70.モデル衣装とお絵描きマン…すんごいドレス
作業場に着いた俺とユーリさん。
ユーリさんは先に着替えに行き、俺はちょうど2人目を終えたピコットさんに見学の申し出をしに行った。
「ひぇっ!?けけけ見学っスか!?さ、さすがにそれは……!?」
「大丈夫ですっ!どうせ後でモデルになるんですから!前から見るか後ろから見るかの違いですよっ!」
「そ、それはそうっスけどぉ……!」
分かっている!
恥ずかしいのは分かっている!
だが押す!
「私も隣で描きますから!」
「それはボクになんのメリットがっ!?」
「無いですねっ!」
「だよねっ!」
無理だったね!
「まぁ断られるとは思ったのでそれは良いとして……完成した絵を見るのは良いですか?」
「う〜ん…まぁそれはどうせ見せることになるんだし…それなら良いっスよ。そこにあるんで自由に見てどうぞっス」
「ありがとうございます」
そう言ってお昼ご飯を貰いにローズさんのところに向かうピコットさん。
さてさて…転写したという絵はどんな絵かなぁ?
ん…?あれ……?
(ん……?コウスケさん、この絵の感じって……)
(うん…隠密ギルドの洞窟部屋で見たグラビア雑誌と同じだ……)
(ってことは…あの本を作ったのはピコットさん…ということですか?)
(その可能性は高いね……うーん…聞いてみるにしても…あの本を子供に聞かれるってのはどうなんだろう……)
(…ちょっと気まずいかなぁ……?)
(だよねぇ〜……)
ふ〜む…気にはなるが……うーん…俺の感想はどっちかというとネガティブなもんだからなぁ……。
わざわざ聞いてまで言うもんじゃないか。
そこにユーリさんが戻ってきた。
「マーガレット、服の確認するから来てってローズさんが…あっ、それってあの人の絵?」
「はい、自由に見ていいと言われたので見てました」
「へぇ〜…すごいね、本当に絵なのか疑うくらい綺麗!」
「…厳密には絵じゃないかもですね」
「?そうなの?」
描いてるんなら絵で良いんだけど、魔法で写してるだけなら絵では無いかな。
「と、ローズさんが呼んでるんでしたね。いってきます」
「あっうん、いってらっしゃい」
いかんいかん、少し話し込んでしまった。
俺は急ぎローズさんのところに向かう。
「ローズさん、お待たせしました」
「あ、マーガレットちゃん。どうだった?綺麗だったでしょ?」
「えぇ、とても綺麗でした」
「?どこかピンときてない感じね。何か気になることでもあった?」
「あ〜いえ…まぁ…少し?」
ファッション誌なら動きとかなくてもまぁ大丈夫だろうし、俺が気にかかってるのは絵なのか絵じゃないのかという根本的なところだから、ローズさんに言うことじゃない。
「まぁそれは私の考え事なので良いとして、私が着る予定の服はどれでしょうか?」
「あぁ、これよ。ワタシの自信作♡」
「おぉぅ…ものすごいフリルの数……!?」
ローズさんが見せてくれたのは、この前メリーちゃんが気に入っていたゴスロリドレスよりも圧倒的なフリル量を誇る白いドレスだった。
すっごく重そう……。
いやぁ…これは可愛いって感じじゃないかなぁ……。
「…派手すぎませんか……?」
「そう?確かに目立つように作ったけど、そんな引くほどじゃないんじゃない?」
思わずドン引いてしまった俺にローズさんはそう言う。
いやぁ…これは……このモッサリ具合はクリスマスのアイツっぽいなぁ……。
「なんか……モミの木みたいな……」
「モ、モミの木っ!?そ、そんなこと……あー…言われてみればそんな気が……いやいや!と、とにかく1度袖を通してみて!」
「あっはい」
ローズさんに手伝ってもらって、俺はそのモミドレスを着せてもらう。
うん……すごく重い……。
とんでもない布の量だもんな……。
「あの…ローズさん……肩痛いので脱いで良いですか……?」
「……そうしましょう……ワタシもモミの木にしか見えなくなっちゃったし……」
ということで試着30秒ほどでモミドレスを脱いだ俺。
元のパーカーミニスカタイツの休日の学生みたいなスタイルになったところでローズさんの落ち込む声が聞こえた。
「はぁ……何がいけなかったのかしら……」
フリルの量が規格外だからですよ?
と、直球で言うのは少し気が引けたので別の言い方を模索する。
「う〜ん…そもそも、なんであんなにフリルを付けようと思ったんですか?」
「フリルって可愛いじゃない?」
「可愛いですねぇ」
とても女の子らしくて好きだよ俺も。
「それでね?もしかしたらいっぱい付けたらもっと可愛くなるんじゃないかって思っちゃって……」
「あぁ〜……」
探究心の果てってことか……。
「冷静に考えれば、派手すぎて着用者が目立たなくなってしまうってことくらい分かるのに……駄目ねぇ……」
う〜ん…ローズさんがすごく落ち込んでしまった……。
(コウスケさん…なんとか元気付けられませんか……?)
(なんとかって……)
マグにも頼まれたし、俺だって元気付けたいが……。
ふ〜む……この服…可愛いは可愛いんだよなぁ……。
フリルが暴力的なだけで。
んー…ならそれを伝えるか。
自信作って言ってたし、作った服が生きる道を提案してみれば元気が出るかもしれない。
「ローズさん、ちょっと良いですか?」
「…?なぁに…?」
俺はポケットからメモ帳とペンを取り出し、先程のドレスの絵を簡単に描いて見せながら話し始める。
「…このドレスですけど、過度な装飾とそれによる重量オーバーが駄目なだけで、衣装としてはとても可愛いんです」
「うっ…そ、そうね……フリルの量を減らさないとね……」
「なので、次はこんな感じが良いなと…」
「?こんな感じって?」
俺は別のページを開き、そこにドレス型を描いて説明を続ける。
「上はスッキリさせましょう。でも全てを取るんじゃなくて、こうやって…袖の部分は残して…首元はフリル付きのブローチで代用して……」
「ふんふん…確かにこれならスッキリしつつもフリルの可愛さを残すことが出来るもんね……」
ふむ…やっぱり理解してるじゃないか。
さては深夜テンションで作り上げたな?
「ベルトかリボンを腰に着けて部分分けして、その下のスカート部分のフリルは…んー…1段……んーいや、2段抜いてみましょう」
「う〜ん…1段でもいいんじゃない?それでも十分歩きやすさは上がるんじゃない?」
「歩きやすさは確かに1段抜くだけでも十分ですが、2段抜いて軽くすると同時に、足を見せられるようにしようかと……」
「…確かにマーガレットちゃんの足は綺麗だし……可愛さと上品さを兼ね備えたドレスからスラリと伸びる、ドレスと同様真っ白な素足………ありね」
でしょう?
「ふむ…それなら、そのドレスを作った時の型紙をベースに使えるし…布の量が減ってるから作業時間も多少は少ないはず……うん、いける。いけるわよ!」
ローズさんの心に火がついたようだ。
「マーガレットちゃん!その描いた紙、貰えるかしら!?」
「えぇ、どうぞ」
「ありがとう!」
俺は改善案のドレスのページを破り取りローズさんに渡す。
ローズさんはその紙とモミドレスを手に、近くの机に向かい裁縫道具を掻き集めると、椅子に座り俺にこう言った。
「マーガレットちゃん、ピコットちゃんがあなたを呼びにきたら、少し待って欲しいって言ってもらえるかしら?」
「はい、分かりました」
「ありがと、ワタシはこれから本気出すから、悪いけどあまり話しかけないでね?」
「了解です」
言うが早いか、彼女は一心不乱に作業を始めた。
(ローズさん、元気になったみたいですね)
(うん、すごい燃えてるね。邪魔しないようにドアの方で待ってようか)
(はい、そうしましょう)
俺たちは彼女の邪魔にならないように、そして誰か来たらすぐに対応できるようにドアの近くに移動する。
(それにしても、コウスケさんって、絵がお上手なんですね!)
(そう?すごい簡単に描いたから、そんな言うほどじゃないと思うんだけど……)
(いえ!一目でドレスだって分かりましたし、何よりササッと素早く描いたじゃないですか!あれって絵を描き慣れてる人じゃないと出来ないと思うんですよ!)
(あはは、実物は近くにあったし、それをベースに足していっただけだから、やっぱりそこまで言われるもんじゃないよ)
(もー!)
ふふふっ、今マグが頬を膨らませて怒ってる姿が安易に想像できる。
でもそんな凄いことじゃないよ、やっぱり。
シワとか影とか描いてないし、本当に思いついたもんを記入しただけだもん。
さてと、ただ待ってるだけなのも暇だし、さっき買ったアクセサリー類を…いや、ここのやつと混ざると面倒だな。
お店のもんだよ!って言われかねないし。
んー…せっかくだし、久しぶりに落書きでもしようかな。
今はもうなつかしきゲームのキャラクターを描いてみよう。
さーて、真っ先に思いつくのは…うん、あの子だな。
俺は再びメモ帳を開くと、頭にツノっぽいものがついていて、黒ラインの入ったワンピースを着ている女の子を描いた。
(?コウスケさん、お上手だとは思いますけど…なんだかバランスが悪くないですか?)
マグがそう言うのも分かる。
俺が描いたのはいわゆる「デフォルメキャラ」、今回描いたのは2頭身のちびキャラだ。
(まぁ人間としてはバランスがおかしいかもだけど、俺の世界にはこうやって可愛くいじったり、逆にカッコよく進化させたりするような絵の描き方があるんだよ)
(へぇ〜!…なんだか、妖精さんみたいで可愛いですね!)
(妖精かぁ!確かにそういうのもあるね)
そっかぁ、妖精かぁ。
こっちの世界に来て、エルフ、ダークエルフ、いろんな動物の獣人、ドワーフは見たけど、まだ妖精や精霊といった類いの種族とは出会ってないなぁ。
妖精さん…う〜ん、会ってみたいなぁ〜!
(コウスケさん、コウスケさん!私コウスケさんの他の絵も見たいです!)
(えっ!?う〜ん…いいけど…大体こんな感じだよ?)
(良いですよ!是非とも見たいです!)
(んもー、なんだこの可愛い生物は。分かったよ、いろいろ描いていくね)
(わぁい!ありがとうございます!)
可愛いマグの可愛いおねだりにより、俺はしばらく前世のゲームのキャラを中心に、いろんなデフォルメキャラクターを描いていったのだった。
マグは大喜びしてくれたよ。
はぁ…可愛い。
…服のデザインを文章で伝えるの難しいですよね……。
学校の授業とかでやらされそう。




