「今日の朝です」
「今日!?それで今この状態って…濃密な1日になったみたいだね……」
「本当ですよ……えーっと…
馬車の中で目覚めて…
この街にたどり着いて…
門番さんたちとなんやかんや話して…
そのあと白兎亭で昼ご飯を食べて…
モニカちゃんと友達になって…
ギルドに着いて…
ハルキさんたちと出会って…
そのあとは知っての通りですね……」
「予想以上に濃かった!?」
ハルキさんはそう言うが、俺としてはあっという間に時間が過ぎていった感覚だったし、今並べた感じ思ったよりあっさりしてるとすら感じた。
…箇条書きマジック、だろうか……
「はぁ〜…でも所々楽しそうな描写があって良かったよ」
ほっとした様子でそう言うハルキさんに、俺は小さく笑い返す。
ちょくちょく思っていたが、ハルキさんって第一印象とだいぶ違うな…。
最初は、油断ならない怪しい男と思っていたが、今こうして話していると普通の学生にしか思えない。
そういう作戦だったら完全に騙されているわけだが、この時の俺はそんなことを微塵も考えていなかった。
「ってそうか…軽く流しちゃったけど、コウスケさんの方が年上なんだし、じゃなくて年上ですし、敬語の方がいいですよね」
「え?別に気にしてませんよ?」
「いやいや、そう言ってくれるのはありがたいですけど…というかコウスケさんの方が僕に対してタメ口聞いてくれていいんですよ?」
「あー…これはバイトの癖なのでそこまで気にしなくても……」
「うーん……あ、じゃあこうしましょう!コウスケさん、僕と友達になってください。友達にならタメ口で話してもおかしく無いでしょう?」
「本当に気にして無いんだけどなぁ…」
でもそう言われたら断るのも忍びない。
「うん、分かった。これでいい?ハルキ」
「はい!ありがとうございます!」
「ハルキの口調が戻ってないぞ……」
そのあとしばらく雑談を楽しんだ俺たちだったが、そんな呑気なことをしてる場合じゃ無いと気づいた。
「メイカさんたちそのままじゃん……」
「あっとそうだったね……」
そう、警戒心MAXのメイカさんたちに無理言ってハルキと二人きりにしてもらったんだった。
普通に考えれば、溺愛してる妹分と今日初めましての男の人を二人きりにするなんて心配するに決まっている。
しかも俺は悪夢にうなされ、軽く衰弱している状態でベッドの上にいる。
そんな状態の男女が大事な話があるからと、長いこと部屋から出てこなかったらどう思うだろう。
とてもそんな雰囲気ではなかったので、そう考えることはそうそう無いと思うが、条件的にはそういうことが起こってもおかしくない。
俺が考えた事をハルキも考えたのか、顔が青くなっている。
そうだよね。
この場合命の危険があるのハルキだもんね。
「そろそろ呼ぼうか?」
「う、うん…そぅだね……」
ほんとに大丈夫だろうか?
俺は軽く深呼吸をして、気持ちをコウスケからマーガレットに変える。
と、肝心な事を聞いてなかった。
「ハルキ、今のこの体には俺とマーガレットちゃんの魂が入ってるんだよな?」
「うん?あぁうん、そうだよ」
「今マーガレットちゃんの魂がどうなってるか分かる?」
「さっき教えたステータス通りだよ」
ステータス通り…?……あ。
「……虚脱?」
ハルキは頷いて肯定を示す。
「今マーガレットちゃんは、深い絶望に苛まれてる。それはコウスケが一番分かってるだろう?」
「あぁ、やっぱりあれって現実で起きた事なんだろ?」
「僕もそうだと思うよ。それにステータス上じゃ虚脱って出てるけど、正確には鬱病だと思う。あのステータスは今の状態は教えてくれるけど、なんの病気かとかの細かい情報までは分からないんだ」
「ってことは、この子がトラウマを克服しない限り、本人に体を返すことは出来ない?」
「無理だろうね。一応さっきみたいに無理やり深層意識を持ってくることも出来るけど…」
「そんなんしてたんか」
チェルシーちゃんのアレは、ただ相手を眠らせる能力じゃ無いってことか。
「うん。その結果、傷が癒えてなかったその子は泣き叫んで取り乱し、その影響でコウスケの魂とリンクして、その子が見た惨状を夢として見たってことだと思う」
「……なるほどね」
どうりでこっちの世界の記憶が無いわけだ。
そりゃあ当然だ。
俺の魂とこの子の魂でメモリーカードが違うのだから。
だから多分、俺がマーガレットちゃんの記憶を知らないように、マーガレットちゃんも俺の向こうでの思い出を知らない。
…そもそも今のマーガレットちゃんにそんな余裕は無いだろうが……。
「返してあげたいの?」
「そりゃそうだろう?これじゃただの泥棒だ」
「返したら君の魂がどうなるか分からないよ?」
「こちとら一度死んでるからな。異世界を見れただけでも儲けもんだよ」
本音を言えば、もっと異世界を謳歌したい。
だけど、悲しみに暮れている少女の体でそんな事をするのはどうしても気が引けてしまう。
「だからその代わりって言っちゃなんだけど、俺はこの子の願いを叶えたいって思ってる。話したわけじゃないから何を望んでるのかは分からないけど、多分これが正解だと思う」
「…何をするつもりだい?」
不敵な笑みを浮かべる俺に、ハルキが何かを感じ取ったのか少し警戒している。
別に変なことをしようってわけじゃない。
ただ茨の道を進むだけだ。
「復讐は何も生まないって言うだろう?」
「…それが?」
「俺もそう思う」
「はい?」
何言ってんだという顔で俺を見るハルキ。
「だけど復讐しないと前に進むことが出来ない人もいると俺は思う。」
「その子がそうだと?」
「あぁ。時間が経てば多少は折り合いがつけられるかもしれない。逆に、アイツが消えてもあの光景を忘れることはないだろう」
心に深く残った傷は記憶ごと消さないと忘れることは出来ない。
「だが、アイツがいる限りそれすらままならない。何より…」
「アイツを落とさないと俺の気が済まないんだよ」
ステータスは最初この小説では出すつもりはありませんでした。
が、ノリと思いつきで書いているのでそういうこともままあります。
やっぱり話が通じる人が一人でもいると、人間落ち着くよね……
追記
ステータスに「体力」の項目が追加されました