5.初めての異世界飯…と再び魔道具
現在、白兎亭なるお店にて注文を終え料理を待っている俺たち。
その間メイカさん達と世間話に花を咲かせていたとき、俺はトイレに行きたくなったので近くにいたモニカちゃんを呼んで、小声で聞いてみた。
「モニカちゃん、ちょっとお手洗い借りて良いかな…?」
「うん、いいよ」
「ありがとう。どこにあるの?」
「こっち」
「分かった。すみません、ちょっとお手洗いに行ってきます…」
「えぇ、分かったわ」
メイカさん達に断りを入れ、モニカちゃんについて行く。
「ここだよ」
「ありがとうモニカちゃん」
「うん…」
お礼を言うと静かに、それでも嬉しそうに頷くモニカちゃん。かわいい。
が、その後のセリフに少し戸惑ってしまう。
「あ…使い方、分かる?」
「えっ?えーっと…一般的なトイレなら……?」
なんだ一般的なトイレって。
そう思ったが俺はすぐに思い直す。
異世界のトイレ事情知らねーやと。
いやそれでもこの返答は意味分からん……。
そう思ったが……。
「もしかして誰かに聞いたの…?」
「えっ?」
「だって一般的って……」
ごめんね、適当言っただけです。
でもその適当のおかげでここのトイレが他の所と違うらしいことが分かった。
「うん、ごめん、咄嗟に口から出ちゃっただけで、誰にも聞いてないよ」
「あっ、そうなんだ…ごめん……」
「いや、こちらこそ適当かましてごめんなさい……」
ウェーイ、気まずーい!
「あーっと、それで?ここのトイレがどうかしたの?」
「あ、うん、えっとね?うーんと…見てもらった方がいいかな……」
「ふむ?あっちょっと待って。中に誰もいないか確認しないと」
「あ…うん、そうだね」
「じゃあ聞くね。(コンコン)入ってますかー?」
返事はない。なのでそろーっと扉を開けて、隙間から中の様子を窺う。
うん、誰もいないって…コレはっ!
「水洗トイレ…だと……?」
「やっぱり知ってるの…?」
トイレだ。洋式便座だ。電気無いのに。
トイレットペーパーまである。
マジマジと見つめる俺にモニカちゃんが聞いてくる。
「あー、いや、ちょっとね……あれ?でも……」
電気無いのにどう使うんだろう。
「ねぇ、これどうやって使うの?」
「えっとね、ここのスイッチを押すの」
モニカちゃんが指差す先には便器の後ろ側にあるボタン。
でもそう言うこっちゃ無いねん。
動力が知りたいねん。
「コレを押すとどうなるの?」
「押すとね、この中にある魔石に魔力が送られて、水が出てくるの」
「てことは、コレ魔道具なのっ!?」
「うん、そう言ってたよ」
ここでも魔道具を見れるとは……。
でも便器って……。テレフォンオーブより異世界だ!って感じた魔道具がトイレって……。
というか今更だけど、こっちで初めて出来た友達との最初の会話がトイレことって……。
うん…まぁ…いいや……。
今はさっさと用を済ませよう。
「ありがと、モニカちゃん。他のみんなにも教えとくよ」
「うん、それがいいと思う。じゃあ、戻るね…?」
「うん、ありがとね」
軽く手を振り合ってモニカちゃんと別れトイレに入る俺。
異世界に来た衝撃などで気付かなかったが、1度気付いてしまえば我慢が必要になる。
この後ギルドに行くからな……。
済ませられるうちに済ませておかないと、もし長丁場になったとき大変だからな……。
が、俺はここで重大な事に気がついてしまった。
俺、今、女の子じゃん……。
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まぁ戸惑いはしたが、本やら何やら(あまり人に言えないやーつ)でやり方はなんとなく知ってるので大丈夫だった。
それでもかなり難儀したが……。
なんというか、ここまで今までの自分と姿が違うと、ゲームのオリキャラのような感じがしてもうそこまで気にならない。
実際口調をそんな感じにしてるし。
「おかえり、マーガレットちゃん」
「ただいま、メイカさん」
「はうっ!今のすっごく良い!」
なにが?とは面倒なので聞かない。
そんなこんなでテーブルに戻った俺は、他のみんなにもここのトイレのことを話す。
「ここのトイレ魔道具でした」
「どうゆうことっ!?」
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「お待ちどうさまー♪」
他愛のない話をしながらさらに待つこと数分、ついに料理が運ばれてきた。
と言ってもまずはスープが人数分。
ディッグさんがパスタを頼んでいたので、パンは3人分だ。ちなみに黒と白の2つから選べて、白の方が若干お高かったが2人とも迷わず白パンにしていたので俺も便乗させてもらった。
さて、こっちにきて初めてのご飯!
ワクワクしますね!
「いただきまーす!」
「「?」」
「マーガレットちゃん、なーにそれ?」
「えっ?」
あ、やべぇ。俺としたことがこんなお約束を忘れるなんて…。
「えっとこれは…食材を取ってきた人や、料理を作ってくれた人に対して、美味しくいただかせてもらいます、って感謝の気持ちを伝える言葉…です」
多分。
こういうことって当たり前に使ってて調べてみようとか思わないからなぁ。
5歳児に叱られる番組とかでやってたっけかな……?
「へー、知らなかったわ。」
「なるほど、確かに感謝を伝えるのは良いですね。」
「んじゃあ俺たちも…」
「「「いただきまーす。」」」
「あ、ごめんなさい、伸ばさなくていいです。」
「あっそうなの?」
ちょっと恥ずかしそうにメイカさんが言い、場の空気がなんとも言えないものになってしまった。
「えと、じゃあ…食べましょ?」
「うん、そうね」
そう言ってみんなで一斉にスープを啜る。
「んんっ!」
「旨いっ!」
「なにこれ、すごく美味しい!」
「こんなに美味しいスープ食べたことないですよ!」
すごい、なにこれ、すごい。
日本でもこんな美味しいスープは知らない。
全員の語彙力が一気に下がってしまうほど美味い。
思わずキャラ作りを忘れて素で「んまいっ!」と叫びそうになった。
「はーい!こっちもお待たせー♪」
俺たちが言葉を失っているところに他の料理が続々と届けられる。
サラダにパスタ、グラタン、そして俺の注文したステーキ。
どれも美味そうだ。見てるだけでよだれが出てくる。
それじゃあこっちもいただきましょう!
「わっ!このお肉スッと切れる!柔らかい!」
「この野菜すごくシャキシャキで新鮮で美味しいわ!」
「パスタも旨いぞ!特にこのソースが絶品だっ!」
「このグラタンも、具材がごろごろ入っててすごく美味しいですよっ!」
「ンマッ…ゔぅん!美味しい!今までで1番美味しい!」
「「「ホントそれ!!!」」」
みんなで「旨いっ!」「美味しいっ!」と言いながら夢中で昼ご飯を食べる。
そしてあっという間にテーブルの上の料理を全て平らげてしまった。
「はー、食った食ったぁ……」
「ごちそうさまでしたぁ……」
「マーガレットちゃん、それってもしかして……?」
「あぁ、そうですそうです。食べる前にいただきます、食べ終わったらごちそうさま、生産者と料理人に感謝の気持ちです……」
「そっかぁ……。じゃあ私も、ごちそうさま」
「では私も…」
「俺も…」
「「ごちそうさま」」
こうして俺の初めての異世界飯は、大満足で終わった。
……素材の名前とかはファンタジーだったけど、料理自体は全部知ってるやつだったなぁ…と思ったのはずいぶん後のことだった。
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「ふー…んじゃあそろそろ行くか?」
「えぇ」
「はい」
ようやく腹もこなれてきたということで、ギルドに向かうことになった。
「ありがとねー♪」
「あ、ありがとうございました……」
2人の看板娘に見送ってくれる。
モニカちゃんがチラチラとこちらに目線をくれるので、
「また来るね☆」
と言ったら、
「…!…うん!」
めっちゃいい笑顔になった。
危なかった…そうなるかな、と予想してたから耐えれたが、そうじゃなければ隣で手を繋いでいるメイカさんのように、浄化されてたかもしれない。
小さく手を振ると、モニカちゃんも手を振り返してくれ、その様子をお姉さんが微笑ましく見ている。そして2人は笑顔でお店の中に戻っていった。
「友達が出来てよかったな嬢ちゃん。大事にしろよ」
「はい。もちろん」
そうして俺は、未だ昇天中のメイカさんの腕をクイクイして戻ってこさせ、ギルドに向かうのだった。
そういえば、門番さんのところでフラグ立ってたはずだけどなにも起きなかったな……。
まぁ、平和なのは良いことだ。
トイレのくだり、ちょっと長かったかな……。
というか今気付いたけど、トイレと食事の話を一緒にしちゃってんのか……。
まったく気にして無かった……。