4.白兎亭の看板娘…と初めてのお友達
起動してない魔道具はただの物。
そう心に刻んだ俺は現在、メイカさんたちと一緒に昼ご飯を食べに行くところだ。
目覚めてから何も口にしてないので楽しみでしょうがない。
「なぁ、これから飯食いに行くんだがどっか良いところ知ってるか?」
「それなら白兎亭ってところがうまいよ〜。さっきの門からまっすぐ大通りを進めばギルドがあって、その途中にあるんすけどそこがウサギの獣人がやってる店で、そこのスープがそれはもう絶品なんですよ〜!」
ウサギの獣人…だと…!?
「ディッグさんそこにしましょう。」
「お、おぉ嬢ちゃんどうした急に……。そんなに腹が減ったのか?」
「そうです。なので行きましょう。」
「おぉうわかったわかった。じゃあそこに行ってみることにするわ。あんがとな」
「いえいえ〜。勧めといてあれだけど、獣人に偏見持ってるやつじゃなくて良かったよ。たまに獣人やエルフたちを見下してるやつがいるからさ〜」
「俺たちは元からなんとも思ってなかったから大丈夫だったが、たまに何も知らずに入って「獣人の料理なんざ食えるか!」って言ってる勝手な奴もいるからな。あんたらも巻き込まれないよう気を付けろよ」
「あいよ。んじゃあな!」
「ありがとね♡」
「ありがとうございました」
みんな口々にお礼を言っていく。俺も色々教わったし何より2人とも良い人そうだし、今後ともよろしくという意味も込めて…
「ありがとうございました!」
「お〜、嬢ちゃんも気をつけてな〜!」
手を振ってお礼を言うと、ゆる門さんがそう言いながら、真面目さんも微笑みながら手を振り返してくれた。
「楽しい人たちだったわねぇ」
「えぇ、それに色々と親切にして頂けましたしね」
「笑顔で手を振るマーガレットちゃんも見れたし…」
「結局そこじゃねーか!」
相変わらずなメイカさんにディッグさんの鋭いツッコミが入った。
それを気にせずメイカさんは俺の手を握る。
しっかしさっきの門番さんの話、フラグにしか聞こえなかったなぁ……。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
そんなこんなで白兎亭に着いた。
普通の二階建ての一軒家で、お店部分は一階だけの様だ。
二階ベランダの外壁には、可愛らしいウサギの絵と「白兎亭」と書かれた看板が…って、おや?
1度視線を外し目元を揉んでみる。
そしてもう一度見る。
「白兎亭」と書いてある。
ガッツリ漢字で書いてある。
んー?これは…どっちだ?
この世界の文字がウチの世界と同じなのか、俺が翻訳スキル持ちなのか。
でも門番さんたちも白兎亭って言ってたし、漢字が主流…?
いやでもそれも翻訳スキルでそう聞こえる様になってただけ…?
ステータスが見たい。そもそもステータスあるか分からんけど!
「お、ここか。白兎亭ってのは」
ディッグさんがそう言う。
が、それだけじゃ分からない。
文字を読んだの?絵を見て言ったの?
どっちなのー!?
「きちんと振り仮名も振ってあって子供も読めるようになってるのね。ポイント高いわ♡」
ありがとうメイカさん。
おかげで問題が解決しました。
俺の中のメイカさんのポイントも若干上がったよ。
この世界の事をまた一つ学んだところで、早速店内に入る。
「いらっしゃいませー!」
元気な女性の声が出迎えてくれる。
店の中は思ったより広かった。
が、そんなことよりも俺の視線は先ほどの女性の店員さんに向かっている。
いや、正確にはその人の頭の上を見つめている。
「何人ですか?」
「4人だ」
「はーい!ではこちらにどうぞー!」
メイカさんと手を繋ぎながら席に向かう間も、俺の視線は店員のお姉さんの白いロングヘアーのその上…ウサミミから離れない。
そして表には出ないようにしてるが、俺の脳内はかなりハッスルしていた。
すげぇ!本物のウサミミっ娘だ!
かわいい!!耳がぴこぴこ動いてる!!
すごくふわふわしてそう!
さ、さわりたい……。
「ではメニューが決まったら呼んでくださーい♪」
「あいよ」
「分かりました」
「はーい♡」
あれ?なんか席についてた。
いかんいかん……。ウサミミに気を取られてちょっとぼーっとしてた……。
このままじゃテンション上がりすぎてメイカさんになってしまう…はっ!
席から離れるお姉さんのお尻に尻尾がっ!ウサギの尻尾がっ!!
フリフリモフモフがっ!!
「マーガレットちゃん?」
「はっ!?」
しまった、またぼーっとしてしまった…。
「んふふ♡そんなにあの耳が気になる?」
「えっ!えーーっと……はい……」
「はぁー…照れてるマーガレットちゃんほんとかわいいわぁ……」
結局それなのね……。
メイカさんに心の中でツッコミを入れたら少し落ち着いたので、適当にお礼を言いつつメニューを覗く。
えー、なになに…?
オススメ!
サイレントバードのスープ…200ゴル……。
サイレントバードってなんぞや。
ゴル…はお金の単位だよな…。
うーん…200ゴルってどんなもんなんだ?
1円=1ゴルだったらかなり安いんだけど……。
「へー、結構リーズナブルなのねぇ」
「これぐらいの値段ならお店のもの全部頼むなんてしない限り大丈夫でしょうね」
そうなのかー、安いのかー…。
ならば良し!まぁそれでも少しでも高いものは遠慮しちゃうけどね。奢られるのに慣れてないもので。1人が気楽だった者なので。
それじゃあ、ゆるい門番さん…もとい、ヨシュアさんとメニューでもオススメされてるこのスープと、んー…生野菜は苦手だからサラダはパスして…お、肉料理だ。
ふむふむ…ウィードオックスのステーキ…ウィードは雑草で、オックスは牛じゃなかったかな?
いや、カウ?ブル?どうだっけ?全部牛?助けてゴーグル先生。
「し、しつれいします……」
俺がネットに助けを求めていると小さい声がすぐ傍から聞こえて、机に水の入った木のコップが人数分置かれた。
隣にいた声の主を見た俺は心臓を抑えた。
そこにはさっきのお姉さんと同じ髪の色でショートヘアーの小学生ぐらいの少女が灰色の簡素なエプロンを着けて立っていた。
そして少女の頭には、これまた同じモフモフのウサミミがっ!
かわいいの暴力が過ぎるっ!!
さっきのお姉さんも可愛かったが、同じかわいさでも《かわいい》というより《可愛い》という感じ。
こう、お付き合いしたいなぁとか、そういう恋愛とかに結びつく感じなのだが、この子は守りたい…いや、守る、絶対守る、って感じの言わば保護欲、小動物感がするといった感じだ。
運動会とかで、頑張ってー!って応援したくなる微笑ましさだ。
胸にきゅんきゅんくる。
「だ、大丈夫か?嬢ちゃん…?」
「大丈夫です。(キリッ)」
「そ、そうか……?」
危ない危ない……。
危うくただの危ない人になるところだった……。
「あ、あの……」
どうにか心を落ち着かせようとしていると、件のウサミミ少女がこちらに話しかけてきた。かわいい。
俺はとても柔らかい表情を心掛けながら返事をする。
「うん?どうしたの?」
「え、えっと……。その……」
心掛けたはずなのだが目を逸らされてしまった。つらい。
しかしなんとなくこの子が人見知りなのだと感じ取れた。
なぜなら俺も似たようなものだから。
かなしい。
何はともあれ、わざわざ話しかけてくれたということは友達になってくれようとしてくれたのかもしれない。そんなこの子の覚悟を無駄にするわけには行かない。
まずは自己紹介から入ろう。
そのあとはその時考えよう。
うん、我ながらノープラン。
「私、マーガレットって言うの。よかったら貴女のお名前を教えて欲しいな」
「あ、うん!えと、わ、私はモニカ、です。」
「モニカちゃん、だね。良い名前。ね、私この街に来たのがついさっきなの」
「そうなの?」
「うん、だから、ね、えっと……」
「?」
あー…ダメだ……。やっぱり慣れない……。すっごい恥ずかしい……けど。
「私と、その、友達になってくれる…?」
「! う、うん!」
やっぱり仲良くなりたい。
俺の言葉にモニカちゃんはすごく嬉しそうに頷いてくれた。
よかった〜……
「モニカ〜、この料理あっちの机に持ってって〜!」
「あっうん……」
嬉しそうにしていたモニカちゃんに厨房のお兄さんから声が掛かった。
やっぱり大きな声を出すのは苦手なのか、届くか届かないかぐらいの声で返事をするモニカちゃん。
いや、せっかく出来た友達ともっと話したいって感じのが強いかな。
俺ももっと話したいけど、それでこの子が怒られるのは申し訳ない。
「モニカちゃん、また後でね」
「う、うん!」
良い笑顔だ……。かわいい。
上機嫌でテーブルから離れていくモニカちゃんを見送り、途中だったメニュー選びを再開しようとテーブルに向かい直る。
「尊い……」
そこには尊死しそうなメイカさんがいた。
めっちゃ鼻血出てる。危ない人だ、近寄らんとこ。
何はともあれ、こちらに来て初めての友達だ。しかも、内気系ウサミミ美少女。俺の異世界ライフ1日目は幸先の良いスタートを切れたと言えるだろう。
まぁ、そうでなくても友達は大切にしないとね。
落ち着いたら一緒に遊びたいな。
ディッグさんとケランさんももう相手にしようとせず、俺たちはその後、何を食べようかとか、デザートはいるかとか、ギルドに行くんだから酒は飲むな、などワイワイしながらメニューを決めた。
「すいませーん」
「はーい♪」
メニューを決めてる途中で復活したメイカさんが店員さんを呼ぶと、最初の店員のお姉さんが来た。
「このオススメのスープを人数分と、あとコレとコレとコレを」
「ふんふん……はい、分かりましたー♪……モニカと仲良くしてあげてね♪」
「…!はい、もちろん!」
メニューを聞き終えたお姉さんはテーブルから離れる前に俺にそんなことを言った。
それに俺は笑顔で頷きながら答えると、お姉さんは満足気に厨房に向かって行った。
そしてお姉さんのウサ尻尾にまた見惚れてしまう俺だった。
とりあえず第一ヒロイン…の予定です。
…ようやくかぁ……。
早く日常に入りたい……。