76.小さな応援…妹とお風呂
「ただいま〜」
寮に帰ってきた俺。
玄関でそう言いながらリビングへと向かう。
外はもう夕暮れ、そろそろメイカさんたちも帰ってくる頃だろう。
そう考えながらリビングへの扉を開けると、すぐ目の前にメリーちゃんが立っていた。
「……おかえり」
「……ただいま」
…なぜこの子はいつもドアの前にいるんだろうか?
「あら、おかえりマーガレット。休日を楽しんで来たみたいね」
「あ、フルールさん、ただいまです」
「そろそろ他のみんなも帰ってくるでしょ?先にお風呂に入っちゃえば?」
「そうですね、それじゃあお言葉に甘えて……」
メイカさんたちが帰ってくる前にちゃっちゃと入ってゆっくりしてよう。
そう思い部屋に向かおうとする俺の服の裾をつまむ者がいた。
もちろんメリーちゃんである。
「?メリーちゃん?」
「……お風呂」
「うん…あ、先に入りたかった?」
「……(ふるふる)」
違うのか。
じゃあどうしたんだろう?
「……一緒」
「一緒……?あ、もしかして一緒に入りたいの?」
「……(こくり)」
いやぁ…かわいいなぁメリーちゃん!
だがそれはそれ、これはこれ。
「メリーちゃんや…あっしはこう見えても中身お兄さんなんやで……?」
「……?(こてん)…知ってる」
言ったもんね。
「うん、いや、うん……いや待って?」
知ってるんならもうちょっとなんか……ね?
「メリー、コウスケはあなたが男と入って大丈夫なのかって聞いてるのよ」
「……大丈夫」
「良かったわね、信頼されてるわよ?」
「この子と同年代の女の子と婚約関係になってるのに?」
「その婚約者の前で堂々と浮気なんてしないでしょ?」
「確かに。いや確かにじゃねえよ、そもそも浮気しねぇよ」
危ねぇなぁ!?
何そのトラップ!?
意地悪すぎないっ!?
「まぁそういうわけだから、メリーをお願いできないかしら?私は夕食の準備があるの」
「はぁ…まぁ2人が良いなら俺がとやかく言うことは無いですけどね……」
まったく…楽しそうに笑っちゃってまぁ……。
フルールさん、絶対好きな子いじめるタイプだよ……。
「…じゃあ着替えを持ってこよっか……」
「……(こくり)」
俺はさっさと諦めて、メリーちゃんとお風呂に入ることにした。
う〜ん…髪とか背中とか洗ったほうがいいかな……?
さすがにそれはやりすぎか……?
どこまでがセーフ判定なのか考えながら、俺はメリーちゃんと2階へ上がった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「はふぅ〜…!」
「んふ〜……」
体を洗い終えた俺たちは、湯船に浸かるとお互いに声を上げてしまった。
ちなみに入る前に体を洗うにあたって、メリーちゃんは毎日フルールさんに全部任せてるということが発覚し、結局俺がメリーちゃんの頭と体の全てを洗うことになったのだが、ロリコンである俺だが、メリーちゃんには父性のほうが強く出たようですごくまったりとした時間が流れただけで何も起きなかったので割愛。
良かった。
しかしメリーちゃんは言葉こそあまり発しないが、他の人が言う通り俺に懐いているらしく、俺に服を脱がせてとアピールしてきたし、洗っている間も大人しかったし、今もそこそこの広さを誇るこのお風呂で、メリーちゃんは俺の隣に腰を落としてリラックスしている。
んー…正直な話、なんでこんなに懐かれるのか分からない。
優しく接したから?
吸血を許したから?
マグの容姿だから?
う〜ん……。
…マグといえば……。
教会で引っ込んでから一言も喋ってくれない。
…また自己嫌悪に陥ってんのかなぁ……心配だ。
マグは優しいからなぁ…その分自分を追い詰めるから、しっかりその辺を解決してあげないと……。
ツンツン
「……マーガレット」
「ん……どうしたのメリーちゃん?」
俺が考え事をしてるところにメリーちゃんが俺の脇腹をツンツンしながら話しかけてきた。
やめなさい、そこ弱いんだから。
「……マーガレットは、コースケ?」
「えっ?あぁ…うん、今はね」
「……じゃあマーガレットは?」
「いるよ、今はちょっと…表には出てこないけど……」
「?」
こてん、と首を傾げるメリーちゃん。
かわいいと思いつつも、マグとお話がしたかったのかと思うと少し申し訳ない気持ちになる。
「今日ね、マグの村の人たちと会ったんだよ。その時にちょっと…感情が昂っちゃって……その時から出てこないの」
「……」
俺がぼんやりと虚空を見ながら話すと、メリーちゃんはじーっとこちらを見つめた後、おもむろに手を伸ばし…
「……よしよし」
「!?」
なんて俺の頭を撫でてきた。
「メ、メリーちゃん……?」
「……辛いときは誰かに助けてって言えばいい」
突然撫でられながら言われた言葉に困惑したが、なんとなく察した。
あぁ…なるほど。
俺じゃなくてマグを撫でてるのか。
「……マーガレットにはお兄さんがいるから大丈夫。安心」
「……お兄さん?」
いきなりお兄さんという単語が出てきてまた困惑する俺。
えっと…それって俺だよな?
ハルキとかディッグさんたちとかでは無いよな?
「……コースケはお兄さん、わたしはお姉さん、マーガレットが妹」
メリーちゃんの中ではマグは妹のようだ。
…お風呂に入るのも誰かにやってもらうお姉さんて……ありだな。うん。
「……ダメ?」
「ダメじゃないよむしろ良いよ」
こんなかわいい妹がいるとか超嬉しい。
すっごい大事にする。
「んー…でもそうなると俺は妹と婚約してることになるんだけど」
「……コースケはわたしのお兄さん、マーガレットはわたしの妹。それで2人は夫婦。大丈夫」
「あぁ、なるほど。義兄妹ね」
ふむふむ…それなら俺の方にマグが嫁いで来た感じかな?
俺がマグの方に行ったら俺も弟とかになるんだろうか?
「……だからマーガレットはわたしと違って大丈夫」
「?………!」
その言葉の意味を理解するのに少しかかってしまった。
そうか……メリーちゃんはフルールさんが自分を守るためにいろんな目に遭ってるのを知ってるんだ。
だからメリーちゃんはフルールさんにこれ以上負担をかけないようにしてたのかもしれない。
そして今回、マーガレットが落ち込んでると聞いて、この子は自分が誰にも言えなかったことを思い出して、こうして慰めようとしてくれているのかもしれない。
そして、その気持ちはキチンとマグに届いたようだ。
(……コウスケさん)
(!マグっ!)
(え、えっと…今日も私のお話を聞いてくれますか……?)
(ーーー!もちろん!)
「……良いことあった?」
「うん!メリーちゃんのおかげでマグと話せたよ!ありがとう!」
「……うん」
俺がお礼を言うとメリーちゃんは少し照れ臭そうに頷いた。
「ねぇ、メリーちゃん。俺も頭撫でても良い?」
そんな彼女に少しお礼をしようと、俺はメリーちゃんに一言尋ねた。
「……(こくり)」
メリーちゃんが頷くのを確認すると、俺は彼女の背後からゆっくりと手を上げ、頭を撫でた。
「……♩」
メリーちゃんは嬉しそうに撫でられてくれた。
かわいい。
「…メリーちゃん。メリーちゃんも何かあったら、俺や他の人を頼ってね?」
「……んー」
「ふふふ…そんなに撫でられるの気持ちいいの?」
「……うん」
「ふふ、そっか」
「んー……もう少し」
「うん、良いよ」
しばらくメリーちゃんの頭を撫で、少しのぼせそうになったぐらいで一緒に上がった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ご飯を食べた後、他のみんなに今日のことを話した。
「そう…それは心配ね……」
「はい、でも今夜もマグと話す約束をしたので、その時に元気付けられればと」
「うん、マーガレットちゃんのことお願いね、コウスケ」
「はい!」
メイカさんたちと話した後、日課をこなしてから眠る。
さて…マグとお話タイムだ。
☆ZZZZZZZZZZZZZZZZZZ☆
「というわけで来たよ、マグ」
「こんばんは、コウスケさん。それと、ごめんなさい……」
「別に良いよ。ほら、おいで」
「!…はい!」
夢の中でマグと出会って開幕謝ってきた彼女に笑顔を浮かべ、胡座をかいて自分の足をポンと叩き呼びかける。
マグは少し驚いた後、とても嬉しそうに小走りで近づいてきて俺の上に座った。
そんな彼女を後ろから抱きしめると、マグは抱きしめた俺の手を掴んで引き寄せた。
しばらくそうやって幸せな時間を過ごした。
そして、マグがゆっくりと口を開いた。
「コウスケさん、ショコラと仲直りしてくれてありがとうございます」
「マグの友達なんでしょ?当然だよ」
「はい、ショコラは村で一番仲が良かった子なんです。本を読んでばかりの私を最初に遊びに誘ってくれたのもショコラでした」
そうしてマグは、ショコラちゃんとの思い出を話していく。
一緒にお花畑で遊んだこと。
一緒にパン屋によくおやつをたかりに行ったこと。
ショコラちゃんが村の男子とケンカになって、圧勝したこと。
ショコラちゃんの実家の、農家のお手伝いをしたこと。
「いや、合間合間何やってんの」
「ふふふふふ…すみません。でも、とても楽しかった。知らない事をいっぱい知ることも出来て、すごく充実してたんです」
思わずツッコミを入れてしまったが、マグはとても嬉しそうに語ってくれた。
だが、そんな彼女の表情が少し暗くなってしまった。
「でも、私の縁談の話が決まって、習い事の時間が増えてからは、一緒に遊ぶ時間が減ってしまいました……」
「縁談……」
「はい……前に話した、中級貴族です」
そいつか……。
会ったことは無いが、俺の評価はかなり低くなってしまっているぞ?
「そのことをみんなに話せなくて…それから私は、1人でお花畑で遊ぶことが多くなりました……」
「それってもしかして……?」
「はい…コウスケさんも知ってる、私がいたお花畑です。あそこは私のお気に入りの場所だったんです」
そっか……。
みんなに縁談のことを話せずに、そのせいで溜まったストレスを花畑で遊ぶことによって発散させていたのか……。
そして、そんな日々を過ごしていたら……か……。
…俺はマグと出会えて幸せだ。
マグも俺のことが好きなんだってことはすごく伝わってくる。
でも、もしも…龍が来なかったら…村が滅ぼされなければ……どういう道を辿っていたのだろう……。
俺はそのまま死に、マグは村のみんなとギクシャクしたまま過ごしていたのかな……?
でも…龍が来なければマグの両親が死ぬことはなかった……。
村のみんなが…苦しむことはなかった……。
俺は何も言うことが出来ず、ただマグを抱きしめる手に力を込めた。
マグはそんな俺の手を、自分の手で優しく包み込んでくれた。
2020 12/21
メリーちゃんのコウスケの呼び方を「コウスケ」から「コースケ」に変更しました。
かわいい




