406.準備期間最終日…待ち人来たる
翌日。
ついに最後の準備期間となった。
魔石は十分な在庫があるため、メイカさんたちはおじいさんを連れてエストさん、シャールさんと合流した後野営のための装備を整えに出かけた。
俺たちは引き続きユーリさんの神装具作り…なわけだが。
ショコラ「そわそわ……」
モニカ「ソワソワ……」
コウスケ「そわかそわか……」
チェルシー「……マギーちゃんの言葉がなんか微エッチな気がする……」
コウスケ「なん…だと……!?」
シエル「微エッチって何……?」
チェルシー…恐ろしい子……!
まぁそれはそれとして、今俺たちはもれなく全員ソワソワしっぱなしである。
リオはさすがに作業中は集中しているが、それでも昨日に比べれば少しキレが無くなっている。
その原因は単純明快。
パメラ「ローズさん来ないねぇ……」
サフィール「そうですね……」
そう、ローズさん待ちである。
糸を渡したのが一昨日の午後。
昨日来たお姉さんによれば部屋に閉じこもって作業をしているようなので、丸一日ガッツリやってくれているようだが、お昼ご飯一歩手前のこの時間になっても何の音沙汰もない。
ローズさんもプロなので期限は守ってくれると思うのだが、プロだからこそ妥協したものは作らないだろうとも思うわけで……。
まぁつまり心配で仕方がないのである。
ただ待つだけというのはなかなか苦痛だ。
まだ俺たちはやることがあるからマシなもんだが、家で待ってるメリーやフルールさんなんかは気が気でないだろう。
…もしかしてそっちのケアもした方がよかった……?
ちょっと今日はサービスしようかな……。
そんなことを考えながらお昼。
家に戻った俺たちはフルールさんたちと、お昼ご飯のついでに一度荷物を置きに来たメイカさんたちと一緒にご飯をいただく。
その際ちょっと意識してメリーを甘やかしてみたら嬉しそうにしながらも不思議そうな顔をされたので説明もしてあげたところ…
メリー「……きもちはうれしいけど、いつもしてくれてることとおなじじゃない?」
コウスケ「!?」
と言われた。
そんなバカな……!
俺が普段、特に意味もなく頭を撫でたりぎゅっとくっついたり、あーんしたり口の周り拭いてあげたりしていると言うのか……!
してるな、いつもしてる。
なんなら夜にはお風呂で体洗ってるし拭いてもいるし、髪乾かしてパジャマも着させてる。
そして一緒のベッドで寝てる。
むしろこれ以上どう甘やかせと?というくらい甘やかしてた。
定期的に自分が日ごろ何やってるかを忘れる俺です。
脳トレが必要かもしれない。
じゃあせめてフルールさんを…と思ったものの、フルールさんも毎日お手伝いしてるし、たまに体洗ってるし……。
何よりメイカさんの方が圧倒的にフルールさんと楽しくおしゃべりしてることが多くて、俺が何かする余地が無い。
……これはあれだ。
ちゃんとユーリさんを連れ戻すことで報いようそうしよう。
さて、そんなことを考えながらお昼ご飯を終えた俺たちは鍛冶ギルドへと戻った。
しかしどうやらローズさんやそのお店の店員さんなどが訪れた痕跡は無く、グラズさんたちにも一応聞いてみたもののやはり来ていないようだった。
マグ(う~ん……遅いですねぇ……)
コウスケ(なんだろう……?手間取ってるのかなぁ……?)
マグ(あ~……ランクが高い素材だから加工も難しいかもってことですか?)
コウスケ(そうそう)
マグ(たしかにありえそうですけど……でもローズさんたち、Aランクの魔石で作った糸はサクサク作れてましたよ?)
コウスケ(でも今回のはそれ以上なわけじゃん?同じランク内でも格差があるわけだし、それが一つ分違うってのは結構な変化なんじゃないかなぁ?)
マグ(なるほどぉ……でも明日の朝早くに出発ですし、今日の内に来てくれないと間に合いませんから、どうにかがんばってもらわないと……)
コウスケ(こればっかりは待つっきゃないよ。とにかく、俺たちも今出来ることをしよう)
マグ(そうですね)
とは言ったものの、俺も正直気が気でない。
もしも間に合わなければ作戦的にも打撃だし、何よりリオの努力が水の泡と化してしまう。
それだけはなんとか避けてもらいたいところだが……。
しかし俺が慌てれば子どもたちにも伝染してしまう……。
すでにそわそわしすぎて気もそぞろなのだから、これ以上はマジで仕事に手が付かなくなってしまうだろう。
だからこっそり抜け出して様子を見る…なんてのも出来そうにない。
だってそれしたら心配してるって言ってるようなものだし、この子たちから離れてしまうのもよろしくない。
だがまぁもう一度言うが、ローズさんは納期に遅れるとは思えない。
しかも今回のような間に合わなかったら取り返しがつかない案件で遅刻するような人だとは思えない。
みんなもそんなローズさんの人となりを知っているからこそ、そわそわするだけで「もしかしたら…」なんて不安を口に出しはしなかった。
なので…まぁ…これも繰り返しにはなるが、信じるっきゃないわけだ。
俺ここ数日ずっと誰か信じてる。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
リオ「来ない……」
シエル「ローズさん……」
しかし、俺たちの期待に反して、ローズさんたちは誰も姿を見せないままいつもの帰宅時間になってしまった。
さすがに今日は俺も明日の準備をしなければならないので遅れるわけにはいかないのだが……。
チェルシー「どうする……?もう少し待ってみる……?」
サフィール「ですがマーガレットさんはそろそろ戻られた方が良いですし……ここはマーガレットさんには先に戻っていただいて、私たちだけでローズさんたちを待つというのは……」
シエル「それかまた様子を見に行くとか?」
モニカ「でも遅くなるとメイカさんたちにも心配かけちゃうよ…?」
パメラ「う~ん…それならサフィールの言う通りマーガレットには帰ってもらって、メイカさんたちに知らせてもらおう。そうすれば迎えに来てくれるはず。で、私たちは私たちの中でここに残るチームとローズさんのお店に行くチームに分かれよう」
リオ「迎えに来てもらうのはちょっと気が引けるが……どこかしらで会えれば誰かが他のチームに知らせられるし、すれ違いも起きにくいか」
ショコラ「じゃあそれでいこっ!急がなきゃなんだし!」
ん~……個人的には、まだ明るいとはいえちょい遅めな今の時間に子どもたちだけで動かすのは……でもローズさんの仕立てたものは欲しいし……。
コウスケ「…わかった。でもあれだよ?私がメイカさんたちを向かわせるから、ローズさんのお店に行くのはそれからね?」
シエル「心配性ねぇ。前までアタシたちだけで帰ってたし今さら大丈夫だと思うけど……」
モニカ「でもやっぱり大人がいると心強いし、私はそっちの方がいいと思うな」
サフィール「そうですね。マーガレットさんは帰りますから、いざというときに守ってくれる人がいませんし、私もメイカさんたちの到着を待ってからの方が良いと思います」
シエル「それは…う~ん…まぁそうねぇ……」
コウスケ「よし、決まりね。じゃあちゃちゃっと呼んでくるから……」
ドタドタドタ…バンッ!
みんな『(ひゃあっ!?)』
ローズ「お待たせ!ぜぇ……ぜぇ……」
みんな『(ローズさん!)』
話がまとまりかけたところで走ってくる音が聞こえたと思ったらすぐに勢いよく扉が開かれ驚いた。
が、その犯人がハート柄の風呂敷を首に巻いて担いできたローズさんだったことで俺たちの感情は驚きからすぐに喜びへと変わった。
ローズ「ぜぇ……ぜぇ……出来たわよ……!」
サフィール「だ、大丈夫ですか……?今お水を……」
ローズ「大丈夫……でもお水はもらおうかしら……」
モニカ「あっ、じゃあこれ…!」
サフィール「ありがとうございます」
モニカちゃんからコップを受け取ったサフィールちゃんが魔法で水を出す。
コウスケ(あれモニカちゃんの使ってるコップじゃ……?)
マグ(そうですねぇ。でもここにあるのは全部誰かのコップですし仕方ないのでは?)
コウスケ(いやまぁうんそうだけどねぇ……)
心が乙女なローズさんだが一応生物学的には男性なわけだし……いやでもローズさんに限って変なことするとは思えないし、モニカちゃんもためらいなく渡したわけだし…大丈夫…なんかな……?
ただ周りを見る限り気にしてるのは本当に俺だけっぽいし、大丈夫なんだろう。
う~む……でもやっぱちょっと気になるのは俺が細かいだけなのか……?
そんな俺を尻目に、水を一気に飲み干したローズさんはそのコップをサフィールちゃんに返すと、早速風呂敷を床に広げ始めた。
ローズ「あんまりにも良い糸だったもんで、他の糸や布を混ぜるのは能力的にも心情的にももったいないって思ってね。それに過去一集中したからいつの間にかこんな時間になっちゃって……でもまだ間に合うはずって全力で走ってきてよかったわ!そしてこれがその最高級の糸で作ったものよ!」
そう言ってバッと持ち上げて広げて見せたのは、艶やかでひと目見ただけで唯モノではないオーラをビシバシ感じるほどの素敵なマントだった。
みんな『(おおぉぉぉぉぉぉっ!!!)』
そんな素晴らしい出来のマントに俺たちは揃って歓声を上げた。
ショコラ「すごーい!ツヤツヤしてるよ!」
パメラ「きれ~い…!」
チェルシー「見ただけですごい物ってわかるよね!」
モニカ「うん…!こんなキレイなマント初めて見た…!」
シエル「アタシも……!」
サフィール「さすがはローズさんですね……!」
ローズ「ふふふ♪頑張ったわよん♡」
バチコーンッ♡とウインクを決めるローズさんが過去一カッコよく見える。
そして俺も我慢できずに隣に立つもう一人の立役者に絡む。
コウスケ「ほらほら見てリオ!リオが頑張った結晶があんな凄いことになったよ!」
リオ「……はは……」
コウスケ「リオ?」
マグ(どうしたの?)
どこか上の空なリオの様子に疑問を持って顔を覗くと、リオは静かに涙を浮かべていた。
リオ「…よかった…オレ…がんばってよかった……!」
コウスケ・マグ「(リオ……)」
どうやら自分の仕事が最高の結果で報われたことに感極まって泣いてしまったようだ。
コウスケ「うん、頑張ったね、リオ。ありがとう!」
リオ「うん…うん……!」
俺はリオにお礼を言いながら抱きしめて頭を撫でる。
ローズ「ふふふ♪ワタシからもお礼を言わせてちょうだい?ありがとうリオちゃん。ワタシに最高の仕事をさせてくれて。おかげで最高のものが出来たわ♡」
リオ「ぐすっ…!こちらこそ、こんな素晴らしいものをありがとうございます…!」
パメラ「も~、またリオ泣いちゃう~」
シエル「涙もろくなったんじゃな~い?」
リオ「うるせぇっ…!しょうがないだろこれは!」
サフィール「そうですね。しょうがないです♪」
チェルシー「しょうがないしょうがない♪」
リオ「うぅ~……!」
モニカ「あはは…も~、みんないじめちゃダメだよ?」
ショコラ「そうだよ!リオすごいんだから♪」
チェルシー「ふふっ♪わかってるよ♪」
シエル「えぇ。ずっと見てきたもの♪」
リオ「むぅ……」
マグ(あっ、まんざらでもなさそう♪)
コウスケ(ふふふ♪誰よりもよく知ってるもんね。自分を支えてくれてたって♪)
マグ(そうですね♪…がんばりましょうね、コウスケさん)
コウスケ(うん。絶対やり遂げよう。ユーリさんを連れて帰って、みんな頑張ったんだって自慢してあげよう)
マグ(ふふふ♪いっぱい褒めてくれそうですね♪)
確かにユーリさんなら「みんな頑張ったんだね~!」とか言ってくれそう。
その後多分責任感じて謝りだすからそこはまぁ…どうにかして口塞いで。
ふふっ……なんかちょっと楽しくなってきたな。
正直超える壁が高い問題はそのまんまだが、今なら上手くいくだろうという自信がたっぷりだ。
楽観視と言われればその通りだが、気持ちで負けたらその時点で負けだしな。
このくらいがちょうどいいかもしれん。
気負い過ぎるとダメってリオにも言ったしな。
気楽に、それでいて集中して…だ。
うん。
なかなか難しいことやらせてたな。
コウスケ「リオはほんと凄いや」
リオ「?」
とりあえず撫でて褒め褒めしまくろう。




