380.お狐さんの帰還…と訪問
チェルシーと共にお土産のドーナッツを持って帰った俺は、早速サフィールちゃんがフルールさんに教えてもらいながら入れてくれたお茶を飲みつつおやつタイムに。
そこでみんなに出ていった理由を適当にでっち上げて早々に切り上げ、結果を報告した。
コウスケ「残念だけど手掛かりは無し。一応調べてくれるみたいだけど、それでも結果が出るかどうか微妙な所だね」
ショコラ「そっかぁ……」
さすがに明日になったら分かるよ、と明言するのは怪しいので、衛兵に聞いて調べてもらっている最中であると話を作る。
俺が唐突に閃いて飛び出したことでちょっと希望を持たせてしまっていたようで、子どもたちの落胆ぶりはかなりのものだった。
とても心が痛い……。
しかしそれはチェルシーの案によって楽しみに上書きされた。
チェルシー「それでね?マギーちゃんにはもう話したんだけど、今度のお休みにユーリさんを誘って一緒に遊びたいなって思ってるの!」
シエル「あっ、いいじゃない!」
パメラ「おもしろそ~♪」
チェルシー「でしょでしょ?これでユーリさんともっと仲良くなって、もっといろんなことをお互いに知れたらなって♪」
リオ「親睦会みたいなもんか」
モニカ「いいね!ユーリさんもきっと喜んでくれるよ!」
コウスケ「うん。ユーリさんもみんなと遊ぶの好きだし、絶対喜んでくれるはずだ~って私たちも考えたんだよね」
チェルシー「そっ!もちろんユーリさんが断るんだったら無理強いはしないけど……でもでも、絶対喜んでくれるし、喜ばせるから!」
メリー「……ん♪がんばる!」
ショコラ「うん!」
サフィール「きっと楽しんでくれますよ♪」
リオ「あぁ。よし!じゃあ予定作ろうぜ!」
パメラ「そうだね!」
フルール「もう?誘ってからでもいいんじゃない?」
チェルシー「いやいや!先に作っておいて、こんな楽しいことするよー!ってアピールするんですよ!」
コウスケ「で、もしユーリさんの希望があったらまたその時一緒に考えればいいと」
チェルシー「その通り!」
フルール「なるほど。確かにそれは効果がありそうね」
メリー「……(こくこく)」
シエル「じゃあとりあえずみんなやりたいことを挙げて、それから調整していきましょ」
ショコラ「はいはい!それじゃあショコラから!」
マグ(大盛り上がりですねぇ)
コウスケ(予定立ててるときってめっちゃ楽しいからね)
マグ(たしかに。下手したら当日よりも楽しいですよね)
コウスケ(それな~)
サフィール「マーガレットさんは何か希望はありますか?」
コウスケ「うん?そうだな~」
マグ(あっ、甘いものは絶対欲しいです)
コウスケ(言われるまでもないぜ。というかもう出てない?)
マグ(いくらあってもいいじゃないですか~)
コウスケ(せやな)
俺たちの遊びの予定決めは夕飯の支度でフルールさんが抜けるまで続いた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
その夜。
俺たちはお風呂もご飯もバッチリ済ませ、あとは提案するだけ!という時間になったわけだが、メイカさんたちが帰ってきたあとも、いくら待っても何故かユーリさんが一向に帰ってこなかった。
ショコラ「ユーリさん遅いね~……」
チェルシー「何かお手伝いしてるのかな?」
リオ「普段のユーリさんなら別に心配はいらないんだけど……」
メリー「……いまはげんきがない……」
シエル「そうね……変なことに巻き込まれてないといいんだけど……」
パメラ「そんな…マグじゃないんだから……」
コウスケ「聞き捨てならないんだが?」
さりげない流れ弾に反応してちょっと笑いが起きたものの、その後5分、10分と待っても帰ってこず、30分経過したくらいでディッグさんが立ちあがった。
ディッグ「ちょっと軽く外を見てくるわ。どっかで道草食ってるだけだとは思うが一応な」
メイカ「私も行くわ。ユーリちゃんが気に入ってたお店とか探して見る」
ケラン「僕はギルドに当たってみます。人も多いですし、誰か見かけたという人もいるでしょうから」
ショコラ「あっ、じゃあ…」
コウスケ・フルール「「ダメ」」
ショコラ「あぅ……」
ディッグさんたちに続いて名乗りをあげようとしたショコラちゃんを俺とフルールさんが止める。
コウスケ「いくら治安がいいとはいえ、さすがに子ども一人で夜の街を歩くのは危ないよ」
フルール「そうよ。ここは大人に任せなさい」
ショコラ「あぅぅ…でもぉ……」
理解はしつつも納得は出来ない様子のショコラちゃんに、フルールさんはこう続けた。
フルール「安心しなさい。私も手伝うから」
ショコラ「えっ?」
チェルシー「フルールさんが?」
フルール「何よ?文句あるの?」
チェルシー「いえいえないですないです!」
サフィール「でも、フルールさんはいつもお家で待っててお出迎えしてくれていましたから、少し意外です」
フルール「それは大体日が出てる時間帯だったからよ」
パメラ「そっか…フルールさんとメリーはお日様浴びると痛いんだもんね……」
リオ「だから待っててくれてたけど、今は夜だからその心配はない。むしろ…」
メイカ「むしろ吸血鬼パワーが炸裂する時間ってわけね!」
フルール「そんな大げさなものじゃないわよ。でもそうね…期待していいわよ?」
メイカ「おぉ…いつになく強気だ……!」
モニカ「頼もしい……!」
なんとも頼りになるフルールさんの言葉に子どもたちの顔が晴れたところで、大人たちは軽い支度を済ませた。
メイカ「それじゃあ行ってくるわ。マーガレットちゃん、みんなのことお願いね」
コウスケ「はい」
ディッグ「大人しく待っとけよ?」
ケラン「僕たちがいないときにユーリさんが帰ってきたときはお願いね」
フルール「変な人が来ても出ちゃダメよ?」
コウスケ「了解です」
といっても来る人大体決まってるが。
セキュリティしっかりしてるし、そもそもセールスとかも来たことないし。
チェルシー「お兄ちゃんは?」
フルール「……まぁいいでしょう」
許された。
よかったなハルキ。
シエル「マスターは?」
フルール「まぁいいでしょう」
おめでとうグリムさん。
コウスケ「ダニエルさん…」
フルール「通報なさい」
かわいそ。
ダニエルさんが出禁にされたところで大人組出立。
パメラ「行ったねぇ……」
サフィール「そうですねぇ……」
メリー「……うん」
コウスケ(あっ、この流れは……)
すすっ……
すすすっ……
大人たちがいなくなったことで再び不安になってきた子どもたちが俺にすり寄ってくる。
このままでは玄関で団子が形成されてしまう。
せめて柔らかい所に腰かけたいんじゃが……。
モニカ「……(そわそわ)」
ショコラ「……(きゅっ)」
…まっ、一秒でも早く出迎えたい気持ちもわかる。
それに俺も落ち着かないし、な。
コウスケ「ふぅ……クッションだけ持ってこよっか」
チェルシー「!…うん♪」
シエル「毛布もあった方がいいかしら?」
リオ「さすがに暑いんじゃないか?」
サフィール「薄手の布の方がいいかもですね。持ってきます」
俺の言葉にみんなが嬉々として動き出す。
コウスケ(まったく……こんな可愛い子たちをほっぽってどこをほっつき歩いてるんだか)
マグ(まったくです!しっかりお説教です!償いもさせます!)
コウスケ(お説教は賛成だけど、償いって?)
マグ(私のまくらになってもらいます)
コウスケ(私欲が凄い……)
そのときは全部マグに任せて奥底で静かにしてよ……。
俺にはまだ刺激が強すぎる……。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
それから時計の長い針がそろそろ一周回ろうとするくらいの時間。
ここまで誰も帰ってきていない。
最初はおしゃべりしたり指遊びをしたりしてワイワイ待っていた俺たちも、さすがにちょっと疲れと不安の色が顔に出始めたころ。
外から一人分の足音が聞こえてきたのをショコラちゃんとモニカちゃんのケモ耳が捉えた。
ショコラ「あっ…誰か来た…!」
パメラ「ほんと!?」
モニカ「うん。でも一人だけみたい……」
チェルシー「じゃあ見つからなかったのかな……?」
リオ「いや、まだユーリさんの可能性もあるぞ」
シエル「そうよ!諦めちゃダメ!」
なんてわちゃわちゃしている間に、俺の人間イヤーにも足音が聞こえる距離まで迫ってきた。
そして扉に手がかけられる。
コウスケ(どっちだ……?)
マグ(どっち……?)
ガチャ
ユーリ「わっ!びっくりしたぁ……」
ショコラ「ユーリさんだっ!」
パメラ・チェルシー「「やったーっ!」」
モニカ「ユーリさんが帰ってきたー!」
リオ「よぉぉし!」
シエル「よかったぁ~…!」
サフィール「ホッ……」
メリー「……やった、やった♪」
ユーリ「な、なになに!?なんの話!?」
まさかのユーリさん一発引きに大興奮の子どもたちに、状況がまったく読めずに戸惑うユーリさん。
そんな彼女にショコラちゃんが嬉しそうに答えを教えた。
ショコラ「ユーリさんのことをみんなで待ってたんだよー!」
ユーリ「えっ…あぁ…ごめんね。遅くなっちゃって……」
ショコラ「いいよ!」
パメラ・チェルシー「「よくない!」」
ショコラ「えぇっ!?」
勢いで許そうとしたショコラちゃんにパメラちゃんとチェルシーが待ったをかけた。
パメラ「んもーっ!心配したんですからねユーリさん!」
チェルシー「そうですよ!昨日からずっと元気も無いし、そんなんで夜遅くなっても帰ってこないなんて何かに巻き込まれてないかって不安になるじゃないですか!」
ユーリ「あ、あはは…ごめんね?でもそんなマーガレットじゃないんだから……」
コウスケ「共通認識なの?」
非常に遺憾です。
モニカ「ユーリさん!それでなんですけど、今度の私たちのお休みの日、空けることってできますか?」
ユーリ「えっ?」
リオ「オレたち、ユーリさんと一緒に遊びたいなって思いまして!」
シエル「いつもいろいろお世話になってるのにアタシたちからは何も返せてないし……」
パメラ「それにユーリさん、元気無いし……」
サフィール「だから今度のお休みに一緒に過ごそうって話になったんです」
チェルシー「ユーリさんのお悩みは分からないけど、何事にも息抜きは大事ですよ!」
ショコラ「一緒に遊んだらすっきりするよ~♪」
コウスケ「美味しいものとか服とか道具とか、みんなでいっぱい案を出したんですよ」
モニカ「ユーリさんも絶対喜んでくれると思うんです!」
ユーリ「みんな……」
メリー「……どう?あそべる?」
みんな『……(じー)』
遺憾の意はともかく、モニカちゃんを起点にみんなで考えた遊びのプランをユーリさんに猛プッシュする。
これだけ頑張ったアピールもすれば、優しさゆえにこの手の押しに弱いユーリさんはきっと承諾してくれる…といささか卑怯な手も惜しみなく使わせていただいた。
それだけみんな心配なのだ。
多少強引でも、せめて気晴らし程度にでもなればと思ってごり押しを計画したのだから。
だからユーリさん…お願い……!
ユーリ「……ごめんね……」
そんな俺たちの願いは、残念ながら届かなかった。
パメラ「そ、そんな……」
チェルシー「ちょ、ちょっと強引だったのはごめんなさい……い、一緒に遊ぶのがイヤなんだったらオススメのお店を紙にまとめたものがありますから、それだけでも……」
ユーリ「ううん、イヤなんてことないよ。でも…それはできないの……」
リオ「どうしてですか……?」
断られて動揺が走る俺たちに、ユーリさんは極めて静かに…どこか寂しそうな声音で話しながら、背中に抱えていた荷物を前に持ってきて俺たちに見せた。
サフィール「それは……?」
ユーリ「旅の道具」
シエル「旅って……え……?」
マグ(ユーリさん……?)
旅……?
確かにユーリさんがこの街に来た最初の理由はギルドカード作成と路銀稼ぎだったし、その目的も余裕で達成してるけど……だからって急に言い出すはやっぱりおかしい。
メリー「……ユーリ…どっかいっちゃうの……?」
ユーリ「……うん」
ショコラ「そんなぁ……!」
モニカ「ど、どうして急に……?」
ユーリ「……ごめんね」
ショコラ「ごめんねじゃわかんないよぅ!」
ユーリ「だよね……でも、ごめん…言いたくないの……」
ショコラちゃんが堪えきれずに涙を流しながら訴えるも、それでもユーリさんはその姿勢を崩そうとしない。
パメラ「そんなんじゃ納得できません!だって…昨日まで……みんなで楽しくパーティーしたじゃないですか……!みんなでシエルたちの応援したじゃないですか……!」
リオ「…そうだ、昨日!昨日ユーリさん、風に当たるって言って出ていったあとから元気が無かったじゃないですか!あれと関係あるんじゃないですか!?」
ユーリ「……」
ユーリさんはやはり答えない。
しかしそれが原因になっているのは誰の目から見ても明らかだった。
シエル「誰かに何か言われたんですか……?」
ユーリ「……」
サフィール「イヤなものを見たとか……?」
ユーリ「……」
ショコラ「ユーリさんっ!」
一向に答えないユーリさんにショコラちゃんが叫ぶが…
ユーリ「……ごめん…もう出ないとだから……」
それでもダメだった。
というか…
モニカ「えっ…今から行くんですか……!?」
チェルシー「せ、せめてお別れ会とか……!」
ユーリ「ごめんね。急いでるんだ。だから……退いて、マーガレット」
そこでユーリさんは俺を見る。
ユーリさんを囲む子どもたちに加わらず、さりげなく階段への道を塞ぐ立ち位置に移動していた俺の顔を見て、言う。
答えはもちろん。
コウスケ「イヤです」
ユーリ「だよねぇ……」
困ったように笑いながらそう言うユーリさんだったが、俺は警戒を解かずに彼女を見据える。
ユーリさんなら、本気を出せば子どもたちの輪から脱出することなど容易い。
なんなら塞いでる俺を飛び越えるのも楽勝だろう。
そうしないのは俺が雷を出しているからだ。
念には念を入れて後ろに壁も張っている。
さすがにこれを一瞬で突破するのは難しいだろう。
いや、突破するだけならやっぱり余裕だろう。
だがここには戦いなんてしたことも無い子どもたちもいるのだ。
下手に動いたらケガをさせてしまうかもしれない。
ユーリさんはそれを分かっているから俺を説得しようとしているのだ。
コウスケ「退いてほしいなら質問に答えてください」
ユーリ「イヤだと言ったら?」
コウスケ「それで何かが変わるとでも?」
ユーリ「……」
意味のない質問だというのは理解していただろうが、俺があまりにもあっさり一蹴したので黙りこくってしまった。
コウスケ「…ユーリさん。私としてはこれでも譲歩してるんですよ?もしユーリさんがみんなに嫌いとかなんとか適当なウソをついて無理やり押し通ろうとしていたらこっちもこんな回りくどいことしていませんからね」
ユーリ「…まぁ……キミはそうだろうね……」
さすが、俺の性格をよくご存じで。
ユーリ「いいよ。何が聞きたいの?」
コウスケ「昨日何があったのかを教えていただけますか?」
ユーリ「ヤダ」
コウスケ「……」
ユーリ「……(ニコッ)」
マグ(答えてはいますね……)
コウスケ(この女狐~)
コウスケ「はぁ……じゃあ旅に出ることを決意した理由は?」
ユーリ「秘密」
ショコラ「ユーリさんっ!」
メリー「……ちゃんとこたえて…!」
ユーリ「……」
はぁぁ……まったく……。
コウスケ「じゃ次」
ユーリ「まだやるの?」
コウスケ「あと数個でいいですよ」
チェルシー「マギーちゃん!?」
コウスケ「大丈夫」
どうせ元々そんな数多くないし。
コウスケ「それじゃあユーリさん。旅の次の目的地は決まってるんですか?」
ユーリ「…決まってないよ。風の向くまま気の向くまま自由な旅を…」
コウスケ「ほんとですか?」
ユーリ「ほんとだよ。目的地は決まってないんだ」
コウスケ「いえ、そこではなく」
ユーリ「え?」
コウスケ「本当に自由な旅をするんですか?」
ユーリ「っ……」
ビンゴ。
シエル「えっ…?えっ…?どういうこと……?」
サフィール「……なるほど……昨日のことが原因で、ユーリさんは目的地も決めないまま、それでも急いでこの街から出たい……そんな人が自由な旅なんて言っても……」
リオ「あぁ、そうか。つか、むしろこれは旅というより……」
メリー「……にげるみたい……」
ユーリ「……」
恐らく図星を突かれたのだろう。
ユーリさんは押し黙ってしまった。
コウスケ「…ユーリさん……何があったかは知りません……でも、逃げるなら逃げるで昨日のうちに出ていけたはずです……買い物するにしたって、朝から夜までたっぷり使わなくても揃えられるはずです……それなのにどうして……」
ユーリ「……ここには…思い出がたくさんあるから……」
ここまで頑なに本音を言おうとせずに飄々としていたユーリさんが顔を俯かせて放ったその言葉は、静かで…それでいて不思議とよく響いた。
ユーリ「みんなと遊んだ思い出があるから……それを見てからにしようって……」
マグ(ユーリさん……)
ユーリ「ほんとはみんなとも過ごしたかった……!こんな形でさよならしたくなかった……!ほんとは昨日のうちに伝えて…そのまま行くつもりだった……でも……みんなの顔を見たら……怖くなったの……」
ショコラ「ユーリさぁん……」
パメラ「ぐすん……」
ユーリ「手紙を残そうかとも思った……でも…書きたいことはいっぱいあるはずなのに……何も書けなくて……!せめて……せめて今日…朝に言おうと思ったのに……!それもできなくて……!そのあともずっと怖くて……!」
モニカ「ユーリさん……!」
メリー「……ユーリぃ……!」
その場に崩れたユーリさんをモニカちゃんとメリーが抱きしめる。
チェルシーやショコラちゃんたちも続いて抱きつく中、俺は魔法を解いてユーリさんに近づく。
コウスケ「わかりますよ。そういうの、怖いですよね。特にこの子たちはこの通りですし」
リオ「こんな泣きっ面されるってわかってちゃ、言い出せることも言い出せないよな……」
シエル「そういうリオだって泣いてるじゃない…!」
リオ「シ、シエルだって泣いてるだろ…!」
サフィール「親しい人が苦しそうにさよならしそうな時に泣かない人はいませんよ…!」
そうかな……いや、そうだね、うん。
間違いない。
コウスケ「でも…それでも……言ってほしかったです……」
ユーリ「……」
コウスケ「秘密があるのもわかります。(俺もそうだし。)それでも、ひと言言ってほしかった……ちょっとでも頼ってほしかった……!」
チェルシー「マギーちゃん……」
メリー「……」
ユーリ「…ごめん……ごめんね……!みんなごめん……!」
謝りながらすすり泣くユーリさんを、なんだかんだ言っていたリオやシエルも加わって抱きしめる。
俺はと言うと、後方で腕組んでそれを見守っている。
だって一人をすでに8人で囲んでるし……。
単純に場所が無い……。
もはやユーリさんの顔も見えんし……。
コウスケ(このままにしてあげたいけど、さすがにダメだよな……)
マグ(そうですね。いくら夏場とはいえ玄関先でずっと居座ったら風邪引いちゃいますもん)
コウスケ(それもあるけど……ユーリさん、逃げなきゃなんでしょ?)
マグ(あっ)
そう。
感動ムードで流れてしまってるが、ユーリさんには多分それほど時間が残っていないのだ。
ならこんな団子になっている場合ではない。
……正直切り出したくないが、ここは心を鬼にして話を切りだす。
コウスケ「ユーリさん。ほんとはメイカさんたちにも会ってほしい所ですけど…時間が無いんですよね?」
ユーリ「っ!……うん……」
ショコラ「そんなぁ……!」
パメラ「やだぁぁぁ……!」
モニカ「マーガレットちゃん……もうちょっと……あと少しだけでいいから……」
コウスケ「それで困るのはユーリさんだよ」
モニカ「っ……ぐすっ……うぅぅ……!」
コウスケ「ただでさえここで時間を使わせちゃったんだから急がないと……」
???「その必要はない」
みんな『(っ!?)』
涙声ばかりのこの空間に突然、聞き馴染みのない低い声が響いた。
驚いて声のした先…閉じられたはずの玄関の扉の方を一斉に見る。
そこには、何故か開かれている扉と、その前に音もなくたたずむ一人の狐人族の男性が立っていた。
ユーリ「……父様……」
その男性は、ユーリさんの父だった。




