351.アメとムチ…と介護
また翌日。
軽いストレッチでなまった体をほぐしたり、ちょっとだけ魔法を使ってみたりとリハビリを始めるくらいには元気になったその日の昼。
昼食を終えた俺とメリーはリビングにあるソファーに並んで腰かけ、揃ってお腹をさすりながらのんびりとしていた。
ちなみにリオは俺の様子を見て、もう大丈夫そうだと判断してひと足先に復帰した。
とはいえまだまだ鍛冶のリハビリには不安が残るので、俺が復帰するまでは他の業務をこなしておくと話し合いで決まっている。
リオのリハビリもだいぶ進んで仕事復帰も近いだろうというところまできているので、出来ればこの勢いに乗ってリハビリを完遂させたいところ。
もちろん安全にはしっかり配慮する。
たとえ勢いを削ぐことになろうとも、これが第一事項なのは変わらない。
ともかく、俺がそんなことを考えているとき、入り口から呼び鈴の音がした。
フルールさんはまだ洗い物の途中だし、そもそも俺らの方が近い位置にいるので落ち着けていた腰を上げて出迎えに…
メリー「……わたしがいくからまってて」
コウスケ「あっはい」
行こうとしたのをメリーに止められたので上げた腰をソファーに戻した。
結構良くなったから玄関に迎えに行くくらい大丈夫なんだけどなぁ。
でも逆の立場だったら同じことやりそうだからいまいち反論しづらいな……。
まぁ、大人しくしとこう……。
それはそれとして、来客の正体は時間的に見て間違いなくあの子たちだろう。
シエルは結局グリムさんに絞られたんかな?
ほどなくして、メリーがみんなをリビングに案内してきた。
その中にシエルの姿が見えたのでひとまず安堵。
しかし若干元気が無いようにも見受けられる。
他の子たちも気にかけてるようだし……やっぱりグリムさんに怒られちゃったか?
コウスケ「え~っと……みんないらっしゃい」
とりあえず歓迎しとこう。
ショコラ「マグぅ……」
チェルシー「マギーちゃん……ちょっとお話聞いてくれる……?」
どうやら思ったより深刻なようだ。
コウスケ「うん、もちろんいいよ」
チェルシー「ありがと。ほら、シエルちゃん」
シエル「うん……」
チェルシーに促されたシエルが一歩前に出てくる。
少しもじもじしつつも覚悟を決めたシエルが口を開いた。
シエル「あ、あのね……?マスターに昨日のこと言ったら…ものすごく怒られちゃって……」
コウスケ「えっ、そうなの?」
シエル「……(こくり)」
マグ(珍しい……それだけダメなことだったってことですかね……?)
コウスケ(かもね……)
シエル「そ、それでね……?その……マ、マスターに……」
コウスケ「うん」
シエル「…追い出されちゃった……」
コウスケ・マグ「(はっ?)」
追い出された?
どこを?ギルドを?
シエル「そんな危ない約束を勝手にするような子の稽古はしないって……勝負に勝つまで帰ってきちゃダメって……ぐすぐす……」
話してるうちに悲しみが込み上げてきたのか、シエルの目から涙があふれてきた。
その涙をチェルシーとサフィールちゃんが両サイドからハンカチで拭ってあげている。
そんな状態のシエルに代わり、リオが話を引き継ぐ。
リオ「それで、しばらくここで引き取れないかって思ってさ……ほら、部屋も空いてるし、魔法の練習だってマーガレットやメイカさんがいるから捗るだろうし……えっと……住まわせてもらってる立場で言うもなんだけど…さ……その……い、いい…かな……?」
コウスケ「なんで断られる前提なの……?」
俺そんな鬼畜やろうじゃないよ……?
えっ、ないよね……?
リオ「いや……マーガレットなら絶対助けてくれるとは思ってたけどさ……オレが勝手に決めることじゃないよなぁって考えたら心配になっちゃってさ……」
コウスケ「も~……リオももう家族みたいなもんなんだから、そんな遠慮しなくてもいいの!大体その理論で言ったら私たちも借家暮らしなわけだし…リオのときだって大家の許可は後どりなわけだし……」
フルール「まぁ少なくとも、そんな追い詰められてる子を放り出すような人はウチにはいないわよ。だから安心なさい」
リオ「フルールさん……」
シエル「うぅ……あ、ありがとうございますぅ……!」
フルール「その代わり、少しだけでいいからお手伝いしてくれると嬉しいわ」
シエル「はいぃ……!全部やりますぅ……!」
フルール「いや少しって言ったでしょ……しかも全部やろうとしなくていいから……お手伝いくらいでいいからね……?」
コウスケ(う~ん……こりゃ相当参ってるねぇ……)
マグ(そうですねぇ……これは今日1日全力甘えんぼコースですかねぇ?)
コウスケ(凄いコース名だ……)
でも大体何やるかわかった。
で、俺の役割もわかった。
まぁ……シエルの元気が無かった時点で予想はしてたけども。
その規模が大きくなっただけ。
さて。
フルールさんが許してくれたことでだいぶ元気を取り戻した子どもたちがもうどの感情で泣いているのか分からないシエルをみんなであやしてくれてる間に、シエル全力甘やかしプランでも考えるか。
この流れだと今日はみんなお泊りだろうけどな。
……多分途中から子どもたち全員相手取ることになりそうだ……。
うん……いつものことか……。
その後、お昼休みが終わるころにシエルを残して他のみんなが一旦戻っていったので、再び集まるであろう夕方まで、俺とメリーでシエルを挟んでひたすら可愛がった。
その甲斐あって、みんなが来る頃にはシエルはだいぶ元気を取り戻した
が、さすがにまだ情緒不安定気味だったので、しっかり追加治療した。
その日の夜、シエルはぐっすりと眠れたようで、治療は上手くいったようだ。
安心したおかげで俺とマグもぐっすり眠れた。
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それから2日経って休日。
パーペキに体調が回復した俺は、早速事の真相を確かめるべくシエルをみんなに任せて魔術ギルドを訪れた。
コウスケ「で?子供をギャン泣きさせた大人が、そんな部屋の隅っこで丸くなってどうしたんですか?グリムさん?」
グリム「……キミか……」
そしたら魔術ギルドのギルドマスターにして、《賢王》の二つ名を持つ、世界的にかなり有名らしいグリッジスさんことグリムさんその人が自分のプライベートルームで1人部屋の隅で埃になってた。
というか職員さんに案内されてほいほいついてきたけど、ここ本人の許可なしに入っていいんだろうか?
グリム「マーガレットくん……いや、コウスケくん……」
コウスケ「ん……はい、なんでしょう?」
俺たち2人(+マグ)しかいないので、グリムさんは俺の名前を呼んで話しかけてきた。
それと同時に魔力の気配。
この感じ…どうやら防音魔法を使ったようだ。
うむむ…出来るだろうなとは思っていたが、ここまでスムーズに無詠唱魔法を使うのか……。
さすがは魔術ギルドのマスターだ。
グリム「あの子は……シエルは元気かい……?」
コウスケ「気になりますか?」
グリム「はは…手厳しいなぁ……確かに自業自得なんだけどね……」
だけど…うん。
グリムさんも相当だなこりゃ……。
ちょっと強めに返してこれじゃあ、あんまり強い言葉は使わない方がいいかなぁ……。
コウスケ「はぁ……最初はずっと涙声でしたけど、みんなで必死に慰めたおかげで次の日にはどうにか立ち直りましたよ……」
グリム「そうかい……それはお礼を言わないとだね……」
コウスケ「みんな当然のことをしただけですよ。というか、それを見越して追い出したんでしょ?わざわざお泊りグッズやら魔法勉強のための本やらなにやら持たせて……」
グリム「ははは…お見通し何だね……」
コウスケ「ショコラちゃんもメリーも、ってかシエル以外全員気付いてます。むしろ何故シエルが気付かないのか不思議なレベルです」
グリム「追い出した私のことを良く思いたくないからじゃないかな……」
う~ん、ネガティブだ……。
コウスケ「そんなに後悔するなら追い出さずに自分が稽古をつけてやる!ってすればよかったんじゃないですか?」
グリム「もちろん考えたさ……でも…事の重大さを知ってもらうためにはある程度厳しくしないといけないと思ってね……」
コウスケ「シエルがすでに反省していたとしても?」
グリム「うん…残念ながらね……あの子が反省しているのは百も承知。だけど、身の丈に合わない魔法は必ず己の身を滅ぼすことになる。それだけ危険なものをあの子は熱くなっていたとはいえ…いや、だからこそそこでぽろっと引き合いに出すようなことをしてはいけないんだ……それだけ深刻なことなんだと教えてあげるのも大事な役目だと思ったんだよ……」
コウスケ・マグ「(う~ん……)」
マグ(言いたいことは分かりますね……)
コウスケ(うん…それにその重要性もね……)
しかしまだ腑に落ちない点もある。
コウスケ「ですが、それなら正直にそのことを伝えに行かせるなりして勝負自体を取りやめさせた方がよかったんじゃ……?」
グリム「それはそうなんだけどね……でも、勝負自体は別に反対してるわけではないんだ……誰かと競い合うというのは自分を成長させるからね……だから、いけないことではあるけど、同時に良い機会だとも思ったんだ……あの子はどうも熱くなりやすいところがあるしね……」
コウスケ「今回のことが良い薬になって、なおかつシエルの魔法の上達にもひと役買ってくれるだろうってことですか?」
グリム「その通りだよ……」
コウスケ(なるほど……確かにシエルにとって引くに引けないこの状況は練習に集中できる強化期間となるだろうね……)
マグ(グリムさんもシエルのことを考えてのことだったんですね……)
コウスケ(そうだね……でも……)
マグ(えぇ……)
コウスケ「…自分への精神ダメージは計画に入れてなかったんですか……?」
グリム「もちろん入れてたさ……この役回りを演じようと覚悟を決めた時からね……ただちょっと…想像以上にきつかっただけだよ……」
コウスケ・マグ「(……なるほど……)」
我が子のように可愛がっていたシエルをあえてガチ泣きさせることを選択しちゃったんだもんなぁ……。
シエルの成長には確かに繋がるだろうけど、ギルドマスターが部屋の隅で丸くなってる方が実質的な損失はデカいのでは……?
グリム「ふふ……実はシエルを追い出してから食事が喉を通らなくてね……飲み物だけで飢えを凌いでいたくらいで……」
コウスケ「なんで追い出された子どもよりも深刻なことになってんですか……」
シエルよりもグリムさんの方が心配になってきたよ俺ぁ……。
コウスケ「え~と……とりあえず今のところ貴方の計画通りに事が進んでるんで安心してください?シエルもグリムさんに恨みを抱いてるって感じでも無いですし……」
グリム「気に掛けるようなことでは無いと判断したのかもね……」
コウスケ「も~……またそういうこと言う~……」
グリム「あながち間違いでも無いだろう……だってあの子はキミにとても懐いている……私なんかよりもずっと…ね……だからこのまあの子がそちらの子になりたいと言い出したとしても…わ私は、おどおとろ…驚きなど…などはし、しないさ……」
コウスケ「そんな震えた声で何言ってんですか……」
驚きはしないけどショック死はしそうだなこの人……。
やれやれ…どうしたものか……。
コンコン
俺が若干めんどくさくなりつつも対策を考えてると部屋の扉がノックされた。
が、グリムさんはこんなんなので、仕方なく俺が応対する。
コウスケ「あ~…すいません。今ちょっとグリムさんは人前に出せない…じゃなくて出れない状況でして……」
「そこまでか……世話の焼ける……」
コウスケ「ん…この声……ジルさん?」
ジル「おう。魔術ギルドの連中に頼まれてな……とりあえず入ってもいいか?」
コウスケ「は~い、どうぞ~」
扉の鍵を開けてジルさんを中に招き入れる。
と、開幕ひと言。
ジル「…お前、大の大人がそんな部屋の隅で埃になって何してんだ……?」
俺と同じような感想を口にした。
グリム「ふふ……埃か……部屋の隅で固まっている私は確かに掃いて捨てられるにふさわしい存在だね……」
ジル「なんだこいつめんどくせぇな」
コウスケ「すいませんジルさんもうちょっと手心を加えてあげてもらってもいいですか?」
マグ(容赦なさすぎる……)
さすがに見てらんないので間に入る俺。
しかしジルさんは悪びれずに俺に向かってこう言った。
ジル「こういうときにな、多少強引にいかねぇと動かないやつもいるんだよ。おら立てグリム。お前んとこの職員から部屋から出ないわ食事もろくに取らないわでほとほと困ってるって通報があったんだぞ?」
グリム「ははは……みんなに迷惑をかけるような私はこのまま打ち捨てられても……」
ジル「だぁもうやかましい!少し黙ってろ!(ズムン)」
グリム「ぐふぅっ…!」
コウスケ・マグ「(うわーお……)」
ジルさんの腹パンがキレイに入り、グリムさんは沈黙した。
強引とは言ったけど…それで合ってるのか……?
ぐったりしたグリムさんを担いだジルさんが部屋から出ようとしてドアノブに手をかけたところで止まり、こちらを振り返った。
ジル「コウスケ。こいつのことはアタシの方でなんとかしとくから、チビどもの世話を頼んだぞ」
コウスケ「あっ、はい。了解です……」
そう言って部屋を後にするジルさん。
それと同時に部屋から魔力の気配が消えていくのを感じる。
グリムさんが部屋から出たからか……?
いやでもグリムさん沈められてたし……。
もしかしてジルさんが重ねがけしてたとか?
まぁ…なんにせよ、あれだ。
コウスケ(とりあえずシエルのところに戻ろっか♪)
マグ(そうですね♪)
グリムさんのことは一旦忘れよう♪
獅子が子を崖に落とす…的なことなのかもしれない。
でもまぁツライよね。どっちも。




