397.糸の加工職人…いつも濃いあの人
リオ「う〜ん……」
パメラ・モニカ「「う〜〜ん……」」
ショコラ・チェルシー「「う〜〜〜ん……!」」
リオの鍛冶場に戻ってきた俺たち。
親方さんとの会話をみんなに話したところ、「じゃあ一緒に考える!」と予想通り頼もしいことを言ってくれたわけだが…
シエル「……思いつかないわね……」
サフィール「あの親方さんを満足させるようなもの……難しいですね……」
残念ながら良い案は出てきていない。
コウスケ「やっぱり凄いものより物の出来が重要なんじゃない?」
リオ「そうかぁ……そうだよなぁ……」
パメラ「でもあんまり簡単なものだと不安なんでしょ?」
リオ「そうなんだよぉ……」
チェルシー「じゃあそこそこ難しくて上手に出来そうなものってことだよね……」
モニカ「それこそ難しいよぉ……」
みんな『(う〜ん……)』
条件を確認したところで再び考え込む一同。
このままだと一生決まらない気がしてきたぞ……。
悩み続けるのは良くない。
コウスケ「とりあえず当初の目的通り、脛当てをもう一個作ろう。親方さんも神装具を作る過程で生まれたものでいいって言ってたしさ」
俺たちがユーリさんのために色々やっているのを親方さんもよくわかっているので、わざわざ1から見せる用の物を作らなくていいと言ってくれたのだ。
リオ「そうだな……ひとまず手を動かさないことには始まらないか……」
とにかく動かねばと納得したリオにシエルが尋ねる。
シエル「今出来てる中に会心の出来ってものは無いの?」
リオ「無いな。あったとしても多分このくらいじゃ満足してくれないと思う」
ショコラ「きびし〜……!」
サフィール「鍛治ギルドのギルドマスターですもんね……」
モニカ「昨日の腕輪も今日のすね当ても良いと思うんだけどなぁ……」
コウスケ「そこまで甘くないってことか……」
マグ(難しいですね……)
となるとやはり新しく作るしか無さそうだ。
しかし腕輪や脛当てを作れたとはいえ、リオもまだまだ修行中の身。
果たしてユーリさん救出実行日までに間に合うかどうか……。
いやいや!
リオを信じると決めたはずだ!
それに不安なのはリオも同じなはず……。
支える側の俺が不安がってはいけない!
リオ「まぁとにかく続きをやろう!」
コウスケ「そうだね」
パメラ「って、そうだ。ねぇ、魔力糸は?」
リオ「ん?あぁ、そうだ。そっちもそろそろだな」
そう言ってリオは魔力糸の様子を見に行く。
チェルシー「どうどう?」
ショコラ「どんな感じどんな感じ?」
リオ「まぁ待て待て」
朝と似た様なことをしながら確認した結果は…
リオ「うん!大丈夫そうだな!」
ショコラ・チェルシー「「おぉー!」」
リオ「あとはこれを吊って乾燥させれば完成だ」
パメラ「せっかくヒタヒタにしたのに乾燥させちゃうの?」
リオ「このままだと使えないからな。大丈夫、魔力を吸われて水分だけが残ってる状態だから、乾燥させても問題ないんだ」
パメラ「へぇ〜!」
リオ「じゃあちょっと乾燥室に入れてくるから、少し待っててくれ」
みんな『は〜い』
そう言って部屋から出ていくリオ。
と、何やらシエルが何か思いついたようで、何かを尋ねたそうにし始めた。
雰囲気だけなので本当にそうなのかはわからないが。
ほどなくして帰ってきたリオに、シエルが本当に尋ねた。
俺の勘も鍛えられたなぁ。
シエル「ちょっといい?」
リオ「なんだ?」
シエル「魔力水とか他の魔道具とかって時間が経つと魔力が抜けてくでしょ?なら魔力糸もあんまり保管が出来ないんじゃない?」
コウスケ・マグ「(あっ)」
確かに。
だから定期的にチャージしたり、劣化したものは取り替えたりしなきゃいけないのだ。
リオ「あぁ。魔力糸も当然抜けてくけど、普通の魔石とかよりも抜ける速度は格段に遅くなるんだ」
シエル「へぇ〜、そうなのね」
コウスケ・マグ「(知らなかった〜……)」
リオ「へへっ♪」
おっ、なんだぁ?
知識マウント取れて上機嫌ってかぁ?
お子様だねぇ…年相応で可愛いじゃねぇか。
いいぞ、もっとやれ。
サフィール「魔力水はすぐに抜けてしまうのに、糸に吸わせると長持ちするなんて面白いですね」
モニカ「ねっ。本当にお料理みたい」
チェルシー「柿とかも干すと長持ちするもんね」
パメラ「あれは料理なのかな…?」
コウスケ「まぁでも通ずるところはあるよね」
リオ「だな」
シエル「料理って繋がるところ多いのねぇ」
料理も何かと手のかかるものだからな。
色々と通じるところがあっても不思議じゃない。
さて、といったところで。
そろそろ本題に取り掛かろう。
コウスケ「午後も脛当て?」
リオ「あぁ。ひとまず1セット揃えたいからな」
シエル「あぁ、落ち着かないわよね」
サフィール「左右対称って…いいですよね……」
チェルシー「サ、サフィーちゃんがまた闇ってる……!マギーちゃーん!」
コウスケ「はいはい今行きますよ〜」
最近サフィールちゃんの闇がちょくちょく表に出てる気がする。
どうしたんだろう?
生理が来てちょっと不安定になっちゃった?
セクハラかな?ごめんね?
じゃけんとりあえずギュッとしときましょうね〜。
サフィール「ん……♪」
マグ(う〜ん……いつも通り素晴らしい感触……)
コウスケ(セクハラですよマグさん)
この身ひとつでセクハラコンビが誕生してしまった。
悲しいね。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
そんなコンビでもセクハラせずにキチンとお手伝いをすること数時間。
無事にもうひとつ脛当てを作り、朝のものと合わせてワンセット出来上がったところで時計を見ると、帰るにはまだ早く、さりとてもうひとつ何かを作るにはちょっと短すぎる時間になっていた。
とても微妙。
コウスケ「どうしよっか?」
みんな『う〜ん……』
リオを撫でながらそう尋ねてみたものの、みんなの反応は芳しくない。
そりゃあそうだ。
応援しながら魔法の壁を張って鍛治作業をサポートしている俺と違って、みんなは本当に応援や周りの整理整頓くらいしかやることがないのだから、そんなちょっとした時間で何かやれるのならとっくにやっているだろう。
さ〜て、どうしたもんか……。
???「なら私の話でも聞くかい?」
コウスケ・マグ「(わぁっ!?)」
突如真後ろから聞き馴染みのある声がして驚きながらも振り返ると、そこには商業ギルドのギルドマスターであるタヌキ獣人のミュイファさんが、コロコロ笑ってそこに立っていた。
コウスケ「ミュイファさん!」
パメラ「いつの間に!」
ミュイファ「ふふん、これくらいなら私も出来るのさ♪」
ショコラ「すごーい!」
ミュイファ「ははは、ありがとうね〜♪(なでなで)」
ショコラ「んふー♪」
相変わらず淀みの無いショコラちゃんに笑いながら頭を撫でるミュイファさん。
そんなミュイファさんに、彼女が現れたことでさりげなく俺から離れたリオが気になっていたことを聞いた。
リオ「ミュイファさん。さっき言ってた話っていうのは……?」
チェルシー「もしかして魔力糸の加工職人さんが見つかったとか?」
ミュイファ「大正解♪ちょうどいい人材がいたから、連れてきたよん♪」
みんな『(おぉ〜!)』
昨日お願いしてもう見つけてくれるとは、さすがミュイファさん。
ミュイファ「とりあえず顔合わせをさせたいんだけど、もう呼んじゃってもいいかな?」
リオ「あっはい!お願いします!」
ミュイファ「りょうか〜い♪」
軽い返事と足取りで扉へ向かうミュイファさん。
…あの人俺たちに気付かれずに扉を開け閉めしたってことじゃん……。
怖っ……。
なんてことを考える俺をよそに、子どもたちは誰が来るのかワクワクが止まらない様子。
ショコラ「どんな人が来るのかな〜?」
モニカ「優しい人だといいね」
リオ「案外ウチのオヤジみたいな人かもしれないぞ?」
パメラ「えぇ〜、やだ怖〜い!」
マグ(かわいそうに……)
サフィール「職人気質…だとしたらもしかして……?」
シエル「ミュイファさんの推薦なら腕は確かでしょうし…割とありえるかも?」
チェルシー「でも多分ムキムキじゃないと思うから、そこまで怖くはないんじゃないな〜?」
きゃっきゃと盛り上がる予想を背に、ミュイファさんが扉から顔だけ出してその人を呼んだ。
ミュイファ「どうぞ〜♪」
???「は〜い♡」
俺たち『(!?)』
響いたのは野太い声。
しかしキュるんとした語尾と動作がよぎる撫で声。
俺たちはこの声の主を知っている。
というか最近会った。
その人は…
ローズ「お・待・た・せ♡」
俺たち『(ローズさん!)』
そう。
とても濃い人代表(主観)のローズさんだ。
シエル「ローズさん、魔力糸の加工も出来るんですか!?」
ローズ「えぇ♪これでも服飾系は軒並み自信があるのよ♡」
ショコラ「すごーい!」
チェルシー「お洋服マスターだ!」
ローズ「うふふ、ありがと♡」
チェルシーの予想に反してガチガチのムッキムキなローズさんが来たわけだが、見知った相手であり実力もよく知っている…さらに言えば何かと頼りになる人だということもわかっているローズさんだったので、不安がる子はおらず、むしろこれ以上ない当たりが当たったとでも言うような湧きっぷりの子どもたち。
俺としても、ローズさんにはすでに全て話しているため、色々と隠したりせずにいられるのは精神的にとてもありがたい。
ローズ「詳しいことはこの前聞いたし、ミュイファちゃんからも説明を受けたわ。みんなよろしくね♡」
子どもたち『(おぉー!)』
なんとも頼もしい限りである。
この流れで早速…と言いたいところではあったのだが……
ミュイファ「もうそろそろみんな帰る時間なんじゃない?」
子どもたち『(あっ)』
元々帰ろうか帰るまいか悩んでいたような時間だったのだから、軽くでもお話していればちょうどいい時間になるのは当然である。
パメラ「残念…また明日だね」
ショコラ「そうだねぇ……あっ、そうだ!」
残念がる子どもたちだが、その中でショコラちゃんが何かを思いついたようだ。
ショコラ「ローズさんもミュイファさんも一緒にご飯食べよー!」
ローズ「えっ?」
ミュイファ「私もかい?」
ショコラ「うん!みんなで食べた方がおいしーよ!」
う〜ん、さすがショコラちゃん。
太陽の化身の如き明るさを持つ者。
ローズさんだけでなくしれっとギルドマスターのミュイファさんも誘えるのほんと凄い。
ミュイファ「せっかくだから…と言いたいところだけど、残念ながらこの後も仕事が残っててね。ここに来たのも一応仕事だし。息抜きも兼ねてるけどね」
ローズ「ワタシもミュイファちゃんに呼ばれたから出てきただけで、まだお店開けてるから戻らないとなの。お誘いは嬉しいけど、ワタシも今回はご遠慮するわ。ごめんなさいね?」
ショコラ「そっかぁ……(しょんぼり)」
ミュイファ・ローズ「「うぅっ……」」
残念ながらふたりともまだやらなければいけないことがあるようで断られてしまったが、それにとてもわかりやすくしょんぼりするショコラちゃんの姿に心がぐらついている様子。
しかしそこは経営者。
いっときの感情に流されず、どうにか踏みとどまれたようだ。
ミュイファ「また次の機会にお願いするよ」
ローズ「えぇ。そっちから遊びに来るのも大歓迎だからね♡」
ミュイファ「うん。ウチにも来るといい。まんなも喜ぶよ」
ショコラ「はーい、わかりました!」
ローズ「元気なお返事、素敵よ♡」
ミュイファ「うんうん♪」
ショコラ「んふ〜♪」
ミュイファ「じゃあみんな、また会おう」
ローズ「ワタシはまた明日♡頑張りましょうね♡」
チェルシー「はーい!」
リオ「はい!ありがとうございます!」
俺たち『(ありがとうございます!)』
みんなでふたりが角を曲がって見えなくなるまで見送った。
パメラ「やったねリオ!ローズさんだよ!」
モニカ「ローズさんならきっと素敵なものを作ってくれるね♪」
リオ「あぁ!これは俄然やる気が出てきたぞ!絶対にオヤジから糸をもらってローズさんに加工してもらう!」
サフィール「その意気です♪」
ローズさんが手伝ってくれることに盛り上がる子どもたち。
シエル「そのためにも、親方さんが納得するものを考えないとね」
ショコラ「むぅ〜ん……なにかいいものないかなぁ……?」
チェルシー「親方さん厳しいからなぁ……」
再びうんうん唸り出したみんなに思わず笑みが溢れる。
コウスケ「考えてくれるのはありがたいけど、とりあえずそれは帰りながらにしようか」
サフィール「あっ、そうでしたね」
シエル「そうね。お風呂入ったりご飯食べたりしながらも考えましょ」
パメラ「お風呂ー!」
ショコラ「ごはーん!」
チェルシー「もちろん寝る前もね♪」
モニカ「うん♪メリーちゃんも一緒にね♪」
リオ「だな。よし、帰るか!」
コウスケ「うん」
マグ(まったりリラックスしながら考えましょ〜)
そうそう、慌てない慌てない。
噛むからね、呪文は。
そんなわけで俺たちは何を作るか話し合いながら帰路に…
エスト「取ってきたよー!」
シャール「ん。今日も豊作」
リオ「わっ!エストさん、シャールさん!」
チェルシー「わーい、おかえりー♪」
メイカ「あー!やっぱり先越されてるー!なんか追い抜かれた気がしたのよね…!」
ディッグ「屋根の上に何かチラッと見えはしたがなぁ……」
ケラン「別に競争してるわけではないんですから……」
パメラ「メイカさん、ディッグさん、ケランさんも!」
モニカ「おかえりなさ〜い♪」
着こうとしたところでエストさんたちが、さらにタッチの差でメイカさんたちが帰ってきた。
その手には魔石がたくさん。
ショコラ「わーっすごーい!魔石がいっぱーい!」
サフィール「また凄い数を持ってきましたね……」
リオ「ありがたいけど…こっちの消費が追いつかないな……」
そう言ってリオは未だ机の上に積まれている、昨日貰った分の魔石の山をチラッと見やる。
今日作った脛当て…装備位置の関係的には良いのだが、いかんせん足装備なのであまりゴテゴテにすると移動に制限を掛けてしまうという理由からシンプルな作りとなっている。
やべぇ装飾を付けても地形や人を貫通してくれるなんてゲームのようなことは出来ないのだ。
現実だもの。
コウスケ「まぁでもこれだけあれば作りたいものなんでもいけるんじゃない?」
チェルシー「少しぐらい贅沢しても全然大丈夫そうな量あるもんね」
シエル「いっそ半分くらい砕いて糸にしちゃう?」
リオ「そうだなぁ……」
鍛治職人的には結構贅沢な悩みなのかもしれない。
リオはう〜ん…と唸りながら色々と思考を巡らせている様子。
コウスケ「まっ、それも帰りながらぼちぼちね」
リオ「おっと…そうだったな」
ショコラ「じゃあ帰ってみんなご飯だー!」
パメラ「その前にお風呂だー!」
ショコラ「そうだったー!」
ディッグ「はっはっは!なんだ、やけにテンションが高いな?」
コウスケ「あはは…それも道すがら話しますよ」
そうしてさっきより人数の増えた俺たちは、今度こそ帰路に着くのであった。




