67.洋服探し…ユーリさんの生活事情
ハルキがモーリッツさんに頼んだ食糧品、それは迷宮都市のあるワァズ王国から東にある国、《ヤマト》の特産品(多分)、お米だった。
ていうかヤマトて。
ガッツリ日本文化圏じゃないか?
でもユーリさんの持ってる偃月刀は中国の武器だよなぁ……。
薙刀…では無いんだよなぁ……。
あれめっちゃ分厚いもん。
細身じゃ無いもん。
とにかく、モーリッツさんはそんなハルキの依頼でヤマトへ米を…いや、より正確には他の食材や調味料も手に入れてきて欲しいと言っていたようだ。
モーリッツさんは先に迷宮都市に入って開店の準備をしていた部下をヤマトまで行かせ、自分と残ったこの店員さんとで、この店を守るためにハルキから回される他の仕事やちょっとした商売をする、という計画を立てたのだと教えてくれた。
ヤマトまでは普通の馬車で片道ひと月ほど。
ハルキの好意で借してくれた馬車らしいので、普通の馬車では無いらしいのだが……まさか車とか出してないよな……?
ま、とにかく普通の馬車よりは速いらしいので、それまで耐えられるかはモーリッツさんたちの腕にかかっているとのことだ。
責任重大だな。
モーリッツさんも、遠征組も。
そうして、話を終えてモーリッツさんの店を後にした俺たちは、次にローズさんの洋服屋に向かっている。
「そういえば、ユーリさんの普段着ってどんなのなんですか?」
「あー…いや…実はね…?これしか無いの……」
「(え?)」
「私…この服しか持ってないんだよね……」
(えええぇぇぇぇ!!!??)
うん驚くよな、分かるよマグ。
だがこれは聞いておきたい。
「え、えっと…いつから……?」
「……ここに来る途中に魔物に襲われて、その時に他の荷物と一緒に川に落としてからずっと……」
「(…………)」
いつからだよ。
いやまぁ、だいぶ経ってるのは分かったけど。
…でも、昨日今日と抱きつかれたとき、そんな臭いはしなかったんだけどなぁ……。
むしろいい匂いがしたんだけど、これはユーリさんが凄いのか、俺の鼻が煩悩に塗れた結果なのか。
「そ、それならユーリさんも、良い機会ですし新しい服を買いましょう?」
「……私、お金が3日分の食料と宿代しか無いの……」
「(…………)」
あかん。
この子かなり窮地に立ってる。
「……その宿や食事ってもしかして……」
「……最低限……」
「(…………)」
あかんわこの子。
予想通りではあるけど、当たって欲しくなかったわ。
ちゃんと食べないと力出ないし、あんまり安い宿屋泊まると、最悪襲われたりしないかすごく心配。
(コ、コウスケさん……ユーリさんこのままだと絶対良くないですよ……)
(うん、ヤバい。…う〜ん……事情を話して、ウチに住んでもらうか……?)
(ユーリさんなら大歓迎ですけど……私たちの事……どうしますか……?)
…まぁ、それだよな……。
(……教えた方がこっちは動きやすいし、他の人も話しやすいと思うけど……ユーリさんが受け入れてくれるかどうか……)
(うーん……確かに、ずっと抱きついてたのがコウスケさん…男性の方だと知ったら拗れるかも……)
(とはいえこの子をこのままにするのは不安すぎるし……)
(……いっそ教えずに暮らします?)
(……どっかで限界が来るのは仕方ないとしても、その時俺たちのことを知ったユーリさんと友達でいられるかどうか……)
((…う〜〜ん……))
友達の安全のためには一緒に暮らしてもらった方がいい。
でもユーリさんの心に衝撃を与えないようにするにはこのまま宿暮らしの方が……
…駄目だ、答えが出ない……。
(…とりあえずどうにか服を買ってあげよう……)
(…そうですね…せめて露出の少ない服を着せてあげましょう……)
今の踊り子の服は……えっちすぎる。
それでいてお金に困っている…なんて知れたら、もうそういう人になってしまう。
(とりあえず服…んで、お金を稼ぎに行こう…)
(ふむふむ…では迷宮に行くってことですか?)
(うーん…迷宮に行くのは良いんだけど…そうなると俺が後でメイカさんたちになんて言われるか……)
(あぁ〜…迷宮に入るなんて危ない〜って言われますね……)
(そうなるとユーリさん1人は危ないから誰かについてもらいたいけど……)
(…それはそれでまた危ないかも……)
…そうなんだよなぁ……。
どっか良いバイトでもあれば……
「あ、マーガレットの言ってた洋服屋さんってあれ?」
「えっ?あぁ、そうですそうです。あのお店です」
ユーリさんの質問で表に意識を戻した俺は、彼女の問いに肯定する。
もうここまで来たのか……。
考え事が長かったか……?
とにかく、まずはユーリさんの洋服を買う。絶対買う。
じゃないと危ない。
そのついでに俺の買い物も済ませよう。
んで、ローズさんにどっかで日雇いのアルバイトとか募集してないか聞いてみよう。
そう考えながら、俺たちは店に入る。
店内には何人かのお客さんがいた。
「いらっしゃいませ〜!本日はどのような服をお探しですか〜?」
女性の店員さんが対応してくれる。
それに俺が答える。
「今日はこっちのキツネさんの普段着を買いに来ました」
「えっ!?」
「かしこまりました〜!ふ〜む…うん、こちらにどうぞ!」
「え?えっ?」
驚くユーリさんを置いて店員さんについて行く俺。
慌ててユーリさんが追ってきて、俺に小声で聞いてきた。
「ちょ、ちょっとマーガレット…私お金無いって…」
「私が払いますよ?」
「えぇ!そんなの悪いよぉ……!」
「いえ、これは私のわがままというか…ユーリさんに露出の少ない服を着て欲しいというか……」
「うっ…」
「その服でお金が無いなんて知れたら、絶対その手の人が寄ってきますよ…?」
「うぅ……」
「寄ってくるだけならまだしも、下手したら強硬手段に出てくるような輩もいるんですよ?昨日実感したでしょ?」
「うぅぅ〜………!」
「なので買います。これは決定事項です」
「あうぅ〜……分かったよぉ……でも安いのにしてね…私の心が持たないから……」
「あぁ、まぁ…気持ちは分かりますが……」
それはちょっと約束できない。
絶対可愛い服買ってやる。
(とりあえずユーリさんが美人なのは変えられないから、露出だけでも減らす!)
(そうですね!この際目立つことは諦めて、露出だけでも減らしましょう!)
マグとそう決めたところで、店員さんに聞いてみる。
「あの…」
「はい、なんでしょう?」
「今日はローズさんはいらっしゃらないんですか?」
「ローズさんなら奥にいますよ、お知り合いですか?」
「一応知り合いです」
「ふむ…お名前を伺ってもよろしいですか?」
「はい、マーガレットです」
「なるほど、マーガレットさん……マーガレット……?…あっ!もしかして一昨日来た!?」
「えっ、あっはい行きました」
「そっかそっか!ローズさんが凄くしっかりした子だったって言ってたよ〜」
「へぇ、それはなんだか照れますね」
ふむ…とりあえずローズさんと知り合いだということは伝わったな。
それにしても一気にフランクになったな。
この人自身もローズさんと仲が良いんだろう。
「そうそうそれで……あっ!こほん…失礼しましたお客様。よろしければローズを呼んで参りましょうか?」
「はい、忙しく無いようでしたらお願いします」
「かしこまりました。ではこちらで服をご覧になられながらお待ち下さい」
急にスイッチ入ったなぁ。
いやぁ、プロだねぇ。
さてと、それじゃあ服を見ていこうかな。
「ユーリさんに合いそうな服だと……」
「マ、マーガレット…この辺の服5千とか1万とか書いてあるんだけど……?」
「んー…まぁ専門店ですし…」
「ひぇ〜……私の所持金より高いよ……!」
「そういうこと外であんまり言っちゃダメですよ?」
萎縮しているユーリさんの相手をそこそこに、俺はユーリさんに似合う服を考える。
(んー…ユーリさんは銀髪だから…白系はやめとくか……?いや、褐色肌が映えるから白でも良いのか……)
(え、えっと…ユーリさんは…その……お、お胸が大きいので、サイズの合う服を探すところからじゃないですか…?)
(ハッ!?そうじゃん!?くそっ!体に合わせると胸がつっかえるし、胸に合わせると袖とかダボダボになるし太って見えてしまいやすいっ!!これじゃあ合う服選ぶなんて難しいぞっ!!?)
(そ、そうなんですね……よく知ってますね……)
(よく悩ませられたからな……)
(よ、よく悩ませられたっ!?)
(あぁ…この体型でこの服は厳しいとか、逆にこれはダサすぎるんじゃないかとか、いやむしろそれが良いとか…)
(ふ、ふ〜ん…そうなんですね〜……大変なんですね〜……)
(うむ…一枚描くのにかなり悩んだこともある……。難しい問題だ……)
(か、描く…?)
(えっ?あぁうん、イラスト描くとき悩んだなって…)
(そ、そうですか!イラスト…うん…!それは大変でしたね!)
…なんでそんな嬉しそうに……?
あ、まさか俺が前世で女の人相手に服を選んでたと思ったのか?
前に言ったはずだぞ?
俺は年齢=恋人いない歴だと。
「お待たせマーガレットちゅわ〜んっ♡」
「?…ひぃっ!?」
俺がマグに苦言を呈するか悩んでいると、聞き覚えのある声とユーリさんの怯える声が聞こえた。
あ、ローズさんのことユーリさんに言い忘れてた。
やっちまった。
「うふふふ、2日ぶりねマーガレットちゅわん♡また来てくれて嬉しいわん♡」
「はい、2日ぶりですローズさん。今日はこっちの子の普段着と私の髪留めを探しに来ました」
「ふんふん、それで?なんでその子は怯えているのかしらん?」
「ちょっといろいろキャパオーバーなんでしょうね。大丈夫です、じきに戻ります」
やっぱりインパクトが強いからね、仕方ないね。
「………………ハッ!?」
「あ、戻った。大丈夫ですか?ユーリさん」
「う、うん…なんとか……」
「ユーリさん、こちらの方はローズさん。このお店の店員さんで、以前お世話になったときに知り合いました」
「ローズよん、よろしくねユーリちゃん♡」
「はははい!よよろしくおねがいましゅ!!」
あらららら……。
フォロー入れとくか。
「すみませんローズさん、ちょっと人見知りなところがありますけど良い人なんです」
「うふふふ、大丈夫よ♩それじゃあ早速、貴女のサイズ、計らせてもらうわね?」
「えっ?いや、えっと…」
「ローズさんは見た目通りの漢女な方ですから、セクハラとかは心配しなくて大丈夫ですよ」
「そうよ〜。それにワタシ、女の子よりも男の子の方が好きだから!安心して♡」
「そういうことじゃ…あれ?でもそれなら安心…なのかな……?うん……?」
わぁとても混乱してる。
「それじゃ、ユーリちゃん借りてくわね。髪留めなら向こうに置いてあるから、好きに見ててね♡」
「ありがとうございます、ローズさん!」
さぁて、それじゃあ髪留めを探そう!
うーん…出来れば2つ確保してツインテールにしたいなぁ……。
でもポニテもサイドも可愛いよなぁ……。
う〜ん悩ましいなぁ……!
未だ混乱中のユーリさんのことをローズさんに任せ、俺はマグに似合う髪留めを探しにアクセサリーコーナーに向かうのだった。




