407.吸血要因決め…と最後の作戦会議
無事にローズさんから最高級魔力糸で出来たマントを受け取った俺たちは彼女と別れ帰路に着いた。
別れ際に「明日見送りに行くから」と言われたが、糸を渡してからおよそ2日分の時間ぶっ通しでマントを作ってくれていたためか少し疲労の色が見える。
多分あれ一度寝たらそう簡単には起きれないくらい熟睡するぞ。
最高の仕事が出来た達成感と期限に間に合った安心感でぐっすり行くぞ。
風呂でも入ろうもんならもう1日爆睡コースだってあり得るぞ。
ご飯も食べなさいね。
そしたら満腹感もプラスされてより深く眠るだろうけど。
やり遂げてくれたわけだし、見送りに来なかったくらいでいじけたりはしないので安心して眠っておくれ。
お疲れ様です、ローズさん。
という気持ち半分、来てくれたら嬉しいなという気持ち半分で家に着いた俺たち。
リビングにはテントや火打ち石などのキャンプ用品をおじいさんを筆頭にディッグさんやシャールさんたち大人組が準備を進めていた。
ケラン「あっ、みんなおかえり」
メイカ・エスト「「おかえりなさーい!」」
ショコラ・チェルシー「「ただいまー!」」
コウスケ「ただいまです」
フルール「今日はみんな先に済ませちゃったから、気にせずお風呂に入っちゃいなさい」
リオ「あっ、はい。わかりました」
ふむ、準備に集中するためかな?
ってあれ?
と、疑問に思ったのは俺だけではないようで、パメラちゃんがその疑問を口にした。
パメラ「えっ?メイカさんもですか?」
フルール「えぇ」
シエル「意外……しばらくマーガレットと離れるからマーガレット成分を蓄える!とか言いそうなのに……」
フルール「メリーも同じこと言ってたわ」
あぁ……まぁ思うよね、日頃の行い的に……。
メイカ「そりゃあ蓄えたいけど…それよりもマーガレットちゃんの旅先での安全が1番だもの。だからここは涙を飲んで入念に準備してるのよ」
チェルシー「なるほどぉ……」
マグ(そういうことかぁ……)
予想は当たってはいたが、それ以上にちゃんと心配してくれていたということか。
相変わらず通常時と真面目な時とでギャップがある人だわ……。
フルール「さっ。それじゃあパパッと入っちゃいなさい。この後最後の詰めもしないとだし、明日も早いんだから」
みんな『(は〜い!)』
ではではお風呂に…とその前に。
コウスケ「あっ、これローズさんが作ってくれた最強のマントです。これも追加でお願いします」
フルール「あら、なんとか間に合ったのね」
リオ「はい。ローズさん、頑張りすぎてちょっとぐったりしてました」
フルール「そう。でもそれでこんな良いものに仕上がったんだから本望じゃない?」
ショコラ「うん!ローズさんすごく嬉しそうだった!」
メリー「……ローズらしい♪」
フルール「そうね。じゃあこれは預かるからいってらっしゃい」
コウスケ「はい、お願いしまーす!」
フルールさんにマントを渡して、俺たちは素早く準備を整え風呂場へと向かった。
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とは言ったものの、ここから数週間お風呂に入れないだろうと思うと、ガッツリ堪能したくもなるわけで……。
コウスケ「はぁぁ〜……!」
パメラ「マグおじさんみた〜い!」
コウスケ「ぐはっ」
肩まで浸かってしみじみしていたらパメラちゃんの何気ないひと言にダメージを受けた。
まだそんな歳じゃないやい……。
コウスケ「しょ、しょうがないでしょ〜?しばらくお風呂に入れそうにないんだから……」
ショコラ「マグ臭くなるの?」
コウスケ・マグ「(ぐはっ)」
モニカ「ショコラちゃん…言い方言い方……」
ショコラ「えー?」
マグ(まぁ…そうですよねぇ……お風呂に入れないってそういうことですし……)
コウスケ(う、う〜む……しかしそれは年頃の女の子には酷というか……それに臭ったらその臭いで感づかれる可能性がありそうだし、何か対策はしてるんじゃないかなぁ……?)
マグ(そうだといいんですけど……)
なにぶん、俺もマグも初めての遠出なのだ。
イマイチ勝手が分からない。
しかし前世ではキャンプで風呂なんてかなり準備しなければいけなかったはずだが、マジックバッグや魔法があるこの世界ならばドラム缶などの風呂桶代わりのものや水そのものを持ち運んだり現地で探したりしなくてもいいはずだ。
なのでこの後の荷物確認でその辺のことも聞いてみよう。
リオ「まぁ風呂のことはさておいて……メリーの方はどうするんだ?」
パメラ「メリー?」
サフィール「あっ…吸血ですか?」
リオ「そうそう」
コウスケ・マグ「(あ〜……)」
メリー「……(じー)」
最近は忙しかったのとすっかり日常に溶け込んでいて忘れていたが、メリーは日に一度は俺の血を吸っている。
吸わなければ力が出なくなる…のだが、実はそれは別に毎日で無くてもいいっちゃいいのだ。
定期的に摂取していれば、あとは本人の自由。
どちらかというとお菓子やお酒なんかの嗜好品みたいな感じらしい。
美味しい血が吸える環境なら嗜好品なんだろうが、ろくでもないものしかない場合だとほぼ拷問らしい。
偏食科やヘビースモーカーな人の血はほんと酷いとフルールさんが話していたことがある。
そんなフルールさんの料理はバランスがとても考えられており、理想的で健康的な食事と言えるだろう。
そこまで料理を上達させた理由は、どうやら何らかの理由で強引な手段に出た際に必要そうだからとかなんとか。
何だか怖くなったので俺はそれ以上聞くのをやめた。
まぁそれはともかく。
コウスケ「数日は大丈夫って言っても、それ以上の日程になるのは確実だからねぇ……やっぱり他の人の血を吸わせてもらうことになるんじゃないかな?」
メリー「……んー……」
チェルシー「不満そ〜」
シエル「やっぱりマーガレットがいいのね……」
リオ「でもマーガレットはいないんだからしょうがないだろ?」
メリー「……んー!」
コウスケ「そんなことはわかってるけどまだ割り切れないの!…って感じ?」
メリー「……ん!」
サフィール「当たりみたいですね……」
モニカ「すご〜い!」
コウスケ「むふん♪」
もう長いこと一緒に暮らしてるからね。
それくらいは朝飯前よ。
コウスケ「しかしねぇ……私の血を取って冷やしとくなんてわけにもいかんし……」
サフィール「採血自体は出来なくはないですが……今やっては明日に支障をきたしかねませんね……」
パメラ「そもそもメリーはマーガレットから吸うのが好きなだけで、マーガレットの血が飲めればいいってわけじゃないでしょ?」
メリー「……ん!」
ショコラ「正解っぽい!」
コウスケ「なーる…」
チェルシー「ほーど♪」
マグ(な〜♪)
おいなんだ今の可愛い連携は。
もっかいやりてぇな。
シエル「でもそれならなおさら難しいじゃないの」
モニカ「そうだね……まさか着いていくなんてわけにはいかないし……」
リオ「メリー的にマーガレット以外で誰か良さそうな人はいないのか?」
メリー「……む〜ん……」
リオの問いにみんなを見渡しながら少し考えたメリーは、最終的にサフィールちゃんを指差した。
サフィール「私ですか?」
メリー「……ん(こくり)」
チェルシー「おぉ〜、さすがサフィーちゃん!」
シエル「医療ギルドに所属してるだけあって健康的だものね」
パメラ「たしかに。じゃあ次は?」
メリー「……んー……」
再び少し考え込んでから、今度はショコラちゃんを指差した。
メリー「……ショコラ」
ショコラ「ショコラー!」
コウスケ「まぁ、風邪すら無縁そうだもんね」
モニカ「いつも元気いっぱいだもんね〜♪じゃあその次は?」
メリー「……チェルシー」
チェルシー「わっ、やった!」
パメラ「えっチェルシー?てっきりモニカだと思ってたのに……」
サフィール「チェルシーさんもララさんやリンゼさんがしっかり管理してそうですし、そこまで不思議ではないと思いますよ」
パメラ「それもそっか」
シエル「じゃあ次は順当にモニカかしら?」
モニカ「パメラちゃんは?ショコラちゃんと同じところで暮らしてるから食べてるものも同じだろうし、パメラちゃんもありえると思うけどなぁ」
メリー「……ん〜……」
ここでかなり悩むメリー。
再びみんなを見渡して…
マグ(あれ?)
と、そこでマグが何かに気がついた。
コウスケ(どうしたの?)
マグ(いや、多分ですけど…メリーが見てるの顔じゃなくないですか?)
コウスケ(えっ?)
マグの言葉に俺はメリーの目の動きに注目してみる。
すると確かにメリーの視線は顔より下に向かっているように見えた。
ん〜…あれは……。
コウスケ「……メリーや……」
メリー「?」
コウスケ「もしかしてだけど……胸の大きさで決めてない?」
チェルシー・サフィール「「えっ」」
メリー「……うん」
モニカ「ふぇぇ…!?」
パメラ「メリ〜!」
悪びれもせず素直に頷いたメリーにパメラちゃんが鬼の形相で襲いかかった。
それをヒョイッと避けたメリーはそのまま全力のバタ足で逃走。
それを見たパメラちゃんも、歩いてけばいいのに何故か律儀にバタ足で追いかけた。
リオ「うわっ!こら!風呂で泳ぐな!」
シエル「ぶぇっ!んもー!お湯飛ばさないでよ!」
コウスケ「パメラ泳げるんか……」
モニカ「そこ?」
だってマグが泳げないし…そもそも村で泳ぐようなとこ無いって言ってたし……。
結局、体力の差か年上の底力か、はたまた執念によってメリーは捕獲され、パメラちゃんにこちょこちょの刑に処されたものの、順位を変えるつもりは無さそうだったのでとりあえずそれでいいやということになった。
まぁ、みんなの血の味を知らないしね。
とりま一周回って好きな子を決めればいいんじゃないかな。
胸を査定にかけずに公正にね。
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おじいさん「さて…では最後の作戦会議を始めよう」
お風呂を出てご飯も済ませた俺たちは、机や椅子を端に寄せて長方形状に座り話し合いを始めた。
円形じゃないのは人数が多すぎて広がってしまうからである。
そんなことは置いといて、おじいさんは続けて話す。
おじいさん「ひとまず計画を振り返ろう。まず参加する人員は少数精鋭。里を知っている儂とフォバ様とお話したお嬢ちゃん。そしてお嬢ちゃんを守るための護衛としてエスト殿とシャール殿じゃ」
おじいさん「次に作戦内容。まず狙う日付はユーリの行動が定まっている《奉納日》。その日に襲撃をするために儂らは明日の朝5時に用意していただいた馬に乗り、数日かけて里へと向かう。意地でも間に合わせるつもりじゃが、もし逆に予定よりも早く着きそうな場合は、襲撃ができ、かつ里のものたちからも気付かれないギリギリの地点で予定の日まで野宿をして機を窺う」
おじいさん「そして奉納日当日。儂らは儀式をしている場に乗り込む。儂が陽動とヤクモの注意を引いている間にエスト殿とシャール殿はお嬢ちゃんを守りユーリを会わせる。お嬢ちゃんはユーリと会えたら持ち込んだ神装具を見に纏わせ、フォバ様にユーリの体に宿っていただいき、その御力をもってヤクモらを説得。ユーリを解放してもらうという算段じゃ。相違無いな?」
おじいさんの言葉にみんな頷く。
が、それはそれとして…といった感じでメイカさんが口を開いた。
メイカ「にしても…何度聞いてもシンプルすぎて逆に不安になるわね……」
おじいさん「うむ…しかし下手な搦め手はこちらの首を絞めることになる。それも、実力も戦力も格上が相手となればな」
コウスケ「そういう相手にこそ搦め手だと思ってたのになぁ……」
おじいさん「うむ。それは間違いではないのじゃが、相手の情報を握っていることと相手に明確な弱点があることが前提じゃからな。今の儂らにはそのどちらもないから、正面突破の方がまだ成功率が高いのじゃよ」
リオ「そういうもんなのか……」
ディッグ「理にかなっちゃいるな。最も、そういう相手とは戦わないってのが生き残る最善の選択ではあるが……」
フルール「そうも言ってられない状況だものね。本音を言えば私だってそうしてほしいけど」
サフィール「それはみんなそうだと思います。でも…」
メリー「……それとおなじくらい、ユーリとあいたいから」
ショコラ「うん!それにユーリさんだってひとりじゃ寂しいもんね!」
メリーとショコラちゃんの言葉に再びみんなが頷いた。
そうしたあとにおじいさんは話を戻した。
おじいさん「そのためのこの作戦じゃが……異論は無いな?」
メイカ「えぇ。それで構わないわ」
ケラン「僕もです」
エスト「エストもいいよ!」
シャール「ん、特にない」
ディッグ「俺もだ。そもそも、里の場所も里の連中の目の良さもじいさんに頼るしかないからな」
フルール「そうね。まぁ私に至っては冒険者ですらないから戦いのたの字も分からないからというのもあるけれど」
チェルシー「そうかな……?」
シエル「すごい強いらしいわよね……?」
フルール「こほん」
チェルシー・シエル「「!」」
フルールさんの咳払いにビクッとしたふたりは慌てて正面を向いて背筋を伸ばした。
何やってんだか。
おじいさん「よし。では作戦はこれで行く。あとはお嬢ちゃんに荷物を確認してもらって、神装具たちもしっかり準備してもらい、明日に備えて眠るだけじゃ」
メイカ「じゃあマーガレットちゃんはこっちで私たちと確認しましょ」
コウスケ・マグ「(はい!)」
フルール「他のみんなは今日までに作った神装具を用意して。私は入れ物を用意しとくから」
子どもたち『はーい!』
おじいさん「儂はそろそろお暇しようかの」
シャール「ん。私たちも先に戻って寝てくる」
エスト「じゃあまた明日ね!」
コウスケ「はい!よろしくお願いします!」
おじいさんたちを見送り、俺とマグはメイカさんたちがまとめてくれた荷物をチェックした。
メイカ「まずこれが下着ね」
コウスケ「親しい仲だから別にいいですけど、あんま男性の前に出さんでくださいます?」
ディッグ「お前その辺割と無頓着だよな」
ケラン「良くも悪くも冒険者って感じですよね」
メイカ「う、うるさいわね!」
…なんてこともあったが、ともかく無事にチェックは終わった。
あとは明日に備えて眠るだけだ。




