389.サイズ確認…見落とし発覚
服を作ったことのあるローズさんならユーリさんの諸々のサイズが分かるんじゃないかというフルールさんの言葉を頼りに、昼食を終えた俺とリオは早速ローズさんの洋服店に向かった。
店員さん「いらっしゃいませ~ってあら、マーガレットちゃん?」
コウスケ「こんにちは~。ローズさんって今おりますか?」
店員さん「えぇ、奥にいるわよ。呼んでこようか?」
コウスケ「いえ、お店の中だと邪魔でしょうし、よければこっちから向かっても大丈夫ですか?」
店員さん「うん、大丈夫よ。店長は今裏でコーデ雑誌の写生会をしてるわよ」
コウスケ「なるほど、ありがとうございます」
マグ(写生会ですか。懐かしいですねぇ)
コウスケ(そうだねぇ)
街に来てまだ間もないころに、ユーリさんと一緒にここで雑誌のモデルとしていろんな衣装を着た。
その雑誌はどえらい大ヒットして、俺たちは気恥ずかしさを感じつつも膨らんだ給料袋を見てホクホクしたもんだ。
写生会と言ってもこの世界には魔法があるわけで、≪転写≫というその場面を切り抜いて絵に起こすという、写真みたいな魔法がある。
ただまぁ仕上がりに時間がかかるので、現代のカメラや携帯についてる機能などと言うよりは、どちらかと言えばポラロイド的な感じなのだが。
しかし一枚でも出来ればそれを元に、魔力の続く限り何枚でも複製出来るので、コピー機などが無いこの世界で本を大量に作るのに欠かせない人たちなのだ。
問題があるとすれば、本人の精神状態によって出来が左右されるため、眠かったり疲れてたり、逆に元気すぎたりしていると同じ絵なのにかなーり出来栄えが違ってくる。
つまり集中力がモノを言う魔法だということだ。
そして≪転写≫魔法が使えればいいだけという緩い条件のせいで、無断で複製されたものなどが出回ったりすること。
いわゆる海賊版だ。世知辛い。
そして≪転写≫の魔法を使っているのに「写生会」で合っているのかという結構どうでもいい疑問もある。
ともかく、そんな転写士たちを招いて雑誌に乗せる企画に、成り行きで参加したのは今でも良い思い出だ。
可愛いマグやユーリさん、他のモデルの人たちの姿も見れたし。
モデルと言うか、このお店の店員さんたちだったけど。
だってあのときまだこの店も開店して間もなかったし。
そして忘れちゃいけないのが着物も着たこと。
ロケ地は商業ギルドで、写生会ではなくヤマト文化のお披露目会だったが、あのときもローズさんが監修してくれたのだ。
あれは子どもたちみんなで参加したからより思い出深い。
ただあれ以来お呼びがかかってないのがちょっと気になるところではあるが……。
ローズさんとはたまにあっていたし、特段何か拗らせたというわけでも無いはずなのだが……。
きっと俺らがなんだかんだ忙しそうにしていたから遠慮してくれたんだ。多分そうに違いない。そうであってほしい。
気を取り直して、写生会ということはあの時参加していた転写士、ピコットさんもいたりするのだろうか?
ちょっと楽しみな反面、もしも気まずい雰囲気を出されたらさっきねじ伏せた懸念が現実のものだったということでとても辛くなるだろうなぁ…という恐怖もある。
良いほうに転びますように…!
なんてのを一部分だけリオに説明しながら目的地に到着。
さっき述べたように≪転写≫は集中力が肝なので、大きな音でそれを削いでしまうわけにはいかない。
なので極力音が小さくなるようにやさし~くノックする。
コン、コン。
リオ「小さすぎないか?」
コウスケ「怖いんだも~ん…じゃあ次リオやってくれる?」
リオ「いや、それは遠慮しとこうかな……」
コウスケ「ぶぅ~」
カチャ
コウスケ・マグ・リオ「(「あっ」)」
店員さん「あれ?マーガレットちゃん?どうしたの?」
俺とリオがじゃれ合ってると、女の人が静かに扉を開けて顔を覗かせた。
その人は見覚えのあるモデルさん…もとい店員さんだった。
コウスケ「こんにちは。ローズさんが少し話したいことがありまして…今って大丈夫ですか?」
店員さん「うん。店長は今写生会を見守ってるだけだから大丈夫だよ。むしろ連れ出してくれると助かるかなぁ」
コウスケ「どうしてですか?」
店員さん「今回の転写士の方に男の人がいて……」
コウスケ「あ~…ローズさんの好みだったとか?」
店員さん「そういうこと……それでちょっと委縮させちゃってるから申し訳なくて……」
コウスケ「おぉぅ……」
マグ(ローズさん……)
リオ「なにやってんだ……」
その男性の転写士の人も気の毒だが、ローズさんも絶対気にしてるよな……。
仕事の手は抜かない人だし。
自分が原因でパフォーマンスが落ちてるなんて感じたら終わった後もめちゃくちゃ引きずりそう……。
あの人見た目がどうしても威圧感あるからなぁ……。
慣れればどうってことないんだけど、初対面に慣れも何もないしな。
まぁとにかく呼んでもらおう。
コウスケ「じゃあまぁ…えっと…お願いします」
店員さん「うん、ちょっと待っててね」
そう言ってローズさんを呼びに行く店員さん。
その間俺たちはお喋りをして待つ。
リオ「ローズさんはせめて仕事中はちゃんとしたというか、もっとこう……」
コウスケ「かっこいい系とか?」
リオ「そう、だな。ガタイがいいし、結構似合いそうな服があると思うんだけど……」
コウスケ「やっぱ好きな服を着たいじゃん?それにそのほうがやる気あがりそうだし。あと単純に落ち着きそうだし」
リオ「まぁ…そうだなぁ……オレもスカートとかピンク色の服とかは落ち着かないし……」
コウスケ「可愛いよ?」
リオ「……休みの日だけな……///」
マグ(なんと!)
コウスケ(マジか!やったぜ!)
言質取ったぞ~♪
ふふふ…何着てもらおうかな~?
リオ「…早まったかな……?」
カチャ
若干の後悔が見れるリオだが、ちょうど扉が開いたので取り消しはされずに済んだ。
やったぜ。
ローズ「お待たせ~♡」
リオ「おぉぉ…ロ、ローズさん……」
コウスケ「こんにちはローズさん」
ローズ「えぇ、こんにちは~ン♡」
扉から現れたのは、白とピンクのふりふりロリ―タ衣装に身を包んだ、ゴリゴリのムキムキマッチョマン…ローズさんだ。
いつ見てもインパクトの強いその姿に、俺はともかく何度かあっているものの未だ慣れていない様子のリオがおっかなびっくり挨拶を返した。
ローズさんはそんなリオの反応を気にすることなく話しかけてきた。
ローズ「わざわざ足を運んでくれるなんて嬉しいわん♡とりあえずここじゃお邪魔になっちゃうから、ワタシの部屋でお話しましょ♡」
というわけでローズさんの部屋…もとい、お店のバックヤードに移動。
机に散らばる何かの書類を簡単にまとめてどかし、スペースを確保したローズさんに促されて席に着く。
ローズ「ごめんなさいね。ほんとはお茶のひとつでも出したいところなのだけど……」
コウスケ「いえいえ、お構いなく。それよりも、今日はローズさんにお尋ねしたいことがありまして」
ローズ「ワタシに?何かしら?」
コウスケ「ユーリさんの体のサイズを知っていたら教えてほしいなと」
ローズ「…え~と?話が見えないのだけど……」
まぁそうだよね~。
ってなわけで説明タイム。
事前にどう説明すべきかリオと話し合っていたのだが、下手に誤魔化して何かあったんだとうわさが流れたりするともっと大変なことになりそうだと判断したので、俺たちは今回の件を包み隠さずローズさんに話した。
ローズ「……」
それを聞いたローズさんは神妙な顔をして何かを考え始めた。
ローズ「…なるほど…それで……」
コウスケ・マグ・リオ「(「?」)」
俺たちが静かに次の反応を待っていると、ローズさんはボソッと何かを呟いた。
ローズ「昨日ね?ユーリちゃんもウチに来たのよ」
コウスケ「えっ、そうなんですか?」
マグ(そういえば…旅立つ前にみんなとの思い出のある場所を回ってきたって言ってましたね……)
なるほど……ユーリさんにとってもローズさんのお店はやはり思い出深いのか。
その事実にちょっと嬉しく思いつつ、俺はローズさんの話に耳を傾ける。
ローズ「その時はワタシがちょうどすぐ出れるところにいたからお話したんだけど、その時のユーリちゃんの様子がちょっと気になっていたのよ。でも本人に聞いても何でもないとしか言ってくれなくて……」
リオ「そうだったんですか……」
マグ(ユーリさん……)
ローズ「まさかそんなことになってるなんて……無理やりにでも悩みを聞いてあげれれば……なんて、たられば論よね……」
コウスケ「いえ、その気持ちだけでも十分ですよ。私たちはそうしたにも関わらず、結局なんにもできませんでしたから……」
マグ・リオ(「……」)
ローズ「うん…ありがとう、マーガレットちゃん……」
みんなで少しの間しんみりとした後、ローズさんが気を取り直すようにパンっと手を叩いた。
ローズ「さっ!うじうじするのは終わり!そういうことなら早くユーリちゃんを助けてあげないとね♡」
コウスケ・マグ・リオ「(「はい!」)」
ローズ「それで、ユーリちゃんのサイズだったわね?前に採寸した記録が残ってるはずだからちょっと待っててくれる?」
コウスケ「はい」
リオ「ありがとうございます」
ローズ「うふふ♡家族同然の仲とはいえ、ほんとは顧客の個人情報を勝手に教えちゃダメなんだからね?特別よん♡」
そう言いながらバチコーン☆とウインクして去っていくローズさんの後ろ姿に頼もしさを感じながら、俺たちはとりあえず上手くいきそうだと軽くハイタッチを交わして喜んだ。
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リオ「…はい!バッチリ写しました!」
ローズ「……うん、記入漏れはなさそうね」
リオ「ありがとうございます、ローズさん!」
ローズ「うふふ、どういたしまして♡」
ローズさんが持ってきたユーリさんの記録をリオがメモに写し終えた。
さすがに個人情報で店の備品な顧客のデータを外に持っていくのはダメだったので、リオが頑張ってメモに写したのだ。
大丈夫。
非常口看板のアイツみたいな人物シルエットに各種数字を書いただけだから。
これだけで誰かを判別するのは難しい…はずだから。
マグ(ユーリさんいろいろ規格外だからバレるのでは……?)
コウスケ(み、耳と尻尾書いてないからまだセーフですし……)
マグ(リオ、ちゃんと隅っこに耳と尻尾を忘れない!って注意書きを書いてますよ?)
コウスケ(……他の人に見られなければセーフやで……)
マグ(…気を付けよ……)
かなりグレーというか、ほぼブラックなことをしている自覚はあるので、細心の注意を払おうと二人で決めた。
ローズ「あとは何を作るかかしら?」
リオ「はい。とりあえずサイズは合わせられるようになったので作れる幅は広がったんですが……」
コウスケ「選択肢が増えたことで逆に悩ましいことになっちゃったかもねぇ……」
リオ「うん……」
ローズ「わかるわぁ……自由度が高すぎるのも考え物よねぇ……それが創作の楽しい部分でもあるんだけど♡」
リオ「そうなんですよねぇ。でもこういう時は悩みますね……」
コウスケ(まぁ大事なものだからなぁ……プレッシャーも半端ないだろうて)
マグ(今回の作戦の要ですもんね……がんばれ、リオ……!)
ローズ「そうねぇ……こういう時はいっそのこと全部作って見ちゃうのも手よ?」
リオ「それも考えましたけど……でも時間がかかりすぎますし、それに素材だって大変なものですから何度も取ってきてもらうのは……」
そうなんだよなぁ……。
正直時間制限はどんなもんか想像つかないが、とりあえずユーリさんが婚姻をキメてしまったら終わりくらいに思っている。
まぁ略奪してもいいんだけど、問題はそのチカラが無いということで。
それはまぁいいとしても、素材も大問題なのだ。
なにせ入手難易度が高すぎる。
連日ディッグさんたちを超危険地帯に送り出すのはディッグさんたちが大丈夫だとこっちの心臓が持たなくなりそうなほどだ。
出来れば早い内に完成させたい。
ディッグさんたちのためにも。俺たちのためにも。
ローズ「それはそうだけど、このままずっとと悩んでるわけにもいかないでしょ?どうせいくつか必要になるんだし、ある程度作っておくっていうのは結構良い手だと思うのだけど」
リオ「う~ん…それもそう…ん?いくつか必要?」
ローズ「え?そうなんじゃないの?別に数の指定はされてないんだし、てっきり大丈夫なんだと思っていたんだけど……」
リオ「あれ…そういえば……?う~んと……そこんとこどうなんだマーガレット……?」
コウスケ・マグ「(……)」
ローズさんのその言葉を聞いた俺たちはフォバとの会話内容を振り返る。
そして最低条件がデュラハンの魔石10個くらいというだけで、別に数に関しては言及してないということを思い出した。
コウスケ「……そうだね……数…言われてないね……」
リオ「ってことは……俺たちは勝手にひとつだと勘違いして、それでどうにかしようとしてたってことか……?」
コウスケ「そうなるね……?」
リオ「…完っ全にひとつだと思い込んでた……」
ローズ「あら~……」
マグ(えぇ……完全にそう思ってた……なんでだろう……?)
なんでやろなぁ……?
なんにせよ俺たちは勘違いによって無駄にハードモードを進めてたということだ。
……気付けて良かったぁ……!
リオ「けどそういうことなら話は変わってくるぞ……!ひとつに10個とか使わなくていいのならいくらでもやりようがある……!」
コウスケ「ふたつに分けるだけでも5、5だもんね」
リオ「あぁ。最低条件ぐらいなら余裕で越えられる。後はどこまで伸ばせるかだ」
ローズ「道が開けた感じかしら?」
リオ「はい、ありがとうございます!」
コウスケ「ローズさんのおかげでどうにかなりそうです!ありがとうございます!」
ローズ「ワタシは思ったことを聞いただけよん♡でもお礼は素直に受け取っとくわ♡」
その思ったことが超重要なことだったのだから感謝してもしきれない。
何かふと思ったらとりあえず口に出しておくの、大事かもしれない。
リオ「よし!マーガレット、練り直しだ!ギルドに戻ろう!」
ローズ「あら、もういいの?」
リオ「はい!ローズさんのおかげで光が見えました!ありがとうございます!」
ローズ「うふふ、そんな大したことじゃないってば♡でもそうねぇ……お礼なら代わりに約束が欲しいわ♡」
リオ「約束ですか?」
ローズ「えぇ。ユーリちゃんが戻ってきたら、またウチに顔を見せて欲しいの。その時はうんと歓迎するから♡」
リオ「ローズさん……はい!必ず!」
コウスケ「約束します!」
ローズ「えぇ、待ってるわよん♡」
チュッ♡と投げキッスをしながら見送ってくれたローズさんに投げキッスでお返しし、俺たちは急いで鍛冶ギルドへと戻っていった。




