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異世界で少女とまったりするために頑張る  作者: レモン彗星
第1章…迷宮都市での基盤づくり
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38.騒動のまとめ…私はおこです

いつも喧騒に包まれている冒険者ギルドは今、恐らくこの2ヶ月でもっとも静かな瞬間を迎えているだろう。


その原因たる冒険者の女とその仲間たちはとてつもなく居心地が悪そうにしている。


そりゃあそうだ。

(いか)れるギルドスタッフや他の冒険者たちに囲まれているのだから。


しかも冒険者の一部は武器に手をかけていたものもいた。

俺も怖いからやめてくれ、マジで。


俺が怒るでもなく泣くでもなく、いつも通りの調子で静止したので、今は冒険者の女に怒りの視線が、俺に戸惑いの視線が投げかけられているだけで留まっている。


「さてさて…ランクアップの条件のお話から何故私の誹謗中傷になったのかは謎ですが、とりあえずこれだけは言わせてください」


俺はこう切り出しみんなの視線を集める。


…俺のセリフに一部怒りが再燃してしまった人がいるようだが、さすがにそれは自業自得なので(かば)いません。


「村の事もメイカさんたちのことも、貴女にとやかく言われる筋合いはありません。もうそれについてはある程度踏ん切りは付いてますので」

「……どういうこと?」


怖い人たちに囲まれているため、あまり強く出られない冒険者の女。


そうねー。下手なこと言ったら武器抜かれかねないもんねぇ〜。

そうなったら俺も面倒だから癇癪(かんしゃく)起こすなよ?俺もその辺は考えて喋るから。


「んー…そうですね。まず、村は捨てる他ありませんでした。そもそも生存者を探すのも一苦労というレベルでしたし、入り口の方にある建物まで炭になってましたから。だから、落ち着いたら見に行こうかとは思っています」

「そ、そうなんだ……」


なんだか少し腰が引けた様子の冒険者の女。

よく見たら他の人たちの何人かも腰が引けてる。


どうしたん?


「?…それで、そこを助けてくれたメイカさんたち…《イシオン》の皆さんには、いずれキチンとお礼をしようと思っています。ギルドに入った理由のひとつもそれですし」


(そうですね…。でも、お礼ってどうすれば良いのか分からなくて……)

(これは後で相談かなぁ…お金がない現状じゃ選択肢も限られるし、多分あの人たちはお礼なんていらないとか言いそうだし)

(絶対言いますね。じゃあそこもなんとかしないと…)


ん…どうやらマグの気が紛れたようだ。

まぁでも、後でちゃんとケア入れとかないとな。


…ケアという名のバカップル行為をしないように自制心を鍛えなくては……。


「マーガレット様?」

「…と、すいません……こほん。まぁそういうわけで、私も考えなしと言うわけではないんです。お分かりいただけました?」

「あ、あぁ……」


リンゼさんに呼ばれて、外へ意識を戻す。


俺の言葉に反応は返ってきたが…何でそんな怯えた目で俺を見るかね?


周りがおっかないのは分かるけど、別に俺自身は怖くないじゃろ?

それでナメられても困るけどさ…。


「だ、だがよぅ…マーガレットちゃん。その…龍のことはどう思ってるんだ?」

「ちょっ!?デリカシー無さすぎるぞお前っ!?」

「い、いやだってよぅ……」


周りの冒険者のひとり…長剣使いの男の人が俺にそんなことを聞いてくる。


龍について?

決まっている。


「生かす気はありません。必ず落とします」


ほぼ反射的に答えた俺に、長剣使いは唖然として何も言わない。

代わりに、その隣にいるさっきデリカシー云々(うんぬん)を口にしていた、剣&盾の男の人が質問をした。


「お、落とすったってどうやって…」

「攻城兵器、魔法、物量、毒、罠…とりあえず思いつくのはこれぐらいですね」

「…………」


俺の返答に口をパクパクするだけで何も喋らない剣盾の方。


「とはいえ、こんなもの私だけでどうにかなるものでもないですし、あんな災害級の蜥蜴(とかげ)にケンカを売るような人なんていないってことも理解しているつもりです」

「そ、そうだよな!うん、あんま下手な事はしない方が…」


そりゃあ俺だって見て見ぬ振りが出来れば苦労しないさ。


「ですが襲われればそんな事は言っていられません」

「う……」


言葉に詰まる剣盾。

実際に襲われた子供が目の前にいるのだから、説得力は十分だろう。


「なので情報が必要なんです。ヤツの弱点や行動パターン、攻撃力、防御力、身のこなしや技の種類、相手の知能や性格も」

「せ、性格……?」

「はい。好戦的なら激闘は必須ですし、狡猾な性格ならこちらも2手3手先を読む必要があります」

「な、なるほど……」


冒険者なのだからそれぐらい考えるだろうに、剣盾使いは本当に勉強になったとでも言いたそうに頷く。


他の人からも「ほぉ〜」とか「へぇ〜」とかの声が聞こえた。


…嘘やろ?


「えっ…と……まさか考え無しに目の前の敵に突撃してるだけ…とか言いませんよね?」

「「…………」」


俺の質問に目を逸らし何も言わない長剣使いと剣盾使い。


周りの人も何人か明後日の方向に目を向けている。


おう、こっち見ろお前ら。


「…あのですね……ゴブリンやウルフみたいな、集団で狩りをするのも狩猟の知恵ですし、狭い通路でタコ殴りにする、なんて単純な作戦も生存戦略のひとつなんですよ?魔物だって知能はありますし、なんなら人間よりも頭の回る魔物だっているかもしれないんですよ?そんな魔物に力技を通すには、相手の攻撃を全部腹で受け止められるくらいの防御力か、バレる前に一撃で潰せるぐらいの攻撃力か、全部余裕で避けれるほどの素早さのどれかを持ってないとダメなんですよ?」

「うっ…お、おっしゃる通りです……」


俺が呆れながらマグに教えてもらった本の知識を説明すると素直に認める、俺と目を合わせなかった冒険者たち。


素直なのは良いことだ。、


「…まぁそこら辺は要勉強、ということでいいとして…そろそろ話を戻しましょうか。リンゼさん、フレアウルフというのはハンターウルフ何頭分の強さなんでしょうか?」

「そうですね…大体4頭分ぐらいですかね…」

「今回倒してきてもらうハンターウルフはどこで何体でしたっけ?」

「3階層で10頭です」

「2階層にもいましたよね?そっちじゃダメなんですか?」

「駄目ですね。必ず3階層のハンターウルフを倒してきてもらいます。《鑑定魔法》を持っている人もいるので不正は出来ません」


なるほど、なんとなく分かった。


「フレアウルフは何階層にいるのですか?」

「4階層です」

「単体で?」

「はい」

「ちなみにハンターウルフは?」

「4〜5頭ほどの群れで出てきます」

「やっぱりね……」


予想通りっと。


「さて…」

「!」

「そういうことですよ?分かりました?」

「…………え?」

「いや、え?、ではなく…ランクアップのためにハンターウルフを倒してくる理由ですよ」

「は?いや……え?」


うーん…?まだ分かんないのかぁ?


「4階層で1頭で出てくるフレアウルフよりも、3階層でハンターウルフ5頭と同時に戦う方が難しいということですよ」

「そ、それぐらい分かる!だったらフレア3頭でも良いじゃないかって俺たちは…!」

「分かってないですよ。わざわざ()()()()ハンターウルフを倒して来いって言われてるんですよ?それって、群れを作る魔物との戦い方を学んで来いってことじゃないんですか?」

「えっ!?」


そんな驚くかよ……。

えっ、まさか違った?


「え、リンゼさんそういうことですよね?」

「そうですよ?1体の魔物を倒すのと、群れの魔物を倒すのとでは違いますから」

「それちゃんと言いました?」

「…………あ」


(リンゼさん割と抜けてるところあるよね)

(いつも仕事ばっかりしてるから頭が回らなくなってるんじゃないですかね……リンゼさんならそういうの、ちゃんというと思いますし……)

(同感。ララさん…もしれっと無茶してる可能性があるから…ハルキとチェルシーに今度聞いてみよう)

(そうしましょう)


「まぁ、あそこまでお互いにヒートアップしていれば気付きませんよ。とにかく、そういうことなので、Dランクに上がるには3階層のハンターウルフを倒してきて欲しいんです」

「え…あ、あぁ…まぁ…そういうことなら……」


よし、納得してくれたな。


「はい、じゃあまずはどうするべきでしょー、か?」

「…あー…と…怒鳴っちまってすまなかった……」

「い、いえ!私の説明も悪かったようですし……」


そうそう、ちゃんと迷惑をかけた受付の人に謝って。

あと、リンゼさんにも謝って。


んで、最後に俺を見て…


「ごめん…ムシャクシャして…アタシ…ひどいこと言っちゃって……」

「良いんですよ、イラつくことなんて誰にでもあるんですから。次からキチンと制御できるようにしてくださいね」

「うん…」


俺が許したことで周りの空気も落ち着いてきた。


俺がわざわざみんなに聞こえるようにリンゼさんと話したのは、こういう事態がまた起きないようにするためだ。


今ここにいない人は仕方がないが、他の冒険者が教えるだろう。多分。


さてと…


「では、3階層のハンターウルフ討伐、受けてくれますね?」

「うん」

「あぁ」


男の冒険者と女の冒険者は返事をくれた。

後ろの2人も頷いてくれた。

ていうか君ら一言も喋らないね?


「では、今から行きますか?」

「あぁ」

「アイテムや魔力の残りは?」

「大丈夫だ。元々、これから潜る予定だったしな」

「なるほど、では改めて…ランクアップのためにハンターウルフの討伐、お願いします!」

「あぁ!」

「20頭頑張ってくださいね!」

「あぁ!20頭……え?」


やる気に満ちた良い顔で返事をしてくれていた冒険者たちの顔が固まる。


周りの人たちも、このままいい話で終わるものだと思っていたようで、みんな同じように「え?」という顔を向けてきている。


「いや…あれ?確か10頭…だったはずじゃ……」

「え、えぇ…マーガレット様?ハンターウルフは10頭で良いのですよ?」

「そうですね、ランクを上げるだけなら10頭でいいです。ただ…」


忘れたとは言わせんぞ?


「ギルドのスタッフとして対応したので分からないとは思いますが…」


お前らマグを傷つけたよな?


「私個人としては先程の発言、全くの無傷という訳では無いのですよ?」

「「「「ひっ!?」」」」


おっと、後ろ2人…初めて聞いた声が悲鳴とは、かわいそうに……。

まぁ許さんが。


「えぇ、えぇ、それはもう…ハラワタ煮えくりまくりでしたが、仕事なので頑張らせていただきましたよ?なので…」


それでもこれぐらいなら優しい方だろ?


「ハンターウルフをもう10頭…頑張ってくれますよね?」

「「「「え、えーっと……」」」」

「もちろん、ランクを上げるだけなら10頭で良いのですよ?良いのですけど…」


震え上がっている冒険者たち。

今俺はとても良い笑顔をしているのだろうな。


「ギルドのお仕事っていっぱいあるんですよ?私はまだ見習いですから、掃除や書類整理なんかの雑用ぐらいしかしていませんけど、それでも結構な仕事量なんですよ?もちろん今回みたいに口論になることも仕事の内ですから、仕事に仕事を増やしているのですよ?しかも今回はフロアの人みーんなを巻き込んで、ですよ?分かります?」

「「「「は、はいっ!!」」」」

「それなら、10頭ぐらい…増えても良いですよね?それとも……」


「朝まで帰ってくるな…の方が、イイデスカ?」

「「「「い、いえっ!!」」」」

「じゃあ頑張れますね?」

「「「「はいっ!!」」」」


あぁ、そうそう。

無茶されても嫌だからな。


「言うまでもありませんが、死んだらいけませんよ?」

「「「「はいっ!!」」」」


…本当に分かってんのか?


「…これ以上、私の知ってる人を減らさないでくださいね?」

「「「「!!……はいっ!!!」」」」


今までの震えた声ではなく、しっかりとした声音で返事をしてくれた。


うん、これなら大丈夫だろ。


「じゃあ、いってらっしゃい」

「「「「はいっ!いってきます!!!」」」」


元気いっぱいに返事をして、迷宮に向かう冒険者たち。


はぁ〜…やれやれ……すっごく疲れたわ、まったく……。


さて…じゃあ仕事に…って……


「あの……何か……?」


なんでみんな俺を見ているの?


「マーガレット様…」

「は、はい」

「感服いたしました」

「は?」


どうしたのリンゼさん?

過労死寸前なの?


「まさかあの者たちを許すばかりか、ギルドの事や周りの方々、何よりあの者たちの事まで考えてくださるとは…」

「え?そんな事ですか?」


普通じゃない?

職場の雰囲気悪いの嫌だし。

俺のせいであの人たちがひどい目に会うのも目覚めが悪いし。


なのにリンゼさんは俺の言葉にさらに感動したようで…


「弟子にしてください」

「リンゼさん、お気を確かに」


友人の妻を弟子にするとか、すごく気まずいから絶対にやめて?


その後、しばらくリンゼさんは俺の弟子にと言ってきて、さっきの冒険者たちと話すのよりも疲れてしまうのだった。

迷宮には他の魔物もいるので、20頭で許すコウスケ。


ただ、もし次やったら……ね?

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