414.再会…壊れた狐
???「もし……もし……」
コウスケ「ん…うぅん……?」
マグ(はれ……?)
優しく呼びかけてくる声で目覚める。
どうやら少し意識が飛んでしまったようだ。
まぁ無茶したからな……。
???「お怪我はありませんか?」
コウスケ「えっと…はい、大丈夫そうです……」
???「それはよかったです」
コウスケ「はい。……ところであなたは……?」
俺は俺を抱えている見知らぬ狐人族にそう問いかける。
どことなくユーリさんの面影を感じる白いお姉さんは、敵意が無いようなので多分捕まったわけではないと思うのだが、その予想は正しいようだ。
???「私はおじいさんがあなたに預けた式紙ですよ」
コウスケ「式紙……あっ…なるほど……」
マグ(キレイな人ですね……)
道理で敵意が無いわけだ。
味方なんだからそんなものあるわけが無い。
一応懐を確認したら本当に無くなっているのでウソでもなさそうだ。
というかこれ気絶して抱き抱えられてたってことは受け身失敗したってことだよな?
そんな俺を抱き留めてくれたんだから敵なわけがねぇわな。
コウスケ「ありがとうございます」
式紙さん「いいえ。それよりも急いだほうがよろしいのでは?あの子が待っていますよ?」
コウスケ「はい、そうします」
???「そうは参りません」
コウスケ・マグ「(!)」
式紙さんに立たせてもらいユーリさんのもとへと向かおうとしたところで呼び止められる。
くそっ…まだ中に残ってたのか……!
式紙さん「マーガレットさん。あの子がいるのはあの子のいる先を曲がったところにある部屋です。その部屋へはこの一本の道しかありません」
コウスケ「なら押し通るしかないということですか……」
里の狐「そう簡単に通れるとでも?若輩者といえど、子どもと式紙程度に負けるほど弱くはありませんよ?」
式紙さん「いいえ違いますよ、ヒナタの娘」
里の者「っ!?何故母の名を…!?」
式紙さん「飛びますよ」
コウスケ・マグ「(えっ)」
言うが否や、俺たちは一瞬にして相手の背後に回り込んでいた。
式紙さん「では、この子の相手は私が致しますので、ユーリのことを頼みましたよ?」
コウスケ・マグ「(は、はい!)」
里の狐「ま、待ちなさい!」
式紙さん「おっと」
追いかけようとした里の狐を式神さんは手を広げて制し、先ほどの意趣返しとばかりにこう言い放った。
式神さん「そう簡単に通れるとでも?式紙といえど、若輩者に負けるほど弱くはありませんよ♪」
マグ(間違いなくおじいさんの式紙さんですねぇ……)
コウスケ(イケイケだねぇ……)
だが今はそれが頼もしい限りである。
お言葉に甘えて式紙さんに任せて言われた通りに角を曲がると、ポツン…といった感じで襖が1つ…1組?
まぁとにかく1個あった。
マグ(この先にユーリさんがいるんですね……)
コウスケ(うん……)
急に緊張してきた俺は1度深呼吸を挟んだ。
コウスケ(開けるよ)
マグ(はい)
マグと覚悟を決めたところで、戸に手をかけ…ようとしたところで勢いよく開いた。
コウスケ・マグ「(へっ?)」
なんて間抜けな声を出している間に部屋の中に引っ張られた俺たちは、その引き寄せた張本人に思いっきり抱きしめられた。
ユーリ「すんすん…あぁ〜……♪コウスケとマーガレットだぁ……♪ほんとに本物だぁ……♪来てくれたんだぁ……♡」
コウスケ「んむむぅ……!」
マグ(ユーリさん!)
その人は、俺たちが連れ戻す目標人物であるユーリさんだった。
ユーリ「あはっ★」
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その少し前…
〔シャール〕
ヤクモ「…随分と無茶をする娘だ……」
目的の建物から溢れる煙を眺めながら、朱く弾ける花|畑《・》の中にいるヤクモが呆れ気味にそう言った。
気持ちはとてもよくわかる。
なんせマーガレットは堂々と啖呵を切った後、相手の攻撃の合図と共に向こうまで飛んで…いや、吹き飛んで行ったのだから。
特別な身体強化で体に雷と狼らしき耳と尻尾を付けていたのでおそらく大丈夫だとは思うが、それにしたってやったことが無茶苦茶すぎる。
地面に跳ね板トラップのようなものを作り自身を射出。
それと同時に今ヤクモたちが立っている朱い雷の花畑、飛び出す時に起こした爆風の魔法を発動。
でも多分それだけじゃない。
何か雷属性の魔法を使った形跡がある。
地面に残る焦げた痕。
跳ね板と爆風だけなら円を描くように飛ぶはずなのに、その痕はムラなく均等に建物まで伸びている。
おそらくそれが私たちの目で追えなかった魔法。
止められなかったのか、元々止めるつもりがなかったのかまではわからないが、どちらにせよヤクモの横を通り抜けることのできたとんでもない魔法。
着地点に魔法でクッションを作ればご覧の通り、発動と着地がほとんど同時のとんでもない力を持っている。
クッションが作れれば、だけど。
おじいさん「…あの魔法で不意打ちすれば倒せたんじゃないかのぅ……?」
エスト「当たったらさすがに粉々になるんじゃないかなぁ……?」
シャール「ん。それにマーガレットに殺しは無理」
やる気がないしやらせるつもりもないようだからいいけど。
こっちとしても、ちょっと特殊とはいえそれ以外は普通な子どもに、しかも大事な家族であるチェルシーと仲良しな子にそんなことをさせるつもりはさらさら無いし。
それよりも、私たちは私たちの心配をしないといけない。
マーガレットの置き土産である雷の花畑はしっかり効力を発揮している。
しかし、それは一般兵士…と言っていいかはわからないけど、ともかく周りの弱い敵は痺れて動きが鈍くなっている、または行動不能にまで陥っているにも関わらず、ヤクモを始めとする一部の熟練者っぽい人たちには効果が薄そうだ。
ヤクモに至ってはダメージが入っているかも怪しいほど涼しい顔で立ち続けている。
でも敵の数が減ったのも事実。
この機を逃さず、里を制圧する気持ちで戦い、マーガレットたちがユーリを説得し終えるのを待つ。
ヤクモ「まぁいい。向こうにも側使えがいる。そうでなくても、今のユーリに話が通じるとは思えん」
エスト「どういうこと!?ユーリに何をしたの!」
ヤクモの言葉にエストが食ってかかる。
時間をかけると周りの敵が起き上がってきちゃうから早く戦いたいのだけど……でも時間稼ぎという目的は達成できる……。
それにマーガレットからユーリの様子を聞いたのはもう10日も前のこと。
その間にどうなったのかは気になるところである。
もしも想定よりヤバそうなら急いで向こうに助けに行く必要性も出てくるから。
ヤクモ「御子として正しい教養を身につけるための勉強をさせただけだ。逃げ出す以前と何も変わったことはしていない」
ウソばっかり。
こっちはフォバからその辺りはある程度聞いているんだ。
おじいさん「それならばまだ話くらいなら聞くはずじゃが?」
ヤクモ「外に出たせいだろう。こちらでの生活に戻りたくなかったようだ。だから未練を断てるように向こうから持ってきた物を処分したのだが、それがよほど腹に据えかねたようでな」
エスト「そんなの当たり前じゃん!自分のものを…しかもこっちに持ってこれた数少ない物を勝手に捨てられたら誰だって怒るよ!」
ヤクモ「御子にはそのようなものは必要ない。そうでしょう?父上」
おじいさん「……」
エスト「おじいちゃん……?もしかして……」
おじいさんは何も言わない。
でもそれが、過去に何をしたのかを雄弁に物語っていた。
ヤクモ「父上。貴方に私を責める権利など無い。私は先代の御子として教えられたことをユーリに教えているだけだ。これまでずっと引き継がれてきたものを次世代に伝えてきただけなのだ。かつての貴方達のように!」
おじいさん「……」
おじいさんはずっと黙ったまま何も答えない。
正直まずい。
向こうのペースに飲まれ始めている。
時間稼ぎをするにしても、こちらが主導権を握れていなければあっという間に鎮圧されてしまう。
数で不利を負い、実力もおそらくこの3人で挑んでギリギリといったところな実力者が1人向こうにいる。
どうする……どうする……。
脳をフル回転させるものの有効な策は浮かばない。
そしてついに、マーガレットの置き土産が消え始めた。
ヤクモ「ふむ……術者不在だというのに思いのほか長く残ったな。やはりあの娘は我が里の戦力に欲しい。ユーリとは女同士だから無理だが、その子どもに男が産まれれば世継ぎを残す相手としてもふさわしいだろう」
マーガレットが気に入られている……。
まだ10歳の子どもに戦力だとか世継ぎだとか好き勝手言って……。
エスト「へへーん、残念でしたー!マーガレットにはもう心に決めた人がいるもんねーだ!」
ヤクモ「それがどうした。どうせこの里から出すつもりはないのだから、外に誰がいようと関係ない」
エスト「えぇっ!?」
シャール「…最低……」
ヤクモ「なんとでも言うがいい。それに他人事のように言っているが、お前達も里の者を薙ぎ倒せる優秀な人物なのだぞ?」
エスト「うぇぇっ!?もしかしてエストたちも狙われてる!?ヤダヤダ!絶対イヤ!」
シャール「ん、こんなところで暮らすなんてお断り。それなら死んだ方がまだマシ」
ヤクモ「そうか。ならば死ぬがいい」
あ、しまった。
キィンッ!
嵌められたと思った次の瞬間に迫っていたヤクモの槍をおじいさんが弾く。
おじいさん「ヤクモは儂が引きつけておく!シャール殿たちは他の者を!」
エスト「わかった!」
シャール「ん、了解!」
ヤクモが動いたことで再び戦闘が始まってしまった。
痺れていた奴らもある程度回復しつつあるので、すぐにでもこちらに加勢に来るだろう。
その前に数を減らすべきだ。
しかし、敵もそれを理解しているようで、雷による痺れが効きにくかった熟練者たちを筆頭に波状攻撃を繰り出してくる。
おじいさんの方には行ってないようで、これはおそらくヤクモが片を付けるつもりだからだろう。
さっきの話し合いからわかることではあるけど、この里の合理主義者たちでもそういうところはあるんだなとも思う。
とにかく、強力な横槍が飛んでこないのはありがたいので、今のうちにこちらを急いで片さないと。
そうでなくても時間を稼げる状況には持ち込みたい。
とはいえおそらく長くは持たない……。
マーガレット…そしてコウスケ。
できれば急いでくれると助かる……!
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〔コウスケ〕
ユーリ「ねっ!助けに来てくれたんでしょ?そうなんでしょ!あははっ♪すごーい!さすがにここまではこれないと思ってたから凄く嬉しいよー!ねぇねぇ!どうやってきたの?誰かと一緒?里のみんなはどうしたの?どうやって逃げるつもりなの?教えて教えて!」
コウスケ「んむむむぅー!んむぅむぅー!(教えるから!離してー!)」
マグ(ユ、ユーリさん……?)
テンションフルスロットルなユーリさんの胸に抱かれながらぐるんぐるん振り回される俺と、そんなユーリさんの様子にさすがにヤバいと察したマグ。
久しぶりのふにふにを感じる余裕も無い様子で心配そうな声をあげている。
と、ここでようやく会話ができないことに気が付いたユーリさんが俺を胸から離してくれた。
なお抱えたままではある。
ユーリ「あっ!ごめんごめん!これじゃあ話せないよね!」
コウスケ「ぷはっ!ふぅ……お元気そうでなによりですよ、ユーリさん」
まぁ……明らかに空元気だけど。
コウスケ「さて、それでは時間もあまりかけられないので今の質問にちゃっちゃか答えさせてもらいますよ」
ユーリ「聞かせて聞かせてー!」
マグ(なんだかちょっとショコラ味があるような……)
コウスケ(確かに……)
元から明るく元気な人ではあったが、ここまでではなかった。
ショコラちゃん味がある…というよりは、幼児退行と言った方が正しいかも……?
そう考えながらユーリさんを見る。
ユーリ「?」
小首を傾げるユーリさんはまったくもって落ち着きがなく、体をゆらゆらしまくっている。
そしたら当然揺れるアレ。
マグ(ふむむ…!)
マグも唸る光景が見れるわけですが、この落ち着きのなさは本当に子どものそれと同じに見える。
こんな子どもいたら人類の大半がロリコンになるなぁ。
まぁそれはさておき。
コウスケ「それじゃあまぁ、まずはどうやって来たかからご説明をば」
ユーリ「うん!」
コウスケ「ハルキから凄い馬を借りておじいさん…えーっと、ユーリさんのおじいさんの案内でここに来ました」
ユーリ「えっ!お爺様が!?」
コウスケ「はい」
ユーリ「そうなんだぁ……だからお爺様の声が聞こえてたんだ」
さすがユーリさん。
耳がいい。
コウスケ「それでまぁ今言ったおじいさんと、俺の護衛にエストさんとシャールさんが一緒に来てくれてます」
ユーリ「やっぱりエストとシャールか〜!うんうん!あの2人ならこの里の人なんか楽勝だろうね♪」
コウスケ(なんかって言ったでこの人……)
マグ(本当に嫌いなんですね……仕方ないことではありますが……)
コウスケ「で、おじいさんがヤクモさんを、エストさんとシャールさんが他の人たちを引きつけてる間に俺がこうして乗り込んでユーリさんを説得するっていう……」
ユーリ「じゃあ順調にここまで来れたってことだ!凄いね〜!」
コウスケ「あ、ありがとうございます」
コウスケ・マグ((ほんとにテンション高いな〜))
ユーリ「あれ?でも説得って何?まさか私が断ると思ってたってこと?」
コウスケ「いや、多分連れ帰るだけなら2つ返事で承諾してくれるだろうなとは思ってました」
ユーリ「だよね?それじゃあ何か他にやるの?」
コウスケ「はい」
さてと…推定正念場なわけですが……。
今のところちょっとテンションがぶち上がってるものの、それ以外は普通にお話ができてるわけで、もしかしたらこっちもサクッと承諾してくれるかな〜?と思ったり。
コウスケ「え〜と、このまま逃げたとしてもどうせまたヤクモさんはユーリさんを追って来るでしょう?」
ユーリ「そうだね」
コウスケ「それで1度成功してしまった俺たちに手心とか加えてくれる人とは思えないんですね」
ユーリ「血も涙もないからね」
コウスケ「そうなると今度は他の子たち…メイカさんやフルールさん……もしかしたらショコラちゃんたち子ども組にも何かしらしてくる可能性があるかもって考えて……」
ユーリ「うんうん、あの人やるね。人間じゃないもん」
マグ(評価低いな〜……)
コウスケ(というかほぼ最低値では……?)
まぁ父親の評価はいいとして……。
コウスケ「それじゃあどうするかってところで…ちょっと信じられないとは思うんですけど……フォバが夢に出てきまして……」
ユーリ「えっ?」
そりゃそうなるよね!
でも言うしかないし勢いで乗り切るぜ!
コウスケ「フォバ曰く復活のための魔力自体はあるから、あとは依代が必要ってことで、そのために神装具を作って御子であるユーリさんに装備してもらえば、その体に降りたフォバが里の人たちを説得するって作戦で、信じる神直々の言葉ならあの狂信者たちも言うことを聞かざるを得ないだろうって……」
ユーリ「ふっ……」
コウスケ「ユ、ユーリさん?」
鼻で笑われてしまった。
いやまぁそういう反応になるのはしょうがないんだけど。
コウスケ「えと…確かに信じられないとは思うんですけど、俺とマグは確かに…」
ユーリ「あはは、大丈夫大丈夫。信じるよ。でもそんな作戦でわざわざここまで来たの?」
コウスケ「は、はい!」
マグ(ユーリさん……?)
なんだか様子がおかしいユーリさんにマグが心配そうな声を出した。
俺も今凄い嫌な予感がしてきたんだけど……。
ユーリ「フォバ様を私に降ろすって?」
コウスケ「結果的には、はい。でも体は返してくれるって…」
ユーリ「ウソだ」
コウスケ「えっ……」
マグ(ユ、ユーリさん……?)
言葉の途中で思いっきり否定された俺たちは唖然としてユーリさんを見つめる。
ユーリさんはそんな俺たちを尻目に、頭を抱えてぶつぶつ言い始めた。
ユーリ「そうやって言えば私が納得すると思ったんだ。マーガレットに言わせれば快く体を差し出すって。でもそんなわけない。返してくれるわけない。だってあいつらの神様だもん。絶対に小狡いことをしてくるに決まってるんだ」
コウスケ「ユーリさん……?」
ユーリ「そうか、お爺様……お爺様が吹き込んだんだ、きっとそうだ。お爺様押されてるみたいだし、最初からそのつもりでみんなを連れてきたんだ。強い人が欲しいから」
マグ(コ、コウスケさん……これマズいんじゃ……?)
コウスケ(マジヤバいかも……)
ユーリさんの頭脳がフル回転してあることないこと考え込んでしまっている。
言うなれば被害妄想…ネガティブシンキング。
これは非常にマズい。
コウスケ「ユーリさ…」
ユーリ「っ!」
俺が声をかけた瞬間にユーリさんが後ろに飛び退り壁に背もたれる。
コウスケ・マグ「(ユ、ユーリさん……?)」
ユーリ「やだやだやだ…!フォバなんて知らない……!私はフォバを復活させるための人形じゃない……!」
イヤイヤ言いながらユーリさんは頭を抱えその場に座り込んでしまった。
ヤバい…めちゃくちゃ錯乱してるっぽい……。
コウスケ「ユーリさ…」
ユーリ「来ないでっ!」
コウスケ・マグ「(っ!)」
明確に言葉で拒絶された俺たちは、さらにユーリさんの怯えた顔を見て完全に動きが止まった。
ユーリさんに敵として捉えられてるんだと、頭が真っ白になってしまった。




