59.脱力状態…身分証発行
「…すみませんユーリさん…背負ってもらっちゃって……」
「大丈夫だよ、マーガレット軽いし。それにマーガレットも色々あって大変だったんでしょ?」
「えっと……」
「良いからいいから!私がしたくてしてるんだから、マーガレットは気にしないで!」
「…ありがとうございます……」
「うん!」
あの後、近くに潜んでいたらしいココさんが隠密ギルドの人を連れて駆けつけた。
俺が泣き止んで落ち着いた絶妙なタイミングで現れたので、ココさんがそうなるように調整してくれたのかもしれない。
そのあと、何があったのか…とかは聞かれなかった。
ただただ心配された。
無事落ち着いた後なので問題無かったが、心配だけならまだしも、笑わせようと変顔をしたりジョークを言いまくったりしてきたのは危なかった。
もしまだ泣いてる途中だったら鬱陶しく感じていたかもしれない。
落ち着いて見れたので吹き出してしまったが。
そんなこんなで、あの男たちを連れて行くのを見届けた後、今日の疲れとMP不足により歩くのが困難になってしまった俺をユーリさんが背に乗せ、俺たちは冒険者ギルドに向かっている。
周りの通行人たちが、踊り子衣装の爆乳美少女キツネに背負われたギルド職員の制服を着た少女、というまぁ見ることは無い組み合わせを見てくる。
めちゃくちゃ見てくる。
さっき散々泣いて、慰めてくれたユーリさんに背負われているというだけでも気恥ずかしいのに、そこに周囲の物珍しそうな視線が刺さるともう無理。
恥ずか死にそう。
俺はユーリさんの背中にギュッと体を寄せ、顔を伏せて周囲を見ないようにする。
あー…恥ずかしい……。
かといって、今降りるってのはそれはそれで恥ずかしいし、まだ少し頭が重いのでフラフラとした足取りになってしまいそうだ。
そうなったらまた恥ずかしい。
もう何をやっても恥ずかしい気がする。
やはり今は耐えよう……。
他のこと考えて気を紛らわせよう、そうしよう。
うーん……。
…さっきの件からマグと気まずいんだよなぁ……。
俺はあんなことを考えたせいなのだが、マグの方もどこか遠慮しているような気がして落ち着かない……。
まさかさっきの思考が流れちゃった……?
マグに話しかけたわけじゃないのに。
…そもそも、よく考えたらどういう仕組みなんだろうか……?
俺の声の全てが彼女に届いているわけじゃないのは分かる。
同様に彼女の声全てが俺に届いているわけじゃないから。
なんかこう…話したいなぁ…て思った時語りかけると答えてくれたから、多分相手に伝えたいと思ったことだけが向こうに届いているのだろう。
……怖いな…それ……。
もしもマグに嫌われていたとしても、俺には伝わらないんだ……。
もしマグには俺の心の声が全て聞こえていたのなら…俺は……。
「マーガレット」
「!…な、なに…ですか……?」
「…本当に大丈夫?場所だけ教えてくれたら1人で行くから、マグも帰って休んでて良いんだよ?」
「だ、大丈夫です…ちょっと考え事をしていただけなので……」
「…そっか……私に出来ることがあれば教えてね?」
「……はい、ありがとうございます……」
ユーリさんが心配して声をかけてくれる。
…ごめんなさい…ユーリさん……。
ユーリさんは何も悪くないんです……。
ただ…俺が…悪いだけなんです……。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「…マーガレット…ここなの……?」
「はい、ここがこの街の冒険者ギルドですよ?」
「ひえぇ〜……!」
罪悪感が半端ない俺を背負って、無事に冒険者ギルドに辿り着いたユーリさんは、冒険者ギルドの大きさに圧倒されていた。
隠密ギルドや鍛治ギルドとは、中の形や基本的なデザインは同じなのだが、大きさが違うのだ。
2回りぐらい違うかもしれない。
「ユーリさん、ここでボーッとしていると、他の人の邪魔になっちゃいますよ?」
「…ハッ!?そ、そうだね!うん…早く入っちゃおっか!」
ポカーンとしているユーリさんに声をかけ、中へと誘導する。
「とりあえず、空いていそうなカウンターに並びましょう。その後のことは、その時お教えしますよ」
「う、うん…それじゃあ……」
「マ、マーガレットちゃんっ!?」
「ん…?メイカさん…?」
ユーリさんをカウンターの列に並ばせようと誘導してる時、後ろからメイカさんの声が聞こえたので振り返る。
…おっとぉ……?
なんだかとても面倒ごとの気配だぞい?
「マ、ママ、マーガレットちゃん…?そ、そちらの危ない格好の女の子は……?しかもなんでその子に背負われてるの……?」
「メイカさん、おかえりなさいです。この人はユーリさん。私のお友達です」
「え?あっうん…よろしくね…?いや、そうじゃなくてっ!」
「うっさいぞメイカ…お、嬢ちゃん帰ってきたか…てそちらさんは?」
「メイカさん…ギルド内ではお静かに…って、えええぇぇ!!?な、なんて格好しているんですかっ!?」
「え?え?マーガレット?この人たちは……?」
「この人はメイカさん、あちらがディッグさんで、あちらの方がケランさん。みんな私と同じ寮で暮らしている冒険者の方ですよ」
「へぇ〜!」
案の定騒がしくなってしまった。
相変わらずメイカさんはオーバーだなぁ。
「そ、それでマーガレットちゃん!なんで背負われてるの!?どうしたの!?大丈夫!?」
「大丈夫ですよぉ。ちょっと色々あったので疲れただけですから」
「マーガレットちゃんの色々は内容が濃いから心配だよっ!?」
失礼な、そんな毎回面倒ごとに巻き込まれているみたいな言い方………。
まぁとにかく、なんて言うべきだろうか……。
帰り道で変な男に絡まれたからぶっ飛ばした、なんて言ったらいったいどうなるのか……。
「あ、あの!わ、私のせいなんです!私を狙って襲ってきたところに巻き込んでしまって…それで……」
「襲われたっ!?怪我はっ!?」
「大丈夫ですよ、私たちは無傷ですから。本当にただ疲れただけです」
「……そのようだね…。うん、怪我は無さそうですよ、メイカさん」
「よ、良かったぁ〜……!」
ケランさんが軽く検査したらしく、その報告にメイカさんがホッと胸を撫で下ろす。
もう…だから大丈夫だって言ってるのに……。
「ユーリさん、もう歩けますので降ろしてください」
「大丈夫?私はまだ平気だから別に気にしなくても良いんだよ?」
「大丈夫ですよ。というかそろそろ恥ずかしくなってきました……」
そろそろというか、最初からだけど。
ユーリさんに降ろしてもらい、数分ぶりに地面に足をつけた俺。
すると、メイカさんが目を輝かせながら話しかけてきた。
「マーガレットちゃん本当に大丈夫?」
「大丈夫ですって。十分休ませてもらいましたから」
「本当?もしあれだったら私が背負うからね?あ、抱っこでも良いよ?というか抱っこさせて?」
「ユーリさん、そろそろ順番が来ますから前に進みましょう」
「鮮やかなスルー!」
どこまでも自分の欲望に忠実なメイカさん。
…自分の考えを上手く相手に伝えられるようになりたいとは思うが、ここまでの域には行かないようにしないと……。
「お次の方〜!あ!マーガレットちゃん!おかえり〜!」
「ただいま戻りました、ナタリアさん。こちらのユーリさんのギルド登録をお願いしたいのですが…」
「はいはい任せて!えぇ〜こほん。失礼しました。ではこちらの紙にあなたの名前と年齢を書いてください」
「は、はい!」
一瞬で仕事モードに切り替わったナタリアさんの様子にビックリしたらしいユーリさんが、もらった紙に簡単な個人情報を入れていく。
…俺も作っといたほうが良いかな……?
「ナタリアさん、私も登録をお願いしても良いですか?」
「え?うん、良いけど…マーガレットちゃん冒険者になるの?」
「いえ、ただ持っといたほうが何かと便利だって聞いたので」
「そっか、良かった。マーガレットちゃんが冒険者の方に行っちゃったらまた仕事が増えちゃうからね」
俺今日ほとんどいなかったから多分変わんないと思うけど……。
とにかく、ユーリさんの隣で俺も自分の個人情報を書いていく。
名前:マーガレット
年齢:10
よし、出来た。
「お願いしまーす!」
「はーい!ってマーガレットちゃん、まだ10歳だったの……!?」
「あれ?言ってませんでしたっけ?」
「聞いてないよ!うぅ…子供だってことは分かってたけど、まさかまだ2桁になったばかりだったなんて……」
ありゃ…なんか落ち込んじゃった?
「あの……ナタリアさん……?」
「ハッ!こほん……それじゃあ、2人のカード、作ってきちゃいますね」
「お願いします」
「お、お願いします」
ナタリアさんが奥に行ったのを確認して、俺はユーリさんに話しかける。
「ユーリさん、これで登録は終わりましたが、この後どうする予定ですか?」
「うーん…さすがに疲れちゃったし、このまま宿に直行するよ。マーガレットも今日は早く寝なよ?」
「ははは、さすがに徹夜する体力は無いですよ」
「そうよー!それに徹夜なんて私は許しませんからね!!」
「…とのことです」
「あはは、じゃあ今日はぐっすり眠れそうだね!」
「ふふ、そうですね」
「お待たせしました〜!ギルドカードです!」
戻ってきたナタリアさんからギルドカードを受け取る俺たち。
これで身分証代わりのものを手に入れたな。
まぁ何に使うってわけじゃ無いけど。
「あ、それとマーガレットちゃんにララさんから伝言。マーガレットちゃんは3日働いたから明日はお休みだって!」
「完全週休二日制ってそういう……」
3日行って休み、じゃあ次は2日行って休みかな?
まぁちょうど良いや。
ゆっくり体を休めよう。
「分かりました、ありがとうございます」
「うん、お疲れ様」
「はい、お疲れ様です」
「それじゃあ私も。またね、マーガレット」
「はい、また会いましょう、ユーリさん」
そうして俺はメイカさんたちと寮に帰った。
…今日の夜…覚悟を決めとかないとな……。




