40.今日のまとめ…夜の出来事
「かくかくしかじか」
「なるほどね!」
というわけで俺とハルキでメイカさんたちに説明を終えた。
「それで、ハルキさんはウチに泊めるのが最善だって言うんですが…」
「いいんじゃないか?その子も嬢ちゃんに懐いてるんだし」
「えぇ、部屋ならまだまだ空いてますからね」
「私も賛成、というか断る理由が無いわ。あなたも納得しているんでしょう?」
「あぁ、私もマーガレットがいるなら問題無い」
メイカさんたちに聞いてみたが、まぁ予想通り大丈夫だった。
てか、なんでフルールさんはそんなに俺の評価高いの?
俺が男だと分かったらどうなるんだろう?
怖い。
「ねぇ、これで話は終わり?」
「えぇ」
「それじゃあ早速、第3寮舎に行きましょう?私とマーガレットちゃんで案内するから、ディッグとケランは夕ご飯を買ってきてくれる?」
「おう良いぜ」
「はい。フルールさんとメリーちゃんは何か食べたい物とか、逆に苦手な物とかありますか?」
「そうね…好き嫌いは特に無いけど……あ、でもニンニクは駄目。体が受け付けないの」
吸血鬼だもんね。
「分かりました。じゃあニンニクは避けて選びますね」
「決まりね」
「じゃあ着替えてきますね」
「うん、ゆっくりで良いからね」
そんなこんなで俺たちは帰路についた。
その前にナタリアさんに、ハンターウルフを倒しに行った彼らが帰ってきたら、「ランクアップおめでとうございます。先に帰ってしまってごめんなさい。お疲れ様でした」と伝言を頼んだ。
多分彼らはナタリアさんのところに来ると思ったから。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「ふぅ〜…疲れた〜……」
寮舎に着いた後、まずは荷物を置こうということで2人の部屋を決めた。
フルールさんとメリーちゃんは親子というのもあって、同じ部屋で暮らすことにしたようだ。
選んだ部屋はもちろん朝日が当たらない部屋だ。
そのあとメイカさんが寮舎を案内している内にお風呂を沸かして、フルールさんとメリーちゃんに入ってもらった。
吸血鬼は水に弱い、という記憶があったためさりげなく聞いてみたが、特に問題は無いようだ。
その後、メイカさん、ディッグさん、ケランさん、俺の順で済ませた後、みんなでささやかな歓迎会をした。
今までの奴隷生活のことも考え、味の薄い物も用意されていた。
俺は思いっきり失念していた。
ありがとう、どっちか。【多分ケランさん】
みんなと盛り上がったのち、お互いに疲れているだろうということで早めにお開きになった。
時刻は8時半頃。
俺は今、自室のベッドの上に座り込み、まったりとしている。
(ふふふ、お疲れ様です)
(マグもね、大丈夫?)
マグと話せるようになったのは良いのだが、彼女になんらかの負担が無いか、なんとなく気になっていたのだ。
(うーん…コウスケさんと話せるようになったからか、私もなんだか体の疲れを感じるようになってしまったみたいで…少し眠たいです)
(んー…それだけ表に近いってことかな?)
(はい、多分そうだと思います)
なるほど。
俺の疲れは彼女の魂にも多少伝わるってわけだ。
じゃあホント無茶は出来ないな。
(んじゃあ今日は早めに寝よっか。ノートにメモだけ書かせてくれる?)
(はい、どうぞ)
(ありがと)
俺は机の上に置きっぱなしだった、「お仕事ノート」に今日の出来事を書く。
…今日もまた色々あったな……。
まずは朝。
俺のことをメイカさんたちに話したこと。
案外すんなりと受け止められたから俺の方がびっくりしてしまった。
俺のマグを助けたいという気持ちが伝わったんだろうか。
まあ良いことだ。
次に昼。
醤油ラーメンを食べた。
また行きたい。
異世界飯もいいんだけど、元の世界の知ってる料理があるって分かっただけでもなんだか嬉しくなる。
よくやったハルキ。
俺はクリームソーダが飲みたい。
それで、ハルキがモーリッツさんとこ行くって言うから着いてったら、ケンカの仲裁をやる羽目になるわ、モーリッツさんはいないわでめちゃくちゃ疲れたんだよな。
ハルキってば寝不足か?
しっかり寝ないと駄目だぞ。
俺が言うことじゃないけど。
それでその後、フルールさんとメリーちゃんに出会った。
そこに急にダニエルさんも出てきた。
あれもびっくりしたよ、ホント。
どっから出てきたのあの人。
それでハルキが2人を買って、まずは服を買ってからって事で、近くの服屋に行ったらまた衝撃的な出会いをしたんだよな。
とてもお約束だった。
すごい筋肉にすごいフリフリだった。
でもとっても良い人だったからすぐに慣れた。
ハルキはロックオンされて大変だったろうけどな……。
で、服を買ってギルドに戻って、ハルキにギルマスへの説明を任せて仕事に戻ったら、今度はナタリアさんとあの冒険者たちの言い争いが起きて、なんか俺…というかマグにケンカを売ってきたから、ささやかな反撃をして収めたんだよな。
まったく…俺の心の広さに感謝して欲しい物だ。
(マグ、この時大丈夫だった?)
(はい、ちょっとビックリしちゃったけど…みんなが助けてくれましたし、コウスケさんがキッチリやり返してくれたので大丈夫ですよ)
(それなら良かったけど…)
(コウスケさん)
(うん?)
(守ってくれてありがとうございます。大好きですよ)
「ーーーー!!?」
なっっっっんでこの子はそういう事言うかねっ!!??
不意打ちはあかんよ、不意打ちはっ!!
(ま、まぁ?そういうことなら良いんだけどさ…?)
(コウスケさん)
(なんじゃい)
(私には言ってくれないんですか?)
ガンッ!と机に頭を打ち付けた。
(つらい…俺の婚約者が可愛すぎてつらい……!)
(コウスケさん…)
(分かったから!そんな甘えた声出さないで!そろそろキャパオーバーするからっ!!)
もぉぉっ!
この子ホントSだなっ!!
(はぁぁ〜……マグ)
(はい♩)
とても楽しそうだな、このやろう。
ホント可愛いな、このやろう。
(マグ…大好きだよ……)
(…んふふふふ……はい!私もです!)
死にそう。
幸せすぎて死にそう。
だがここで終わったら男が廃る。
やはりここはやり返さねば。
(好き)
(はい!)
(大好き)
(えへへ…)
(もうホント好き)
(私もです♡)
(好きすぎてヤバい)
(どうヤバいんですか♡)
(我慢できない)
(えっ?)
(もっとイチャコラしたい)
(そうですね、私もです♡)
(具体的には?)
(えっ?具体的には…えと…手を繋ぎたいです……)
(それだけ?)
(えと…えと…それで一緒にお買い物して…)
(うん)
(一緒にカフェとかでご飯を食べて…)
(あーんとかしちゃうの?)
(あ、あーんっ!?えーとえとそれはそのえーと…)
(しないの?)
(も、もももちろんしますよっ!?えぇっ!あーんもします!)
(で、口元のついたやつを取ってあげたり?)
(そうですねっ!それも確かに…こう…ハンカチで「付いてるよ」って……えへへへへ……)
(それも良いけど…普通に取るのか?)
(ふぇ!?…と、言いますと……?)
(舐めとらないのか)
(なっ!?なななな、にゃ、にゃめ、にゃめとりゅっ!!!!?)
(ペロッ…ふふ、ご馳走さま、ニコッ…みたいな?)
(そ、そそそそそそれはぁぁぁ♡………はうぅぅ〜……)
(……マグ?)
(……)
(……弄りすぎたか)
ちょっと大人気なかったかな?
というか気持ち悪いって言われなくてホント良かった。
舐めとるとか、かなり攻めたこと言っちゃったぞ?
気持ち悪がられてないよな?
んー…マグも寝ちゃった(多分気絶)し、もうこの後書くことって、帰ってきて歓迎会した、ぐらいだからササっと終わらせて俺も寝ようかな……。
あー…それにしても…マグってば…元気なのは良いことだけど、このままじゃ俺の方が持たないぞ……。
まったくもう……可愛い奴め。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「ん……」
まだ夜か……。
なんか目が覚めちゃったな……。
まぁいいか……このままもう一度……。
カチャ……
ん?
誰か入ってきた……?
んー……セキュリティはしっかりしてるし、寮の中の誰かだとは思うけど……誰だ?
ギシッ……
ん…ベッドに乗ってきた……?
この距離なら誰か分かるかな……。
ぼーっとする頭でそう考えた俺は、そちらに視線を向ける。
そこにはちんまいシルエットが……
「……メリーちゃん……?」
「…………マーガレット……」
ベッドに乗ってきたのはメリーちゃんだった。
「んー…どうしたの……?」
「……お腹すいた……」
俺はこの時、この子の種族のことを忘れていた。
「んー…じゃあもらったお菓子食べる……?」
「……(フルフル)」
俺はギルドで冒険者たちにもらったお菓子をあげようかと思ったのだが、首を振られてしまった。
「んー…?じゃあどうしよう……」
「……マーガレット…」
「うん……?」
「…いただきます……」
「…………」
んー……?
いただきます…?
食事の時、確かに教えたけど…なんで今……?
…………あ。
この子吸血鬼じゃん。
ようやく気付いたが時既におす…遅し。
メリーちゃんは俺の首元に牙を立てましたとさ。
「…はぷっ」
「んっ!?」
何を呑気にボケかましてたんだ俺!?
チクッとした!チクッとしたよ!?
「ちゅうちゅう…」
「んっ…ふぅ…!」
なんか…痛いんだけど、それだけじゃないというか……あれ?俺そういう気がある?
いや、待て待て待て、落ち着こう私。
確かにちんまい子にいじめられる作品とかいくつか知ってるけど、割と好きだったけど。特にイチャラブ甘々系。
…じゃあ駄目じゃね?
手遅れじゃね?
というかマグにメロメロな時点で手遅れだったんじゃね?
やべぇ反論できねぇ。
「ちゅうちゅう…」
それでこの子はまだ吸ってるし、てか「ちゅうちゅう」て可愛いな。
つーか、そうか。
フルールさんもこの子も吸血鬼だってことを隠してたんだから、当然その間誰かの血を飲むなんて出来なかったはずだ。
それでも生きてたんだから、絶対必要ってわけじゃないと思うけど、こうして吸いに来るってことは、本能か何かに刻まれてるのかもしれない。
あれ?待って?
俺今思いっきり吸われてるけど、俺も吸血鬼になったりしないよね?
そうなったら困るよ?
俺、日中の仕事なんだから。
職場は建物内とはいえ俺自身が朝に弱いんだから、これ以上弱くなったら困るよ?
いや、夜行きゃ良いか?
メイカさんたちになんて言おう。
いやそれ以前に…マグになんて言おう。
知らんぷりする?
秒でバレる自信があるぞ?
「ちゅうちゅう……ぷはっ……」
あ、終わっちゃった。
もうこうなったら吹っ切れよう。
「…ごちそうさまでした……」
「あ、はい。…どうも……」
お粗末様って言いそうになったけど、自分の体ならいざ知らず、マグの体でそんなこと言えるはずもない。
マグが好きだからとか抜きで、他人の体でそれ言うのは絶対違うから。
「…………」
「…………」
…どした?
急に俺をじっと見つめて……。
「…………マーガレット?」
「……マーガレットですよ?」
「…………」
「…………」
うん、ほんとにどした?
なんだか俺の血を吸った割には顔が青いような…
「…え?…あ…どうしよう……!」
「え?何が?」
「血…血ぃ吸っちゃった……!」
「吸われたねぇ」
「お母さんに駄目って言われてたのに……!」
「怒られちゃう?」
「…!(コクコク)」
あらら…そりゃどうしたもんか。
メリーちゃんは泣き出しそうな顔でどうしようかと慌てている。
そこへ…
ガチャ。
「メリー?」
「……!?」
フルールさんが入ってきた。
多分布団にメリーがいないから探しに来たんだろう。
「メリー?もう…マーガレットを起こしちゃ……ってまさかっ!?」
「ひぅっ!?ご、ごめんなさい……!」
「メリー!!あんた、なんて事をっ!!」
「ごめんなさい……!ごめんなさい……!」
あー…これはちょっと止めないとだなぁ……。
今日こんなんばっかだな……。
「あー、フルールさん?とりあえず聞きたいんですけど……」
「!?な、何かしら……」
「吸われた私には何か変化とか起きますか?」
「え?えーっと…特には……」
「あ、じゃあいいです」
「「えっ!?」」
なんだ。何も無いのか。
心配して損した。
「え?いや、でも……私たち、吸血鬼なのよ?」
「そうですね」
「そ、そうですねって…」
「フルールさんは私に何か酷い事をするんですか?」
「え?し、しないけど…」
「じゃあ問題無いでしょう?」
「えぇ?そ、そうだけど…あれぇ?」
んー…まだ納得出来ないか。
まぁしゃあない。俺も目ぇ覚めちゃったし。
「それじゃあ、ちょっとお話しましょうか」
甘々なやり取り…の内に入るよね?




