36.彼女たちの今後の会議…密談付き
俺がうまい事を言おうとして大爆死したものの、マグもフルールさんもどうやら落ち着いたようで、その後は特に何事もなく買い物を済んだ。
「またねぇ〜♡マーガレットちゃん、フルールちゃん、メリーちゃん。そしてハ・ル・キ・ちゅわ〜ん♡」
「あ、はい。ありがとうございました」
「ローズさん!ありがとうございました!また来ますね!」
ハルキよ。
その死んだ目をやめなさい。
あなた商人でしょ?
ポーカーフェイスだ、ポーカーフェイス。
「……まぁ…世話になったわ……」
「…………(フリフリ)」
あの後フルールさんの中で何か変化があったらしく、ローズさんやハルキと拙いながらも会話をしながら服を選んでいた。
そして今、ローズさんに小さいながらもお礼を言った。
良い変化があってよかった。
俺の爆死も無駄じゃないと思える。
メリーちゃんもローズさんのことが気に入ったのか、可愛く手を振って返事をしていた。
ちなみにメリーちゃんは最初に気に入ったゴスロリ服に日傘を持った姿だ。
もうホントにかわいい。
そしてフルールさんも黒いカジュアルなドレスを着て、メリーちゃんの持っているものと同じタイプで少し大きい日傘を差している。
すごく綺麗。すんごく綺麗。
ローズさんは俺とハルキにも服を見繕おうとしてくれたが、ハルキは身の危険を感じたのか本気で断り、俺は惜しいと思いつつも「私…悩むと長いので……」と言って泣く泣く断った。
マグのいろんな姿…見たかった……。
今すごく泣きそうだ。
兎にも角にも、無事に目的を終えた俺たちはダニエルさんが待つギルドへ向かうのだった。
…会計で十何万とか聞こえた気がしたけど、ハルキは本当に大丈夫なんだろうか……?
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
街とギルド内で美女親子に注がれる羨望、好機、下心の視線を流しつつ俺たちはギルドマスター…ダインさんとダニエルさんがいるであろう応接室の前まで来た。
なお、そんな首輪の付いた美女親子奴隷を連れて歩いたハルキに対しては、嫉妬、妬み嫉み、下心の視線が向けられていた。
ハルキそういうのにモテるのかな……?
俺は気苦労が多いなと、彼に少し同情した。
あとララさん、リンゼさん、チェルシーに「また?」という顔をされていた。
軽く説明を済ますと納得してくれたが、ララさんにお金のことで後でお話があると呼び出されていた。
俺はお疲れ様の意を込め、彼の腰をポンポンした。
そんなこんなで来た応接室。
一応お客様なハルキの代わりに俺がドアを開ける。
「危ねえっ!」
「えっ?」
なんか目の前から球体が迫ってきたが、中にいたダニエルさんがすんでのところで止めてくれた。
あのままだったら顔面直撃コースだった。
心臓がバクバクしてきた。
「ダ、ダニエルさん…」
「礼はいらないぜ、お嬢」
「いや、そういうわけにも……」
「本当に言わなくて良いと思うよマーガレット。それ投げたのどうせその人だから」
「え?」
「〜〜♫」
口笛を吹き出すダニエルさん。
そして今更ながら部屋を見渡す。
ここにダニエルさんがいて、部屋の奥でダインさんが頭を押さえている。
「……」
俺はダニエルさんを胡乱な眼差しで見つめる。
「♪〜♫〜」
口笛がノってきたダニエルさん。
…これ多分ハルキ狙ったな。
ちょうどハルキの腹の辺りに当たる高さだもんな。
「はぁ…ダニエルさん、危なかったですね。この子のファン結構いるので、ぶつけてたらその人たちを敵に回しますよ?」
昨日の今日でファンいんの?
さすがに早くない?
多分メイカさんのこと言ってるでしょ?
「お前がドア開けないのが悪いんだろが」
「あー…一応私ここの従業員なので、お客扱いのハルキさんに扉を開けさせるのはアレかなって思ったので……」
「おい、ハルキ。お嬢に気ぃ使わせてんじゃねぇよ」
「そもそも投げなきゃ良いじゃないですか」
「お前らその辺でやめとけ…悪いな嬢ちゃんたち、とりあえずこっちに座ってくれ……」
「…お疲れ様です、ギルドマスター」
「ホントにな…ありがとよ嬢ちゃん……」
今度ギルドマスターの肩でも揉もうかな……。
さてさて、そんなこんなで全員席に座り、俺はお茶汲みをし、ダニエルさんは「途中からしか知らないからハルキに聞け」と言ったらしく、現在ハルキが説明をしている。
ちなみに席順は、奥の机にダインさん。
手前のソファに奥から、ハルキ、メリーちゃん、フルールさんが、ハルキの対面にダニエルさんが座っている。
俺は先ほど言った通りお茶汲みだ。
紅茶っぽい茶葉を直感で入れ、備え付けのポット型の魔道具からお湯を入れる。
ふぅ〜…ふぅ〜……あっづぁっ!!
ふぅ、ふぅ…まだ熱かったか……。
しかも薄いな……。もうちょい入れても大丈夫なのか。
「あー…嬢ちゃん、あのな?そこの冷蔵庫にある水とかジュースとかあるからな?」
…先に言って欲しかった。
いや待てよ…?吸血鬼って水に弱いんじゃったっけ?あれ?うろ覚えだな。
…うろ覚えなことが多すぎるな俺……。
誰が何を飲むか分からないし、聞くのも面倒になってしまったので、カップと飲み物をそのまま持っていってバイキングスタイルで置くことにする。
なお飲み物はなんか水筒に入ってた。
ペットボトルも缶もないから水差しが直で入ってるのかと思ってた。
さすがにデカイか。
と、机に戻るとダニエルさんがニヤニヤしながら俺を見ている。
「どうしましたか?」
「いや、お嬢は頭は切れるが割とポンコツなんだと思ってなぁ?」
「…否定しづらいタイミングで言ってくれましたね……」
おのれ…俺だって知っていればそうしていたし。
分からなかったからそこにあったやつで頑張ってみただけだし。
(あの…コウスケさん……私、お茶入れられますよ…?)
…だからなぜ教えてくれない……。
「あー…ごほん。まぁ嬢ちゃんのことはいいとしてだ。彼女たちの面倒はお前が見るんだろう?」
「そのつもりですよ。でも、住むところはウチじゃなく第3寮舎にしようかと」
「えっ?」
ウチくるの?
確かに人数増えるのは良いことだけど……。
「待ってくださいハルキさん。私の他に3人、人間の冒険者がいるんですよ?しかもその内2人は男の人ですよ?人間嫌いのフルールさんには、いろんな種族がいるハルキさんのところの方が良いのでは?」
「それは考えたけど、でも多分大丈夫だと思うよ」
「へぇ〜、その根拠はなんだい?」
ダニエルさんの言う通り、俺も根拠が知りたい。
ハルキのことだから思いつきだけじゃないとは思うけど…。
「根拠は…君だよ、マーガレット」
「え?」
「ほぅ?」
ナニユエ?
「見た感じ、メリーは君に懐いてる。だからメリーが安心できる君の側の方が、フルールも安心できると思うんだ」
「懐かれてる……?」
そうかな……?
あんまり感じないけど……。
「そうでしょ?フルール」
「…そうだな。そうしてくれるのなら、私も安心できる」
マジすか?
え?なんでそんな信用値高いん?
「じゃあマーガレット、メイカさんたちが帰ってきたらこっちに連れてきてくれる?」
「俺たちはもう少し話を聞いてみるんでな。ついでに他の奴らに、ここにはしばらく入らないように言ってくれ」
「あ、はい、分かりました」
もうその方向で話進めるのね。
へいへい、分かりましたよーっと。
「フルールさんたちはどうします?」
「フルールとメリーは待合室で待っててくれる?マーガレット、お茶とお菓子の用意もお願いできる?」
「了解です」
「あとこの2人は僕の本職を知ってるから、そういう話しても大丈夫だよ」
「「ブフッ!?」」
「はーい、分かりました〜。じゃあフルールさん、メリーちゃん、私について来てください。では、失礼します」
ま〜たハルキはそういうことする。
ギルマスとダニエルさんがお茶吹き出したじゃねぇか。
ギルマスの机に資料積まれてなくて良かったよ、ホント。
俺はそう思いながら、フルールさんたちを連れて部屋を後にした。
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〔ハルキ視点〕
マーガレットたちを見送ると、扉が閉まると同時にダインとダニエルが僕を問い詰めてきた。
「おい、ハルキ!お嬢はまだ会って3日って話だろ!?もうそこまで進んでやがったのか!?どんだけ手がはえぇんだお前は!?」
「まさかとは思ってたが…やっぱりあの時か!?話があるって言って弱ってる嬢ちゃんの心に付け込んだのか!?」
「違うよっ!!あの子も普通の人間じゃないってだけだっ!!」
ララ達にも言われたけど、どんだけ信頼が無いんだ…まったく……。
確かに頼りになるし、話も合うしですごく楽しかったけども。
「普通の人間じゃないってどういうことだよ?」
「それはね……」
僕は初日の一件を彼らに話した。
僕が信頼している相手なら話しても良い、と今日の昼に聞いていたからだ。
「「…………」」
彼らは驚いて声が出ないようだ。
まぁ情報が濃すぎるもんね。
「…てことは、さっきそこのポットでやけどしてたのはお嬢であってお嬢じゃないと?」
「そう」
「はぁ〜…なるほどねぇ〜……」
ダニエルが机の上の水筒を取り、その中身を飲む。
そして何かを考えると、唐突にニヤリと笑みを浮かべた。
…あの顔はろくな事考えてないな。
「…何をするつもり?」
「何をって、んな物騒な話じゃねぇよ。ちょっと試すだけさ」
「…彼らに危害を加えようというなら全力で止めるからな?」
「分かってるよ、俺もそこまで命知らずじゃねぇ。だからそんな殺気を向けんな。危うく抜くところだったぞ?」
ふん、飄々と言ってのける。
そんな気微塵も無いくせに。
ダニエルはいけすかない奴だが、仕事に関しては信頼しているし、隠密ギルドのマスターだから危機察知能力も高い。
そこらへんのことも信用している。
だから彼らの秘密を話したのだ。
だが、これだけは言っておかなくてはならない。
「ダニエル」
「なんだ?」
「コウスケを怒らせるようなことはするなよ?」
「あん?」
最初にあった時、コウスケが言ったあの言葉が頭から離れない。
あの時の彼の顔が、忘れられない。
『アイツを落とさないと俺の気が済まないんだよ』
あの時の彼の顔が…普通の大学生だと言っていた彼の目が…
「彼は僕よりも守るものが明確だ。もしもそれを傷付けようものなら…」
頼れる少女の姿で見せたあの眼が…
「彼はあらゆる手段を持って報復するだろう」
僕は、とても恐ろしかった。
今回から視点変更が入るようになりました。
今後もちょくちょく変わると思います。
とはいえ、あんまり多いと尺稼ぎみたいなので、ほどほどを目指して頑張ろうと思います。




