55.絵画と画集…時計の謎
ロケーション:隠密ギルド地下の洞窟に作られた脱出ゲーム用の部屋
現在の状況:適当なパスワードを入れたら絵画に押し倒された
頭の中でそんなことを考えてみたが、どうしても「絵画に押し倒された」というパワーワードが引っかかるぜ☆
とか現実逃避をしたその時、絵画は不敵な笑みを浮かべ、6本の黒い手で、俺の両手両足を押さえ込んで、残った2本の手を俺によく見えるようにワキワキさせている。
押さえ込まれた俺は、両手を枕の上で固定され、足も肩幅ぐらいに開かれてしまっている。
(な、ななな何されるんでしょう……?)
(分からん、分からんけど…ロクな目に合わないのは確かだよ……)
なんだろう…何されるんだろう……。
まさか服を剥ぎ取られたりはしないよな……?
これ見てる人いるんだぞ?
そんな中でひん剥かれたら、また別のトラウマになるぞ?
そしてとうとう絵画が行動を起こした。
絵画は俺のジャケットの前を開けると、そのまま俺の脇に手を突っ込み…
「!?っふはっ!んふふ!あははっふふっんふふふ!!」
くすぐってきた。
「や、やめっ!あはははははっ!ふふっ!んふ!んんんふふふふふっ!!!」
身をよじってなんとか逃げようとしてみるが、がっちり固定されている上に、くすぐられて力が出ない。
どうにか声を抑えようとするが、容赦のないくすぐりに我慢が出来ず声が漏れ出してしまう。
「あははははは!やめ、やめて…ふはははははっ!!あふっ……はぁ…はぁ……!」
ようやくくすぐりが終わり、俺は散々巻き散らして足りなくなってしまった酸素を取り込もうと必死に呼吸する。
(だ、大丈夫ですか……?コウスケさん……)
(はぁ…はぁ…ど、どうにか……)
この絵画、ただのカモフラージュじゃなかったのか……くそ…油断した……。
こうなるのも想定の内なんだろうな……。
はぁ……「好奇心猫を殺す」ってか……。
ぼんやりする思考でなんとかそこまで考えたのだが、絵画が動き出したので思考を中断し、身構える。
絵画は俺の上から離れると、元の位置である金庫の下に戻り、黒い手を収納してただの絵画に戻った。
俺はホッと一息ついて呟いた。
「……やっぱり♡マークを探さないとか……」
(…でも、めぼしい場所なんてもう……)
(…あれぐらいだよなぁ……)
俺は勉強机の上に移動された物品たちを見る。
その中でまだチェックしてない物っていったら……
(グラビア雑誌…)
(他に何か無いですかね)
(いい加減諦めてくれ……)
(むぅ〜!!)
(むくれないの)
むくれてるマグも可愛らしいが、さすがにチェックしないままってわけにはいかない状況だ。
俺は体を起こすと、勉強机に置いてあるグラビア雑誌を手に取る。
「……やっぱりパスワードを間違えたら襲ってくるんだな……」
(……目、閉じてますね……)
動かないのかと確認してみたいが、さっきその好奇心でえらい目にあったばかりなのでさすがに自重する。
俺はベッドに腰かけ、グラビア雑誌を読み始めた。
(うぅぅ〜!私は見ませんからね!)
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
(コウスケさん、終わりましたか……?)
(終わったけど……何も無かった……)
(えぇっ!?そんなぁ…!)
グラビア雑誌を読み終わり、読んでいる間ずっと短いスパンで終わったか聞いてくるマグに成果を報告した。
この世界に写真は無い。
もしかしたらハルキがそういう魔道具を作ってるかもしれないが、とりあえずこの本は全部手書きだった。
いわゆる、画集だ。
前世でもこの手の本は大好きだった。
好きなイラストレーターさんやゲームの画集や設定資料集を集めるのが一時期マイブームになるほどに好きだ。
…そうか…あの本たちももう読めないのか……。
……とにかく、この本にはいろんな女性のあんな姿やこんな姿が描かれていて、しかも綺麗だった。
…だがどうにも違和感を感じた。
手描きであるはずなのに、なんだかどことなく写真で撮ったような停止している感じというか……。
いや、写真にも躍動感のあるものはあるんだが、とりあえずこれには無い。
…だが、先ほど言った通り、この世界に写真は無いし、それにこの本…絵は上手い。
うーん…是非ともこの本を作った人に会ってみたい。
そう思うほどには満足のいく作品ではあったのだが……。
また別の疑問がある。
「……なんで立ち絵しか無かったんだろう……?」
(えっ!?そっちですかっ!?謎解きのヒントが無かったことではなくっ!?)
(何を言う!由々しき事態だぞこれは!この人は絵が上手い!それはもう綺麗に描かれている!でも……!)
(で、でも……?)
「シチュエーションを…感じないっ……!」
(シ、シチュエーション……?)
そう、シチュエーションだ。
シチュエーションは大事だ!
俺も絵を描いていた時期があるから分かる。
本当に趣味程度にしか描いてないから本筋の人には到底敵わないが。
なんなら他の人にも「それは違うよっ!」とか言われるかもしれないが!
それでも言いたい。
シチュエーションは、大事なのだっ!!
この本の人たちも、当然直立不動というわけでは無い。
なんらかのポーズを決めている。
だがそのポーズも、やはりみんな立った状態だ。
(しかもこの本の人たち…みんな半裸か全裸かのどっちかなんだよなぁ……)
(は、半裸……!全裸……!?)
(うーん…それが悪いとは言わないけど……安直…って感じちゃうんだよなぁ……)
(あ…えっ…?)
マグが困惑した声を上げているが気にせず続ける。
(確かに女性の肢体は魅力的だ。いつも隠されているあの服の下の神秘を知りたいというのは全人類の望みと言っても過言ではある)
(過言なんだ……いや、それよりも!私は別に人の裸なんて…!)
(まぁ確かに、マグにはまだ早いとは思うけど……)
(む…!)
その歳で男性の筋肉云々言い出したら、さすがの俺もちょっと心配…いや、それはそれでかわいいかもしれない。
(まぁそれはさておき、俺が言いたいのは「脱ぎゃいいってもんじゃない」ってこと)
(…どういうことですか……?)
(う~ん…どう言えば問題ないかなぁ……?)
10歳の女の子に教えても大丈夫そうな単語は……
(いやそもそも女の子とする話としてアウトだわ)
(えっ?)
(ごめんマグ、普通にセクハラかましてしまった。忘れてくれ)
(えぇ!?あんなに熱く語ってたのにっ!?そんなこと言われたら気になるじゃないですかっ!!)
いかんっ!
マグの知的好奇心に火がっ!!
(いやホントごめん。「萌え」と「エロ」の違いを話すにはマグはまだ幼い。勘弁してくれマジで)
(そんなぁっ!?教えてくださいよぉっ!!)
(駄目っ!俺はまだ死にたくないっ!!)
(死っ!?誰にっ!?)
(世間っ!!)
(世間っ!?)
無垢な少女にエッチな知識を植え付ける……。
一部の紳士の夢ではあるが…さすがに婚約者の少女にそんな……。
……婚約者………はっ!?
俺今何考えた!?
やめろよ!?やめろよ俺!!
いくらロリコン拗らせてるとはいえ、それは犯罪だぞっ!?
よーしよしよし…落ち着こう、俺。
俺はできる。俺はやれる。
(世間……世間かぁ……!世間なら仕方ないかなぁ……!?)
ほらマグもがんばってるよ。
世間の怖さを知ってるからめちゃくちゃ悩んでるよ?
マグ、貴族の生まれだもんね。
気になるよね、世間体。
…………あれ?
(マグ?)
(はい?)
(俺ら何の話してたんだっけ?)
(えっ?えーっと…あの本を読んで……あれ?なんであの本を読んだんでしたっけ……?)
(それはそこの金庫の……あ)
((…………))
そうじゃん、思いっきり忘れてたけど…今、ユーリさんたちの試験中じゃん。
つまり俺…仕事中じゃん……!
いかんいかん……!
完璧な寄り道をかましてしまった!!
(えーっと……確か足りないのはハートマークでしたね)
(そうそう、♡マーク♡マーク。そしてその♡マークが…)
((見つからない))
それでヒントを求めてグラビア雑誌?画集?を読んだわけだが…何もなかった。
はぁ~…手詰まりか……。
そういえば、何時間くらい経ったんだろう……。
あんまり長いとダニエルさんにどやされるぞ……。
俺は懐から懐中時計を取り出し、今の時間を確認する。
えーっと…?うげ…もう1時間経ちそうなのか……。
(時計……)
マグが時計を見て何か考え始めた。
(コウスケさん、この部屋の時計って調べましたよね?)
(あぁ。でも、何もなかったんだよなぁ)
怪しさはてんこ盛りなんだけどなぁ……。
スペードの形だし。
でも♤はもう埋まってるし……。
そもそも3時5分で止まってる意味もわからない。
この本と同じブラフだと思ってもう半ば忘れかけていたのだが……。
(……コウスケさん、もう一度時計を調べてもらっていいですか?)
(え?うん、いいけど……)
何か思いついたんだろうか……?
俺は時計を取る足場にするために勉強机のところから椅子を持ってくる。
そしてガタガタと時計を壁から外して、テレフォンオーブのある背の低い机に置く。
そしてそのまま俺は椅子に座る。
(う〜ん…やっぱり気にはなるけど、なんかあるわけではないんだよなぁ……)
(もう少し、もう少しなんだけどなぁ……。ここまで来てるんだけどなぁ……!)
多分首ぐらいかな?
うーん…なんだろう…マグは何が引っかかってるんだろう……?
時計、スペード型、3時5分で止まった針……。
3時5分…0305…?
いや、1505の可能性も……。
(…あっ)
(ん?何か気付いたの?)
(コウスケさん、ちょっと時計はそのままで、向こうに回ってもらえませんか?)
(?……こう?)
(……コウスケさん…これ…ハートじゃないですか?)
(え?)
ハート?どこに………っ!?
「……ハートだ……!」
ハートだ!
このスペードの型が、中に入った丸時計をハートの形にしてるっ!!
「となると、この状態で数字を探すのか?でも…うーん…?」
(そんな怪しいものはどこにも……)
一歩進んだ…はずだ。
何か、何か見落としているのか?
時計に何も書いてないのはもう確認してるし、あと関係ありそうなのは動かない針ぐらいしか……。
「これがハート型の時計だとして…3時5分は9時35分……それか21時35分……?……違う気がするなぁ…」
(う〜ん…これだと思ったのに……。これも罠……?)
マグが少し自信を失っている。
確かにその可能性はあるけど、でもこれが偶然とは思えないし……。
9時35分……。
…考え方が違うのか……?
なら、なんで時計の針はこの位置なんだ?
針の位置がこれじゃないといけない理由…………あ。
「ああああぁぁぁぁぁ!!!?」
(ぴえっ!?ど、どうしたんですかっ!?)
「これ!この針っ!この形っ!」
(えっ?針の形……?)
「この短針と長針を合わせた形…数字の7に見えない?」
(えっ!?………!…ホントだ……!ということは!)
「(♡に当て嵌まる数字は7!!)」
俺はすぐに金庫に向かうと、「67137」と入力する。
ガチャンッ!
「(開いたっ!)」
その勢いのまま金庫を開けると…
「いったぁいっ!?」
中から飛び出してきたヘビのおもちゃが額に直撃した。
「(か、完全に忘れてた……!)」
浮かれて調子に乗ってたわ……!
ぬかった……!




