392.神様と作戦概要…チョロ神様
フォバ「ふむ…なるほどのう」
その夜。
眠りに着いた俺たちの夢の中に普通にいたフォバに先ほどの会議の内容を話した。
チェルシーの当てであるお姉ちゃんたち…黒猫獣人のエストさんと白猫獣人のシャールさんには、明日の朝早くに冒険者ギルドへ行ってララさんに話を通してもらう予定だ。
目覚めが早いモニカちゃんとサフィールに。
言い出しっぺのチェルシーは朝にとても弱いので仕方がない。
エストさんとシャールさん。
どちらもハルキの嫁であり、チェルシーの義理のお姉さんである冒険者だ。
ランクもディッグさんたちと同じAと高く、実力も昔ユーリさんとの練習試合で見たことがあるので疑いようもない。
さらに言えば、二人は今回の作戦にとても相性の良い人選なのだ。
獣人は普通の人間と比べ、基本的に皮膚の作りが違う。
例えば、犬人族であるショコラちゃんの手はマグの手に比べて少し柔らかくちょっと厚みもある。
個人差と言ってはいけない。
そういうもんなんです。
ちゃんと明確に違う部分もあり、ショコラちゃんの皮膚には人間のうぶ毛とはまたちょっと違う感じの毛が生えている。
まだ子どもなためそこまで目立たないが、触るとわかるふわふわ触感はクセになる。
大人になればより濃くなり、耳や尻尾などを見なくとも一目で獣人であると判断できるようになったりする。
やっぱり個人差はあるので一概にそうとは言えないが、まぁ大体そういうもんである。
で、エストさんとシャールさんは猫人族。
毛並みや成長の傾向に違いはあれど、一括して猫人族と称するわけだが、その猫人族の特徴として、足音や気配を消すのが得意というのがある。
これは動物のネコが着地の時に足音がしないなどと同じような感じで、人よりもしなやかな手足を持つ猫人族たちも足音などを消すことに長けているのだ。
長けているだけで、やろうと思わなければ常人よりは控えめなれど足音は鳴る。
というかクツ履いてる時点でどうしたって鳴る。
それはもう仕方がない。
しかしそれを補えるほどの隠密性が高い種族…それが猫人族なのだ。
今回は相手が相手なだけに果たして意味があるのか分からないが、それでも無いよりはマシだろう。
ほんの少しでも距離を稼げればそれでいいのだ。
そういったこともあって、エストさんとシャールさんに協力をお願いすることは、満場一致で賛成された。
あとは協力を得られるかどうかが問題だ。
今ハルキや各ギルドのギルドマスターは何やら慌ただしい様子なため、それに駆り出されていた場合他の候補を見つけなければならない。
フォバ「協力者についてはわかった。その者たちの腕前もな。しかし、ひとつ謝らなければならぬことがあってのぅ……」
マグ「えっ」
コウスケ「それって……?」
このタイミングで言われるのすんごい嫌な予感がするんだけど……。
フォバ「あぁいや、その二人の様子を聞く限り大丈夫だとは思うし、御子の祖父も言っていないようだからそこまで気にすることではないと思うんじゃが……」
コウスケ「そんな前置きされると余計に怖いんですけど……」
マグ「そ、そうですよ!もうサクッと言ってください!サクッと!」
フォバ「そ、そうじゃな。こほん……あの一族の里には実は結界のようなものがあっての」
マグ「結界…ですか?」
コウスケ「えっ、それって入ったら位置がバレるとかそういう…?」
それだとステルス出来ないんですけど?
フォバ「言ったであろう。そこまで気にするものではないと。そんな代物なら必ず言うであろうし、真っ先に対策を立てるはずじゃ」
コウスケ「あぁ、ですよね……」
マグ「えっと…それならその結界にはどんな効果が?」
フォバ「うむ。里の中央に社があっての。そこに妾を見立てた石像があるのじゃが、確かそれに護符が付けられておったはずでな。その護符と、石像に込められた祈りのチカラによって炎の魔力が強まっていたはずじゃ」
コウスケ「なるほど……」
炎の神を崇める者たちの里っぽい効果だな。
マグ「あの、祈りのチカラというのは?」
フォバ「まぁ端的に言ってしまえばそれも魔力じゃ。言い方を変えただけじゃの。しかし、お主たちの友人に教会で暮らすものやシスター見習いなんかがいたはずじゃが、何も聞いておらぬのか?」
マグ「えっと…言ってましたっけ?」
コウスケ「毎朝のお祈りの時間があるってのは教えてもらってたけど…そんなチカラがあるなんて聞いてないなぁ」
それにショコラちゃんとパメラちゃんはまだしも、サフィールちゃんに関してはシスター見習いじゃなくて、それが制服だから着てるだけのゴリゴリの無神論信者だし……。
フォバ「むぅ……昔は当たり前だったのじゃがなぁ……まぁ我ら神がチカラを見せなくなって久しいゆえ、そういうこともあるじゃろう」
コウスケ「あれ、結構寛大。もっとこう、罰当たりめ!みたいなことを言うもんかと」
フォバ「もちろん言いたい気持ちはある。じゃが、見ていないものは信じないという言い分もわかるからのぅ。ならばいっそ受け入れた方が、寛大な心を持っているとなって受けが良いと思ったんじゃ」
マグ「それ言っちゃうんですね……」
フォバ「ふふん。見栄を張るなど童のするじゃからな!」
なんてことを胸を張って言う神様であった。
言わないでおくのも寛容な心というものよな。
マグ「でもおじいさんはなんで言ってくれなかったんでしょう?単純に忘れていたとか?」
フォバ「もしそうであればそれこそ罰当たりというものじゃが、おそらくは言っても仕方がないと判断したのかもしれないのう」
コウスケ「あ〜……」
マグ「どうしてですか?」
フォバ「ほれ、コウスケ。言うてみい」
俺かい。
コウスケ「んぇぁ〜……ほれ、俺たちユーリさんのお父さんと対峙したじゃん?」
マグ「しましたねぇ」
コウスケ「ボロ負けしたじゃろ?」
マグ「しましたねぇ……あっ、なるほど。炎使ってませんでしたね」
コウスケ「でしょ?元々使ってもないものを強化する程度の効果なら、別に言っても言わなくても変わらないって判断だと思うよ」
しかしそれは他の協力者がいればまた話が変わる…か?
俺は論外として、おじいさんも多分炎使いだから後出しでも別にいいっちゃいい。
となると他の協力者…エストさんとシャールさんがいけると分かればまたその時に教えてくれる…かな?
教えてくれなかったらおじいさんにスパイ疑惑が浮上するけど……。
さすがに昨日打ち明けてくれたユーリさんへの想いは本物だと信じたい。
フォバ「それか試しておるとかかものう」
コウスケ「試す?」
フォバ「うむ。お主たちが妾と本当にあっているのかどうかとな。もし里のものしか知り得ぬ情報を持ったとすれば、それが証拠となって納得するやもしれん」
コウスケ・マグ「「なるほど……」」
フォバ「とは言え、その者が立てた作戦を見るに、おそらくその心配は無用じゃろうな。妾から見てもかなり良い作戦じゃと思うぞ」
コウスケ「おぉ、お墨付きだ」
マグ「自信が出てきますね♪」
自分たちが崇めている神、フォバに褒められたとなればさすがのおじいさんも感激しそうだ。
そしてこの流れで、その作戦についてのおさらいもしておこうという話になった。
チェルシーがエストさんとシャールさんに声をかけることを提案し、それが可決された後もおじいさんの話は続いた。
とはいうものの、作戦は至ってシンプルだった。
まずは里の近くまで急行。
その後、気配を消して徒歩でさらに接近。
ある程度のところで必ず気付かれるとのことなので、そこからはおじいさんが先行してヤクモさん他里の人をできる限り引きつける。
その間に俺がお供に守られながらユーリさんの元へ向かい、装備を着けさせる…という流れだ。
シンプルと言えど、相手が相手なだけにその難易度は段違い。
しかも魔力にも敏感だそうで、もし使えば1発でバレるためステルス中は魔法が使えない。
ゆえに身体強化なども使えないし、仮に接敵してしまった場合は魔法無しの状態から戦闘に入らなければならないため初動も遅れる。
というかバレた時点でだいぶヤバいので初動も何も無いのだが。
さて。
こんなシンプルな作戦に何を1日使ってるんだとお思いだろうが、作戦は早々に決まったものの他の要因で頭を悩ませていたというのがおじいさんの証言。
まずユーリさんの場所問題。
せっかく上手いこと里に入れたとしても、肝心のユーリさんを見つけられずにウロウロなんて余裕は当然ないわけで。
そうなるとピタリ、よくてニアピンくらいの精度でアタックを決めなければならない。
しかしそのユーリさんのルーティンが曲者で、以前は10日周期で決まった行動をとっていたために分かりやすかったものの、今回は…
1.脱走によるルーティンのズレによって行動パターンが不明。
2.脱走による警備増強及びルーティン変更の恐れ。
という二つの懸念が存在してしまうとのこと。
里だ村だと散々言ってはいるものの、マグの記憶を一部共有したからわかる。
村って割と広い。
規模にもよるだろうが、今回の騒動で捕えられた人たちの数を教えてもらった感じ、少なくとも10〜15世帯は堅い計算になる。
村と町の境界線ってどこなんやろなぁ……。
なんてことを現実逃避をしつつも真面目に思考を続けたところ、倉庫やら何やらのいわゆる村の財産的な建物を足せばさらに増えるなぁ…と考えた俺はたった二つの懸念点がいかに厄介なものかを悟った。
というか某忍者マンガのほむらの里とかってこれ町では?って規模だった気がする。
じゃあもしかしたらもっと多い……?
…成功するんかこれ……?
と、これだけ聞けば準備を万全に整えても無謀な賭けをせざるを得ない無理ゲー状態なわけだが、一応場所が確定する日というのがあるらしい。
それは御子が神へと魔力を捧げる日。
【奉納日】と呼んでいるらしいのだが、その日ならば必ず里の中心…さっきフォバの口からも出た、フォバを模った像のある社へと来るらしい。
決められた日の決められた時間に、決められた順序で魔力を捧げる……。
この儀式は例え何があろうと必ずしていたそうなので、しきたりを重んじ(過ぎてい)るヤクモならばそこは変えないだろう…というおじいさんの予想だ。
確かにその日ならば必ずユーリさんの位置を特定できるわけだがもちろん問題もあるわけで、その儀式中は里の人全員も集まるそう。
つまり警備は頑強と考えられる。
そして先ほどから言っているように社は里の中心。
つまりどこから侵入したとしても同じような距離となるためどうしたって衝突は避けられないそう。
……本当におじいさん一人で先行して引きつけられるのか……?
というかおじいさん、ヤクモさんとサシで戦っても勝てる気がしないって言ってたのに、さらに取り巻き多数で本当に大丈夫なんだろうか……?
それに問題はもう一つある。
そもそもその奉納日が今からだと普通に間に合わない日ということだ。
おじいさん一人ならまだ余裕。
俺や同行者がいてもまぁまだ大丈夫だが、肝心の神装具がまだ一つも作れていないため、それらの完成を待たねばならない。
そうなるとかなり厳しいラインらしい。
しかしそれが無ければ行ってもほぼ意味がないため待つしかない。
これを聞いたリオはまたプレッシャーで押し潰されそうになっており、寝る前なんか他の子がいる前だと言うのに俺に抱きついて離れなくなった。
周りもさすがに茶化す雰囲気ではないと察して温かく励ましてくれたが、果たして明日立ち直れているかどうか……。
ともかく、ある程度の方針は決まったもののまだまだ越えるべき壁は山ほどある、というのが今の状態だ。
フォバ「のう、言ってよいか?」
コウスケ「出来れば聞きたくないけど…どうぞ?」
フォバ「この作戦本当に成功するのか?」
コウスケ「うん、やっぱ聞きたくなかったな」
フォバの指摘はごもっとも。
というか多分みんな思ってる。
でもやるしかないのだ。
こうしている間にもユーリさんが苦しんでいるのだから。
マグ「あっ、そういえば……」
コウスケ「ん?」
フォバ「どうした?」
そこでマグが何かを思い出したように声を出した。
マグ「いえ、私たちは今神装具を作ろうとしてますけど、ユーリさんの里にもそういうのがあるんじゃないかなって思って。ほら、代々フォバ様を崇めて魔力を捧げてきたんですから、そういう時のための装備品とかあるはずじゃないですか?」
コウスケ「あっ、そういえば聞いてないかも」
そんな大事なものなら教えてくれてもいいはずなのに……。
おじいさん知らなかったのかな?
フォバ「神を降ろすための装備は無いのじゃよ。あそこにあるのは神に魔力を捧げることに特化したものだけよ」
コウスケ「そうなの?」
マグ「意外ですね」
フォバ「うむ。おそらく妾が降りた時に生身だったのが関係しておるのかもしれぬな。それに何人か外に送り出しているとはいえ、あくまで情勢の把握が主なようじゃし、そちらには手が回っておらぬのじゃろう」
コウスケ「ふ〜む、そういうもんかぁ……」
マグ「他の神様のこととか調べてそうですけどねぇ……」
フォバ「そうじゃな。じゃが依り代を用いだしたのは妾が封印されてからじゃったはずじゃし、まぁそこまで不思議でもないと思うぞ」
コウスケ・マグ「「そうなんだぁ……」」
フォバが生身で降りて戦ってえらいことになったから、それを教訓として依り代システムを導入した…って感じかな?
そう考える俺の隣で、マグも気になったことがあったようでそれを口に出した。
マグ「そういえば他の神様が降りてきた明確な日付は聞いてませんでした」
コウスケ「あっ、確かに」
フォバ「それはセインディアが弄ったからじゃ」
マグ「えっ、セインディア様が?」
コウスケ「なんでまたそんなことを?」
フォバ「人間のエゴに利用されて怒ったからじゃよ。考えてもみい。神を降ろすことが出来る、なんてのを人間どもが政治利用しないでいられると思うか?」
コウスケ・マグ「「あ〜、なるほど……まったく思いません」」
フォバ「じゃろ?」
どこの人間もほんっとに昔から成長してないのな……。
フォバ「それで怒ったセインディアが当時の関係者に罰を与え、明確な時期等の記録を弄ってぼかしたのじゃ」
コウスケ「ぼかしてだけなんだ?」
フォバ「うむ。利用されるのが嫌なだけで、こちらに降りること自体はむしろ楽しみにしていたからな」
マグ「詳しいですね……ずっと長い間眠っていたんじゃ?」
フォバ「向こうではな。お主たちならわかるであろう?体は眠っているが心は動けるというのが」
コウスケ・マグ「「あぁなるほど」」
ちょうど今みたいに夢の中で話したり遊んだりみたいなことが出来てたってことか。
コウスケ「じゃあ他の神様たちともこんな感じで話してたんだ?」
フォバ「たまにな。向こうもなんだかんだと忙しいからのぅ」
マグ「へぇ~」
遠くにいてもこんな風に話せるなら楽しそうだけど……あくまで友だちって感じの距離感なのかな?
まぁ俺とマグみたいにイチャついてる感じではないのは確か。
フォバ「むっ、そろそろ時間のようじゃな……むぅ……」
コウスケ・マグ「「?」」
時間が迫っていると告げといて不服そうに口をとがらせるフォバ。
コウスケ「もしかして寂しいの?」
フォバ「バッ…!そぉんなわけなかろう!?人の子が驕るでないわ!」
マグ「えっ…ご、ごめんなさい……」
フォバ「あっ!?」
あーあ、フォバの心ない一言でマグが傷ついた~。
コウスケ「俺らは結構楽しいよねぇ?」
マグ「はい……でもやっぱり神様ですもんね……本当は私たちとこんなお話しちゃいけないんでしょうね……」
コウスケ「そうだね~…ユーリさんを助けたらもう会うことも無いだろうし……」
フォバ「えっ!?」
マグ「寂しいですけど……仕方ないですよね…神様ですし……」
フォバ「えっ…!?えっ……!?」
…分かりやすく動揺するよねこの神様……。
ほんとに最低500年以上生きている神様なんだろうか。
フォバ「べっ、べべべ別にそんな助けたからってじゃあさよならなんて冷たいことは言わんぞ?妾寛容じゃし!面倒見だって自信あるんじゃぞ?何かあったら助けるし何もなくても話し相手になってほしい…じゃなくてなってやるし、それに神様じゃぞ?そんな簡単にこんな強い繋がりを切っていいのか?その辺のどこの馬の骨とも知らぬ奴らならいざ知らず、そなたたちならば特別にこのまま続けてもいいんじゃぞ?妾が許す!だからそんなあっさり引き下がらなくてもいいんじゃぞ?な?な?」
なんて必死な神様だろう。
それほどまでに寂しいのか。
そりゃまぁ数百年こんなところで、たまに会いに来る友人…友神?しか相手がいないというのはキツいものがあるんだろうな。
……そら辛いだろうなぁ……。
でもまだ強がれるんだから凄いよな。
あるいは拗らせてんのか。
まぁなんにせよこういう手合いは慣れている。
ほんとは甘えたいのについ強がっちゃう子がウチらの友だちにもいるからな。
大体おんなじ感じでなんとかなるやろ。
コウスケ「う~ん……まぁ…神様にそこまで言われちゃあ…ねぇ?」
マグ「そうですねぇ……でも無理してませんか?本当に大丈夫なんですか?」
フォバ「問題ないったらないのじゃ!許すと言ったら許すのじゃー!」
もはやただの駄々っ子なんですが、それでいいんすか神様。
これはあとで恥ずかしくなるやつだろうな~と思いつつ、まぁこれくらいで勘弁してあげるか~とマグの方を見る。
マグはコクリと小さくうなずいて、寂しがりな神様に答えた。
マグ「わかりました。それじゃあこれからもよろしくお願いします」
コウスケ「神様と友だちなんて心強いわ~」
フォバ「と、友だち……!?」
コウスケ「あ~、やっぱりそれは気安いですかねぇ?」
マグ「そこまでは許してくれないんじゃないですか~?」
フォバ「ハッ!コホン…!まぁ?妾は寛容じゃし?そのくらいなら別にいいぞ!自慢に思うがよい!」
コウスケ・マグ「「わ~い、ありがとうございま~す!」」
この神様、チョロすぎる。
耳はピコピコしてるし、尻尾パタパタしてるし。
やっぱ精神年齢ショコラちゃんたちとほぼ同じだ。
コウスケ「…しっかり守ってあげよ、マグ」
マグ「そうですね…簡単に騙されそうで心配です……」
なんてことを話したところで、今日は解散となった。




