363.お風呂相談会…エルフ娘とコンクール編
無事に落ち着いた(落ち着かされた)俺と子どもたちは、そのあとアリシアさんと他のお客さんたちにキチンと謝罪し、食事を済ませて店を出た。
そうしてひとまず真面目に働きながら、さっきのシエルの悩みのことを考えた。
マグ(う~ん……練習の効率が悪くなってるってことですかねぇ……?)
コウスケ(だろうねぇ。それだけシエルが上達したってことでもあるんだけどね)
マグ(それは良いことですけど、シエルはまだ満足してませんもんね)
コウスケ(うん。だからああして相談してくれたわけだしね)
そのこと自体は喜ばしいことなんだけど、問題は俺たちにそれを解決できる案が特にないってことだ。
今のところリオの説得力のある言葉でとりあえずの納得はしてくれているが、魔術ギルドへの帰還がかかっているのもあって、おそらくこのまま上達が見込めなければシエルは無茶な練習に手を出すだろう。
その結果がどうなるかまでは分からないが、そもそも危険なことをしないでほしい身としてはやはり事前に食い止めたい。
そうなるとシエルに練習の成果を実感できるようにさせてあげたいが……。
ふ~む……。
仕事の片手間でそのことをずっと考えていたものの、残念ながら答えは出ずに今日の業務は終わりになった。
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ディッグさんたちと合流するために冒険者ギルドに戻ってきた俺たち。
早速見知った顔を見つけたショコラちゃんが声を上げた。
ショコラ「あっ!ユーリさんみっけ!」
モニカ「誰かとお話してるね」
モニカちゃんの言う通り、ユーリさんは見知らぬお姉さんと楽しそうにお話していた。
が、さきほどのショコラちゃんの声でこちらに気付いた。
ユーリ「あっ、みんなおかえり~!」
お姉さん「ん?あぁ、あの子たちが言ってた子たち?」
ユーリ「うん。そうだよ」
お姉さん「確かに可愛い子たちね~♪そしてあの子が噂に聞く……なるほど。あの子を中心にグループが出来てるのね。周りの子たちに頼りにされてるのが見て分かるわ」
ユーリ「ふふっ♪そうでしょ~♪」
お姉さん「まぁさっきまでの口ぶりからして、ユーリもあの子にお世話になってるのが分かるけどね」
ユーリ「……ソンナコトナイヨー?」
お姉さん「ほんと素直よねあなた……まぁいいわ。私もそろそろ行くわね」
ユーリ「あっうん。久しぶりに話せて楽しかったよ」
お姉さん「私もよ。じゃあまたね♪」
ユーリ「またね~♪」
そう話すとお姉さんは俺たちと入れ替わるように冒険者ギルドを出ようとする。
その途中、ちょうどすれ違うところでお姉さんが笑顔で手を振ってきたので、俺たちもお返しに手を振り返した。
そうしてる間にお姉さんが人ごみに紛れて見えなくなったところで、俺たちは改めてユーリさんに近づいた。
コウスケ「ただいまで~す」
ショコラ「ユーリさんただいま~!」
ユーリ「おかえりみんな~」
パメラ「ユーリさん、さっきのキレイなお姉さんは誰ですか?」
シエル「なんだかすごく仲良さそうでしたね」
ユーリ「うん。アイリーンっていう名前でね?踊りのお仕事で会った子なの」
子どもたち『へぇ~!』
メイカ「あの子のダンスも見て見たかったんだけどね~」
ディッグ「あの嬢ちゃんならここで踊っても普通に盛り上がるだろうがなぁ」
ケラン「さすがにギルドの中ではいろんな人の邪魔になってしまいますからねぇ」
コウスケ・マグ「(あっ、ディッグさん。ケランさん。メイカさん)」
ディッグ「よっ」
メイカ「おかえり~、マーガレットちゃん♪」
ケラン「今日もお疲れ様」
ユーリさんと話していると、メイカさんたちが俺たちのもとにやってきた。
どうやらユーリさんとアイリーンさんの話の邪魔をしないように離れて見守っていたらしい。
子どもたちもメイカさんたちとあいさつを交わし終えたのを確認してから、俺たちはララさんのところに行って今日の仕事分である書類を渡して戻り、みんなとおしゃべりしながらそれぞれの帰路についた。
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帰宅後、いつものように女性陣でお風呂に入っているとき、これまたいつもと同じようにお悩み相談会が開かれた。
議題はもちろんシエルの話。
メイカ「そう……上達が肌で感じられないのは確かに苦しいわねぇ……」
フルール「それでここ最近元気が無かったのね」
シエル「ごめんなさい……」
フルール「謝るようなことじゃないわ」
メイカ「そうそう。むしろすぐに相談に乗ってあげれなくてごめんなさいね?」
シエル「い、いえ!そんなことないですよ!」
メイカ「ならおあいこね♪」
上手いこと謝罪合戦を回避したメイカさんに代わって、ユーリさんがシエルに尋ねた。
ユーリ「それで、シエルちゃんは今どんな風に練習してるの?」
シエル「えっと…初めに基礎のおさらいをして、そのあと昨日までのおさらいもやって、そのあとに魔術コンクールでお披露目する魔法をメリーと考えてます」
メイカ「おさらいもキチンとこなすなんて偉いわね~」
ユーリ「ですね。ちゃんとおさらいしとかないと忘れちゃったりしますからね」
フルール「基礎を固めるのは賢いやり方よね」
シエル「あ、ありがとうございます……///」
お姉さん方の高評価に照れながらお礼を言うシエル。
しかしそこでメリーが言う。
メリー「……でもいいのがまだできない」
シエル「そう…なのよねぇ……なかなかこれっていうものが思いつかなくって……」
メイカ「新しく作ろうとしてるってこと?」
シエル「はい……」
メイカ「確かにそれは難しいわね~……」
フルール「メイカたちは何かオリジナルの魔法とか持ってないの?」
メイカ「う~ん……正直私たちの魔法は基本の応用みたいなものばかりなのよねぇ……」
ユーリ「同じ魔法でもその場その場で使い方が違うから……私の炎も、明かりの代わりにしたり、たいまつに火を付けたりみたいなのから、相手に攻撃するためだったり逃げ道を塞いだり…逆に追ってこられないように岩や木を崩すために使ったりって感じでいろいろ使うし……」
シエル「ふえ~……すごいですね……」
リオ「冒険者ならではって感じだな」
コウスケ・マグ・メリー「(「うん」)」
マグ(同じ炎でもそんなに使い方があるんですねぇ)
コウスケ(何事も使いようだねぇ)
ん?
ちょっと待てよ?
コウスケ「あれ?もしかしてひとつの魔法で完結しちゃってます?私たちみたいに新しい魔法~とかしない感じですか?」
メイカ「そうね。だから応用ばっかり、なのよ~」
ユーリ「この魔法で出来ることを増やそう!というよりは、この魔法でこれが出来れば便利だよねって感じ?ちょっと分かりづらい?」
リオ「いえ。そもそもの考え方がオレたちと違うってことですね」
コウスケ「魅せる魔法と使える魔法はやっぱり別物ってことかぁ」
そうだなぁ……。
俺が今練習してるネコ魔法も、形作れるからってそれが何の役に立つんだと言われたら…可愛いじゃんとしか返せないかなぁ……。
それに比べて普通のサンダーは撃って良し纏わせて良し。
威力の調整で肩こり改善から暴徒鎮圧(生死選択可)まで対応できるという万能性。
あっ、そうか。
素材と完成品みたいなものか。
素材はそのままでも加工するなどでもいろんな用途に使えるが、完成したものはそこから先の発展性があまりない…みたいな?
ん~……いや、それよりも目指すところが違う、の方が正しいか。
見栄えと便利さ……うん。俺さっき言ったやつだなこれ。
自然と口に出してた答えに一周してまた辿り着いてしまった。
フルール「そういえば、そもそもどういう魔法で出たいとかはあるの?その感じだと派手さか目新しさを求めてる感じだけど」
シエル「う〜ん……とにかくゼラオラに勝てるやつって考えて、それならみんなが驚くようなもののほうが分かりやすいかな〜って考えてはいるんですけど……具体的なことはまだ……」
メイカ「なるほどねぇ」
ユーリ「みんなが驚くような魔法かぁ……」
う〜ん……とみんなで頭をひねり始める。
しかし、そんなポンと画期的なアイデアが思いつくものではないため、ユーリさんが確認がてら俺に尋ねてきた。
ユーリ「マーガレットはネコ魔法で決まりなんだっけ?」
コウスケ「そうですね。でも私のも1匹2匹程度じゃ遠目から見れば地味ーなもんですから、そこら辺を工夫した方がいいかな〜と考えているところではあります」
ユーリ「そっか〜……」
メイカ「絶世の美少女がネコと戯れる最高の絵が地味だとは思えないけど……」
フルール「残念ながら、それだけなら魔法じゃなくてもいいのよね」
リオ「ネコはその辺にいますもんね……最近は見なくなりましたが」
マグ(ネコカフェのために集めてるからですね)
コウスケ(うん。野良ネコによる被害が無くなった反面、ちょっと寂しく思ってる人が一定数いるらしいけどね)
マグ(迷惑だと思ってても、いざいなくなると〜ってやつですね)
コウスケ(だね)
まぁもちろん、いなくなって清々したか、元々気にしてなかった人も一定数いるんだけどね。
ともかく、そんな事情をまだ知らないメイカさんたちは、いなくなったネコたちを案じてある。
メイカ「そういえばめっきり見なくなったわねぇ」
フルール「そんなそこら辺にいたの?」
ユーリ「そうですねぇ。ちょっと路地を曲がると結構見かけましたね。たまに表の通りに出てきてる子もいました」
フルール「へぇ〜」
ユーリ「あっそういえば、野良ネコが姿を消しているのは誰かがネコたちを集めているから…なんて噂が流れているそうですよ?」
メイカ「そうなの?初めて聞いたわ」
ユーリ「私も最近聞き齧ったことなので詳しくは知らないんですけどね」
へぇ〜、そんな噂が流れてるんだ。
商業ギルドの人が〜、とかじゃない辺り、動き方が上手いのか、そもそもハルキや隠密ギルド辺りに協力してもらっているのか分からないけど、少なくともミュイファさんはまだ秘密にしているみたいだな。
そう考えながら視線を感じ子どもたちを見ると、3人が揃って俺の方を見て様子を窺っていた。
俺がそれに人差し指を口の前で立て、言っちゃダメ、とジェスチャーをすると、3人ともこくりと静かに頷いた。
お姉さん方はどうやら話に夢中でこちらの動きには気づいていない様子。
まぁどうせ聞かれても口止めされてるからと言えば大丈夫だと思うので別に聞かれても構いはしないのだが。
しかし気づかれなかった以上、そのあやふやな噂だけでミュイファさんたちのところにたどり着くとは思えないので、ここは早いとこ話を戻してシエルの魔法を一緒に考えてあげるべき…
フルール「なんだか不思議ね。そんな短期間で姿を消すものかしら?」
メイカ「駆除されたってわけじゃなさそうなのよね?」
ユーリ「はい。それならもう少し痕跡が残るよねって話してたので……」
なのだが、大人組はやはり気になるようで話を続けていた。
フルール「あまり事件性があるような噂の立ち方では無さそうね?」
ユーリ「そうですね。あまり重大視されてる感じではないですね」
メイカ「痕跡もなく多くのネコが姿を消す……でも事件性はあまりなさそう……」
フルール「そうなると集められているって噂は確かに信憑性が高そうね……で、そんな大勢のネコを集められるような場所は限られる……」
ユーリ「……ギルド?」
メイカ「迷宮かも」
フルール「どっちもあり得るわね。そして私たちはどちらにも顔が広い人を知っている」
と、そこで3人が揃ってこちらを向く。
なんか風向き変わったな?
フルール「というわけでマーガレット。知ってることを教えなさい?」
メイカ「マーガレットちゃん♪ネコちゃんはどこにいるのかしら?」
ユーリ「話さないと大変だよ〜?マーガレット♪」
コウスケ「なんでそんな満場一致でこっちに来るんですか?」
正解だけどさコンチクショウ。
コウスケ「…まぁ…知ってはいますけど、私も口止めされてるんで話せませんよ。とりあえず言えるのは心配するようなことはしてないってことですかね」
フルール「ふぅん?まぁそれならいいのだけど」
メイカ「というかやっぱり知ってるのねマーガレットちゃん……」
ユーリ「もうこの街の大体のことマーガレットに聞けば教えてくれるんじゃないかな?」
コウスケ「そんななんでも知ってるみたいに……」
なんでもは知らないよ?
知ってることだけ。
コウスケ「それよりもシエルの魔法のことですよ。本人は真剣に悩んでるんですから、ネコに負けないでください」
メイカ「あっ、そ、そうね」
フルール「事件の可能性もあったからついね……」
ユーリ「シエルちゃんごめんねぇ…?」
シエル「いえいえ。気持ちはわかりますから」
メリー「……ネコちゃん、きになる」
リオ「まぁ何も知らないと不安になりますよね」
うむ。
その気持ちは俺もよく分かるので目を瞑ろう。
さて。
コウスケ「じゃあ話を戻しますけども、私はまぁ…まだ形が決まってる分いいんですよ。でもシエルはその形すらあやふやな状態なので……」
メイカ「そこを決めないとこれ以上の効果的な練習も難しいってわけね」
コウスケ「ですです」
とにもかくにも目的が決まらなければゴールのしようが無いのだ。
やはりまずはそこから決めなければ。
ユーリ「う〜ん……それなら、何かを参考にして、それを自分流に作り変えてみるとかはどう?オリジナリティはあんまりないけど、完成もイメージしやすいしさ」
シエル「なるほど……」
フルール「あとは自分が憧れている魔法に挑戦してみるとかね。いろんな本を読んできたのでしょう?それなら何か心を動かされたものがあるんじゃない?」
シエル「あっ、それもいいですねぇ……う〜ん……」
今まで見たことのある魔法や、読んできた本の内容を思い返しているのか、シエルは唸りながら考えを巡らせている。
シエル「あっ」
やがて、何かにたどり着いたかのように声を出したシエルに、リオが興味津々に尋ねた。
リオ「おっ?何か思い浮かんだのか?」
シエル「え、えぇ…でも……」
メイカ「まぁまぁ。とりあえず言ってみて?言うだけならタダだから♪」
シエル「は、はい。それじゃあ…えっと……」
みんなの視線が集まる中、シエルは自分がたどり着いた答えを俺たちに言った。
シエル「アタシ…空、飛びたいです…!」




