37.冒険者ランクのお話…ちょっとしたトラブル
待合室に2人を案内したあと、俺は休憩室や下のフロアの従業員にこのことを伝えて回り、いつ彼女たちに呼ばれても良いようにと、すぐに抜け出せる雑用を中心にこなしている。
今はフロアの掃除中だ。
人が多く通るので、こまめに掃除をしないとすぐに泥などが固まって汚れてしまうのだ。
そして掃除中に何人かの冒険者に声をかけられることもあった。
昨日のように一斉に迫られるとテンパってしまうが、こうしてひとりひとり来てくれるのならばありがたい。
彼らとのお話は俺への激励がほとんどで、たまに好きなものを聞いてきたり、お菓子をくれたりもしてくれた。
仕事の話をほぼしなかった。
別に良いけどさ。
「ふっざけんなっ!!」
そんな時、受付カウンターの方から男の人の怒号が聞こえた。
様子を見に行くと、どうやらさっきの声の主である男の人を含めた、4人組のパーティと受付の女性の先輩が何やら揉めているようだ。
「俺たちはもう《フレアウルフ》を倒せるんだぞ!?なのにそれより弱い《ハンターウルフ》を倒さないとDランクにはならないだなんておかしいじゃないか!!」
「そんなこと言われましても…私の一存で決められることではありませんし…」
「じゃあギルドマスターを呼んでくれよ!アンタじゃ話になんねえ!!」
「ギルドマスターは今、大事なお話をしておりますので、お呼びすることはできません」
「こっちも大事な話なんだよ!!」
んー…揉めてる理由は分かったが…ポイント?ランクを上げるのにポイントが必要なのか?
こういう時は…
(マグ)
(はい、どうしました?)
(冒険者ランクのこと知ってる?)
(はい、冒険者の方に聞いた事がありますよ)
(じゃあちょっと教えてくれる?)
(はい!先生に任せてください!)
またマグが先生モードになった。
張り切っててかわいい。
(冒険者ランクとは、その名の通り冒険者の地位を示すものです。これが高ければ腕の良い冒険者として、各国で重宝されます)
(確かG〜Sまであるんだっけ?)
(はい、この辺はチェルシーちゃんも言ってましたし大丈夫ですよね?)
(うん。あとはランクの上げ方とポイントについて教えてほしいな)
(では、まずポイントについてお教えしましょう。ポイントは魔物の討伐や素材の納品、依頼の達成などで貯める事ができます。もちろん難易度が高ければその分多くもらえますよ)
(ふむふむ。それでそのポイントを集めるとランクが上がるってことか)
(ふふふ…確かにそうなのですがそれだけではランクは上がらないんです)
マグが楽しそうに説明してくれる。
俺に頼られるのがよっぽど嬉しいんだろう、とても声が弾んでいる。
かわいい。
(ポイントだけでランクを上げられるのはEランクまでなんです。Dランク以上はギルドでそれぞれ決められた課題を達成しないとランクは上がりません。そうじゃないと、実力のない人が簡単なクエストだけをこなしたり、ベテラン冒険者と組んでポイントを荒稼ぎしたりして、ランクだけを上げようとする人が出てくるからです)
(へぇ〜、なるほどなぁ〜!)
そこまで考えられてるのか。
ゲームの《キークエ》みたいなもんかな。
序盤の採取クエは基本だよな。
(それで、なんでDランク以上なんだ?)
(え?え〜っと…それはですねぇ……)
おっとマグ先生?
(…もしかして知らない?)
(…………はい)
一気に声のトーンが下がってしまった。
今めちゃくちゃシュンっとしてるんだろうなぁ。
うーん…ちょっと気の毒な事しちゃったかな?
あ、じゃあ…
(なら一緒に考えてみよっか)
(一緒に…?)
(そ、分かんないなら予想してみれば良いのだ)
(ん…それもそうですね)
「いったいなんの騒ぎですか?」
と、そんなタイミングでリンゼさんが出てきた。
(マグ、すまん。動きがありそうだ)
(はい。…でも、リンゼさんはどうやってこの場を収めるつもりでしょうか……?)
(うーん…実力自体はあるけど、ここでの実績が無いから上がれない…だもんなぁ……)
やれるんだったらさっさとやって来いよと思うのだが、駄目なんだろうか。
(というか、各ギルドごとに冒険者ランクって違うのか?)
(あ、いえ。ギルドカード自体は全国で共通なんです。冒険者ギルド自体がちょっとした国みたいなものなので、どこの国もそう簡単にはギルドに手は出せないんですよ)
(へぇ、そりゃすごいな…。んー、てことはあの人たちは……)
(各街のギルドで条件が違う事を知らなかったか、実力があるから下の階層に進んだのは良いけど、そこで活躍出来たものだからランクアップ条件を踏み倒せると思った愚か者ですね。あの態度を見るに後者でしょう)
キッツイなぁマグ。
まぁ同意見だけどね。
「アンタは?」
「私はギルドマスターの秘書でもあります、リンゼというものです」
「ギルドマスターは?」
「ギルドマスターは現在会議中ですので、私が対応させていただきます」
俺とマグが話している間にもリンゼさんが冒険者たちの相手をしている。
冒険者が今回の理由をリンゼさんに伝えたが、その理由はさっきマグが言ったようなものだった。
…気持ちは少し分かるが、それならやっぱり黙ってさっさと倒して来いと思う。
「余裕なのでしたら、行って倒して終わりではないですか」
「だから別に行かなくてもいいだろうって言ってんだ!どうせダンジョンなんだから倒しても倒さなくても同じなんだし良いだろ!?」
いやまぁ言いたい事は分かるけどさぁ…
(そんなんしたら他の人も倒せるから良いじゃんってなっちゃうだろ……)
(そうなったら、頑張ってランクを上げた人に失礼ですし、規律や秩序が乱れてしまいますよ……)
俺の呟きにマグが補足を入れてくれる。
やはりリンゼさんもその事を理解しており、冒険者たちに丁寧に説明をしたのだが……。
「それの何が問題なんだよ?」
(…コウスケさん、あの人は何を言ってるんですか?)
(マグ、まだだ。まだワンチャン説明を理解してない可能性がある……)
「規律や秩序が無くなってしまえば、機関としての効力を失い、あらゆる場面で不利になってしまいます。ですから…」
「そんなもん別に良いだろうが。強いやつが偉いで問題無いだろうに」
(問題あるからこういう仕組みになってるんじゃないですか……)
(他3人も頷いてんじゃねぇよ……1人ぐらい止める側に回れる奴はいねぇのかよ……)
「あなただけの問題では無いのです。ギルド全体の沽券に関わる重要な…」
「うるっせーな!関係ねぇだろうが!?」
((お前{あなた}はどこで働いてるか分かってないのか{ですか}……?))
マグと2人でツッコミを入れまくる。
いやほんと、あの人たちなんなん?
「…ちょっと、なに見てんのよ!」
「え?」
…なんか冒険者のひとりである盗賊風…《シーフ》って言ったほうがいいかな?…の女性がこっちに喧嘩売ってきたんだけど。怖っ。
「うーん?あ!あんたねぇ?最近噂になってる子ってのはぁ」
「噂…ですか?」
噂…うわさねぇ……。
なんか今日はそういうのばかり聞くなぁ……。
どんな噂なんだろ?
「あんた、龍に襲われた村から逃げてきたらしいねぇ。みんなあんたに優しくしてくれて、良かったじゃないかぁ」
「そうですね。皆さん優しくしてくれます」
台詞だけなら心配してくれた人と話しているだけなのだが……いやらしくニヤニヤ笑いされちゃあこっちの笑みも作り物になるっての。
そしてそいつは案の定ろくな事は言わなかった。
「良いねぇあんたは楽できて」
「…どういう意味ですか?」
「…おい……子供に噛みつくなよ……」
さすがに見かねたのか、さっきまで怒鳴っていたリーダー格の男が止めに入る。
だがそいつは止まらなかった。
「《イシオン》だっけ?あんなAランクのパーティに拾われて、しかもその前はお貴族様だって言う話じゃないか」
「…どこでそれを?」
「隠してたつもりかい?残念だけどバレバレ、もうここの冒険者はみーんな知ってるよ」
別に隠したつもりは無い。
聞かれなかっただけだ。
わざわざこっちからいう事じゃ無い。
「そのおかげでAランクのパーティの下で不自由なく暮らせて、他の冒険者共にもチヤホヤされてるんだから良いじゃないかぁ、ねぇ?」
(…何が言いたいの?)
(ろくな事じゃねぇよ。真に受けないようにな)
見れば、いつも冷静なリンゼさんが怒りをあらわにしている。
周りで傍観に徹していた冒険者たちの中の何人かがすごい形相をこいつを見ている。
受付の奥でララさんが冷たい表情を浮かべている。
その隣でチェルシーが今にも怒鳴りかかりそうになっているのを、ララさんに止められている。
(まぁ確かに、こんなにマグのために怒ってくれる人がいるってのは幸せな事だけどな)
(…うん、それは分かる。私も嬉しいから…)
マグはこんな状況でも落ち着いている。
喜ばしい事だし、ありがたい。
今の俺は、メイカさんたちAランクだったんだ、と漠然と考えていた。
何か考えてないと押し留められないからだ。
彼女の冒険者仲間たちもそれ以上はマズいと止めに入ろうとしてはいるが、彼女はまったく聞く耳を持たなかった。
「アタシたちが泥水すすって頑張っている時も、アンタはぬくぬくと暮らしていて、同じ命の危機に反しても、あんたは変わらずに、もしかしたらそれ以上に裕福な暮らしを送ってるわけだ」
そして彼女はこんな事を言う。
「辺鄙な村から出て、都会に来て、悠々自適な生活ときた。いいねぇ、私たちじゃそんな事出来ないもの」
周りの空気が冷え込む中、彼女はさらに続ける。
「だからさ、聞きたいんだよねぇ、あんたの気持ち。実際どうなの?」
そうして彼女は後戻りできないラインをあっさり超えた。
「村を捨ててのんびりする気持ちってさ!」
(!!?)
周りの空気が変わった。
さっきまでピリつく程度だった空気が、とても物々しい雰囲気となり、場を包んでいる。
スタッフも冒険者も一様にコイツに敵意を向けている。
コイツの仲間の冒険者は皆一様に萎縮してしまったり、震えていたりで言葉も発せそうに無い状態だ。
だがコイツはそれに気付いているのかいないのか……すまない、言ってみただけだ。
コイツは気付いていない。
未だにイヤらしくニヤニヤ笑ってこちらを見ている。
俺が泣くか怒るかを待っている、愉悦に満ちた目をしている。
(わ、私は……そんなつもりじゃ……)
実際マグは動揺してしまった。
コイツの言葉に否定をすることが出来ず自分を責め始めてしまう。
本当なら今すぐにでも慰めるべきだろう。
それは違うと抱きしめるべきだろう。
…だから、この時の俺は冷静ではなかったのだろう。
ニヤニヤ気持ち悪く笑っているコイツと俺の間に割って入ろうと、リンゼさんや冒険者たちが動こうとする。
冒険者の中には武器に手を伸ばしている人もいる。
…面倒だ。
「…はぁぁ……とりあえず皆さん落ち着いてください」
「えっ、マ、マーガレット様?で、ですが……」
「大丈夫ですから、リンゼさん。ほら、そこの人も、武器に手をかけないでください」
俺の言葉にみんな戸惑いつつも従ってくれる。
武器に手をかける人がいた事に今更気がついた女は、慌てて周りを見て、ようやく自分がかなり危険な状況にいることを理解したようだ。
徐々に顔が青ざめていっている。
とにかくコレでゆっくり話せる。
さて…
「はい、皆さん落ち着いたところで…」
ぽんっと手を叩く。
イラつきからのイチャモンなのか本心なのかは知らないが…
「私とお話、しましょうか♬」
よくもマグを傷つけてくれたな?
こういうイチャモンつけてくる人が現実にいるんですよね。
…こういうのこそ、2次元だけの話だったら良かったのに……。




