399.ドワーフ娘と再び夜話し…自信喪失には…
おじいさん「日程が決まった」
その夜、晩ご飯後の作戦タイムで、おじいさんは開口一番にそう言った。
コウスケ「日程…救出作戦の?」
おじいさん「そうじゃ」
ケラン「ついに決まったんですね……」
チェルシー「ユーリさんを取り戻しに行く日……!それっていつなんですか?」
おじいさん「うむ。やはり狙うのは《奉納日》じゃ。そしてお嬢さん方の人脈で借りてくれた馬の話を信じるならば、遅くても4日後には出なければ奉納日に間に合わん」
メリー「……4日後…ってことは……」
サフィール「準備が出来るのはあと3日…ということですね……」
リオ「たった3日しかないのか……」
現状、1番時間の影響を受けるポジションのリオが焦燥感たっぷりにつぶやいた。
フルール「今ある装備はどんな感じなの?」
コウスケ「腕輪が4つ、脛当てが1セット、それと今日作ったスカート状の腰鎧がひとつです」
ちょっと今は答えられる状態じゃないリオの代わりに俺がフルールさんの問いに答える。
フルール「それだとダメそうなの?」
コウスケ「条件は大丈夫なんですけど、あくまで最低条件を多少超えたぐらいなんです」
メイカ「そうなの?結構作った方だと思うけど?」
サフィール「作った装備品に使われているのは全部Bランクの魔石なんです……」
メイカ「えっ?」
そう。
実はリオ、結局もったいない症候群が発症してしまい未だにAランクの魔石に手を付けられていないのだ。
ディッグ「おいおい嬢ちゃん。確かにAランクはちと貴重ではあるが、今はもったいぶってる場合じゃないぞ?」
リオ「わ、わかってはいるんですけど……どうしても気後れしてしまって……」
パメラ「リオってばAランクを使って失敗したら怖いからって言ってまずは出来るかお試しだ~ってBランクの魔石で作ってから…って言いながら……」
シエル「次の日には別の物作るからAランクに行かないんです」
リオ「だ、だってバランスよく作った方が良いし……」
フルール「そういうのは広く浅くって言うのよ?」
リオ「うっ……」
ケラン「Bランクの魔石がお試しっていうのも凄いことですけどね……」
おじいさん「もっと下のランクの魔石があったらそっちを使っていそうじゃのう……」
気持ちは本当によく分かるんだが、ディッグさんの言う通り今はもったいぶっている場合じゃない。
気持ちは本当によく分かるのだが。
サフィール「明日からはAランクを使って作業しましょうね」
リオ「うぅぅ……緊張する……」
エスト「大丈夫!失敗してもまたいくらでも取ってきてあげるよ!」
メイカ「そうそう♪それにここまで失敗してないんでしょ?その調子でいけば問題ないわよ♪」
リオ「そ、そうですかね……?」
ショコラ「リオなら出来るよ〜♪」
シャール「ん。自信を持って、とにかくチャレンジするしかないよ」
リオ「うぅぅ……わ、わかりました……」
ほんとに大丈夫かと心配になる緊張っぷりだが、実際ここまで失敗していないのだし、何より俺はもうリオを信じて疑わぬと決めたのだ。
信じよう。
信じてひたすらメンタルケアしよう。
と、そうだ。
コウスケ「魔石といえば、早速今日から手伝ってくれるローズさんに今あった分の半分くらいを渡しちゃったんですけどよかったですか?」
ケラン「えっ、半分も?」
ディッグ「それは構わないが、渡して何をしてもらうんだ?」
パメラ「魔力糸作りを手伝ってくれることになったんです」
シエル「鍛治ギルドで今使える桶が少なくて量を作れないって話をしたら、それなら自分のところでも作るって言ってくれたんですよ」
フルール「ローズらしいわね。でも大丈夫なの?魔石って結構硬いはずだけど」
チェルシー「え〜っと…それはぁ……」
あの衝撃映像を思い浮かべているのか、少し言い淀むチェルシーに代わり、ウチの純粋コンビが屈託のない笑顔で答えた。
ショコラ「すごいんだよ!石と石をバーンってぶつけただけでガシャーンって砕いちゃったの!」
エスト・シャール「「えっ?」」
モニカ「同じ硬さのもの同士をぶつければどんなものも簡単に壊せるって教えてくれたんですよ〜♪」
ケラン「り、理屈は分かるけど……」
メイカ「それは単純なパワーもかなり必要そうな気がするんだけど……?」
コウスケ・マグ((ですよね〜))
よかった。
どうやら俺たちは常識持ちの側にいるようだ。
安心した。
エスト「そっか…!言われてみれば確かにそうだね…!」
おっと…そしてひとり感化されてしまった人が現れてしまった。
マグ(エストさんなら普通に出来そうな気もしますね……)
コウスケ(確かに……)
おじいさん「一応聞くが、それは素手でやったのか?」
ショコラ「うん!」
おじいさん「そうかぁ……素手かぁ……」
フルール「ほんと、ローズらしいわね……」
さすがのおじいさんもちょっと遠い目をするローズさんの強さ……。
コウスケ(もういっそのことローズさんを救出メンバーに誘っちゃう?)
マグ(ちゃんと活躍しそうなのがローズさんのすごいところですね……)
頼み込めば承諾してくれそうな気もするが、メンバーはもう決まっているし、服屋のオーナーであるローズさんにも色々とやらなければいけないことがある。
残念だが今回の作戦は採用を見送ろう。
次回以降があっても困るが。
サフィール「ローズさんといえば、魔力糸作りもありがたくはありますが、本命は魔力糸を使った装備の作成ですからね。そのためにも親方さんに認めてもらえる装備も作らないといけません」
リオ「うっ……!」
サフィールちゃんの言葉にさらに緊張を強めるリオ。
チェルシー「サ、サフィーちゃん……リオちゃんすでにいっぱいいっぱいだし、もうちょっとこう……」
サフィール「私だって出来ることなら手心は加えたいですが……もしそれで結果が出なかった時、リオさんはおそらく一生引きずってしまいます」
シエル「それは…そうでしょうね……」
モニカ「リオちゃん責任感も強いし、気にしないなんてことは出来なそうだよね……」
リオ「そ、そんなことはない…かなぁ…って思ったり思わなかったり……」
反論しようとするも、すでに負けそうなリオである。
メイカ「なんにせよ、リオちゃんには負担をかけることに変わりはないのよね……」
おじいさん「そうじゃのう……まだ若いお嬢さんにこんな大役を任せるのは大人として情けない話じゃが、それが最善だと専門家が言うとるのであれば儂らは何も言えぬ……じゃが、もう耳にタコが出来るほど言ってあるかもしれぬが、決して無理はするでないぞ?ユーリに元気な姿を見せてやらねばならんのじゃからな」
リオ「それは……はい、わかってます。オレだって助けたユーリさんに悲しそうな顔をさせるのはイヤですから」
おじいさん「うむ。それならよいのじゃ」
マグ(みんなケガなく、が1番ですからね〜)
コウスケ(そうだねぇ。難しいだろうけど、だからって諦めたくはないよねぇ)
マグ(はい!)
俺ももちろんそうなるのを願っている。
しかし……
準備期間の無さ……敵勢力の強さ……それによる味方陣営との戦力差……。
正直かなり無茶苦茶な作戦と言っていいだろう。
だからこそ直接戦闘をせずにユーリさんの元へ向かい、装備を渡してフォバを降ろし、なんとかしてもらうというプランなわけだが……。
それでも厳しい戦いになるであろう予想が立っている。
そもそも潜入だってのに途中で気付かれるのが行程に入ってるのがまずおかしい。
そんなアホみたいな作戦な上に、神を降ろすこと自体にもリスクが付きまとうとなると途方もない難易度になるのは当たり前だ。
そのリスク部分を少しでも和らげるための装備…神装具作りが成功すれば、救出作戦への意欲が上がり、俺たちの士気もぐーんと高まることになるだろう。
作戦の可否に関わる大事な部分……。
それはとんでもない重荷だ。
それがリオの小さな肩にのしかかっている……。
そしてそれはリオも嫌というほど分かっているだろう。
しっかり支えてあげないと本当に折れかねないな……。
コウスケ(ん〜…よし、決めた)
マグ(何を決めたんですか?)
コウスケ(リオのメンタルケア。そろそろ頭なでなでとかハグとかじゃ誤魔化しきれなくなってそうだからさ)
マグ(たしかに……あと3日となるとかかるプレッシャーも相当ですからね……それで、どうするつもりなんですか?)
コウスケ(そんな特別なことはしないよ。基本中の基本さ)
そしてここまでいろんな子の悩みを聞き、助けとなったであろう手段でもある。
コウスケ(夜のマンツーマンコミュニケーション、だよ)
マグ(おぉ〜)
別名個別相談。
文字数を縮めるならこっち一択だね。
マグ(なんかエッチな響きですね)
コウスケ(自重して〜)
指摘されたら俺もそうとしか思えなくなっちゃうじゃんかよぅ。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
というわけで深夜。
みんなが寝静まった頃合いを見計らって、同じ布団の中で俺に引っ付いているリオに小さな声で話しかける。
なおなぜ引っ付いているのかは…まぁ話せば長くなるのだが……。
簡単に言えば、大役を任されてど緊張のリオのために俺の隣を譲ってくれた友人たちと、そんな友人に感謝しつつなけなしのプライドで俺と同じ布団に入るだけで止めたリオ。
しかし実はリオの足は布団の中で完全に俺の足に強く絡まっており、みんなが各々寝始めたところで本格的にぎゅっと来たわけだ。
ちなみに顔だけ動かせた俺がチェルシーやメリーと目が合った際、頑張れよと言わんばかりにゆっくり頷かれたので多分バレてる。
でもまぁそれは本人の名誉のために言わないでおこう。
今言ってもいいことないし。
それはともかく。
コウスケ「リオ。起きてる?」
リオ「……うん」
やっぱり起きてたか。
マグ(あ〜、完全に甘えんぼさん状態ですねぇ)
マグもバッチリ起きてます。
まぁ宣言したし気になるよな。
俺としてもマグがいてくれる方が何かと相談できるから気が楽だし。
ふたりきりだと思っているリオにはちょっと悪いけど、肉体的にはふたりしかいないことに変わらないから許してほしい。
コウスケ「ちょっと移動しよっか」
リオ「……(こくり)」
ともかくお話タイムに入るためにいつもの窓辺へ移動。
7月も半ばなため、夜といえど布団を被るほどではなく、むしろ夜風が心地よい。
これ結構良い気候だよなぁ。
前世だとこの時期はもう基本的に寝苦しいほどの暑さとかザラだもん。
もしかしたらハルキが弄ってくれてるのかもしれないけど、ありがてぇことこの上ないなぁ。
拝んどこ。
ありがたやありがたや。
なんて心の中でハルキを拝んだところで、俺はぴっとり寄り添うように座っているリオに会話を振り始めた。
コウスケ「いよいよって感じになったねぇ」
リオ「うん……」
コウスケ「なんというかさ。ユーリさんがいなくなってから、長い時間が流れたような…でも実際はまだ1週間も経ってなくて……ゆっくりに感じるような…でも準備とかしてるとあっという間だし……う〜ん……」
数々の悩みを聞いてきた割にはこの体たらくである。
シンプルにおバカ。
リオ「…わかるよ」
俺が開始早々ぐだっていると、リオがポソポソと口を開いてくれた。
リオ「オレもさ。鍛治やってるときは凄い時間の流れがゆっくりに感じるんだ。でも作業自体はいっぱいいっぱいで、余裕なんて微塵も無くてさ。それでもどうにかその工程を終えてふと時間を見たら、そんなに経ってなかったりしてさ。それなのにドッと疲れが出てきたりして……なんか…あるよな、そういうの。うん、わかる」
あれ?
もしかして俺慰められてる?
あまりのぐだぐだっぷりに助け舟出されてやしないかいこれ?
悩み聞くどころか助け舟出させてどうすんの?
なんて己の不甲斐なさを呪った俺だが、どうやらリオはそういう意味で言ったのではないようだった。
リオ「オレ、怖いんだ、それが」
コウスケ「えっ?」
マグ(怖い?)
リオ「うん。頑張ったのに、力を出し切ったはずなのに、時間にしたらそれはほんのちょっとだけで……なんだか、そんなちょっとのことでこんなに疲れてるのが許せなくてさ……」
コウスケ「あ〜…そうだねぇ……なんかそういうときって大体もうちょっと経ってるもんだと思ってるよね」
思い返せば単純作業でしかない荷物運びとかでも、アホみたいに重いものを苦労してどうにか運び終えたときは凄いやってやった感があるし、そこで時計見てちょっとしか進んでないと「うわぁ…」ってなったりもする。
でも多分この例え話は今のこの場の空気にそぐわない気がするから口に出さないでおこう。
リオ「うん……頭ではなんとなくわかってるんだよ。考えすぎなんだって。でもなんか…情けなくてさ……」
コウスケ「体力の無さが?」
リオ「それとか…こういうので悩んだらこととか……」
コウスケ「それは…ちょっと負のループ入っちゃってるかもねぇ……」
マグ(ですね……でもそれは怖いとはまた少し違う気がしますけど……)
コウスケ(ん〜…言われてみれば確かに)
どちらかというと情けないと思う話だ。
となると…
コウスケ「それじゃあ…そのループから抜け出せなくて怖いってこと?」
リオ「ん〜……いや、そんな難しいことじゃないかな……ループも確かにイヤだし怖いけど、それは入る前だからこそというか、すでに片足突っ込んでる気がする今だとそんなにというか……」
マグ(片足突っ込んでるんだ……)
それはもはや諦めの境地に達しているんじゃ……?
コウスケ「えっと、じゃあ怖いのは……」
リオ「言葉通り、頑張ったのに疲れと時間の流れが比例して無いって感じることにだよ」
どうやら言葉の裏を読みすぎたようだ。
それってちゃんと言ってくれてたのにね。
リオ「その感覚に陥るのも怖いし、落ちた時にどうすればいいかわからないのも怖いし……なんかもう全体的にイヤっていうか……」
コウスケ「もうその事象自体にトラウマ抱えてる感じ?」
リオ「そんな感じ」
マグ(なるほどなぁ……)
それもなんとなくわかるかも。
で、そうならないようにどうにかするんだけど、何かの拍子にその中に入っちゃったときに頭の中が真っ白になっちゃったりするんよな。
なんかもう無条件オールステータスダウンというか、常にダメージ受ける状態というか。
とにかくめっちゃ悪い状態なのは確か。
リオ「それで、さ」
コウスケ「うん」
リオ「あんまいい質問じゃないんだけどさ…正直に答えてほしいんだ……」
コウスケ「…うん。なに?」
リオ「オヤジが納得出来るもんを3日以内に……いや、正確には糸にしてローズさんに渡して加工してもらってだから、明日完成させないとほぼ間に合わないわけだから、実質明日だけなんだけどさ」
コウスケ「辛いところだね」
マグ(かなり厳しいですね)
リオ「うん。それでなんだけど……オレ、明日オヤジを満足させられると思うか?」
コウスケ「ふむ……」
マグ(そこは出来るって即答してあげないとなんじゃ……?)
コウスケ(いや…まぁそうなんだけどね?)
ただ、残念ながら俺の本心は……
コウスケ「…今のままだと無理だと思う」
マグ(コウスケさん…!)
リオ「……だよな……」
俺の答えにリオは悲しそうに微笑んだ。
リオ「ありがとう、正直に答えてくれて……オレも実は出来るわけないって思っちゃってさ……本当は諦めちゃダメなのに……どうしても完成する気がしない……完成のイメージが湧かないんだ……」
マグ(リオ……)
そう言って目尻に涙を浮かべるリオ。
確かに完成のイメージが湧かないのは作り手としてはよろしくないかも……。
…イメージか……ふむ……。
リオ「ごめん……こんなこと言って……ユーリさんのために頑張らなきゃいけないのにな……」
そこまで言ってリオはおもむろに自身の頬をパチンと叩いた。
リオ「うん、悪い。やっぱ話すべきじゃなかったな。大丈夫だ。だからって完全に諦めるわけじゃない。ちゃんと今できる全力を尽くすから、だから…忘れてくれ」
コウスケ「ごめん無理」
リオ「えっ」
マグ(コウスケさん…!)
悲しげな流れをバッサリ切った俺の言葉に呆気に取られるリオと、さっきの俺を若干責めるような呼び方とは異なる、まるで信じてたぜ!と聞こえてきそうな感じの、ちょっと喜びを感じる声を出すマグ。
コウスケ「まずは、話してくれてありがとう。前にも言ったかもしれないけどさ。やっぱりそういうのを打ち明けてくれるのって凄く嬉しいの。だから、そんな嬉しいことを忘れるなんてのは絶対に無理だから諦めて」
リオ「え、えぇ……?」
マグ(無茶苦茶だ〜)
喧しかぁ。
コウスケ「それでさ。リオがそういうのが怖いっていうのはわかった。でもその上で、試してみたいことがあるの」
リオ「試してみたいこと…?」
コウスケ「うん。そこでひとつ聞きたいんだけどさ」
リオ「う、うん……」
コウスケ「リオは今好きな人っている?」
マグ(えっ)
俺の質問になんだか「何言ってんだコイツ」って感じたっぷりな反応をしたマグ。
そんなマグに一拍遅れて…
リオ「…へっ?」
リオが先ほどまでの悲しそうな顔がウソのように驚いた顔と素っ頓狂な声を発した。




