45.寡黙なお姉さんと賑やかなギルド…二つ名には納得がいかない
ハルキとの話し合いを終え、下に戻ってララさんにさっきのことを聞いてみた。
「え?今日の分の他のギルドへの書類?あぁ、言ってたねぇ。マギーちゃんはどうするつもりなの?」
「他のギルドが気になるのは事実ですし、怪しいとは思いますが行ってみようかと」
「そっか、それじゃあ少し早いけどお昼ご飯を済ませて、それから届けに行こうか。2つのギルドにそう伝えるから、ちょっと待っててね」
「はい、ありがとうございます」
ララさんが連絡を入れてくれている間、俺はマグと2つのギルドについて話し合ってみる。
(鍛治ギルドに隠密ギルドかぁ。どんな感じなんだろうな)
(名前は聞いたことありますけど、細かい仕事までは私も知らないので楽しみです)
(鍛治ギルドにはドワーフとかいるのかな?)
(いるでしょうね。鍛治といえばドワーフ、ドワーフといえば鍛治、ですからね)
(おぉ!やっぱりそんな感じなの?)
(はい!コウスケさんの世界も?)
(そうそう!鍛治が得意で、身長は低め、男性はヒゲがもっさりのイメージで、女性は少し童顔な人が多いイメージだなぁ)
(そうですねぇ。私が聞いた話もそんな感じだったはずです)
(おぉ!俄然楽しみだ!)
そんな感じでマグと盛り上がっているところにララさんが戻ってきた。
「お待たせマギーちゃん。隠密ギルドから使いをよこすから、お昼食べ終わったらここで待ってて、だって」
「隠密ギルドから?鍛治ギルドはどうするんですか?」
「そこは大丈夫。その人は鍛治ギルドの常連さんだし、私と交流もあるから信用してくれて良いよ」
「ララさんのお墨付きがあるなら大丈夫ですね」
「うん、じゃあお昼を食べに行こー!」
「おぉー!」
俺たちはテンション上げ上げの状態で昼食に向かった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「マーガレットちゃーん!ココさんが来たよ〜!」
「コ、ココさん?」
ナタリアさんに呼ばれたのはいいが……
ココ?誰?
「あぁ、さっき言ってた、隠密ギルドの私の友達だよ」
「じゃあ、そのココさんが、使いってことですね」
「うん、マギーちゃん準備は出来てる?」
「はい、といっても書類とメモ一式しか持ってませんが……」
「大丈夫大丈夫。書類を届けがてら見学するだけなんだし、そんな特別な物はいらないよ。あ、そうだ思い出した。これプレゼント」
そう言ってララさんは自分がいつも仕事をしている机の引き出しから、綺麗なラッピングが施された小さな箱を取り出し、手渡してきた。
「これは?」
「中見てみて」
「では失礼して…なんだろう…?」
リボンをほどき、包み紙をきれいに取り、箱を開けてみると、そこにはチェーンの付いた円盤が入っていた。
「これって…懐中時計…ですか…?」
「うん。ごしゅ…こほん、ハルキさんが「腕時計も便利だけど、多分これも好きじゃないかな?」って言って……」
「確かに好きですけど…」
小さめとはいえ、子供が持つ物じゃないと思うんだが……。
てかちょっと重いんだが……?
「これねぇ、すごいの!ここを押すと…」
パカッ!
「おぉ!」
「蓋が開いて、こっちを押すと…」
ペカー
「眩いっ!?」
「時計の部分が光るの!これで暗いとこでも安心だよ!」
「暗がりでこれ見たら、目をやりそうなんですけど……」
なんなら今、若干やったんですけど。
思ったより高性能でビックリしたが、まぁカッコいいと思ったのは事実だし、時計があればいつでも時間が見れる、それはありがたい。
「あ、でもこれ耐久性は大丈夫なんでしょうか?」
「うん、そこも大丈夫。「重量150キロまでならいけるはず」って言ってたから」
「わぁ頑丈ぅ……」
しかも具体的ぃ……。
「はず」ってことは150キロは理論値だから…うーん…大体130キロぐらいだと思っておこう。
まだ多いか?
「制服の内ポケットとスカートのポケットの辺りにチェーンを繋げられるところがあるから、繋げとけば落とすことも無いはずだよ」
「なるほど、この為の……」
確かにスカートにあるのは知ってたが、内ポケットになんであるんだろう?とは思ってたんだよな。
右の内ポケットにメモ帳が入ってるから、左に入れておこう。
キチンとチェーンを繋げてっと。
「それじゃあ行こうか?」
「はい」
ララさんについてナタリアさんのいる…今日は1番ギルドの入り口に近いカウンターに向かう。
「ごめんね、ココ。ちょっと待たせちゃった?」
「問題無い」
カウンターで待っていたその女性はララさんに簡潔に答える。
俺はその人のことをじっと見つめる。
「わぁ…」
その人は、とんがった耳に浅黒い肌、紛うことなき《ダークエルフ》だった。
髪の色はダークグリーン…いや、うーんなんだっけあの色?
モスグリーンだっけ?出てこないな。
とにかく、暗い緑色のショートヘアーだ。
前髪も目に入らないように短めに切られている。
すげぇ隠密っぽい服を着ている。
でもボディラインは隠密に向いてない。
ポインポイーンのプルンプルーンだ。
「…この子?」
「うん、そうだよ。ほら、マギーちゃん、挨拶しなきゃ」
「あっ…と、すみません。初めまして、マーガレットです。お待たせして申し訳ありませんでした。」
「問題無い。私はココ。よろしく」
「あっはい、よろしくお願いします」
「……」
「……」
えっと…どうしたんだろう……?
じっと俺を見つめるだけで微動だにしないけど……。
「あはは…ごめんね、マギーちゃん。ココはあんまり話す事は得意じゃ無いの」
「そ、そうなんですか?」
「ん」
み、短い……!
「じゃあココ、マギーちゃんのことお願いね?」
「任せて」
「え?」
待って?俺この人と2人きりなの?
かなり気まずいよ?
「じゃあ来て」
「えっあっはい。えーっとじゃあララさん、行ってきます…」
「うん、いってらっしゃい。気をつけてね」
「ん」
……気まずいよ?
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「……」
「……」
さーて案の定ここまで全く話さずに来たわけですが……んーー……気ぃまずいぃぃ………。
ギルドから出て実はまだ3分ほどだが気まずい。
後ろに思いっきりギルド見えてるけど気まずい。
なんか会話とか無いかなぁ……。
(助けてマグ)
(え、そんなこと言われても……あ、じゃあ……)
(ふむ…なるほど……)
「あ、あの…」
「何?」
怖ぇ。
「え、えっと…ララさんとはどのように出会ったんですか?」
「奴隷市」
「ど、どれいいち……?」
「そう。私と同じ檻にいた」
「だから仲が良かったんですね」
「ん。そのあと腕を見込まれて、私は隠密ギルドに買われた。その後は知らないけど、いい人に買われたみたいで良かった」
「へぇ…」
2人とも元奴隷なのか……。
「腕を見込まれた…って、何か実際に倒したんですか?」
「人」
「え?」
(え?)
「人」
「(……)」
あっさりと殺人を暴露されてしまった。
いやまだだ。俺は「倒したか?」と聞いたのだ。
まだ気絶の可能性もある。
「それは生け捕りということで…?」
「違う。殺した」
殺ってた。
「そ、それって誰を…」
「知りすぎると身を滅ぼす」
「あっはい、すみません……」
怒られた。
うん…まぁ…そうね……。
《好奇心猫を殺す》ってね……。
そのあとまたしばらく無言で歩いていく俺たち。
俺は暇なので周囲の声に耳を傾けてみることにした。
「今日はどうするよ?」
「もう少しでCランクに上がれるポイントになるから、ちょっと手伝ってくんねぇ?」
「おぉいいぜ」
「どうしよう〜!武器の手入れをお願いしたら今週ピンチだよ〜!今夜奢ってくれない〜!?」
「えー!?この前結構稼いだじゃん!?」
「いい感じの服があって〜!」
「またぁ!?」
うん、まぁ雑談なんてこんなもんよな。
「お、おいあれ…!」
「うん?なんだよ……てマジかよ!?ありゃ《絶影》じゃねぇか!初めて見た!!」
さっきCランクがどうのと言っていた2人組の男の冒険者たちが俺たちを見て声を上げた。
《絶影》?
ココさんの二つ名か?
「え?そんな有名な人だったのか?」
「なんで知らねぇんだよ!?じゃあなんのこと言ってたんだよ!?」
「いや、その人の隣が…」
「はぁ?絶影よりも驚くやつなんか…うおぉ!?」
なんすか。
「あれは《戦慄の天使》!?」
(え?)
何それっ!?
《戦慄の天使》!?
天使はまだ分かるけど、戦慄っ!?
「マ、マジかよ……《絶影》と《戦慄の天使》が一緒に歩いてるなんて……」
「お、俺昨日現場にいたんだけどさ……。殺気立ったその場の全員を落ち着かせた上に、揉めてた冒険者達を他の冒険者から守ったんだ……」
「そ、そうなのか……。でもそれならなんで《戦慄》なんて付いてるんだ?ただの天使で良いじゃないか」
本当にな。
なんでなんで?
「そ、それは……アババババ……」
え?
「お、おいどうした!?大丈夫か、しっかりしろっ!?」
なんか急に頭を抱えてしまった……。
なんで《戦慄》なんて物々しいものが付いてるのか分からんじゃないか……。
「有名?」
「そう見たいですね…不本意な感じっぽいですが……」
「噂なんてそんなもの」
「ですよね……」
結局《戦慄》の意味は分からずじまいのまま、俺たちはその場を離れていった。
(せ、戦慄……)
(いや、マグ…その…すまん……)
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
そんなことがあの後2回ほどあったが、それでも意味は分からぬまま鍛治ギルドに着いた。
「ここ」
「おぉ…」
これが鍛治ギルド……。
ここからでも金槌の音が聞こえる……。
はぁ〜…今すっごいワクワクしてるよ…俺…。
その時、急にギルドの扉がバンッ!と勢いよく開いた。
「ひいぃぃぃっ!!!??」
「た、たすけてくれぇぇ!!!」
「なんなのよぉぉ!!?」
そこから悲鳴を上げながら何人もの冒険者が出てきた。
て、呑気に言ってる場合じゃない!?
「まさか火事!?」
「ううん。いつものこと」
「えっ?」
いつもって…え?
いつも悲鳴叫びながら飛び出してくる人いるの?
「行こう」
「あっ、は、はい!」
まったく気にしてないココさんの後を追いかける形で、俺たちもギルドに入った。
ら…
「また来たか腰抜けがぁ!!!」
ヒュンッ!
ガシッ!
なんか…目の前にココさんの右手と、その手につかまれた鉄の剣が見えるんだけど……?
「大丈夫?」
「……え?何が起きたんです?」
「君に剣が投げられたのを私が掴んだ」
「あ、なるほど……ありがとうございます」
「ん」
……。
「え?なんで?」
「何が?」
「いや、もう、なんか、色々と疑問があるんですが!とりあえず!」
ココさん!
グローブしてるけど、それ…指抜きじゃん!!
「け、剣を掴んで大丈夫なんですかっ!?怪我はっ!?血はっ!?衛生兵っ!?」
「問題無いから落ち着いて」
落ち着けないよっ!?
俺が慌てふためいているところに、さっき入ったばかりのところに罵声を浴びせてきた声の主が来た。
その人は低身長に潤沢な髭、厳つい目つきで右手に金槌を持っている、ゴリゴリのドワーフだった。
「うるっせぇぞっ!!ピーピー騒いでんじゃねぇ!!あぁん?なんでぇおめぇさんかよ」
「こんにちは」
「おう。で?さっきからうるせぇこのガキは誰だ?」
「ギルドの使いの子」
「はぁ?こんなガキが来るなんて聞いてねぇ……」
「思いっきり話したわ馬鹿オヤジィィィィ!!!」
「ぐおおぉぉぉぉ!!?」
ココさんと話していたドワーフが、その後ろから聞こえてきた女の子の声と共に吹っ飛んできた。
軌道上にいた俺をココさんが抱えてくれたので、ドワーフは店の外まで吹っ飛び、地面に顔面で着地した。
それを見送ったのち、女の子が俺たちに話しかけてきた。
…歳はマグと同じぐらいかな?
赤茶色の髪の毛をひとつに束ねている。
…何だろ?ローポニーテール…みたいな…?髪の長い男性がやるようなやつ?みたいな?
背は俺よりも少し低いぐらいだ。
オヤジって言ってたし、この子もドワーフなんだろう。
「悪いな、大丈夫か?怪我とか無いか?」
「問題無い」
「ココさんは大丈夫だと分かってますけど、そっちの子は?」
「守ってくれたので体は無傷です……」
「そっか!なら良かった!」
心に深い傷を負ったけどね。
「えと…あの人は……?」
「いんだよ、馬鹿オヤジなんか!石頭で無駄に頑丈だから大丈夫だって!」
「誰が石頭じゃあぁぁ!!」
うわっ!?
復活した!?
「てめぇコラ!リオ!親の背中にドロップキックとはどういうつもりだぁ!?」
「うるせぇ馬鹿オヤジ!!オレと同年代の子に剣投げつけといて謝りもしねぇ馬鹿を蹴って何が悪いんだ、馬鹿オヤジ!!」
「親に向かってその口の聞き方は何だと言ってんだよゴラァァ!!!」
「オレとケンカするより先にやることあんだろ!?って言ってんのが聞こえねぇのかぁアァ!?」
…どうしよう。
あんなんさすがに止められないぞ……。
「やぁココさん!そっちのお嬢ちゃんも、いらっしゃい!」
「どうも」
「あ、えっと、お邪魔してます……」
途方に暮れた俺と慣れた様子のココさんに、鍛治ギルドの人が話しかけてくれた。
「とりあえず、話はこっちの安全なところで聞くよ。着いてきて」
「あ、はい」
良かった、安全地帯に連れていってくれるらしい。
…本当に大丈夫だよね?
未だドワーフの親子喧嘩が背後で続いているが、俺たちはその場を離れて、安全らしい部屋に向かうのだった。
「大体人に武器投げんなっていっつも言ってんだろうが馬鹿オヤジがぁぁ!!いつかほんとに殺しちまうぞっ!!?」
「そんなんそいつが弱ぇのが悪ぃんだろがぁぁ!!俺の所為にすんじゃねぇぇ!!!」
「どう考えてもお前が悪いわ馬鹿オヤジがぁぁぁぁ!!!!」
…あれ本当にほっとくの?




