41.吸血鬼のお話…そして俺の理想のお話
はいどうも〜!
絶賛深夜テンション!!
マーガレット・ファルクラフト!
inコウスケで〜すっ☆
はぁ〜☆
落ち着こ。
というわけで、俺とメリーちゃん、そしてフルールさんの3人はただいま同じベッドの上に座ってお話をしようというところです。
ちなみにマグは熟睡してるのか返事がありません。
多分俺今日も寝不足だわ。
「えーっとじゃあ、いくつか質問があるので無理のない範囲で答えてくださいね」
「え、えぇ…分かったわ」
「それじゃあまずは…吸血について教えてください」
「吸血について?」
「はい。私の知ってる知識だと、血を吸われたらその吸血鬼の眷属になる、だとか、困るなぁってことがあるので、色々教えて欲しいんです」
「あぁ、そういうこと…分かったわ」
俺は目の前のフルールさんに色々と教えてもらおうとする。
フルールさんはベッドの端に座っていて、メリーちゃんはフルールさんの隣に隠れてしまっている。
2人は床に座ろうとしていたが、それは俺の方が見てられないのでどうにか頼み込んだ。
「あなたの言う通り、私たち吸血鬼は本来、誰かの血を吸ってその相手を眷属にして従えることが出来るわ。でもそれをするには相手の体に自分の魔力を混ぜることも必要なの」
「ふむ…混ぜるっていうのは具体的にどのくらいとか、目安はあるんですか?」
「そうね……目安までは分からないけど、少しだけだと効力が無いわね。そうねぇ……カップ一杯ぐらいだと、ちょっとぼーっとする、ぐらいだと思うわ」
「…それは結構な量が必要ですね……」
その感じだと、ジョッキ一杯ぐらいなら抵抗力の弱い相手なら眷属に出来そうだけど……それでもなかなかの量だぞ?
「ん、ちょっと待ってください?眷属にした相手には、定期的に魔力を与えないと眷属化が解けたりしますか?」
「そう…ね……うん、解ける。その間の記憶は曖昧なものになるらしいけどね。吸った血が薄まっても駄目よ」
ふぅむ…それなら仮に眷属化が解けても、ワンチャン相手にバレない可能性もあるのか……。
うーん…それでもギャンブルだから、やっぱり確実なのは解かれないことだな。
「吸った血が薄まるというと…んー…例えば1週間後とかは?」
「無理ね。大体3日以内ぐらいに出来ないと駄目だわ」
なるほど……。
「てことはつまり、眷属にするには…ひとつ目に相手の血を吸うこと、ふたつ目に相手に自分の魔力を大量に摂取させること、みっつ目に3日以内に血を吸い、かつ魔力を与えて眷属化を維持すること…てことですね?」
「その通りよ」
「…だいぶシビアですね……」
というかほぼ無理ゲーでは?
「まぁ、そうなのだけどね…条件が揃えば、割といけるものよ……」
フルールさんが暗い顔をしてそう言う。
…多分奴隷時代にその手を使ったのだろうな……。
そしてその条件を自然かつ効率的にこなすには……
「…フルールさん」
「なに?」
「ここにはあなた達を傷つける者はいません」
「!」
俺の言葉に体を震わせるフルールさん。
「外にはいるでしょうけど、その分優しい人もいっぱいいます。ですから、そういう人がいても、守れますし、守ります」
「…無理よ……私たち吸血鬼は他の種族から良く思われてないわ……眷属化なんて力があるんですもの……」
「それでも、少なくとも私は味方です」
「!!」
またビクッと体を震わせた。
眷属化?なるほど怖いな。
だがそれをするにはかなりの制約が必要だし、何より力で押さえ込むことなど他の種族もやっている。
「眷属化なんて優しいものですよ。そんな力が無くてもあなたを奴隷にした者がいる。誰かを苦しめる手段は星の数ほどある。能力のせいだなんて、冤罪をふっかけるのにちょうどいいから利用しただけですよ」
「それは……」
「いいですか?この際ハッキリ言いますが、私は普通の人間じゃありません」
「…え?」
俺の突然のカミングアウトに呆気に取られるフルールさん。
その影に隠れていたメリーちゃんも、驚いた顔でこちらを見ている。
「私の体の中には2人の魂が入っています。その理由はこの体の子が村を焼き出されたからです。そこに異世界で死んだ俺の魂が偶然入ったことで、俺とマーガレットは2人で1人の人間になりました」
「ふ、2人…異世界……?」
「ハルキだってそうです。彼はダンジョンマスターです」
「へっ!?はっ!?ダ、ダンジョンマスター!?」
「どーですか、フルールさん。あなたの近くにはこんなイレギュラーがいて、それが普通に暮らしているんですよ?ヤバイでしょう?」
「い、いやっ!?そ、そんなこと言われても……!?」
ふはは、テンパってるな!
ならばこのまま押して参る!
「そんなんがバレたらどうなると思います?少女の体のお兄さんに、どちらかと言えば人類の敵のダンジョンマスターですよ?まぁ〜ロクな目には会いませんよ?」
「な、なんでそんなこと…そんな軽く言えるの……?」
「仲間がいますから」
「!!」
仲間……。
今のフルールさんには頼れる人がいない。
誰かを頼ろうにも、種族のせいで迫害され、また自分も自分の種族の事を理由に身を引いてしまっているからだ。
「俺には頼れる仲間がいます。ハルキにメイカさんたちに、ララさんやチェルシーたちハルキハーレムのみんな、事情を知っても笑って受け入れてくれる大切な仲間がいます」
「……」
「何より俺にはマグがいる」
「マグ……?」
「この体の本来の持ち主です」
「ほ、本来の持ち主とも仲間だと言うの……?」
「仲間どころか婚約者ですよ」
「こ、婚約者っ!?」
「はいっ!自慢の婚約者ですっ!!」
「ーーーー」
あまりにも畳みかけられる情報の多さに、もう開いた口が塞がらない、といった様子のフルールさん。
「そして今日からあなたも仲間です」
「……えっ?」
「えっ?じゃないですよ。当然じゃないですか。こんな秘密知ったあなたはもう私たちの仲間になるしか無いんですよ?」
「えっ?えっ?」
「んー、とはいえ俺もそこまで鬼じゃあありません。というわけで選んでください。二択ですよ」
「え、選ぶ……?」
無理やり引き込むのと、自分の意思で加わるのとでは心持ちがだいぶ違ってくるからな。
「その1、俺の提案を断り、このままここでゆったりと過ごす。別に断ったからって出てけとか言いませんからそこは安心してください。あぁでももちろん、俺たちの秘密を誰にも言わないっていうのが条件に入りますけどね」
「……ふたつ目は?」
「ではその2、さっき言った通り俺たちの仲間になる。仲間になると大変ですよ〜?やたら個性的な人がいっぱいいますからねぇ。秘密に関するお仕事とかも入っちゃうかもですねぇ〜。あ、その場合ちゃんと報酬は出ますよ?」
「……どっちも私たちにはありがたいお話なんだけど?」
「え?そりゃあそうでしょう」
「え?」
んな当たり前のことを聞かれても困る。
「俺は基本的にマグ第一に行動します。よって、マグが幸せになるように周りの人たちも幸せでいて欲しいんですよ。だからまぁ諦めてください」
「あ、諦めるって……」
「不幸になるのを諦めてください」
「え、えぇ〜……?」
マグが幸せになるのが俺の望みだ。
そのために龍を落とすし、お金を稼いだり、人脈を築いたりする。
そして、マグは優しい子だ。
フルールさんの身の上話を聞いて、その悲惨さと、その話を聞いて自分の心配をしてしまった罪悪感で泣き出してしまうほどに。
つまりこの子を幸せにするには周りの人も幸せじゃないと駄目なのだ。
しかも管理された幸せな世界じゃ駄目だ。
それこそマグの気を揉むし、何より俺が気に入らない。
幸福じゃないなら死んでくれとか言わない。
普通に怖い。
でもそういう歌って割と好き。
ゲームとしても別に気にならない。
貢献活動に勤しんでいた時期もあるし。
まぁそれはとにかく、周りの人にも、心から幸せになってもらって初めて俺の理想は叶うのだ。
他愛のない話で盛り上がって、馬鹿話で馬鹿な喧嘩して、ダンジョンに潜ってあれやこれやとまた盛り上がって。
そんな日常を俺は送ってもらいたい。
もう二度と心を塞ぎ込まないように、もう二度と大切な人を失わないように。
だから諦めろ。
「俺と関わった時点で、あなたには幸福になる未来しか無いんですよ」
俺はこのアホみたいな幼児の夢を、全力で叶えるつもりだから。




