366.ダンス特訓…の前段階で……
というわけで、翌日から早速ユーリさんによるダンスレッスンが始まった。
…らしい。
だって俺仕事だし。
なのでその経過報告はいつも通りお昼に集まったときに初めて聞かされた。
今回はユーリさんもお休みだったから&シエルの師匠としてお昼ご飯に同行していたので詳しく知ることができた。
メイカさんが来ないとは珍しい…と思っていたら、どうやら別の用があって家にいなかったようだ。
後で聞かせたら絶対ズルいって羨ましがるよ〜、とほんの少し苦笑いを浮かべながら
言ったユーリさんに、同じような苦労を知る身として同情が禁じえないが、残念ながらあの人はどうすることもできないのでせめて楽しい昼休みにしようと、マグと一緒に心に決めた。
まっ、そんなことしなくてもいつも楽しく食べてるんじゃがな。
だから毎日のようにメイカさんに羨ましがられるわけなんだが……。
ともかく今はシエルの午前練習の結果だ。
まずは今まで通り魔法の練習をしてからダンスに入る、とあらかじめ聞いていたので、おそらくはまだそこまで取り組めてはいないだろう。
という俺の予想は当たっていたのだが……
シエル「うぅ……つかれた……」
サフィール「お疲れ様ですシエルさん」
ショコラ「大丈夫〜?(つんつん)」
シエル「なんとかね……だからほっぺつつくのやめなさい……」
ショコラ「ぷにぷに」
シエル「も〜……」
シエルさん、ことの他お疲れのご様子。
リオ「朝から結構頑張った感じがするな」
チェルシー「だねぇ。ユーリさん。どんなトレーニングしたんですか?」
ユーリ「……準備運動……」
リオ・チェルシー「「えっ」」
ユーリ「まだ準備運動しかしてないの……」
チェルシーの質問に対してユーリさんが目を逸らしながら教えてくれた答えにリオとチェルシーが驚き、そしてシエルの方を見る。
見られたシエルもユーリさんと同じように目を逸らした。
そしてショコラちゃんはほっぺつんつんをほっぺむにむにに変えていた。
リオ「シエル…お前……」
チェルシー「さすがに体力無さすぎるんじゃないシエルちゃん……?」
なんとも不甲斐ない答えに2人が「お前マジか……」という視線をシエルに向ける。
とはいえシエルにも言い分はあるようで。
シエル「い、いや…言い訳させて……!」
リオ「というと?」
シエル「ユーリさんの準備運動が思った以上にハードだったの……!」
チェルシー「あ〜…まぁ確かにハードそうかも……」
チェルシーが共感。
リオも思い当たるところがあるようでちょっと納得しているところに、ユーリさんがしれっと爆弾を投下。
ユーリ「う〜ん……あれでも軽いつもりなんだけどなぁ」
メリー「……あれがかるいことはないとおもう……」
ユーリ「えーっ!?」
が、メリーによって一瞬で処理された。
ナイスメリー。
その隙にサフィールちゃんが準備運動の内容を尋ねた。
サフィール「えっと……その準備運動とはいったいどういった内容なのですか……?」
ユーリ「ん?えっとねぇ…まず柔軟を念入りにやって…」
モニカ「ふむふむ」
コウスケ「柔軟は大事」
マグ(うんうん)
実際に毎日体を動かすようになって分かる柔軟の必要性よな。
ユーリ「そのあとに体力とか筋肉とか付けるためのトレーニングをしただけだよ?」
ショコラ「えっ、それだけ?」
パメラ「それだったらなんとかなりそうな気がするけど……」
コウスケ「いや、体力作りを甘く見てはいけない……」
ショコラ・パメラ「「えっ?」」
ショコラちゃんとパメラちゃんの反応に待ったをかける俺。
ルーク少年との試合が決まりディッグさんに鍛えてもらった際に体力作りと称して目一杯運動した身としては、2人の「大したことないんじゃない?」的反応を通すわけにはいかないのだ。
そしてゆるふわな見た目と言動で忘れがちだが、ユーリさんは遥か遠くの故郷から数ヶ月かけて徒歩でこの迷宮都市まで来たことがあり、さらに迷宮内で数日寝ずに潜り続けた実績のある恐るべきキツネガール……。
はっきり言って、ディッグさんよりもストイックな体力作りをしていてもおかしくないのだ。
そんなものをもやしエルフのシエルが耐えられるわけがない。
なんならその前段階である柔軟から怪しい。
と思ったので口を挟みました。
で、実際はどんなものだったんだろう?
コウスケ「とりあえずまずは…柔軟って何をやってたんですか?」
ユーリ「うんとねぇ……最初に肩を回して〜……」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ユーリ「…って感じかな」
コウスケ「なるほど〜」
十数分かけて教えてくれたユーリさんに、俺は相槌を打ってからこう告げた。
コウスケ「そらハードですわ」
子どもたち『うんうん』
ユーリ「えぇっ!?」
マグ(想像の数倍ハードでしたね……)
うん、まず説明だけで十分以上かかるって何?
ひとつひとつそんな詳しく説明してもらってないし、説明なしでも大体分かるやつばかりだったのに、いかんせん種類が多すぎるんよ。
柔軟って割と体力使うんやで?
大事なこととはいえそれを長々とやってたらそら疲れるわ。
でもその次にあれでしょ?
コウスケ「え〜っと……それじゃあその次の体力作りやら筋トレやらを教えてください」
ユーリ「う、うん。まずは腕立て伏せを100回」
コウスケ「あっ、もういいです」
ユーリ「えっ」
100回とか体力を作らなきゃって言い始めたばかりの子にやらせる回数じゃないと思う反面、ユーリさんのフィジカルを考えると確かに手加減してくれてはいたんだなと感じた。
でも何事もそうだけど、十人十色、人それぞれなわけなので……。
体育とか持久走とかで「キツいのはみんな一緒!」とかたわけたことを言うやつに、「体育会系と文化系が同じキツさなわけねぇだろ常考……!」という言葉を毎回飲み込んでた俺とかには「ふざけんな」案件なので……。
まぁユーリさんに対してそんなことは心の中でも言わないけども。
コウスケ「というかシエルはそれをやり切ったの?凄くない?」
シエル「え、え〜っと……」
メリー「……うでたてふせのとちゅうで、ちからつきた……」
コウスケ「oh……」
マグ(まぁ仕方ないといいますか…むしろそこまでよくがんばったといいますか……)
そやな……確かにシエルの体力的に、柔軟で力尽きててもおかしくなかったわけだし、そう考えるとかなり頑張ったほうか……。
コウスケ「おつかれシエル……美味しいもので元気チャージしようね……」
シエル「うん…ありがとう……」
…これ午後頑張れるかな……?
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
その日の仕事終わり。
俺とリオが家に帰ると…
シエル「すぅ……すぅ……」
ユーリ「あっ、おかえり。しーっ…だよ?」
シエルがユーリさんの膝枕で眠りについていた。
コウスケ「シエルさんは頑張ったようですな」
リオ「そうらしいですな」
メリー「……うん、シエルさんがんばった」
ど疲れシエルさんはそっとしておいて、ひとまず手を洗いに行く俺たち。
戻ってきたがまだシエルは夢の中のようだ。
どんな夢を見ているのかは分からないが、多分幸せな夢だろう。
そういう寝顔だ。
俺はシエルを起こさないように極力小さな声でユーリさんに話しかける。
コウスケ「おふたりはお風呂は入らなかったんですか?」
ユーリ「うん。汗はかいてたけど、やっぱりみんなと入りたいからって」
メイカ「さすがにシャワーだけは浴びたみたいだけどね〜」
コウスケ「あっ、メイカさん」
メイカ「ふたりともおかえり♪」
コウスケ「えぇ、ただいま」
リオ「はい、ただいまです」
部屋に入ってきたメイカさんとご挨拶。
どうやら先に帰ってきていたようで、かなりラフな格好をしていた。
メイカ「それはさておき、今日はユーリちゃんと一緒にお昼ご飯食べたんですってね?」
コウスケ「あっはい」
メイカ「なんで呼んでくれなかったのよー!?(小声)」
器用な叫び方を……。
コウスケ「だってメイカさんそのとき出かけてたんでしょう?」
メイカ「探してくれればよかったでしょー!(小声)」
コウスケ「無茶おっしゃる」
マグ(じゃあどこに行くか教えてあげればよかったのに)
コウスケ(それでも多分、それだけじゃあ呼んでくれなかっただろうけどね)
出かけてる人をわざわざ呼びに行こうとはそうそう考えないて。
ユーリ「も〜……メイカさん。それはまた明日とかにでも一緒に行きましょうってことで決まったじゃないですか〜……」
メイカ「それはそれ、これはこれよ!(小声)」
あぁ…もうユーリさんには絡んでたのね……。
メイカ「フルールもいつも置いてかれて寂しいでしょ?」
フルール「いえ、別に」
メイカ「そんなっ……!?」
あっ、フルールさん。
いつの間に。
フルール「というか私、その都度断ってるだけでいつもメリーに誘われてるもの」
メイカ「なんですって……!?ど、どうして行かないの……!?自由に使えるお金も渡してるのに……もったいない……!」
メイカ「それはメリーがありがたく使ってるわ。もちろん私も、たまにお買い物で使わせてもらってるわよ」
メイカ「それじゃあなんで行かないの?」
フルール「期限が近そうなものを消費するのに都合がいいからよ。それに自分1人のご飯だけなら考えなくていいから楽なのよ」
メイカ「おーん……」
フルール「どういう感想よ?」
毎回呼んでたのか。知らんかったな。
俺なら大体2、3回呼んでダメなら諦めちゃうけど…なかなか根気強いというかなんというか。
シエル「ん……んぅ……?」
おっと。
そんなこんな話していたらシエルが目覚めてしまった。
シエル「あぇ……?まーがれっと……?」
コウスケ「おはよ、シエル。もうお風呂の時間やで」
シエル「んぇ……?…………え?」
コウスケ・マグ((あっ、完全に起きた))
シエル「うぇぇ!?も、もうそんな時間!?ユ、ユーリさん!少し休んだら再開しようって言ってたじゃないですか!起こしてくれなかったんですか!?」
ユーリ「あはは…ごめんね〜?シエルちゃんすぐにぐっすり眠っちゃって…それがあまりにも気持ちよさそうだったから起こすのは悪いな〜って思っちゃってついね〜……」
あ〜…その気持ちはよく分かる。
気持ちよさそうに寝てると起こすの躊躇うよね〜。
フルール「なんならユーリも寝てたからね」
シエル・メイカ「「えっ!」」
ユーリ「あ、あはは……お昼ご飯食べた後だったからついね…つい……」
ユーリさんも寝てたんかい。
そりゃ起こさないわ。
…いやちょい待ち?
お昼ご飯食べた後って言った?
メイカ「そんな……!?ユーリちゃんの寝顔を見る貴重な機会だったのに……!」
ユーリ「メイカさんはぐいぐい来すぎなんですよぅ……別に私もほんとは見られて気にするタイプというわけではないんですよ?」
マグ(現に私たちは一時期毎日のようにユーリさんの寝顔を見てましたしね)
コウスケ(んね。まぁ基本的に寝たふりだったけど)
マグ(ユーリさん、ちょっとの音でもすぐに目覚めちゃいますからね)
コウスケ(それでちゃんと休めてるのか心配になるほどにね)
感覚が敏感すぎるのも考えものだよなぁ〜と、それは置いといて。
コウスケ「あの…お昼ご飯食べた後って、もしかして帰ってすぐに寝ちゃったとかいうわけじゃ……?」
シエル「そ、そんなわけないじゃない!ねぇ?」
ユーリ「そうそう!シエルちゃんちゃんと頑張ってたよ!」
……反応から察するに、帰ってすぐではないけどちょっと動いて休憩挟んだ時にうっかり寝落ちした…って感じかな。
まぁ、昼の段階で疲労困憊だったわけだし、まだ初日だし、そう問い詰めることもないか。
コウスケ「ん〜、まぁそれならいいですけどね。と、じゃあそろそろお風呂入りましょ?外はもうほぼ夏って感じであっつあつだったので汗かいちゃって……」
フルール「そうね。風邪引く前にサッパリした方がいいわね。ほら、ふたりも起きたなら早く入っちゃいましょ」
シエル「は、は〜い!」
ユーリ「それじゃあ着替え持ってこないとだ」
シエル「あっ、私も行きます」
ユーリ「うん、一緒にいこっ♪」
そう言ってリビングから出ていくふたりを見送り、階段を上る音が聞こえなくなったところでリオがフルールさんに尋ねた。
リオ「で、実際どうだったんですか?」
フルール「帰ってきて早速練習に戻ったけど、食べたばかりだしそんなに動かない方がいいかもってなって休憩を挟んだらそのまま、ね。その後は今の今までずっとあの体勢よ」
リオ「……よっぽど疲れてたんだな……」
メイカ「シエルちゃん、あんまり運動得意そうではないものねぇ……」
わーお…ドンピシャ。
分かりやすい方々ですわほんと。
と、そうだ。
コウスケ「私たちも着替え取ってこないと」
リオ「おっと、そうだったな。行こうぜ」
コウスケ「うん」
リオもシエルも最初は別の部屋に荷物だけでも置いてたんだけど、最近だともう俺の部屋に荷物持ってきてるからな。
先に行ったシエルに合流する形になるだろう。
……なんで置いていかれたんだろうとは思うが、まぁさっきのが予想通りだったってのが答えだろうな。
まぁ今日は突っ込まんぞ俺は。
さっきそう決めたからな。
一応リオにも共有しとこう。
初日だしシエルも頑張ってるから深掘りはやめとこうな?
なんて話しながら上に登ったところで、ちょうどユーリさんが自分の部屋から出てきた。
ユーリ「あれ?ふたりも来たの?」
リオ「それはまぁ着替えが必要なので」
コウスケ「のでので」
ユーリ「あっ、そっか。そりゃそうだね」
コウスケ「んも〜、うっかりさんなんですから〜☆」
ユーリ「あは〜☆ごめんごめん♪」
よし。
上手いこと乗り越えたな。
パーフェクト・コミュニケーション。
あっ、そういえば。
コウスケ「そういえばユーリさんはなんでシエルを膝枕してたんですか?」
ユーリ「あぁ、あれわね?マーガレットやメリーに喜んでもらえたわけだし、シエルちゃんにもどうかな〜?って思って私が提案したんだよ〜。最初はちょっと恥ずかしがってたけど、してあげたらシエルちゃん、「わぁ…すごい……すごい……」って、ずっと言ってくれてたんだよ〜♪」
コウスケ「なるほど〜。確かに凄いですからねぇ、ユーリさんのは」
リオ「そうですね。凄いですもんね、ユーリさんの」
ユーリ「えへへ♪そんなに言われると照れちゃうよ〜♪」
うん、凄い……凄いですからね……うん……。
……膝枕の話だよ?だよ?
シエル「よいしょー…っと、あれ?マーガレットとリオも来たの?」
ユーリさんのそれについ目線が行っていたところでシエルも出てきて、さっきユーリさんにも言われたことをまた言われた。
コウスケ「うん、私たちも着替えがいるからね」
シエル「あっ、そっか。そりゃそうよね」
コウスケ「そこまでそっくり言われるとは……」
シエル「え?」
コウスケ「いや、なんでもない。ごめんだけど、ちょっと待っててくれる?」
シエル「うん、いいわよ」
コウスケ「サンクスマイフレンド。よし、リオ。急ごっ」
リオ「おう」
気を取り直した俺たちはふたりに待ってもらって自分たちの分の着替えを取りに部屋に入る。
リオ「なぁ、ちょっと失礼なこと言うんだけどさ」
コウスケ「うん?」
リオ「……シエルもはっちゃけてる時のお前みたいになりそうでちょっと…アレかなって思っちまった……」
コウスケ「あぁ…うん……いいよ……」
俺も思ったから……。
マグ(シエル……もう少し…といったところですかね?)
コウスケ(やめて?引き摺り込もうとしないで?)
俺そんな友人の姿見たくないからね?
マジで頑張ってねシエル?




