369.前夜お泊まり会…落ち着くおまじない
ネコカフェでメンタルブレイクしてから数日。
この数日の間に練習を続けながらたまの息抜きにネコカフェで癒されたり、やっぱりネコを可愛がることが出来ないパメラちゃんとユーリさんのためにまた尊厳捨てたり、そのネコカフェが正式オープンしたりといろいろあったが、ついに魔術コンクールが明日という日にまでやってきた。
というわけで決起集会的なものとしてみんなでお泊まり会を開いた。
もちろん終わったあともやる予定です。
さてさて、相変わらずのわちゃわちゃお風呂タイムを乗り越え、ご飯も済ませてリビングに布団を敷き詰めているところで、近くのソファーに座ったディッグさんが話題を切り出した。
ディッグ「いよいよ明日だな!」
コウスケ「ですね。なんかえらく長く感じたような…でも過ぎてみればあっという間な感じです」
ケラン「そうだね。シエルちゃんは調子はどうだい?」
シエル「ひょえっ!?だだだダイジョブですヨ?」
コウスケ「ご覧の通りのド緊張です」
ケラン「あはは…まぁしょうがないね」
さっきまでは大丈夫だったのだが、布団を敷いていよいよあとは寝るだけ…となったところで急に緊張が押し寄せていたのか、返答はすれどまるで大丈夫とは思えない状態になってしまった。
ケランさんの言う通り、緊張するのはしょうがない。
俺だって緊張に弱いし。
しかしこのままだと今夜は眠れず、非常によろしくないコンディションのまま明日を迎えることになってしまう。
明日は明日で緊張するだろうから、寝不足と合わせてさらなるド緊張に襲われて心労でぶっ倒れないかめっちゃ心配。
なので今夜、どうにかぐっすり眠ってもらうべく作戦を立てる必要がある。
まずは鉄板のハグ。
まぁこれはやるとして、他にも気持ちを落ち着けられそうなものはないかな?
ちょっとマグと相談しとこう。
コウスケ(というわけで何かないかな?)
マグ(う〜ん…そうですねぇ……あまり特別なことはしなくてもいいんじゃないですか?)
コウスケ(というと?)
マグ(大会の前だから特別に〜ってやると、やる気は出るかもしれませんが逆にもっと緊張させちゃう可能性もあると思うんです。だからいつも通りに接して安心させてあげた方がいいんじゃないかなって)
コウスケ(なるほど)
確かにシエルは特別なことも好きだけど、それが余計にプレッシャーにしてしまうタイプでもあるからな。
変に意識させてしまうくらいなら、普段通りに接してあげた方が落ち着けるだろうし、明日気にかける要素を増やさずに済むか。
コウスケ(よし、採用!)
マグ(わ〜い♪)
そうと決まれば……今は様子見だな!
下手に動いたら秒で悟られそうだから。
それに俺が動かんでも他にもシエルのことを気にかけてくれる人はたくさんいるし。
ユーリ「いっぱい練習したんだし、その成果を発揮すれば大丈夫だよ!」
シエル「で、でも…本番で失敗しちゃったら……」
ショコラ「ダメだよシエル!失敗することを今から考えてちゃ!」
チェルシー「そうそう。想像するのは成功パターンだけ!心が負けてちゃ良い結果も出ないよ!」
シエル「そ、そうだけど…不安なんだもん……」
とはいえ、あまり上手くはいってなさそうだなぁ……。
まぁそりゃ、そんな簡単に不安は払拭できないわなぁ……。
ん〜…そうだ。
コウスケ「じゃあシエル、これ知ってる?手のひらに人って書いて、それを飲み込むってやつ」
シエル「あっ、し、知ってる……」
サフィール「緊張がほぐれるおまじないですね」
メイカ「懐かし〜!私も昔よくやってたわ〜」
モニカ「メイカさんも?」
メイカ「うん。冒険者になりたてのころは知らないものや怖いものが多かったからね。そういうときにこれをやって気を紛らわせてたわ。今は慣れたからやらなくなっちゃったけどね」
パメラ「そっか。冒険者は命懸けですもんね」
リオ「メイカさんがそれで落ち着けてたんなら、シエルもやってみる価値はあるんじゃないか?」
シエル「そ、そうね…!やってみる…!」
そう言うとシエルは早速自分の手のひらに「人」の字を書いて飲み込んだ。
メリー「……どう?」
シエル「なんとなく大丈夫な気がしてきたような感じがするかも……?」
チェルシー「凄い曖昧だなぁ……」
ディッグ「まぁでも、少しでも前向きになったのはいいんじゃねぇか?」
フルール「そうね。少なくともゆっくり休めるようにはなったんじゃない?」
シエル「た、たしかに……?」
マグ(普通にお話が出来るようになっただけでも良いことですね)
コウスケ(そうだね。さっきまではそれすら困難だったからね……)
テンパリ放題どもり放題で見るからに大丈夫じゃなかったからな……。
よかった、おまじないの効果があって……。
なんてホッとしたのも束の間…
ショコラ「じゃあこれで明日も大丈夫だね!」
シエル「そ、そうね…!これしてれば明日もだいじょう…ぶ……よね……?」
ショコラちゃんのひと言ですぐに不安に駆られてしまった。
モニカ「あわわ…!シエルちゃん…!人!人飲んで!」
シエル「そそそそうね…!」
パメラ「もー!ショコラ!」
ショコラ「ごめーん!」
モニカちゃんに指摘され慌てて「人」の字を書いて飲むシエルと、パメラちゃんに怒られて謝るショコラちゃん。
とりあえずこっちから落ち着かせるか。
コウスケ「いや、今のは仕方ないよ〜。誰でも言っちゃうって〜」
ショコラ「マグー!(がばちょ)」
コウスケ「ぐぇっ」
パメラ「も〜、また甘やかして〜……」
庇ったらショコラちゃんが勢いよく抱きついてきてちょっとダメージを負った。
それを見たパメラちゃんは呆れ顔で俺に文句を言うが…
コウスケ「…パメラもする?」
パメラ「…する!」
コウスケ「ぐぇっ」
誘ったら一拍だけ置いて抱きついてきた。
ははは可愛いやつらめ。
勢いだけは気をつけておくれ?
地味に痛いぞ?
で、こっちが落ち着いたところでシエルの方だが…
シエル「人…人…人……!あれ?あれぇ…?」
リオ「もう効かなくなってる!」
フルール「というよりは、誤魔化しきれないくらい不安に駆られてるって感じかしらね」
メリー「……れーせいにいってるばあいじゃない……」
なんかヤバいことになってる……。
どうやらもう簡単なおまじない程度では落ち着かなくなってしまったようだ。
う〜む…どうするか……。
と、悩んでいるとモニカちゃんがとんでもないことを言い出した。
モニカ「そうだ!じゃあマーガレットちゃんにしよ!」
コウスケ・マグ「(えっ?)」
シエル「マ、マーガレット……?」
モニカ「マーガレットちゃん書いて飲もう!」
コウスケ・マグ「(えぇ…?)」
何ゆえ私……?
シエル「そ、それだわ!」
コウスケ「(それなの!?)」
絶対もっと他にありそうな気がするけど!?
なんてツッコミを入れてる間にシエルは早速俺の名前を手のひらに書き始める。
シエル「マ・ー・ガ・レ・ッ・ト…っと……」
コウスケ「おまじないにするには長いて……」
というか全部同じところに書いたねキミね。
頑張って手のひらにキレイに収めるように書くんじゃないのね。
ともかく、シエルはその実際に書いていたら重なりすぎて何が書いてあるか分からなくなってそうな俺の名前をパクッと口に含み一気に飲み込んだ。
モニカ「どう?シエルちゃん…?」
チェルシー「落ち着いてきた?」
シエル「……」
そう尋ねる2人をよそに、シエルは黙々と口を動かし咀嚼を続ける。
……咀嚼いる?
もしかしたらエルフは空気を食べることができるのかもしれない……なんてアホなことを考えていると、ようやく咀嚼を終えたシエルがそれを飲み込んだ。
そしてひと言。
シエル「落ち着いた……!」
子どもたち『おぉぉぉ!』
コウスケ・マグ「(うっそ〜ん……)」
そんな劇的に効くことある?
パメラ「さっすがマグ!」
サフィール「頼りになりますね!」
コウスケ「えっ、あっはい、どうも」
サフィールちゃんそっち側なの?
ツッコミ側じゃなかったっけ?
そうだ、リオは?
純然たるツッコミの申し子であるリオはさすがに…
リオ「名前だけで安心感があるなんて、やっぱ凄いなマーガレットは!」
あかーん!
毒されてるー!
コウスケ(えっ?何?おかしいと思ってるのは俺だけ?まともなのは俺だけか!?)
マグ(コウスケさん。私もいますよ!)
コウスケ(マグ!)
そうだね!
さっき一緒に驚いた仲だもんね!
ともかくちょっと安心……
マグ(でもまぁコウスケさんの名前聞くだけで私も安心するので厳密にはあっち側ですけどね!)
コウスケ(マグーーー!!?)
正直予想通りではあったよマグー!
くっ……!
やはりまともなのは僕…じゃない、俺だけのようだ……!
俺はマグの名前を聞くだけで安心するほどじゃない……安心するほどじゃ……安心……。
…………。
ダメだ……俺もそっち側だった……!
マグ(コウスケさ〜ん?)
コウスケ(ハッ!?)
マグ(どうやら気づいてしまったようですね〜?)
コウスケ(マ、マグ……!まさか……!?)
マグ(えぇ……すべてお見通し、ですよ♪)
コウスケ(なん…だと……!?)
そんなバカな……!
俺はマグに聞こえるように考えた覚えはないぞ……!?
マグ(ふっふっふっ……あなたは今、私に聞こえるように考えた覚えはないと思いましたね?)
コウスケ(な、なぜそれを……!?)
マグ(言ったでしょう?お見通しだと)
な、なんで…
マグ(なんでそこまで…ですかね?)
コウスケ(ぬぅぅ…!)
マグ(ふふふ…簡単なことですよ。それは…)
コウスケ(そ、それは……?)
マグ(それは……!)
コウスケ(それは……!?)
マグ(あなたのことが、大好きだからです♡)
コウスケ(マグーーー♡♡♡)
マグ(コウスケさーーーん♡♡♡)
コウスケ(……)
マグ(……)
コウスケ(やっぱり夢の中でやるべきだったね……)
マグ(ですね……今の流れで抱きつけないの、ものすごく残念です……)
途中で気付いて悪ノリしたのはいいものの、こういうのはやはりマグと顔を合わせてやらないとイマイチ締まらないなぁ……。
幸い、シエルたちはみんなして俺の名前を手のひらに書いては飲む(ついでに咀嚼)をすることに夢中で、俺がぼーっと立ち尽くしていても気付かれることはなかったが……。
…いやなんでみんなしてやってんだ?
よく見たらメイカさんとユーリさんもやってるし……。
メイカ「マーガレットちゃん美味しい!マーガレットちゃん美味しい!」
うん、狂気。
これがいつも通りとかいう地獄よ。
ユーリ「うん…美味しいよ、マーガレット♪」
はい、エッチ。
このキツネさんはいちいちセンシティブに片足突っ込まないとお話出来なくなっちゃったのかな?
あぁこら手のひら舐めないの。
センシティブが過ぎるでしょうが…あぁほらみんな真似しだしたじゃないの……
モニカ「美味しいけど……やっぱり食べられたい…なぁ……?(チラッチラッ)」
はいダメ中止中止中止。
癖出ちゃってる子がいるので中止です〜。
あとモニカちゃんは来月まで我慢してくださ〜い。
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そんなこんなやってる間にそろそろ寝る時間になったのでメイカさんたちにおやすみを言って布団にくるまる。
今日の俺の隣はじゃんけん勝者のメリーと明日の主役であるシエル。
みんなで少しお話してから明日に備えて早めに就寝……したのだが、周りからは寝息が聞こえてくるものの、すぐ隣のシエルからは一向にそれが聞こえてこない。
というわけで、なんとなく予感がしてた俺は他の子がみんな眠るまでマグとお話をして時間を潰し、頃合いを見計らってシエルにひっそりと話しかけた。
コウスケ「シエル…起きてる……?」
シエル「!…マーガレットも寝れないの…?」
コウスケ「まぁ、さすがにちょっとね……」
シエル「そっか……」
本当はシエルが心配で起きてたのだがもちろん言わない。
それにウソをついたわけでもないしな。
まぁそれはともかく…
コウスケ「いよいよ明日だねぇ」
シエル「そうね……」
コウスケ「いっぱい練習したもんねぇ」
シエル「そうね……」
コウスケ「今思うとさ」
シエル「うん……」
コウスケ「なんで私踊りの練習に参加してたんだろうねぇ?」
と、俺のこの言葉で場の空気が変わった。
シエル「……そうね?マーガレット踊る予定無いわよね?」
コウスケ「無いっす」
シエル「絶対その分練習に回したほうが良くなかった?」
コウスケ「グゥの音も出ねぇっす」
シエル「……呆れた。私のことより自分の心配したほうがいいんじゃないの?」
コウスケ「なんも言えねぇっす」
シエル「……ふふっ♪まったくもう♪」
俺のまさかの失態に呆れるシエルだったが、何故か最後は少し嬉しそうに笑った。
なんだろう、俺に勝てそうだから余裕が出来たとか?
まぁ違うか。
シエル「…ね、マーガレット」
コウスケ「うん?」
シエル「あの時みたいにギュッてして?」
コウスケ「…うん、いいよ」
あの時ってどの時だろう?と思ったのは一瞬だけですぐに思い当たった。
シエルの誕生日の時にも、ギュッと抱きしめて眠ってたっけ。
あの時は俺じゃなくてマグがやってあげてたけど、今度は俺の番ってわけだ。
……割と毎日甘やかしてるから今さらな気はするけど……ま、まぁ…シエルが他の子の目を気にすることなく甘えられる数少ない時間だからな。
気にしない気にしない。
ともかく、俺はシエルの要望通り彼女を優しく抱きしめてあげた。
シエル「ふふっ…やっぱりあったかい…♪」
シエルはそう言うと顔をこちらの胸にすりすりと擦らせる。
そして少し置いてから穏やかな寝息を立て始めた。
マグ(寝ましたね)
コウスケ(うん。俺たちもそろそろ寝よっか)
マグ(は〜い)
そう話しながら、俺はシエルの頭を軽く撫でつつゆっくりと瞼を閉じた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
マグ「じゃあコウスケさん。さっきのリベンジしましょ!ほら、ギューって!ギューーーっ!」
コウスケ「台無し〜」
こういうのはしっかり覚えてる系女子のマーガレットさんでした。




