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7.悪夢…そして矛盾と困惑

今回は暗いお話になっています。

苦手な方のために、このお話の後書きに簡単なまとめを、次のお話の前書きに簡単なあらすじを書きますので、そちらを読んでくだされば大事な部分は分かる(はずです)ので、どうぞよろしくお願いします。

チェルシーちゃんに眠らされた俺。

ぼーっとする意識の中、俺は見覚えのない光景を見ている。


これは……村…か……?

でもなんで……?


ぼんやりと考えてつつ周りを見渡すと、近くに見覚えのある人影を見つけた。


鮮やかな黄色い髪の毛、整った顔立ち


着ている服は違うが、間違いない。あれは眠らされる前に姿見で見た女の子…すなわちマーガレットだ。


俺が知っているのは白のワンピースだったが、今見ているマーガレットは普通のシャツに半ズボンととても動きやすそうな格好をしている。


そんなマーガレットちゃんは花畑にいた。

無論、近くにいる俺も花畑にいることになる。


花畑と美少女……。

とても絵になる。実際描こうと思うと色々と現実を思い知るので難しいが、出来ることなら絵にして取っておきたい。


いや待て俺。んな呑気に見守っとる場合じゃ無いぞ俺。


だって、マーガレットって俺だよな?さっき自分の目で確かに姿見に映った自分の姿を確認したんだから間違いないはずだ。


じゃあなんでそこに自分がいるんだ?

双子か?双子なのか?


だってあまりにも今の俺の姿と似てるから……っておや?おやおや?


俺…よく見たら今男じゃん。前世の大学生の姿じゃん。お気に入りの前開きジッパータイプのフード付きパーカー着てるもの。


いやなんで?


俺が困惑していると、花畑で楽しげに遊んでいた少女が、何かを感じ取ったのか弾かれたように村のある方角を見た。


何ごとかと俺も振り向く。


「………は?」




そこには、先ほどまであったのどかな村が燃えている光景が広がっていた。




「な…え?……っ!」


うろたえて動くことができない俺の隣を少女がかけ抜けて行く。


「ま、待って…!」


慌てて俺も後を追う。


少女は村の入り口あたりで足を止め、空を見上げた。

日頃通学と買い物ぐらいしか外に出ず、運動不足気味な俺もタッパの差でどうにか追いつき、息を整えながら同じ方向を見る。


「なっ!」


そこにはこの村の惨状を引き起こした元凶がいた。


長い尾、強靭な4つの脚、巨大な緑色の体躯にこれまた巨大な翼、丸太よりも太い2本の腕に鋭い爪、大きな口とその端から漏れ出る炎、威圧感凄まじい目つき、剛健な角……。


ドラゴンだ。ファンタジーの代名詞たる伝説の存在が今、俺たちの前にいた。


「はぁ…はぁ…」


息が苦しい……。

汗が止まらない……。


逃げなきゃいけない。

さっき言った通り、コイツがこの村を燃やした元凶だ。


今なおここからでは見えない位置に向かって火を吐いていることからも、ここがとてつもなく危険な位置だと分かる。

…そこから聞こえていた悲鳴が聞こえなくなったことで誰かが燃やされたのだと悟る。


だから急いでこの場を離れねば行けない。


なのに。

そうだというのに。


俺の足は動かない。

動かそうしているのに動こうとしない。


だめだだめだおちつけおちつけ…だいじょうぶ…大丈夫……。


まずはやつから隠れる…じゃないとあの巨大な発する威圧感にまた呑まれてしまう……。


いや待て、さっきの少女は!?

あの子はどうした!?


俺は隣にいるはずの少女の方を向く。

少女はそこにいた。それはいい。だが、腰が抜けてしまっている!このままじゃやばい!


「こっちだ!!」


俺は少女の手を掴み建物の陰に連れて行こうとした。


「!」


しかし俺の手は彼女の手を掴めなかった。

掴もうと腕を、俺の手は文字通り通り抜けてしまったのだ。


「なんで…!?」


どうする…このままじゃ危ないのに俺じゃこの子に触れることができない……。

くそっ…!どうする…どうする…どうする…どうする…!


焦る思考をどうにか抑え込みたいのに、俺の頭の中はもう「どうする」「どうしよう」「やばい」「くそっ」「おちつけ」「だいじょうぶだ」などとどうにもならない言葉ばかりが駆け巡る。


その間にもヤツは地面に降り立ち、次の獲物を探している。


何かないかと辺りを見渡した俺は、他の物に触れることはできないか試してみる。


だが駄目だった。その辺の残骸に触れない。廃墟となった家に触れられない。近くに転がっていた人型の炭にも触れることができない。燃え盛る炎に手をかざしても焼けることがない。


それなのに、木の燃える臭いが、血の臭いが、肉の焼ける臭いが、吐き気を催すそれらの臭いが、俺の脳に直接叩き込まれているような感覚がする。


「あぁ……あぁぁ………!」


何もできないのに。

何かに触れることさえできないのに。

俺の五感は律儀に働き続けている。


何もできず、ただ見てることしかできない絶望感に膝を突きたくなる。

容赦なく脳に叩き込まれる死の概念に狂いそうになる。


それでも、駄目だ。

狂ってはいけない。


そうなったら本当にどうしようもなくなってしまうから。


「っ!お父さん!お母さん!」


俺がどうにか自我を保とうとしている横で少女が叫んだ。


ウソだ……。これ以上はだめだって……。

もうやめてくれ………。

そう願いながらドラゴンを見る。


その願いは無情にも叶わなかった。


まずドラゴンに果敢にも剣で攻撃を仕掛けた男性を見つけた。時間稼ぎのつもりだったのだろう。

彼は次の瞬間踏み潰されてしまった。


それがこの子のお父さんのようだった。


次に魔法なのか、土で出来た人一人分の大きさの針を大量に作り、ドラゴンの顔に向かって放った女性がいた。目を潰して被害を抑えようとしたのだろう。

彼女の魔法を受けたドラゴンに傷はなく、彼女はドラゴンの手に捕まり、口の中に放り込まれてしまった。


それがこの子のお母さんのようだった。


「「………………」」


言葉が出なかった。

ほんの一瞬でこの少女の家族は命を落とした。この子の目の前で。


刃向かうものを消したドラゴンは、生き残りがいないか探すようにゆっくりと首を回し村を見渡す。

俺たちのいる場所の反対側を見渡す。


そして、特に何もなかったのか、今度はこちら側を見ようとゆっくりと首をこちらに向けて……




「…ちゃんっ!マーガレットちゃんっ!」

「っ!…はぁ…はぁ…はぁ…はぁ……」


気がつくとメイカさんの心配そうな顔が目に入ってきた。


いや、メイカさんだけじゃない。

ケランさんも、リンゼさんも、ハルキさんも、チェルシーちゃんも、報告に行っていたはずのディッグさんとモーリッツさん、そして知らないおじさんも俺のことを心配そうな顔で見ていた。


はぁ…はぁ…息が苦しい……。

汗が止まらない………。

涙が拭っても拭っても溢れてくる……。


「マーガレットちゃん、大丈夫っ!?」


そんな俺にメイカさんが話しかけてくる。


「はぁ…はぁ……メイカさん……?」

「そうよ、メイカよ。マーガレットちゃん、大丈夫?水飲む?」

「…はぁ…はい……いただきます…」


力が入らない体をどうにか起こし、メイカさんからコップを受け取り水を一気に飲み干す。


「ふぅ……ありがとうございます…」


おかげで少し落ち着いた。

落ち着いたことで自分が先ほどとは違う部屋にいることに気がついた。

俺はその部屋のベッドに上に運び込まれていたようだ。


「これぐらい全然よ。…それよりも何があったの?」


メイカさんの問いにチェルシーちゃんがビクッと震える。

そんな彼女をハルキさんが肩に手を回し抱き寄せ落ち着かせている。


一方俺はなんと答えたものか少し考え、変にごまかさず、自分の見た光景をそのまま話すことにした。


「…夢を見ました……」

「夢?」

「緑色のドラゴンに村を焼かれた夢でした……」

「ーーーっ!!」

「翡翠龍か……」


誰かが息を呑んだ。

知らない男性がそう呟いた。


「最初は花畑にいて…楽しそうに遊んでて…でもその後村が焼けてるのが見えて…村の入り口に着いたあたりでそいつが見えて…そいつは村を壊してて……」


思い出すだけでも寒気がする。

それでも、震えそうになる体を抑えつけ話し続ける。


「家が燃えてて…人の形をした炭が転がってて…血が至る所にこびりついてて…」

「いいよ…マーガレットちゃん…」

「その全部の臭いが…ぐちゃぐちゃに混ざった臭いが今も離れなくて…遠くから聞こえる悲鳴が…アイツの炎で消えたはずの誰かの悲鳴が今も耳に残ってて…」

「もういい!もう大丈夫だからっ!!」


メイカさんが俺を抱きしめてくれる。

チェルシーちゃんが顔を背けた。

俺の頬を一度は落ち着いたはずの涙が伝っていく。


だけど止まれない。

目に焼きついた光景を口に出すことを止められない。


「それでみんなを逃がそうとそいつに向かって行った人がいて…男の人が剣で脚を斬りつけて…女の人が顔に魔法を打って…でも全然効いてなくて…」


「死んじゃった」


あまりにもあっさり言った俺の言葉にディッグさんが体を強張らせた。

ケランさんが顔を覆い俯いた。

抱きしめているメイカさんの腕の力が強まった。


「男の人は脚で踏み潰されて…女の人はアイツに食べられて……」


モーリッツさんの顔が恐怖に染まっている。

知らない男性が険しい顔をしている。


それでも俺は、()()()()光景を話し続ける。

涙はもう出てこなかった。


「その人たちはこの子の両親だったみたいで…俺もその子も呆然とそれを見るしか出来なくて…」

「…?マーガレットちゃん……?」


メイカさんが異変に気付く。

他のみんなもどういう事かと俺を見る。


ただ一人、ハルキさんだけは俺を、というより自分の手元を見ているように見えた。


「それでアイツが村を見渡して…俺たちの方を向こうとしたところで目が覚めました……」

「……そう」


ハルキさんが一言発した。

その言葉はどこか納得したようなニュアンスを感じた。


「…マーガレットちゃん……本当に大丈夫…?何か変よ……?」


メイカさんが聞いてくる。

当然だ。俺の話した内容は当事者のそれでは無く、()()()()()()なのだから。


だが俺はどうしてもアレが自分の身に起こったことだということを実感できない。


隣に今の自分の姿をした少女がずっと居たから。

さらには、俺があの村で過ごした記憶が無いから。

極め付けはヤツに殺された両親の顔を全く覚えていないから。


まるで自分が自分では無い感覚がして、俺はまた呼吸が浅くなっていくのを感じた。


「…マーガレットちゃん」


そこにハルキさんが話しかけてくる。

…何かを確信した目をしている。




「君は…日本という国を知っているかい?」




そして彼は、俺にそう問いかけた。

今回のお話のまとめ


前回、チェルシーに眠らされたコウスケ。

彼が目覚めると、何故か事故を起こしたときの姿になっており、そんな彼の近くには花畑で遊ぶマーガレットの姿があった。


彼女の可憐な姿と花畑の合わせ技に思わず笑みが溢れるコウスケだったが、あれ?マーガレットって俺のはずじゃ…?と困惑してしまう。


しかし次の瞬間、夢の中のその少女の視線を追ったコウスケが見たのは知らない村が燃えている光景だった。


村に駆け出す少女を追うコウスケ。


村の入り口に着いた彼が見たものは、今まさに村を襲っている緑色の龍の姿だった。


彼はその場から逃げようと少女の手をつかもうとするがすり抜けてしまう。


それどころか建物や炎にすら触れず、何も出来ないと絶望するコウスケ。


そうしているうちにも村は燃やされ、ついには少女の両親も殺されてしまう。


そして龍の瞳がこちらを捉えようとしたところで…夢から覚めた。


何があったのかと聞いてくるメイカ達に、コウスケは夢の内容をポツポツと話し始めるが、途中からコウスケの見た話になってしまい、メイカ達は困惑する。


その中、一人冷静に話を聞き、自分の手元を見ていたハルキはコウスケに


「君は…日本という国を知ってるかい?」


と聞いたのだった。




まとめた方ですが、それでも長くなってしまいました。


要点は抑えられているはずなので許してつかーさい!

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[一言] まずは謝罪だろうに、ハルキとチェルシーはギルティ
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