385.夢の中の見知らぬ狐…と救出作戦
寝るに前にみんなで「夢でみんなと遊べたりしたら楽しいよね~」とちょっと現実逃避気味に話していたからなのか、メリーと「ユーリさんともし話せたら…」と約束したからなのか……。
ユーリさんの子ども時代、みたいな子が俺とマグの夢の中に現れた。
ただ、尻尾の数が一本ではない…どころか……なんだ……?何本あるんだあれ……?
とりあえずめっちゃある。
少なくとも六本はある。
謎の女の子「まったく…願いを聞いてわざわざやってきてやったというのに、この妾を待たせるとはなんと不敬な者どもじゃ」
コウスケ・マグ「「あっ…はい……すいません……」」
そして今、何故かその子に理不尽なお説教をされている。
コウスケ「いやでも、俺ら現実世界ならまだしも、夢の中で目覚めるタイミングを調整とかはまだちょっと出来ないんで……」
謎の女の子「言い訳するでないわっ!」
コウスケ「す、すいません……」
事実なんだけどなぁ……。
しかし事実ではあるもののそういうことではない。
地味~にダメージを負った俺に代わって、マグがずっと気になっていたことを尋ねた。
マグ「えっと……それであなたは……?」
謎の女の子「遅い!」
コウスケ・マグ「「えぇっ!?」」
謎の女の子「それは最初に聞くべきことであろうが!」
コウスケ「な、なるほど……?」
マグ「す、すみません……」
謎の女の子「それにあまり時間もないのだ!こんなことで使わせるでないわ!」
コウスケ・マグ「「は、はい……」」
今俺とマグは多分同じことを思った。
じゃあ早く本題入れよ、と……。
理不尽な怒り(2度目)をくらいちょっとビビり気味のマグに代わり今度は俺が切り込む。
コウスケ「それでお名前は……」
謎の女の子「まったく……これだから最近の若い者は……人に名を尋ねる時はまず自分からだというのを知らんのか!」
コウスケ「あっはい、すいません……」
…なんか段々めんどくなってきたな……。
まぁ多分重要な人だからもうちょい我慢するか……。
コウスケ「えっと…俺はコウスケで、こっちがマーガレットです……」
マグ「ど、どうも……(ぺこり)」
謎の女の子「知っとるわ」
コウスケ「じゃあなんで聞いたんだよ」
マグ「時間無いんじゃないんですか?」
謎の女の子「お、おぉぅ…なんじゃ急に強気にぐいっと来おって……」
我慢できずにツッコミを入れた俺たちに女の子はビクッとして少し後ずさった。
……この子あんまり強気に出られたことないのでは?
そう思いチラッとマグを見やると、マグもこちらをチラッと見てきたので二人で頷きあった。
謎の女の子「な、なんじゃその意思が通じ合ってるみたいな頷きは……?」
コウスケ「そんなことよりお名前を教えてくださ~い」
謎の女の子「そ、そんなこととはなんじゃ!妾の前でそんな意味深なことをしておいて…」
マグ「いえいえそんな大したことではないので~。ほらほら、時間が無いんですよね?早くお名前教えてください?」
謎の女の子「わ、妾が気になると言うとるのじゃから教えるのが…」
コウスケ「そんな偉い?人に言うようなことではないですよ~。ね~?」
マグ「はい~♪偉そうな人が知ることでは無いですよ~」
謎の女の子「え、偉そうって言った…!偉そうではなく偉いのじゃぞ!」
コウスケ・マグ「「うんうんそっかそっか~」」
謎の女の子「こ、子ども扱いするでなーい!」
コウスケ「なんか可愛く見えてきた」
マグ「ツンツンしてる頃のシエルみたいですね♪」
コウスケ「あ~確かに」
謎の女の子「な、何をこそこそ話しとるんじゃ!」
コウスケ・マグ「「いえいえ大したことでは無いですよ~」」
謎の女の子「ま、またそんな息ピッタリに……う…うぅぅ……!」
コウスケ「あっ」
マグ「ありゃ」
謎の女の子「わ、妾を除け者にして楽しそうにするでないわぁ…!わぁ~ん……!」
泣いちゃった。
ちょっと弄りすぎたか。
いや、弄ったところと違うところでダメージ受けてた気がするが……ま、まぁとにかく宥めよう。
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コウスケ「よしよし~、ごめんね~?(なでなで)」
マグ「お姉ちゃんたち、ちょっといじわるしすぎちゃったね~(ぎゅ~)」
謎の女の子「くすん…くすん……妾の方がお姉ちゃんだもん……」
コウスケ「あ~なるほど…ごめんねお姉ちゃん。許して~?」
謎の女の子「くすん……うん……」
マグ「お姉ちゃん元気出して~」
謎の女の子「うん……がんばる……」
しばらく二人で宥め続けた結果、どうにかメンタルが回復してきた。
その過程で俺たちに姉が出来たがまぁ…些事ということで。
それから頑張って立て直したお姉ちゃん…もとい女の子は、撫でている俺の手を止め、抱きつくマグから少しだけ離れると一つ咳払いをした。
その顔は耳まで真っ赤になっている。
正気に戻ったことで恥ずかしくなっちゃったんだな……。
ここは温かい目で見守ってあげよう。
謎の女の子「こほん……まぁ…あれじゃ……妾もな。ずっとカリカリしてたわけじゃしな。さすがにあれはよくなかったと思う。うん。だから、その…す、すまなかったな!」
コウスケ「ううん、いいよ~お姉ちゃん」
マグ「大丈夫だよ~お姉ちゃん」
謎の女の子「お、お姉ちゃんはもうよいっ!」
悲報。姉、減る。
謎の女の子「それよりっ!そろそろ話を進めるぞ!」
コウスケ・マグ「「は~い」」
謎の女の子「むむむ……本当に大丈夫なのか……?まぁよい。まず妾の名前じゃが、フォバという」
コウスケ「ほう……」
マグ「フォバちゃん……」
……。
コウスケ「ん?えっ?それってもしかして……」
マグ「炎の神様……?」
フォバ「うむ、そうじゃ!」
コウスケ・マグ「「えぇぇぇぇぇ!!?」」
フォバ「そうっ!そういう反応が見たかったのじゃっ!」
ずっと求めていた反応をようやくした俺たちにめちゃくちゃ嬉しそうに告げるのじゃロリユーリさん、もとい炎の神フォバ様。
いやいやだって…えぇ……?
誰だってこうなるって…ねぇ……?
マグ「えっ…ほ、本物…ですか……?」
フォバ「当り前じゃ!妾を疑うなど不敬極まりないが…さっきの反応がおもしろかったからゆるしてやろう!」
マグ「ほ、本物なんだ……」
フォバ「ふふーん♪」
……こんな嬉しくて思わずドヤ顔で胸を張る女の子が……?
いや、偏見はよくない。
第一俺はいろんな神様を知っているはずだ。
ちゃんと勇者に語り掛けるだけの神様とか、ちゃんとスキルをくれる神様とか、煽りすぎて一緒に異世界に飛ばされることになった神様とか……。
……ブッダとかイエスより先に出るのがこの辺ってのが、どういう人間かよくわかるよな。
しかも今言った二人のイメージも…アパートがチラつくし……。
というかロリ神くらい不思議でもないか。うん。
どうでもいいけどロリ神様降臨したら俺たち淘汰されそう。
なんてことを考えている横で、マグが真面目にフォバ神に質問を投げかけた。
マグ「で、でも、どうして炎の神様がここに……?それにコウスケさんのことも知っているみたいですし……」
コウスケ「あっ、言われてみれば確かに。俺のことをあらかじめ知ってるような口ぶりだったけど……」
フォバ「うむ。妾がここに来たのは他でもない、御子のためじゃ!」
マグ「御子、ってことは……」
コウスケ「ユーリさんのこと、だね」
フォバ「いかにも!」
このタイミングで来たってことは……もしかして、俺たちを止めに来た……?
フォバはチカラを使い果たし眠りにつき、それを守り、より早く復活を果たさせるために上質な魔力を捧げるためにユーリさんのご先祖たちが守護者となった……。
この神話的に、フォバは今代の御子…ユーリさんが手元にいてくれた方が都合が良いのだ。
そうなると、それを邪魔しようとする俺たちは必然的に敵ということになる。
だからこうして俺たちの前に立った。
わざわざ夢の中に来たというのも、何か制約があってのことだろう。
まだチカラが取り戻しきれていないから、こうして相手の意識がこう…なんか……ね?…ってなってる睡眠中にしか干渉できないとか。
しかしこれはこちらにとってもチャンスである。
ここでどうにか説得することが出来れば、ユーリさんをあのDV集団から解放することが出来るはず……。
そうと決まれば、事を慎重に進めないといけない……。
まずは相手の出方を窺おう……。
フォバ「そなたたち、あの御子を里の者たちから救おうとしておるな?」
マグ「……はい……」
コウスケ「それが何か?」
フォバ「ふぉっ……そ、そんな怖い声を出さんでもよい!妾はそなたたちに良い話を持ってきたんじゃ!」
コウスケ「えっ」
マグ「良い話……?」
なんか思ってた展開と違う……。
マグと見つめ合って首を傾げてから、俺たちは改めてフォバの話を聞く。
フォバ「うむ!かの部族たちは妾の復活のために先祖代々妾が眠りについた場所に祠を作って守護し、部族の中で最も魔力の質が高い者が御子として妾に魔力を捧げてくれていたのじゃが……」
コウスケ・マグ「「じゃが?」」
フォバ「……正直もういらないんじゃよ……」
コウスケ・マグ「「えっ!?い、いらない!?」」
それはつまり…え~っと……。
コウスケ「もう復活できる…ってこと……?」
フォバ「う、う~む……まぁ復活だけなら実は150年くらい前から出来るんじゃが……」
コウスケ「えっ?」
マグ「そ、それじゃあどうしてまだ眠りについてるんですか……?」
確かに。
それでポンと復活してくれていればユーリさんも、その前の御子たちももうちょっと自由があったんじゃないか?
なんて思ったわけだが、もちろんそんな単純な話ではないのだろう。
フォバ「それは…ちょっと……飽きたというか……」
コウスケ「あ、飽きた……?」
単純な話だった……?
マグ「えっ…と……どういう意味ですか……?」
フォバ「あーいやいやいやいや!妾のワガママというだけではないんじゃ!だからそんな「何言ってんだこいつ」って目はやめてくれぇ……!」
コウスケ「ん~……?」
なんかよく分からんな……?
フォバ「あ、飽きたというよりは効果が薄くなったというか……いやもちろん味的にも飽きてはいるんじゃが……!」
コウスケ「効果が薄くなった?」
マグ「味あるんだ……」
マグさんや。
確かに気になったけど今は違うべ。
フォバ「そのな……?食べ物と同じように魔力にも味や質があるんじゃがな?といってもかなり魔法に精通していないと人間では分からぬし、寿命の長いエルフたちでも分からぬまま死を迎える者もおるくらいなんじゃが……これにはもちろん遺伝なども関わってきてな?」
マグ「遺伝……」
コウスケ「…あ~……もしかして、血縁が近しいと魔力の質も似るってことですか?」
俺の予想は当たっていたようで、フォバは静かにこくりと頷いた。
マグ「それで飽きたってことですか……」
フォバ「まぁまぁまぁまぁ……飽きたのはそうなんじゃがぁ……それ以上に同じようなものばかりでは体が慣れると言うか…むしろ悪いというか……」
コウスケ「ふむ……?」
マグ「さっきの食べ物で言う、栄養が偏る…って感じですか?」
フォバ「そうそう!そんな感じじゃ!」
コウスケ・マグ「「なるほど~」」
甘いものばかりだと太ったり、油物ばかりだと気分が悪くなったりするみたいな?
それに同じものばっかり食べてると接種効率が悪くなるとか聞いたことあるような……あ~…そういうことか……。
コウスケ「つまり、いつからか今の血筋の御子からしか魔力をもらえなくなって、捧げられても大して回復しなくなった…ってこと?」
フォバ「うむ……しかもその辺りから「里の中で魔力の質が最も良い者」から、「その血縁者の中で最も質が良い者」に変わっておるようでの……」
マグ「なんだろう……権力的なものを感じるような……」
フォバ「そうなんじゃよぉ……あやつら妾の名を笠に自分たちの地位を確立しよって……その時上手く丸め込んだせいでその後の子孫たちにも同じような価値観が自然に植え付けられてしまい……」
コウスケ「う~わ……」
フォバ「しかもそれで血族の子を多く作るべく御子が男なら里の中から質の良い魔力を持つ女を上位から数人囲み、御子が女なら最も質の良い魔力を持つ者一人と番にして子を作らせるというのを繰り返すうちに扱いの効率化も図られてきてな……子どもの間にあらゆる習い事をやらせ人として成長させ魔力の質を上げて御子として相応しい者に育て上げ、子を作れるようになればすぐに子作りも並行させる……」
マグ「…なんか……自由がないとかじゃなくてなんかもう……」
コウスケ「奴隷とか家畜みたいな……」
フォバ「……」
俺たちの言葉にフォバは何も言わないが、それが肯定を意味しているだろうことは理解できた。
マグ「…そうまでして…そうまでしてフォバ様を復活させたいんですか……いったいなんのために……」
フォバ「それが彼奴らの役目だと刷り込まれているからじゃ……彼奴らは他の生き方を知らん……いや、必要としていないと言ったほうが正しいかもの……」
マグ「そんな……」
コウスケ「……それはちょっと可哀そうだとは思うけど……それならなおさらどうして姿を見せなかったんだ?一応復活は出来るんだろ?」
フォバ「言ったであろう?復活だけなら、と。復活したところでその後を生きれるチカラを持たねば結局すぐに死んでしまう」
マグ「里の人たちは?フォバ様が復活したら一番喜びそうですけど……」
フォバ「それにもやっぱりチカラがいるのじゃよ。考えてもみよ。いきなり現れた幼子が、自分たちが崇める神の名を名乗り、チカラはまだだから証拠は見せられないと言ったらどう思う?」
マグ「それは……信じませんね……」
フォバ「そうであろう?」
コウスケ「俺たちも最初分かってなかったからなぁ……まぁ顔も声も何もかも、名前以外知らない状態じゃ仕方ない気もするけど……」
マグ「で、でもずっと魔力をもらってたんですよね?ユーリさんはオーラが見えてましたし、もしかしたら御子の人なら分かってくれるんじゃ……」
フォバ「うむ……確かに御子は弛まぬ努力に天賦の才も相まってほとんどの者が相手の魔力の質をオーラとして見ることが出来る。今代は見えているようじゃが…全員が見えるわけでは無いし、それに御子一人が本物だと言ったところでそれで信じるには情報が少なすぎるし、今話した通り御子は里で最も自由がない。たとえ敬虔な使徒だったとしても、それを考慮に入れられた場合本当に信じていいものなのか…役目を終わらせたいがための嘘なのではないか疑われてしまうじゃろう。それが一度逃げ出した者ならなおのことじゃ」
マグ「そんな……!呼び出させるためにやらせといて、復活しても自分たちが分からないから信じないだなんて勝手すぎる……!」
フォバ「そういうものなのじゃよ……誠愚かな生き物じゃよ……」
いやぁ……どうしようもなさすぎるだろそれは……。
そんなふざけた奴らからどうやってユーリさんを……。
コウスケ「って、そうだ。良い話を持ってきたんじゃなかったっけ?」
フォバ「うむ。こんな暗い話だけをしにわざわざ夢を辿ってここまで来たわけでは無いのじゃ」
マグ「辿って?」
フォバ「御子も寝ているのじゃよ。残念ながら御子とそなたたちの夢を繋ぐことは出来ないが、夢の中に入ったことでそなたたちのことを知り、あの御子…いや、もう妾も名で呼ぶか。かっこつけていても仕方ないしな」
かっこつけてただけだったんだ……。
フォバ「ユーリが連れ去られないように抵抗したこともバッチリ記憶されていたことでそなたたちの気持ちも知った。じゃからこうして助けを求めに来た」
コウスケ「助け?」
フォバ「うむ。妾がチカラを示せば彼奴らも妾の復活を認めるじゃろう。そうすれば彼奴らは妾の言葉を無碍には出来ぬはず。そしてこれが最も早くて確実な手段でもあろう」
マグ「なるほど…認められたところでフォバ様にユーリさんの解放を言ってもらえば……!」
フォバ「うむ!ユーリは晴れて自由の身。妾も魔力の誤解を伝えられて効率よく美味な魔力をもらえる!ついでに里の者共も多少は自由を手に入れられるじゃろう!まさに一石三鳥!」
マグ「おぉー!」
コウスケ「そうなれば確かに最高だねぇ。でもどうするん?そんな上手くいく作戦でもあるのんか?」
フォバ「そこでそなたらの出番なのじゃ!」
コウスケ「ほほう?」
マグ「というと?」
フォバ「妾の依り代を用意してほしいのじゃ!」
コウスケ「より?」
マグ「しろ?」
フォバ「そうじゃ!」
依り代というと、神様をこの世に降ろすための器…だよな?
コウスケ「えっと……誰か良さげな人を見つけて来いと?」
フォバ「いや、降りるのはユーリじゃ。御子となるだけあって良き魂と器を持っておるからの」
なるほど。
ん~でもそうなると……
マグ「それなら私たちは何を用意すれば?」
フォバ「妾が降りるための補助装備じゃ」
マグ「補助装備?」
フォバ「うむ。いくらチカラが戻っていないと言えど、人の身に神の魂は強すぎるんじゃ。無理に入ろうとすれば体が比喩ではなくはじけ飛んでしまう」
マグ「えぇっ!?」
コウスケ「おっかないなぁ……」
フォバ「それを防ぐために補助装備が必要なのじゃ。湯呑だけでは溢れてしまうのならば、下に受け皿を置くなりすればよいのと同じ。人の身に受け止めきれぬのならば、余剰分を別のものにいれればよいという話よ」
コウスケ・マグ「「なるほど……」」
理にかなってはいるか……。
マグ「う~ん…でも具体的にはどんなのを用意すれば……」
コウスケ「そもそもフォバ様は今そんな誇示できるほどチカラあるの?」
フォバ「言ったであろう?150年前から復活だけなら出来ると。効率が悪くなったとはいえ、150年もの歳月が過ぎているのじゃ。神のチカラの一つや二つくらい造作でも無いわ!」
コウスケ・マグ「「おぉ~(パチパチ)」」
フォバ「ふふ~ん♪(ドヤァッ)」
少しのふくらみも無い胸を反らせてドヤるフォバに拍手をひとしきり送り、落ち着いたところでもう一つの問題を改めて問う。
コウスケ「それで、補助装備ってのはどんなのがいいの?」
フォバ「うむ。具体的な形は問わぬが、身に付けられてとにかく魔力が多く蓄えられるものが良いの。知っての通り妾は長い間魔力を捧げられてきたわけじゃが、妾に限らず神が現世に降り立つ際には魔力を衣とし、さらに依り代に入ることでようやく降りることが出来るのじゃ」
マグ「魔力の衣?」
フォバ「左様。先にも言った通り、チカラが取り戻せていなくとも神というのは人とは比べ物にならぬチカラを持っておる。そのため、魔力で衣を作りチカラを包み込み、そのチカラと魔力を安定させるための器として依り代を必要とするのじゃ」
マグ「へぇ~……!」
コウスケ「個人で顕現は出来ないってこと?」
フォバ「出来なくはない。が、やはり依り代があったほうが妾にもそなたたちにも都合が良いのじゃ」
コウスケ「どうして?」
フォバ「衣だけでは感情が昂った際にうっかりその魔力を放ってしまったりするからのう。そうなればもちろん大変じゃし、魂が露わになればもっと大変じゃ」
マグ「どう大変なんですか?」
フォバ「そうじゃなぁ……簡単に言うと、圧が凄い出る」
コウスケ「圧」
フォバ「そう、圧。賭け狂いの泥酔オヤジも正気に戻って裸足で逃げ出すような圧じゃ」
コウスケ「凄いような凄くないような……」
マグ「たしかになんにでも絡む印象がありますけど……」
もうちょっとなんか凄いやついなかった?
フォバ「まぁともかく、普通の者ならば受けただけで卒倒、悪いと心停止するような圧が出ちゃうのが妾たち神なのじゃ」
コウスケ「それは確かにヤバいな……」
マグ「もはや災害ですね……」
フォバ「じゃろ?だから皆の安全も兼ねて衣と器がいるのじゃよ」
なんか神様も大変だなぁ……。
コウスケ「それじゃあまぁ、魔力保有量が多いものにするとして……どれくらいとかって目安はある?」
フォバ「う~む……上限は特にないが、最低でもデュラハン辺りの魔石を10個ほど埋め込まれた物がいいのう……」
コウスケ「デュラハン級のモンスターって……Bランクモンスターの中でも上位だぞ……?」
マグ「その魔石を10個が最低条件って……」
魔物は魔力の溜まりやら何やらでポンと生まれたり、原生生物が魔力に飲まれて魔物化したりすることで生まれるわけだが、そこにも魔力の質や量が関わってくる。
まぁ単純に質が良い、濃度が濃いと強い魔物が生まれやすいというだけなのだが、そうして生まれ賜物の体内には魔石と呼ばれる石が存在する。
魔石はその魔物の体を維持するためのコアとなっており、魔石に魔力を貯め込んでエネルギーにする…胃袋的な役割を持つ。
魔石自体に魔物を生み出すチカラは無く、的確に切り取ったり魔力を使い切らせたりすることで採取が可能なちょっと面倒なアイテムだが、魔力を貯め込める性質を利用して様々なことに活用できる。
電気のまだ無いこの世界でハルキが作った家電たちを動かすために使われていたり、俺の持ってる杖とかに着けて魔法を強化したりできるわけだが…もちろん強い魔物ほど良い魔石を落とすわけで。
そこで今出たデュラハン。
Bランクの魔物なわけだが、Bランクというのはこの世界では上から三番目の強さに当たる。
しかもデュラハンはそのBランクの中でもさらに上澄み。
Aランクの冒険者たちでも一瞬の油断でピンチに陥る危険な魔物だ。
そんなヤベェやつクラスの魔石を10個……。
しかもそれが最低条件……。
さらに言えば身に着けられるものがいいというオーダー付き。
身に着けられるものとなると付けられる魔石の量も減る。
面積がそんなないもの。
全身鎧とかなら大量に付けられるかもしれないが……それをユーリさんに着せるの……?
サイズ間違えたら終わりやで……?
というのを相談してみた。
フォバ「ぜ、全身鎧か……う、う~む……それは出来れば最終手段にしてくれんか……?」
やっぱ嫌かぁ……。
希望通り、よっぽどヤバそうなときの最終手段にしとこうか……。
マグ「う~ん……とりあえずの方針は決まりましたかね……?」
コウスケ「そうだね……最後にとんでもない宿題が出来たけど……」
というかこれ新しく作るとかなったらそれも大変だよな?
数日かかるとか言われたら…う~む……。
フォバ「む……そろそろユーリが目覚めそうじゃ。今日はここまでじゃな」
マグ「あっはい。ありがとうございますフォバ様」
コウスケ「思わぬ助っ人でしたよフォバ様」
フォバ「ふふっ。妾にとっても渡りに船じゃったからの。気にするでない。ではな。タイミングが合えばまた会えるじゃろう」
コウスケ「ありがとうフォバお姉ちゃん」
マグ「またねフォバお姉ちゃん」
フォバ「おおおお姉ちゃんはもうよ…!」
ツッコミの最中にフォバは姿を消した。
コウスケ「起きたね」
マグ「起きましたね。はぁ……」
コウスケ「おっと」
ため息をついて俺のひざに倒れ込むマグ。
マグ「緊張しましたねぇ……」
コウスケ「そうなの?そうは見えなかったよ」
マグ「思ったより接しやすかったですけど、やっぱり神様って聞くと緊張しちゃいますって~」
コウスケ「ふふふ。まぁ確かに驚いたよねぇ」
マグ「コウスケさんは大丈夫だったんですか?」
コウスケ「割と。親しみやすかったからかな?」
マグ「すごいですねぇ……ふぃ~……」
コウスケ「ちょっとマグさん?このまま寝るつもり?」
マグ「いけませんかぁ?」
コウスケ「俺も寝たいから腕枕にしない?」
マグ「添い寝?」
コウスケ「うぃ」
マグ「じゃあ許します♪」
コウスケ「ありがたき幸せ」
そうして並んでごろんとする俺たちは、さっきまでのことを頭の中で整理しながら、夢の世界からもっと深い眠りにつくべく目を閉じた。




