410.外での行動…知識もりもり
街を出て早数時間。
俺たちはお昼ご飯の時間ということで小休止を挟むことに。
俺はそこでおじいさんの言葉に驚いた。
コウスケ「えっ、食料調達ですか?」
おじいさん「うむ」
食料調達…つまり野草やら野キノコとかを取ったり、魚や肉を取るために漁とか猟をしたりするあれだよな?
とってもサバイバルでまさしく野営って感じではあるが……。
コウスケ「でも、食料は往復でも余裕が出来るくらい持ってきましたよね?」
そう。
マグ大好きメイカさんがそんな必須ではないのに命の危険がほんの少しでもあるようなものをマグ(の体を使う俺)にさせないように、事前に予想されるトラブルは先んじて潰せるようにしてくれているのだ。
そのひとつにはもちろん食料事情も含まれており、各々のマジックバッグには街から里までの推定到着日数の3倍ほど…まぁ要は1往復してもう1回里まで行けるほどの量が詰め込まれているのだ。
最悪誰か1人がなんらかの理由でバッグを紛失してしまっても、どうにか賄えるくらいにはあるので、そんな食料を使わずに初日からサバイボゥするの?という疑問がどうしても出てきてしまう。
しかし多少のブラックジョークは言っても、こういう危険を伴いそうな冗談は言わないであろうおじいさんのことだ。
何かしらの理由があるのだろう。
あるといいな。
あってほしいな。
そんな俺の願いは無事に叶ったようで、おじいさんは理由をちゃんと教えてくれた。
おじいさん「それはもちろん承知しておる。いやほんとにたっぷり入れてくれたわけじゃが……しかしこれも立派な魔道具である以上、魔力がほんのりとあるわけじゃ。魔力が荒れているような不安定な場所では少なからず影響を受けるし、魔力に聡い者にはこの微弱な量でも気付かれる。ヤクモや里の者たちのような相手にな」
コウスケ「ふむ……ということは、里に近づいてきたらバッグを外すってことですか?」
おじいさん「それも手ではあるが、それ以上に危険を負うことになるからそこまではせん。そもそもお嬢ちゃんはバッグ以上に目立つからの」
シャール「ん。マーガレットの気配はパチパチしてるからわかりやすい」
コウスケ・マグ「(パチパチ?)」
マグ(雷の魔力が漏れてるってことですかね?)
コウスケ(そういうことなのかね?)
エスト「それにいつも甘い良い香りがするからね!」
コウスケ「それはまぁわかります」
コウスケ(いつも嗅いでるので)
マグ(コウスケさんさすがに恥ずかしいですよぅ♡)
コウスケ(すいやせん)
その割にはめっちゃ嬉しそう。
おじいさん「まぁともかく、マジックバッグに限った話ではないが便利なものに慣れすぎるのも良くないということじゃ。それにこういう機会に知識を得るというのも大事なことじゃぞ?」
コウスケ「ふむ…わかりました」
スマホが便利だからって使いすぎると、手元にない時や不意に使えなくなった時にパニックになる…みたいなもんか。
そんなニュースあったなぁ。
それに確かにいろいろ知っておくに越したことは無いからな。
どうせだし覚えていこう。
おじいさん「よし。では儂がお嬢ちゃんに教えながら付近を回ってくるから、エスト殿とシャール殿は食事の準備をお願いしたい」
エスト「いいよー!」
シャール「ん」
おじいさん「では行こうかの」
コウスケ・マグ「(はい)」
というわけでキャンプ地周辺をおじいさんと一緒に散策した。
食べられる野草や薬として使える植物。
毒のあるキノコや花。
足跡や糞、傷跡などのマーキングから予想できる生物の特徴など、外で役立つ情報をたくさん教わった。
散策中に危険な動物や魔物などに遭遇することも無かったので、ちょっとしたハイキング気分だった。
あれ、ハイキングだっけ?ピクニックだっけ?
確か目的によって呼び名が違かった気がするんだけど、肝心のそれを忘れてしまった。
まぁいいか。
【※ピクニック・自然の中で食事を楽しむこと…ハイキング・自然の中で歩くのを楽しむこと…だそうです。なので今回だとハイキングが正しそうですね、覚えてコウスケ】
なんか今責任を感じた気もするがそれもまぁいいか。
とにかく、いろいろ教わりながら採取を終わらせた俺たちは、焚き火と人数分の携帯型のイスを用意してくれていたエストさんとシャールさんの元に戻り、持ってきた食料少しと今取った野草とキノコをフライパンで焼いて食べた。
街で美味しいものばかり食べてきた俺にとって野草たちはやはり数段劣っていると言わざるを得ないのだが、思ったよりは美味しくいただけたのでちょっと意外だった。
キャンプ飯補正でもかかっていたのだろうか?
なんにせよそんなテンションの下がるものじゃなくて何よりだ。
まぁシンプルにキノコが苦手なのが
ご飯を食べ終えたら、少しだけ休憩したのち再び馬に乗る。
この休憩にはもちろんトイレ休憩も含まれていたのだが…まぁそれは割愛。
ざっくり言うとおじいさんの代わりにシャールさんが教えてくれたり、バッグの中にバッチリ拭くものなどが準備されてたり…あとするときは無防備だから誰かを護衛につけるよう言われたりしたくらいだ。
あんま詳しく言うもんでもないだろうそうだろう?
ってなわけでまた移動。
さすがに午前中の数時間で馬移動には慣れ、なんならすでに若干の飽きを感じてきている。
そりゃあそうだ。
おじいさんに支えてもらってようやく安定しているような状態に加え、こちらの世界では見たことがないほど馬が速いため手を離そうなどと考える余裕もなく、さらに言えば風圧も強いため喋るのも難しい。
まぁ風圧は風魔法でいくらか軽減・無効出来るのだが、そもそもウマが揺れ放題なため下手に喋ったら舌噛みそうなのが1番怖い。
というかそうだよ馬が速いんだよ。
普通の馬と比べて予定日数が大幅に短縮される計算なわけだからそりゃ速いんだろうとは思っていたけども……。
まさか初日からこんな全力疾走とは思わないじゃん!
こんなペースで走ってバテないのか……?
確か、競馬とかで走る競走馬の時速が60kmだって聞いた気がするから……。
単純に考えて走るために鍛えているということがないこっちの普通の馬より速いのは確実と考えると、少なくともこの馬は競走馬と同格以上だと考えられる。
なんなら高速道路を走る車か、電車くらいにも思えるほどだ。
生身でこんな高速移動をする機会など前世にゃ自転車くらいだったので景色の流れる速度からしか判断できないので実際にはそこまでではないのかもしれないが。
いや、ワンチャンそれらよりも早い可能性も……?
まぁなんにせよ体感したことの無い速さだ。
ジェットコースターとかに乗ってればまた違う感想が出たのだろうか?
なんてことを考えていられたのは最初の方だけ。
夕方になるころにはずっと同じ体勢でいた疲れが現れ、夜ご飯&野営のための場所に着いたときには体がバッキバキになっていた。
コウスケ「うーん…!」
ぺきぱきぽきぺき
エスト「ありゃー、固くなってるねぇ」
おじいさん「鳴りすぎでは……?」
シャール「ん、運動不足」
コウスケ「お恥ずかしい……」
確かに作戦が決まってから朝の運動以外あんまり動いていなかったな……。
ずっとリオの側で彼女を見守っていたから鈍ってしまったようだ。
これは旅の間に少しでもほぐしといたほうがいいだろうな。
コウスケ「それで、すっかりとっぷり暗くなりましたけど、夜も現地調達するんですか?」
おじいさん「いや、夜はさすがに危ないからの。儂らはともかくお嬢ちゃんにはまだ早いじゃろう」
シャール「ん。ただでさえ視界が遮られる森の中を、視界が限られる夜に探索するのは命取り」
コウスケ「確かに」
マグ(あまり考えたくないですね……)
夜の森とか普通に怖そうだから絶対嫌だ。
遭難なんてもってのほかだ。
おじいさん「まっ、そういうわけじゃ。馬での移動も同じような理由で無し。うっかり人を跳ね飛ばしかねないからな。じゃから夜はゆっくり過ごし日中の疲れを取ることに専念するんじゃ」
コウスケ・マグ「(は〜い)」
お言葉に甘えた俺たちはバッグの中にある携帯食料から好きなものをキッチリ1食分だけ取り出し、のんびりと楽しんだ。
うん、やっぱり街のもんは美味い。
そして見上げれば満点の星空。
うーん…キャンプだねぇ……。
マグ(キレイな星空ですね〜♪)
コウスケ(だね……でもマグの方がキレイだよ(キリッ☆))
マグ(あはは♪ちょっと恥ずかしがったのが丸わかりですよ♪)
コウスケ(ぬぅ……)
日頃突然告白されるお返しをしてみたけど、普通に見破られてしまった。
いや、今のはわかりやすかっただけか。
マグ(でも嬉しかったですよ♪ありがとうございます♡)
コウスケ(それならまぁ…よかったけど……)
なんか段々恥ずかしさが込み上げてきたんだが?
おかしいな?俺が仕掛けたはずなのに……。
エスト「あれ?どうしたのー?顔が赤いよ?」
コウスケ「え”っ…ソンナコトナイデスヨー?」
エスト「え〜?でも……」
シャール「ん…エスト、そっとしておく。マーガレットも女の子だもの」
エスト「?わかった〜」
どうやらシャールさんには察せられてしまったようだ。恥ずかしい。
だがフォローはありがたい。
とっても複雑。
おじいさん「昼間取ったものに当たったわけではないのじゃな?」
シャール「ん」
おじいさん「ふむ…まぁシャール殿がそういうのなら大丈夫なんじゃろう」
おじいさんには別の心配をさせてしまったようだ。
ごめんなさいね、思い浮かんだものを特に考えずにやって返り討ちを食らったばっかりに。
なんてことをしている間に食べ終えたので引き続き星空や周りの風景をのんびり眺めながらお腹がこなれてくるのを待つ。
とはいえ風景などすぐに見飽きたので、俺はちょっと忘れかけていたユーリさんのおの能力について尋ねてみた。
コウスケ「そういえばユーリさんはオーラを見れるそうですけど、おじいさんは見れないんですか?」
おじいさん「うむ、残念ながらのぅ。儂の妻は見れたのじゃがなぁ。儂らの子であるヤクモも見れぬのじゃよ」
コウスケ「そうなんですか?でもユーリさんは見れるんですね」
おじいさん「うむ…何か条件でもあるのかのぅ?女子であることが共通しておるが…儂の爺様が見れる人じゃったから違いそうじゃし……そもそも他の狐人族の中にもごく稀におるようじゃから、儂らだけの能力でもなさそうじゃしのぅ」
コウスケ・マグ「(へぇ〜)」
そういえばユーリさんもそんなこと言ってたような……。
コウスケ(なんだか奥が深そうだねぇ)
マグ(ですねぇ……案外単純なものだったりして?)
コウスケ(ただの偶然とか?)
マグ(ですです。あとはそこまでざっくりしてなくても、何かこう…いるじゃないですか、たまに。謎の特技を持つ人が)
コウスケ(あ〜…いるねぇ。他の人が出来ない手の形を作れたり、筋肉を自在に動かしたり出来る人)
マグ(ああいう感じだったりしないかな〜って)
コウスケ(なるほど〜、確かにありそう)
とはいえ真相は闇の中。
事件ではないから闇ではないかもしれないが、ともかくおじいさんが知らないのであればほぼ迷宮入りのようなものだ。
ユーリさんもよくわかってない感じだったし。
その辺もフォバだったら知ってたりするんだろうか?
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フォバ「あぁ、それは波長との相性じゃよ」
コウスケ・マグ「「波長?」」
フォバ「うむ」
早速夢の中でフォバに聞いてみたらあっさりと答えが返ってきたものの、いまいちピンと来なかったためマグと揃って首を傾げた。
フォバ「波長とはまぁ簡単に言ってしまえば体に流れる魔力じゃ。ほれ、生き物は魔法に適性があるじゃろ?にも関わらず、空気中の魔力で自然回復するのはどの属性でも、なんなら魔法を使えないものにすら共通事項である。不思議に思ったことはないか?」
コウスケ「言われてみれば……」
マグ「当たり前すぎて考えたことなかったです……」
そういえば元は全部《魔力》なのに、どの属性を使う人の体にも馴染んでMPが回復するな。
ゲームでもそういう感じのが多いしそういうもんだと思って疑問に思うことがなかった。
フォバ「同じ魔力から別の属性が使えるのは脳が体にあったものに自動的に作り替えておるからじゃ」
マグ「えっ、そんなことが出来るんですか?」
フォバ「うむ。とはいえそんな不思議なことでもない。お主らは自分の血液がどう流れているか知っておるか?食べたものがどう動いて栄養となり排泄物となるのかは?そういうのと同じじゃよ」
コウスケ「はぁーん、なるほど……生き物の神秘な領域だ」
その辺の知識も前世なら解明されているわけだが、こっちの世界でも同じように解明されているかはわからない。
その上に前世にない要素、魔力が関わってきているわけだからよりややこしくなっているのかもしれない。
マグ「う〜ん……ということは生まれてくる条件とかは無いってことですか?」
フォバ「そういうことじゃな。こればっかりは妾たちにもわからぬよ。じゃがそれも不思議なことではない、じゃろ?」
コウスケ「まぁそうですねぇ」
生まれつき体の強い弱いはあるし、病気や障害を持つ子もいたりする。
それを操作するチカラは前世の科学を持ってしても出来ない。
…えっ、出来ないよね?
知らないところで出来てましたとか言わないよね?
マグ「そっかぁ。なんだか本当にあっさりした理由でちょっと拍子抜けです」
フォバ「ふふふ♪まっ、真実など大体そんなもんじゃよ。過程が1番楽しいとは他のことでもよく言われておろう?」
文化祭でよく聞くやつだ。
そんなわけで、俺たちの旅立ちの日はちょっと間の抜けた感じで終わった。




