6.マスターとのお話…(未参加)
白兎亭を出た俺たちは現在ギルドに向かっている。
そう、異世界物の鉄板施設、冒険者ギルドだ。
そりゃあもうテンションが上がるわけで。
ワクワクが溢れ出すわけで。
「♫〜♪〜」
つい鼻歌も出てくるわけで。
「ご機嫌なマーガレットちゃんかわいいわぁ……♡」
そんな様子にメイカさんが昇天しかけるのもまた必然なわけで。
だが昇天するだけならまだしも、うっかり倒れられるとキッズボディな今の俺じゃメイカさんを支えられずとても危ないので、俺は話題を振って意識を保たせるようにする。
「そういえば、ギルドってどこにあるんですか?」
「街の真ん中にあるらしい。近くに行けばすぐに分かるとも言ってたな」
「真ん中…あの貴族の館っぽい建物の周りってことですかね?」
「そうだと思うが…アレの周りって結構範囲があるぞ……?まさか歩き回って探さなきゃか……?」
とてもうんざりした顔を浮かべるディッグさん。メイカさんとケランさんも流石にそれは…という顔を浮かべている。
かくいう俺もそれは面倒いなと思ったが、どうせ行かなきゃいけないのは変わらないので、せめて気分だけでも上げようと小粋なジョークでもかまそうかな。
「もうあの豪邸がギルドだったら楽なんですけどね」
「ハハハ、そうだね。それなら誰も迷わないからね」
「ダンジョンも一緒に入ってたらもっと良いわよね〜」
「おいおい、それは流石に欲張りすぎやしないかぁ?」
「ハッハッハッハッハッ☆」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
あれから40…嘘です。あれから15分。
今俺たちの前には立派な館があります。
「…冒険者ギルドの看板が掛かってんな……」
と、ディッグさん。
「…旗も至る所にありますね……」
と、ケランさん。
「…冒険者も商人もいっぱいいるわね……」
と、メイカさん。
はい、というわけで先ほどの「あの豪邸がギルドだったら良いなぁ」という冗談のつもりだったお話が現実として目の前にあるこの現状。
一同絶句である。
「と、とりあえず入ってみましょうか!」
「そ、そうだな!」
いち早く戻ってきたケランさんの提案により、俺たちは豪邸に足を踏み入れるべく歩き出す。
ギルドに向かう人の波に乗り、はぐれないようにすぐ隣のケランさんの手を握る。
ちなみに反対の手は白兎亭からずっとメイカさんが握っている。
人混みに揉まれつつもホールに入った俺たちはまたもや立ち尽くしてしまう。
ひっっろっ!!
ホール広っ!
左側には冒険者ギルドお馴染みの受付カウンターが並んでいて、右側の奥の方にはこれまたお馴染みのクエストボードがギリギリ見える。
正面の突き当たりには通路があり、そこに冒険者が殺到している。
あれはなんだろう?
受付カウンターは…7つほどかな?
この人口に対してカウンターの数が少ない。案の定行列が出来てしまっている。
クエストボードもまぁデカイが、やはり人数に対して釣り合っていないように見える。
大丈夫なのか?
「こりゃしばらく待ちそうだな……」
ディッグさんが思わずと言った感じで愚痴る。
あれ?でも…
「ディッグさんの要件ってギルドマスターに直接って言われるぐらいの緊急性があるんですから、いけるんじゃないですか?」
「んーまぁそれはそうなんだが……」
なんとも歯切れが悪い、というよりは気まずそう?に俺をチラチラと見てくるディッグさん。
言外に俺に言いにくい話をすると言うのだな……。って思ったけど、元々守秘義務あるって言ってたしそこまで気にしない。
とはいえ、あまり並ぶのが好きではないので並ばずに済む手段があるのなら是非ともやっていただきたい。
というわけでアプローチを変えてみようか。
と考えたところで思い出す。
確か商人のおいちゃん…名前はモーリッツ…だったかな?
モーリッツさんも呼ばれてたみたいだし、先に合流してからの方がいいかな?
「そういえばモーリッツさんと合流するんでしたっけ?」
「あぁ、そうそう、バラバラでいくのもあれだしな。モーリッツが来るまで入り口辺りで待ってようぜ」
「えぇ、そうしましょう。どのみち、すぐには入れそうにありませんからね」
俺の言葉にあからさまにホッとした雰囲気で返すディッグさん。さらにケランさんもディッグさんに賛同した。
メイカさんも無言で頷いている。
…何をそんなに隠そうとしている…?
何か不都合があるのは人間誰しも同じなので気にしないが、ここまであからさまだとそうも言っていられない。
実はあんまり人に言えるような仕事をしているわけじゃないとか?
いや、さすがに失礼か。
「すいません、もしかして《イシオン》の方ですか?」
俺が邪推してしまったタイミングで、突然女性が話しかけてきた。
受付の人と同じ制服を着ているということは、この人もギルドのスタッフなのだろう。
というかイシオン?あの聞き方から察するに、多分ディッグさん達のチーム名なのかな?
「そうだが……」
「よかった。私はリンゼ。先ほどの通信の件でお話があるとギルドマスターより伺っております。モーリッツ様もすでにご到着しておりますので、どうぞこちらに」
「あ、あぁ分かった」
やっぱり話は通ってたんだな。
そりゃそうか。機密性の高い話らしいし…ってそうか。
「あの」
「なんでしょう?」
「えーと、門の所でテレフォンオーブを使うとき、私には内緒ということだったので、もしあれでしたら私はそこらへんで待っていた方がいいでしょうか?」
「いえ、二階にはご来客様用の待合室もございますので、よろしければそちらでご寛ぎください」
「あ、はい、分かりました。ありがとうございます」
「では、私に着いてきてください」
なんとなくいない方がいいかな?と思ったけど、どうやらそのあたりのケアもしっかりしているらしい。
とにかく、俺たちはギルドスタッフの女性…リンゼさんの後を追い二階に上がった。
「こちらがギルドスタッフの休憩室、その隣が応接室、1番奥がお客様用の待合室となっております。その向かいにつきましては、こちら階段すぐの扉は物置、中央の扉が会議室となっておりますので、お客様は入らないようお願いいたします。それと待合室向かいにありますのは御手洗いとなっております。そこはご自由にお使いください」
「あぁ、分かった。モーリッツは?」
「すでに待合室におられます。(コンコン)モーリッツ様、イシオンの方々がご到着されました」
「はい、どうぞ」
リンゼさんがドアをノックすると、中からモーリッツさんの声が返ってきた。
ガチャっとリンゼさん入室…からの扉の傍に移動して扉を抑えておくという見事な従者ムーブ。
各々がお礼を言いつつ部屋に入ると、そこにはモーリッツさんともう2人、黒髪の男性と薄いピンク色…桃色かな?…の瞳とサイドテールの女の子がいた。
うーん?
黒髪の男性の方はなんとなく日本人に見えるが……いや、街を歩いてる時も黒髪の人はちょいちょい見かけたし、これだけじゃ断言できないか。
どうしてもこういう人がいると疑ってしまう。マンガやゲームのやり過ぎだな。
女の子はリンゼさんとはデザインが少し違うが、ギルドの制服を着ているようだ。
この子も従業員なのかな?
「悪い、待たせたなモーリッツ」
「いえ、私も先ほど着いたばかりですので、お気になさらず」
「そうかい、それで?アンタは?」
モーリッツさんと軽く挨拶を済ませたディッグさんが、黒髪の男性に問いかける。
「初めまして、僕は《ハルキ》と申します。しがない商人です。ギルドマスターと話があったのでここにいたところ、モーリッツさんがいらっしゃったので、こうして話しておりました。」
男性はゆっくりと立ち上がると恭しく礼をしつつそう言った。
「アンタもギルドマスターと話があるのか。先か?後か?」
「後ですね。そちらの連絡が先だったので」
「そうか、悪りぃな。アンタも待たせたみたいだ」
「いえいえ、僕の用事は別に今日でなくとも大丈夫ではあるので」
「ディッグ様、モーリッツ様、準備が出来ましたのでこちらへ」
「んじゃあ、先もらうぜ。嬢ちゃんは2人と待っててくれ」
「はーい、分かりました」
というわけで、メイカさん、ケランさんと黒髪の男性と桃色サイドテールと一緒に待合室で待機することに。
早速メイカさんが2人に話しかける。
「私メイカ、こっちがケランでこのかわいい子がマーガレットちゃんよ♡」
「メイカさん、初対面の人にその紹介文はやめてください」
早速メイカさんがぶち込み、ケランさんが頭を抱え、俺は苦笑いを浮かべる。
まさかいきなりかますとは思わなかった俺は反応出来なかった。
今まで黙ってたから油断してた……。
「すみませんこの人こういう人なんです……」
「あぁ、うん。なんとなく分かりました。」
なんということだ……。
顔色一つ変えずに、理解を示した……。
すごい理解力だ、こやつ只者ではない。
「ではこちらも…チェルシー」
「はいはーい♡あたし《チェルシー》…よろしくね♡」
ハルキさんに促され、ここまで一言も発さなかった桃髪の少女…チェルシーちゃんが元気に挨拶をする。
なんだろう……。メスg…もとい小悪魔系女子な気を感じる。
ピンクは淫乱って誰の言葉だっけ?
「それで、皆さんはどういうご関係なのですか?」
「私とケランとディッグはパーティを組んでるの。それでマーガレットちゃんが……えーっと……」
言葉に詰まるぐらいなら、嘘でも同じメンバーということにしとけば良いのに、メイカさんはとても正直だなぁ……。
欲望にも正直だもんなぁ……。
「あー…この子は前の依頼の時に知り合って、それからたまに出会っては冒険の話をしたりして仲良くなった子で、今回は観光とその他もろもろで一緒にいるんですよ」
「へぇ、そうなんですね」
ケランさんがすかさずフォローを入れる。
相手はとりあえずは納得してくれたみたいだ。
…ずっと同じ微笑み顔だから全く分からんけど……。
「ねぇねぇ、マーガレットちゃん。あっちであたしと遊ぼ?」
「うん、いいよ」
そんな大人達をよそにチェルシーちゃんが遊びに誘ってくる。
できればいろいろと情報が欲しかったんだけど……ここで断るのも変だし、それにこの子ともできれば友達になりたいので承諾すし、2人で部屋の隅の方へ行く。
そこには姿見があったので、ついでに今の自分の姿を見ておく。
金髪…というよりは黄色って感じだな……。
レモンみたいな鮮やかイエローで、背中の真ん中あたりまであるロングヘアー。
そしてメイカさん…ちょっと大袈裟だと思って話半分に聞き流していてごめんなさい。
メイカさんの言う通り、すごい美少女だ。
整った顔立ちに髪の毛と同じ色をした綺麗な目。
服は白のワンピースに小さめの青いフリルのリボンがアクセントに付いている。
元々、綺麗系よりかわいい系が好きな俺はとても喜んだ。
誰もいなければ、ポーズをビシッと決めてしまいそうなほどに可愛かった。
そういえば旅をしたとは思えないほど服に汚れが無い。
まぁ多分、過保護なメイカさんがいろいろとしてくれていたのだろう。
そう結論付けた俺は、チェルシーちゃんに意識を戻し、何をするのか聞いてみた。
「それで、なにして遊ぶの?」
「ん〜そうだな〜…どっちも名前しか知らないし、もう少しお話ししてから決めよ?」
「あー、そうだね。じゃあ何から話そうかなぁ……」
やっぱ無難に好きなものとか?
そう考えているとチェルシーちゃんは、チラッと大人達を見やり、話に集中している事を確認するとこちらに視線を戻し、不敵な笑みを浮かべた。
髪と同じ桃色だったはずの少女の目が、赤く輝いている。
……なんだろう……ヤバイ気がする……。
なんとなく身構えた俺にスッと近づいてくるチェルシーちゃん。
「大丈夫よ。あたしの目をよく見て……」
それ、だいじょばないときに加害者が言うやつ!
そう突っ込もうとしたが、突如眠気に襲われ頭が回らなくなってしまう。
「あらら、旅疲れが出ちゃったのかな?お昼も食べてきたみたいだし、別にお昼寝してもいいのよ?」
そう語りかけるチェルシーちゃん。
確かにそれもあるかもしれないが、明らかに人為的な眠気だよね?これ。
確信犯だよね?君ね。
というか頭回らないって言ったのに、めっちゃツッコミ入れるじゃん俺。
こんな状況なのにやたらとツッコミが出てくる俺の脳みそに自分でツッコミを入れつつ、俺はまぶたを閉じると同時に眠りについた。