387.装備の目処…不安募る指名
みんなと別れ、俺とリオは鍛冶ギルドへとやってきた。
いつものように従業員用の裏口から入って事務所に行くと、そこにはいつも通り鍛冶ギルドの実質副リーダー、グラズさんがおり、こちらに気付いて声を掛けてきた。
グラズ「おっ。リオちゃん、マーガレットちゃん、おはよう」
コウスケ・リオ「「おはようございます」」
リオ「すいません、オヤジはもう来てますか?」
グラズ「うん、来てるけど……何か話があるのかい?」
リオ「はい、ちょっと大事な話があって……」
グラズ「なんだか少し深刻そうだね……わかったよ。親方は今倉庫で材料の質を確認してるから、そっちに行けば会えるはずだよ」
リオ「ありがとうございます。よし、行こうマーガレット」
コウスケ「うい。グラズさんありがとうございます!」
グラズ「どういたしまして」
グラズさんにお礼を言ってから言われた通り倉庫を目指す。
まぁ倉庫の場所を知らない俺はリオについてっただけなんだけども。
そうしてついていった倉庫の扉の前 (らしい)まできたところで、リオが動きを止めてドアノブを見つめ始めた。
コウスケ「リオ?」
リオ「…すぅ…ふぅ~……よし。すまん、大丈夫だ。行こう」
コウスケ「うん」
マグ(まだ緊張しちゃうんですね……)
コウスケ(和解はしたし、仕事場でほぼ毎日顔合わせてるし……挨拶くらいだけど……まぁそれでも良好だと思える関係性になってはいるけど、こうやって面と向かって話すのはやっぱり違うんだろうねぇ)
マグ(ですねぇ……)
ほんっと難儀な親子だよ。
ちなみにリオ、ちょいちょい母親であるサワコさんとはお話しているようで、「主に近況報告なんだけど、会うたびにちゃんと食べてんのかー、みんなに迷惑かけてないかーって言ってくるんだよ~。さすがに過保護すぎると思わないか?」なんて俺たちに愚痴ってきたこともある。
しかしそう言う割には、その顔に嫌悪など負の感情は影も無く、しかも時間を見つけてはちょくちょく会いに行くのだから、本気で嫌がっているわけではなさそうだ。
心配しすぎだと呆れているとも考えられるが、それにしては嬉しそうというか……まぁ、あれだ。
仲が良くて何よりということで。
閑話休題。
リオ「オヤジ、入るぞー!」
気合を入れて大きな声で呼びかけながら扉を開けるリオ。
ガリオン「おせぇよ。何を扉の前でうだってやがったんだ」
リオ「うっせぇな、なんでもいいだろ」
部屋に入って早々言い合いを始めるリオとその父親であり鍛冶ギルドのマスター、親方であるがガリオンさん。
マグ(あはは……相変わらずですねぇ……)
コウスケ(まぁこれが普通だってんだから良いことだよ…多分……)
初見にはほんとにケンカしてるようにしか見えないから絶対に表ではやんないでほしいが。
ガリオン「それで?マーガレットを引き連れてわざわざここまでくるたぁ何の用だ?」
リオ「それは…あ~……マーガレット」
コウスケ「あぁ、はいはい」
急に本題に入った親子に不意を突かれながらも、俺は今回ここに来た要件を伝えた。
ガリオン「ふ~む……そりゃあちと穏やかじゃねぇなぁ」
コウスケ「はい。それでまぁ…自分でもどうかとはちょっと思うんですけど、ほかに手立ても思いつかないわけですし、とりあえずやれることはやっときたいと思いまして……」
ガリオン「そうだな。何もしねぇでウジウジするよりは絶対に良い。しかし炎の神フォバが夢に出てきて助けてくれるとは……ちと都合が良すぎねぇか?」
リオ「だからオレたちもちょっとどうかと思ってるっつったんだよ」
マグ(リオの当たりが強い……)
コウスケ(これが家族コミュニケーション……)
俺にはちょっとキツいので甘えんぼモード主体でお願いします。
ガリオン「まぁわかった。とりあえず素材を集め終えたら出来るだけ魔力が持てる装備にしてほしいってことだろ?」
コウスケ「はい」
リオ「頼めるか?」
ガリオン「おぉ、キッチリ仕事してやる…と言いたいところなんだが……」
コウスケ・マグ「(えっ?)」
リオ「な、なんかあるのかよ?」
何やら歯切れの悪い親方さんに動揺する俺たち。
それな俺たちに親方さんは申し訳なさそうに言った。
ガリオン「いやぁ…実はだな……内容は言えないんだがしばらくかかりきりになりそうでなぁ……悪りぃがそっちの手伝いを出来そうにねぇんだ……」
コウスケ・マグ「(そんなぁ…!)」
リオ「ど、どうしてもダメなのか…!?一個作るくらいならちょっと隙を見て抜け出してくるとか……」
ガリオン「リオ。お前も鍛治士なら分かってんだろ。そんな心持ちで良いものはできないってよ」
リオ「うっ……」
まだリハビリ中とはいえリオも鍛冶士だ。
親方さんのほうに分があるとちゃんと分かっているようで、言い返せずに押し黙ってしまった。
しかしそこで終わると困るのは俺もそうなので、リオに代わって俺が話を続ける。
コウスケ「えっと…それじゃあ他の鍛冶士の方たちは?」
ガリオン「あぁ、まぁあいつらは通常業務だから問題ないが……ふむ……」
そこで区切った親方さんはリオをじっと見つめ始めた。
リオ「な、なんだよ…?」
ガリオン「……お前たちにとって、あの狐っ子は大事な存在なんだろ?」
コウスケ「え?えぇ、もちろん……」
リオ「だからこうして頭下げに来てるんじゃねぇか」
ガリオン「いつ下げたんだよ。はぁ…まぁそういうことなら、リオ。お前がやれ」
リオ「は?」
コウスケ・マグ「(えっ?)」
突然のことに驚いて脳の処理が追い付かない。
それはリオも同じのようで、信じられないとばかりに親方さんに聞き返した。
リオ「い、今なんて……」
ガリオン「だから、お前がその装備を作れって言ったんだよ」
リオ「はぁぁぁぁっ!?」
しかし返ってきた答えは同じで、リオは大きな声を出して驚き、すぐにどういうことか問いただし始めた。
リオ「ちょっちょっちょっちょっと待てっ!?話聞いてただろ!?加工するのは最低でもほぼAランク級の魔石で、それも最低10個以上なんだぞっ!?そんなのをオレにやれってのか!?」
ガリオン「だからそう言ってんだろうが」
リオ「何考えてんだ!?これは大事なもんなんだぞ!?それをCとかDランクどころか、ちょっと前まで金槌も握れなかったガキにまかそうだなんてそんな……!」
ガリオン「リオ。確かにお前じゃまだ強い武器や防具なんざ作れねぇ。だが、今必要なのはそうじゃねぇんだろ?」
リオ「た、確かにとにかく魔力が入る器になればなんでもいいけど…でも前に言ってただろ!?だからって闇雲に魔石をくっつけりゃいいってもんじゃないって!」
ガリオン「それが分かってるなら出来るはずだ」
親方さんの答えに納得できないリオが反論するが、親方さんは頑なにリオに作らせると決めて答えを曲げない。
リオ「無理だっ!効率の良い配置でも、見よう見まねでやるだけじゃただの劣化品になるだけだってのも言ってただろ!?オレはまだそんな域じゃ…」
ガリオン「リオ!」
リオ「っ!」
なおも断ろうとするリオに親方さんが一喝。
そしてリオに静かに語り掛け始める。
ガリオン「そんだけ俺の言ったことを覚えてんならこれも覚えてるはずだ。物には作り手の魂が宿ると。つえぇ魂の宿った物は、なにものにも勝ると」
リオ「あ、あぁ…覚えてるよ……」
ガリオン「なら分かるはずだ。この鍛冶ギルドの中であの狐っ子と一番仲がよかったのは誰だ?お前だろう?お前が俺らの中で一番、あの狐っ子への思いが強いんだ」
リオ「け、けどよぉ……」
確かに鍛冶ギルドの人たちはあまりユーリさんと交流がないだろう。
ユーリさんの戦い方は激しいらしいが、持ってる武器もやたらめったら頑丈なので、そこまで修繕に来ていない。
少なくとも俺らが鍛冶ギルドで仕事をしているときは来なかったな。
そんなわけで消去法みたいにはなるが、鍛冶ギルドで一番仲が良かったリオに白羽の矢を立てたのだろうが、リオはまだ踏ん切りの付かない様子。
そりゃそうだ。
いきなりこんな大役を任されて二つ返事で返せるわけは無い。
そんなリオに、親方さんはさらに理由を述べていく。
ガリオン「それに純粋な作りもそうだ。確かに上手いもんが欲しいなら他の奴らのが適任だ。だが今回は違う。その狐っ子に神様を降ろすための補助装備…魔力がとにかく大量に入れられりゃいいらしいが……それが狐っ子に合うかどうかまでは分からない。本来はその辺りもこっちで調整するからな。だが今狐っ子はここにいない。そして聞いてる限り渡すだけでも大変そうな場所まで行かにゃならん。さらに言えば相手も手練れでチャンスがあるとしても一度切りと考えていいだろう。二回目以降の侵入を許してくれるような奴らには思えないからな」
コウスケ・マグ・リオ「(「……」)」
親方さん…さっきの話だけでそこまで……。
ガリオン「となりゃあこっちで最高の状態にしてやらなきゃなんねぇが……あの狐っ子がこのギルドに来たのは数回程度……しかも内容は全部刃の修繕。代わりの武器も選んではいたが……あの狐っ子の動きを追えないうちにしっくりきたもんを見つけたようで分からずじまいらしいしなぁ……あの狐っ子の癖やらなにやらもさっぱり分からねぇ」
リオ「いやそれはオレも分かんねぇぞ?ユーリさんの動き分かんねぇし……」
ガリオン「あぁ、そうだろうな。武器や防具なら正直言って誰の手にも負えねぇ、まさしくお手上げ状態なわけだが、今回は別にそうじゃねぇだろ?サイズはある程度自分で長さを調整できるベルトとか、そういうもんで誤魔化せるにしても、本人の魔力の波長との噛み合いはどうしようもねぇ。だが今回は一度きりのチャンス。なら相手を一番知ってるやつが適任だ。違うか?」
リオ「うっ……それは……で、でもよぉ……」
親方さんの言い分に納得はしつつも、まだ踏み出せないリオ。
そんなリオに親方さんは最後の仕上げとばかりに発破をかける。
ガリオン「しゃきっとしろ!狐っ子を助けたいんだろ!ならお前がやるんだ!それが今出来る一番の選択だ!」
リオ「っ~~~!わ、わかった…やるよ…やってやる…!」
ガリオン「よく言った!それでこそ俺の娘だ!」
発破の甲斐あって、リオがついに自分で製作することを決意した。
……ちょっと…いやかなりやけくそ気味ではあるが……。
リオ「代わりにあるもんは遠慮なく使わせてもらうからな!」
ガリオン「おぉ好きなだけ使え!お前の全力を見せてみろ!」
リオ「あぁやってやるよっ!行くぞマーガレット!そうと決まりゃ早速案を練らねぇとなんねぇ!」
コウスケ「えっ?あっ、うん」
ガリオン「しっかりやれよ!」
リオ「たりめぇだ!じゃあな!」
そう言って勢いよく倉庫から出て行くリオ。
慌てて追いかけようと俺も倉庫から出ようとしたところで、親方さんに呼び止められた。
ガリオン「マーガレット」
コウスケ「あ、はい。なんですか?」
ガリオン「…前のこともあるからよ……ほんとは俺の目に付くところでやらせてぇんだが、生憎俺ぁ忙しい身だ…ここまでもずっと世話になっといて言うのもアレだが、今回もリオのことを支えてやってくれねぇか?お前たちにしか頼めねぇんだ」
コウスケ「親方さん……」
答えはもちろん決まってる。
コウスケ「はい。任せてください」
マグ(友だちとして、しっかり支えてみせますよ!)
ガリオン「あぁ、助かるぜ…」
リオ「あれ?マーガレット?おーい!」
ガリオン「話は終わりだ。行ってやってくれ」
コウスケ「はい。失礼します!」
マグ(お邪魔しましたー!)
親方さんに娘を任され、俺はその娘さんのところへと急いで向かう。
リオ「あっ、来た。何してたんだ?」
コウスケ「ごめんごめん。ちょっとね」
ギルド内を急ぎ足で歩いていると、俺を探しに戻ってくる途中のリオと合流した。
リオの問いかけをそれとなく流し、改めて一緒にリオのリハビリ室へと向かう。
というかリオ……。
俺がついてきてないことにだいぶ気付かなかったんだな……。
これ一回部屋の前まで行って初めて気付いたんじゃないか?
最近結構ナチュラルに手を繋いでくれることが多かったけど、もしかしたらリオの俺離れも割と近いのかもしれないなぁ……。
なんて少し寂しさを感じながら部屋に到着。
リオが開けて先に入るよう促してくれたので、お礼を言ってありがたく入室。
それに続いて入ったリオが扉を閉めたところで早速本題を切り出そうと思ったのだが…
コウスケ「リオ?」
リオがカギを閉めたというのに扉側を向いたまま微動だにしないのだ。
なので再度呼びかける。
コウスケ「どうしたの?」
リオ「…どうしよう…マーガレット……」
コウスケ「えっ?」
マグ(ほんとにどうしたんでしょう……?)
なんだい?
カギ壊れちゃったかい?
そんな青春っぽいことだったら怖がらなくてもいいぞ?
俺はそういうシチュも大好きだからな。
が、当然違うようで…
リオ「マ、マジでオレがやるのか……?」
コウスケ「えっ?あぁ、ユーリさんの装備?」
リオ「オ、オレ長剣とかそれ以上のデカいもんも作ったことないのに……」
コウスケ「ん〜…まぁ大きさは要相談だけど、そこまで巨大なものにはならないんじゃ……」
リオ「違うんだよぉ……鍛治士は得意不得意の見極めも兼ねて一通りの物を作るんだよ……でもオレはそれすらまだ途中なんだよ……」
コウスケ・マグ「(えっ)」
リオ「しかも打てるようになったとは言え、まだまだリハビリの途中だし……なのにあんな啖呵切っちまって……どうしよぉぉ…!」
コウスケ・リオ「(リ、リオ……?)」
さっきまでの威勢の良さはどこへやら。
振り向いたリオの顔は悲壮感たっぷりといった感じで、見ているこっちが不安になってくる。
そんなリオは俺の方によたよたと歩いてくると、倒れるように俺の胸に抱きついてきた。
コウスケ「(リ、リオさん……?)」
リオ「どうすりゃいいんだぁぁ……!助けてくれマーガレットぉ……!」
コウスケ「お、おぉ……」
マグ(わぁ…限界だぁ……)
ここまでぐずぐずのリオは珍しい……。
だいぶプレッシャーに負けそうなんだな……。
しかし助けるっつったって俺は鍛治が出来ないからなぁ……。
でもまぁとりあえずそこに至るまでの元気を充電してあげないとだな。
コウスケ「う〜ん、じゃあまぁ一旦イス座ろか〜?」
リオ「うん……」
ひとまず甘やかすことにした俺は、イスを2つ並べて座り、リオが落ち着くまでひたすら宥め続けた。
う〜む……言っちゃあなんだが……不安だ……。




