42.ちょっとした後悔…ちょっとした哀しみ
チュンチュン……チチチ……
「…………」
朝だ。
案の定寝不足気味な私だよ。
そして寝たまま隣を見る。
そこにはフルールさんが寝ていた。
寝ている姿も綺麗ですね。
反対側を見る。
そこにはメリーちゃんが寝ている。
寝ている姿も愛らしいですね。
さて、なんで天国にいるんだっけ?
えーっと確か……。
『俺と関わった時点で、あなたには幸福になる未来しか無いんですよ』
…馬鹿じゃねぇの?
なんだ「幸福になる未来しか無い」って……。
いやまぁ、そりゃ幸せでいて欲しいですよ?
でもさ、それって俺がどうこうすることじゃ無いじゃん?
最終的に決めるのは自分じゃん?
頑張るよ?俺も。
でも手助けぐらいのつもりだったんだよ?
え?なにあのセリフ?
完全に「俺のもの」発言入ってない?
この人らの主、ハルキやで?
これが原因でハルキと敵対とか嫌やで?
そもそも俺は自分のことだけでも手一杯やで?マグの命がとても重いんやで?
さらに背負うの?
ああぁぁぁーー!!!
深夜テンションめぇぇーー!!!!
「はぁ…はぁ…」
1人静かに頭の中で悶え、しばらく経った後、目覚めたばかりだというのにかなり体力を使った気がする。
アホである。
そこまで考えちょっと悲しくなった為落ち着いた俺は、とりあえず起きることにした。
しっかし、危なかったな……。
俺の部屋は彼女たちが選んだ部屋とは違い、ゴリゴリに朝日が刺さる。
カーテンを閉めてなかったらフルールさんたちにダメージが入ってしまうところだった。
そこらへんはナイス判断だ、俺。
間に挟まれてはいるが、寄りかかってるだけで抱きつかれていたわけではなかったので、思ったよりすんなり天国から脱出してしまった。
…まぁ、あれ以上いたらちょっと理性が危なかったかもだし?
フルールさんのふわふわボディとメリーちゃんのぷにぷにボディをもっと感じりゃ良かったとか少しも思ってませんですし?
「……まだ深夜テンションが抜けてないなこりゃ……」
またなんかやらかす前にさっさと準備して、日課の練習を始めよう……。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「……おはよう、マーガレット……」
「ん、おはようございます、フルールさん」
中庭での練習を終え、リビングでのんびりしていたところにフルールさんが起きてきた。
「……あなた…朝早いのね……」
「まぁ色々とやりたいことがあるので。フルールさんは大丈夫ですか?あんまり朝に強いイメージが無いんですけど…」
「…苦手だけど…捕まってた時はそんな贅沢なことを言ってられなかったから……もう慣れたわ……」
「そ、そうですか……」
朝から重いものを聞いてしまったぜ。
「あー…メリーちゃんは?」
「まだ寝てるわ…あの子があんなに穏やかな顔で寝ているのを久しぶりに見たわ。ありがとう、マーガレット」
「…それは良かったです。でも、助けたのはハルキさんなので、お礼はそちらにお願いします」
「…えぇ……」
話終わってもフルールさんは俺のことをじっと見つめて動かない。
え〜っと…?
「あの…どうされました?」
「…いえ…昨日のは夢だったのかなって……」
「…あぁ、なるほど……」
夜遅かったし、俺も今マーガレットモードだしな。
うん…
「夢じゃありませんよ」
「!」
「あなたもメリーちゃんも、俺たちが幸せにしますよ」
「……そう…それなら、うん…」
これで安心してくれたかな?
見る限りは、大丈夫だと思うけど。
ていうか俺たちって言ったけど、思いっきり独断で言っちゃったけど……。
…まぁ!後で言っとこう!!
あ、言っとこうで気が付いたわ。
「フルールさん。メイカさんたちには2人の事を教えるんですか?」
俺はハルキに言われて知っていたし、昨夜に判明したとしても多分受け入れたと思う。
俺、そういうところ雑だから。
でもメイカさんたちは違う。
俺のような異世界人でも無く、吸血鬼を悪と言うこちらの世界の人間だ。
俺が受け入れられた事自体奇跡のようなもんだ。
いやほんとなんでだろ?
…とにかく、異世界人とはいえ「人間」である俺たちと違い、フルールさんたちは吸血鬼。
この違いでメイカさんたちがどんな反応をするか……。
正直わからない。
俺としては受け入れてくれると思う。
でも、この世界の《常識》がそうじゃないかもしれないと、俺に思わせる。
…本当に、噂ってのは厄介だよ……。
「……そうね、このまま隠しっぱなしというのも、ね……」
「…別に、無理をする必要は無いんですよ?」
このまま隠し倒すことも、難しいだろうが不可能ではないはずだ。多分。
「いえ…言うわ。…万が一駄目だったとしても、ハルキのところで預かってもらえるのでしょ?」
なるほど。当たって砕けろ精神ではないのか。
「はい。元々ハルキが買ったんですよ?今更無理だなんて言わせませんよ」
「ふふ、それなら心強いわね。でも…私は大丈夫だと信じるわ」
「?何故ですか?」
信じるったって、昨日少し話しただけだ。
なにを根拠にそんなことを……?
そう考えていた俺にフルールさんは微笑んだ。
「あなたの仲間なのでしょう?なら、信じるわ」
「へぁっ!?」
…それは卑怯だろう……。
俺が信じる、お前を信じたってことだろ?
それほど俺のことを信じてくれているのはありがたいが、少し…いや、かなりくすぐったい気分だ。
「ふふふ…昨日あんな事を言ってたのに、こんな事で照れちゃうの?」
「……誰だってこうなりますよ……」
…そんないい笑顔でそんなこと言われたら誰だって照れるわ。
「おはよー……あ!マーガレットちゃんが照れてる!!?」
げっ!?メイカさんっ!?
なんてタイミングだっ!!?
「マーガレットちゃんかわいいぃ〜!!ねぇねぇ、どうしたの?フルールと何があったの?ねぇねぇ、ねぇねぇ!」
「朝からうるさいぞメイカ……どうした……?」
「あ!ディッグ、聞いて!マーガレットちゃんが……!」
この後ケランさんも起きてきたのだが、メイカさんがしばらく興奮状態だった為、結局メリーちゃんが起きてくるまで、フルールさんの話をすることが出来なかった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「…ということなの」
「「「………」」」
自分たちが吸血鬼だという事をメイカさんたちに話したフルールさん。
さて…どうなるか……
「なんというか……なぁ?」
「うん…正直今更というか……ねぇ?」
「マーガレットちゃんとコウスケさんのことと比べたら……」
「「「知ってる言葉だけだったからむしろ安心した」」」
…彼らは自分たちが理解できる言葉だけだったフルールさんの話より、異世界人やら憑依やら普通はおとぎ話ですら聞くことが無さそうな単語ばっかりだった俺の話の方が意味分からなくて困惑したようだ。
うん。
「酷くない?」
「だってねぇ?」
「異世界って言われてもなぁ?」
「分かりませんよねぇ?」
「昨日は信じてくれたのにっ!?」
あんまりだっ!訴えてやるっ!!
どっかにっ!!!
「えっと…ということは、私たちのことは……」
「うん!別に気にしないよ!というか、吸血鬼とゆっくりお話できる機会なんて滅多に無いし、これから楽しみだわ!」
「吸血鬼って言われて、正直最初は警戒したが、眷属化の条件もシビアだし、何よりアンタにその気は無いんだろう?なら俺も問題ねぇよ」
「僕は僧侶ですが、別に何処かの神を信仰しているわけでは無いので、そこら辺も安心してください」
「!……ありがとう!」
「…………ありがとう」
メイカさんたちの答えに涙ぐんでお礼を言うフルールさん。
それに続いてメリーちゃんもお礼を言う。
…良かったけどさ。
俺へのあの扱いの後でのこの空気は、とても居た堪れないものがあるよ?
とても釈然としないよ?
「さ!それじゃあさっそくだけど、フルールはお料理できるの?」
「えぇ、一応。でもしばらくしてないから、腕が落ちてるかも……」
「それはしょうがないよ〜。大丈夫大丈夫、私たちは大抵のものなら食べられるから♫」
「それはそれでなんだか心配なんだけど……」
未だ納得のいってない俺を放置して盛り上がる皆さま。
いーよいーよ、彼女らが幸せならいーよ。
あ、ディッグさん、ケランさん。
お買い物いってらっしゃい。
私はこのやるせなさを魔法の練習にぶつけて待ってます。
数分後、彼らが買ってきた食材でフルールさんが作った料理を食べた俺たちは、彼女に頭を下げ、
「「「「夜ご飯もお願いします!」」」」
と全力で頼んだ。
「…………?」
その様子を不思議そうに見るメリーちゃんの顔は、昨日初めて見た時よりも柔らかく感じた。




