69.モデル体験…の前におつかい
俺とユーリさんは今、白兎亭に向かっている。
何故かというと、ピコットさん1人で俺とユーリさん、そしてお店のスタッフ3人の合計5人の絵を同時に描けるわけはないので、仕事のあるスタッフから済ませ、休日でケツカッチンなわけではない俺らは後回しになったからだ。
そこにローズさんから、
「お昼ご飯を買ってきて欲しいの。とりあえずこれだけ出すから、どこか美味しそうなお店でここにいる7人分、お願いできるかしら?」
と言われ、俺が反射的に、
「ちょっと遠いですがオススメのお店があります!」
と言ったからである。
ちなみに今ユーリさんは、ローズさんに用意してもらった服を借りている。
さっき悩んでいた5着の内の1着だ。
大きめのワンピースに、胸の下と腰にベルトを巻いて、ジャンパーでクールに決めている。
それでも顔立ちと背格好でどうしても美女ではなく美少女になってしまうのだが。
もちろん貸与品のため、汚したらお買い上げである。
どうせ候補には上がってるんだし、似合ってるしで俺は別に気にしていないのだが、ユーリさんはとても緊張した面持ちでずっと歩いている。
「…ユーリさん、そんなに緊張するぐらいなら待っててもよかったのに…」
「だ、だって…このままマーガレットにお世話になりっぱなしなのは嫌なんだもん……」
昨日マグと話したことがここでも発生した。
気持ちは分かる、俺もマグも痛いほど分かる。
かといって、ユーリさんに頼る事態ってなんだろう……?
「んー…ユーリさんは踊り子さん…なんですよね?」
「ん?うん、そうだよ。これでも村1番の踊りの達人なんだから!」
「おぉ!じゃあ今度踊りを見せてもらっても良いですか?」
「うん、良いよ!」
とりあえずはこんなとこかな?
それにしてもユーリさんの踊りかぁ、どんなんかなぁ?
出身国がお米があるヤマトの国だし、もしかしたら日本舞踊とか?
それかあの衣装だったら……ポールダンス…とか?
いや、それだったら子供に笑顔で見せてあげるとは言わないか。
…言わないよな?
「ねぇねぇ、マーガレットのオススメのお店ってどんなお店なの?」
今度はユーリさんの方から質問が飛んでくる。
白兎亭はどんな店…か……
「そうですね、まず…かわいい」
「え?」
モニカちゃんとそのお姉さんのアリシアさんが。
「次にスープが絶品ですね。お肉も柔らかくてとても食べやすく、パンもふわふわで美味しかったです」
「ふんふん…」
「もちろん持ち帰りが出来るんですが、この前一緒に住んでいる冒険者の方が買ってきてくれたのはハンバーガーでしたね」
「ハンバーガー……」
「これもパンもお肉も柔らかくて、野菜もしんなりしててパクパク食べられるんですが、なんといっても具材にかかってるソースが良い味で…」
「へぇ………」
「紙袋に入ってるんですけど、その紙袋に付いたソースをパンですくって食べるのも、ちょっと行儀は悪いんですがまた良くて…!」
「……じゅるり……」
「まだ食べたことはないんですけど、グラタンやパスタも美味しそうで、デザートも色々あって、何よりお値段が安いのでついつい頼みすぎちゃいそうになるのを我慢しないとで……って、ユーリさん?」
「ふぇ?」
「もう、よだれ出てますよ?」
「えぇ!?ご、ごめん!…うぅ…恥ずかしいぃ……!」
ふふふ、可愛いなぁ。
クゥ〜…
「あ……」
「……ふふ、マーガレットも早く食べたいんじゃない」
「うっ…だって本当に美味しいんですもん……」
話していたらこっちもお腹が空いてしまった……。
うぅ…恥ずかしい……。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「あっ!もしかしてあそこ?」
「はい、あのウサギの看板が白兎亭です」
「わぁ!ホントだ!可愛い看板だねぇ!」
「でしょう?」
だが俺が言ったのは看板娘の方なんだよなぁ。
白兎亭に着いた俺たちは早速店内に入る。
中はお昼時というのもあってとても混んでいた。
「いらっしゃいませぇー!あっ!マーガレットちゃん!」
「こんにちは、アリシアさん。今日は持ち帰りでお願いしたいのですが…」
「アリシアー!3番テーブルのパスタとステーキ、運んでくれぇ!」
「はーい!ごめんね〜、ちょっと待ってて!」
「あっはい、お疲れ様です」
アリシアさんは俺たちにひと言謝ってから、料理を取りにカウンターへ向かって行った。
「うーん…やっぱりこの時間は忙しそうですね……」
「うん…すごい繁盛してるんだね……」
「えぇ…すごく大変そうです……」
バイトさんとかいないのかな?
んー…まぁ良いや。
「ユーリさん、何にするか決めちゃいましょう」
「うん、そうだね。えーっと…メニューは……」
「そこの壁に貼ってありますよ」
「あ、ホントだ。…うわぁ……!どうしよう、さっきのマーガレットの話聞いてたから、どれも食べたくて決められないよぉ!」
「うーんどうしましょう…とりあえずお持ち帰りが出来るところから選ぶとして……あ、駄目ですね。私も決められそうにないです」
無理だねこりゃ。
空腹なところに、そこかしこから美味しそうな匂いが漂ってきてもうお腹がぺっこぺこで全部食べたい。
あぁぁどうしよう……!
美味しいって知ってるハンバーガーにするか、知らない味を求めてまだ食べたことのない物にするか……。
あぁでもハンバーガー食べたことがあるのは俺だけか……じゃあハンバーガー?
んー…それじゃあ…
「マーガレットちゃん…!」
「ん?あっ!モニカちゃん!こんにちは!」
「うん、こんにちは…!」
俺たちが悩んでいるところに、白兎亭のいとかわゆき者、モニカちゃんが声をかけてきた。
はぁ…相も変わらずかわいいのぉ……。
今日もお耳がピコピコ動いているね。
かわいいね。
「えっと…そっちの人は…?」
「ん、こちらはユーリさん。昨日知り合ってお友達になったの」
「ユーリだよ、よろしくね…えーっと…」
「あっ、えっと…モニカ…です…よろしくお願いします…」
この子も引っ込み思案だって言ってたからねぇ。
でもユーリさんとなら仲良くなれると思うよ。
優しいし、気遣いが出来るし。
んー…モニカちゃん来たってことは……
「モニカちゃんはもしかして注文を取りに来たの?」
「うん、決まった…?」
「すごく悩んでる。ユーリさんは?」
「私には決められないよぉ……。お願いマーガレット!」
「はーい、それじゃあ……この「ヘルシーハンバーガー」を7つくださいな」
「ヘルシーハンバーガーを7つ、ですね。かしこまりました…!」
そう言ってテコテコと厨房に向かうモニカちゃん。
「かわいいねぇ」
「かわいいでしょう?」
「マーガレットが言ってたのってモニカちゃんのことなんだね」
「看板も可愛いんですけどね。モニカちゃんがかわいすぎるだけで」
「あはは、なんだか友達っていうよりお姉ちゃんみたいな言い方だね」
「ありゃ?確かに……。うーん、それも魅力的だけど、私は友達でいたいかなぁ……」
大体モニカちゃんにはアリシアさんというお姉さんがもういるんだから、俺はやはりお友達が良い。
まぁお姉さんでも良いっちゃ良いけどね。
「そういえば、なんでヘルシーハンバーガーにしたの?」
「今回食べるのが全員女性ですし、体力を使う仕事とはいえ、外に出て走り回るわけじゃありませんから、カロリーが少ない物を、それでいて満足感のある物をと思ってこれにしました」
「おぉ〜!すごいね、そこまで考えたんだ!」
「いえ、これくらいならそんなに……それに女性だからってヘルシーな物をって偏見が嫌いな人もいますし……」
「そ、そこまで考えてるんだ……」
いやぁこれくらいなら考えるでしょう。
しかしこれも食べたことないからなぁ……。
いやまぁ白兎亭の料理だから美味しいに決まってるんだけどさ。
やっぱり食べたことのある物にすれば良かったか……?
うーん……まぁ、どのみちもう遅いし、怒られたらそんときゃそん時だ。
「それじゃあそこの椅子で待たせてもらいましょうか」
「うん。……うぅ…でも、本当に美味しそうな料理ばかりだね……」
「……これはかなりキツいですね……」
うぅ……店中から漂う暴力的なほどの美味しそうな料理の香りが、俺の腹を刺激する……!
この中で待つのは辛いよぉ……早く来てモニカちゃ〜ん……!
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「お待たせしました〜!」
「「待ってました〜!」」
ようやっと、よ〜うやっとお昼ご飯が来たぁぁ!!
もうお腹ぺっこぺこだよ!
早く頂戴モニカちゃん!
モニカちゃんからハンバーガーの入ったバスケットをユーリさんが受け取り、俺がお金を渡す。
「はいこれ、お代ね」
「うん!…えーっと…ハンバーガー7個で貰ったお金がこれだから……」
「350×7だから…700、700、700、350で2450ゴル。渡したのが3千ゴルだから550ゴルのお釣りかな」
「わぁ!すごい…!計算早いんだね…!」
大人だからね、とは言えない。
「考える時間あったからね。それじゃあまたね、モニカちゃん!」
「うん!またね!」
「私も今度は違う物食べに来るね!」
「はい!待ってます!」
そうして白兎亭を後にした俺たち。
「はぁ〜…モニカちゃん可愛かったなぁ……」
「ふふふ…ユーリさんもモニカちゃんのかわいさの虜なったようですね」
「うん!だってなんだかすごく守ってあげたくなるというか……あれじゃあマーガレットがお姉ちゃんっぽくなるのも仕方ないかも」
「んふふふふ…分かります?守りたい、あの笑顔」
そんなこんな話しながらも俺たちは無意識のうちに早足でローズさんの店に戻って行く。
だってお腹が空いたんだもん。
最終的に、マジックバッグの中なら揺れても大丈夫ということで、お弁当をバッグに入れ全力疾走で帰ってきた俺たち。
「た…ただいま戻りましたぁ……」
「ふぅ…同じく戻りました」
「おかえり2人とも。…なんでマーガレットちゃんは息が上がってるの?」
「はぁ…はぁ…は、走ってきたので……ひぃ…」
「そ、そんなに急がなくても良かったのに……ほら、お水持ってくるわね」
「あ、ありがとうございます……はぁ…」
ローズさんに心配されました。
そりゃそうだ。
「はひぃ…ユーリさん…なんで息あがって無いんですか……?」
「そりゃあ私はヤマトから歩いてきたんだもの。体力には自信があるよ?」
「あ、歩きで来てたんですか……?」
だから川とか言ってたのか……!
そりゃ体力あるわ……!
「はい、マーガレットちゃん。お水よ、飲める?」
「はい…ありがとうございます、ローズさん……ん…ごく…ごく……ぷはぁー!」
「んまっ!マーガレットちゃんったら豪快ね!おかわりいる?」
「ふぅ〜…いえ、大丈夫です…ありがとうございます…」
ローズさんに水をもらい、少し息が整ってきた。
はぁ〜…疲れた……!
毎朝運動してるから俺の体よりは体力あるけど、さすがにギルド超えたあたりからずっとはキツいな……!
と、お昼ご飯出さないと…
「ローズさん…こちらお昼ご飯です…」
「ありがとマーガレットちゃん。まぁ!すごく美味しそうねぇ!どこのお店?」
「東門側の大通りにある白兎亭ってお店です…」
「東門側!?そこまで行ったの!?まぁ〜それは大変だったわねぇ」
「いえいえ、私の友達の家でもあるので、むしろ遅くなってすいません」
「良いのよぉ!まだ2人目だからね。それが終わったら届けるわ。2人は先に食べててちょうだい」
「2人目?思ったより早いんですね」
ローズさんに預けたバスケットからハンバーガーを2つ取り出しながら問う。
アタリ描いて、詰めていって、って結構時間かかるのに。
「すごいのよ?「転写」っていう目の前の光景を紙に写す魔法で、少し時間はかかるけどとても綺麗に描かれるのよ」
「なん…だと……!?」
(コウスケさん?)
「マーガレット?」
写す…だけ…だと…!?
それはもはや…写真ではないか……!
「…ローズさん、ピコットさんの作業現場、見学しても良いでしょうか?」
「それは本人に聞かないと……とりあえずお昼ご飯を食べてから聞いてみたら?そっちに休憩室があるから」
「そうします。ユーリさん、行きましょう」
「え?う、うん」
俺たちは昼食を持って店のバックヤード…作業しているところとは違う場所である休憩室に向かう。
「マーガレット…どうしたの?転写の魔法がどうかしたの?」
「ふっ…ちょっと思うところがあるだけですよ……」
「(?)」
2人にはまだ分からんだろう……。
絵描きだと思っていたら、魔法版の写真だったなんて……。
その魔法は素直にすごいと思う。
だが…やるせないこの気持ち。
なんだかモヤモヤするこの気持ち。
ピコットさんと前世の彼らを同じイラストレーターの枠に入れたくないというこの気持ち。
…まぁ…今はご飯を食べよう。
そして作業を見学させてもらおう。
とやかく言うのはそれからだ。
休憩室に着き、ユーリさんと向かい合って椅子に座り、机の上にハンバーガーを置く。
クゥ〜…
あぁ…すごい……いざ食べようと思ったら、急激にお腹が空いた……。
「マ、マーガレット…一緒に開けよ?」
「そうしましょう…いきますよ?」
「うん…」
「「3…2…1…0!わぁっ!!」」
ユーリさんとタイミングを合わせて包み紙を開けると、中にはボリュームのあるハンバーガーがっ!
お、美味しそうっ!!
「マ、マーガレットちゃん!食べよっ!早く食べよっ!」
「はい食べましょうそうしましょう。では…」
俺とユーリさんはそれぞれ手を合わせて…
「「いただきますっ!」」
と言った次の瞬間にはハンバーガーに食らいついていた。
もっきゅもっきゅ……ごくん。
「「美味しいぃ〜!」」
「パンはふわふわ、野菜はシャキシャキ!お肉は普通のお肉とは違う気がするけどすごく美味しい!これで350ゴルなんだっ!もっと高くても私は買うよっ!?」
「うん!やっぱり白兎亭にハズレは無いですね!多分このお肉は何か混ざってる…豆腐とかかな?」
「ん!なるほどっ!もぐもぐ…ふぁふぃくぁに、ふぉとうふにゃら…もぐもぐ…」
「ユーリさん、食べながら喋らない」
「もぐもぐ…ごくっ…ふぅ…ごめ〜ん。でもすごく美味しいんだもん!」
「気持ちは分かりますけどねぇ。あーむっ…もぐもぐ…」
う〜ん…美味い……!
白兎亭……美味い飯にお安いお値段。
そしてかわいいお友達…はぁ…最高かよ……!
そのままボリュームのあるハンバーガーをぺろっと平らげ、ほぅっと一息つく。
「美味しかったぁ……」
「ですねぇ……」
「私まだ食べられるよ……」
「やりますねぇ……私はもうお腹いっぱいですよ……」
「ボリュームあったもんねぇ……」
「はい…でもぺろっといけちゃいましたねぇ……」
「だねぇ……ふぅ…それじゃあ落ち着いてきたし…」
ユーリさんとのんびり感想を言い合う。
はぁ〜…すごい満足感……。
俺とユーリさんは椅子の背もたれから体を起こすと、また両手を合わせて、
「「ごちそうさまでした!」」
と、言葉を合わせるのだった。
「もう少し休んだら行ってみましょうか〜…」
「そうしよっか〜…。あ、そういえばマーガレット〜」
「なんですか〜?」
「私の国の挨拶なのに、よく知ってたね」
「あーーー………」
やーっちゃったぜぇ〜〜。
どう誤魔化そう。
異世界って言うわけにゃいかんからぁ……。
「私、いろんな本を読むのが大好きなので、どこかで見たんだと思います」
「そっかぁ〜」
はい、オッケー。
そうしてしばしのんびりした後、俺たちは作業場に向かった。
値段設定…350でモ○ぐらいかそれ以上を想定したので、こんなもんかな?って思ったけど……。
正直あんまり行かないから分からん……。
家の近くに無いんだもの……。




