349.式紙術…緊急もふもふお手入れ
メイカ「あはははは!それでメリーちゃんはずっと不機嫌なのね?」
コウスケ「そうなんですよぉ……」
メリー「……ネコちゃん……(ぷく〜)」
お風呂にて。
今日あったことをメイカさんとユーリさんに話すと、メイカさんに凄い楽しそうに笑われた。
こっちは割と真剣に困ってるんですけどー!
ずっとむす〜っかぷく〜っとしてるメリーに続き、俺もむすっとして恨みがましくメイカさんを見つめる。
が、はたから見たら俺だって思うようなことをメイカさんが思わないはずもなく…
メイカ「不満そうなマーガレットちゃんも可愛いわね~♡」
といった具合にまったく取り合ってくれなかった。
やれやれ……。
ユーリ「でも私も見たかったな~、マーガレットのネコ魔法」
メイカ「そうね~。魔法で生き物を、なんてあんまり考えるもんじゃないものね。精々爪とか羽とか、どこかの部位をひとつふたつ出す人は何人か見たことあるけど……」
リオ「マーガレットもそんな感じの魔法使ってたよな?」
コウスケ「うん、あるね。あっちは狼だけど」
狼というか竜というか。
メイカ「でも今回は呼び出す側なのねぇ……猫なマーガレットちゃんも見たかったなぁ……」
コウスケ「ネコ耳カチューシャがあるのでそれでいいでしょう?というか、たまにせがまれるたびにちゃんと他のと合わせて見せてあげてるじゃないですか」
メイカ「それはそうだけどぉ!あれとはまた違う感じになりそうだし、あれだって我慢してるの方なのよぉ!?ほんとなら毎日見たいくらいなんだから!」
ユーリ「あはは…まぁ、いろんな動物の恰好したマーガレット可愛いですもんね」
その気持ちはとてもよく分かる。
ん~…そうだなぁ……。
もしやるとしたら……う~ん…ネコ……ネコねぇ……。
……オトモしか浮かばねぇ……。
それはそれで可愛いだろうけどさ……。
ハッ!?
エンディングで…踊る……!?
可愛い!
うん、まぁそれは置いといて。
他に何か……あっ。
いるな。黒くてすばしっこい、腕に刃の付いたあいつ。
しかしなぁ……。
これ以上マグの前で竜になるのはなぁ……。
ジンくんだって狼だって言って誤魔化してるのに……。
いや、ウソでは無いんだけどさ?
となると他のネコ系……ネコ…ねこ……キャット……にゃんこ……。
…にゃんこ…かぁ……。
あの人の無敗編成今どうなってるんだろうなぁ……?
スーパープレイとかおふざけとかまた見たいなぁ……。
…ハッ!
いかんいかん…またホームシックになってしまった……。
今はこっち今はこっち……。
ん~…しかし、あのゲームから知識を得ようにも、にゃんこという名の謎の生命体だらけだからなぁ……。
普通のネコすらビルダーになってモヒカン生えたりするし……。
いやでも逆にあの奇抜さは参考に出来るか……?
にゃんこだけじゃなくいろんな種族もいるわけだし……。
どれかは参考になりそうだ。
しかし問題があるとすれば……種類は多いものの、よく使ってたキャラしか今市覚えてないってことだ。
見たらそんなのいたなぁってなるだろうけど、それももうできないわけだし……。
う~む…地道に思い出していくしかないかぁ……。
フルール「マーガレット。考え事ならお風呂を出てからにしなさい?のぼせるわよ?」
コウスケ「おっと……そうですね」
危うくお風呂で長考状態に入るところだった。
寝る前とかにでも続きを考えるか。
メリー「……(こっくり…こっくり…)」
メイカ「あら、メリーちゃんがおねむだわ。疲れるほど楽しかったのね♪」
リオ「はしゃいでましたからね。帰り際にマーガレットと争ってましたし……」
ユーリ「ふふふ、そうだったね♪それじゃあもう上がりますか?」
フルール「そうね。晩御飯の支度もしないとだし。といっても今日は買ってきたものにちょっと付け加えるだけだけどね」
メイカ「今日はフルールもずっと外にいたもんね。お疲れ様♪」
フルール「本当に見てただけなんだけどね。この子たちだけでも大丈夫だとは思うけど、魔法の練習だから一応ついて行っただけだもの」
メイカ「それでもありがとね。おかげで私たちも安心して迷宮に入れてるんだから♪ねぇ?」
ユーリ「はい!フルールさんが一緒ならマーガレットも無茶なことしなさそうだし、ね!」
なぜか最後に力強くこちらを振り向きながら言ってきたユーリさん。
コウスケ「いなくてもしませんよそんなこと。ねぇ?」
リオ「いやぁ…どうだろうなぁ……今日みたいに試行錯誤を繰り返してるときのマーガレットは特に生き生きしてるからなぁ……」
不服を申し立て、リオにも同意を求めたが、残念ながら味方になってくれなかった。
さらにそこにフルールさんが追撃を加えてくる。
フルール「魔法の威力も上がってたしね」
メイカ「えっ!?マーガレットちゃんまた魔力上がったの?」
フルール「えぇ。魔鉄鉱の人形を部分的にだけど黒く変色させてたわ」
ユーリ「うわぁ……マーガレット…そんなに威力上げてどうするの?」
コウスケ「いや別に上げたくて上げたわけじゃないんですけどねぇ……なんか上がってたんですよねぇ……」
マグ(なんででしょうねぇ?)
コウスケ(不思議だねぇ……)
毎日練習してることくらいしか思い当たらないが、それだと他の人たちだってもっと上達していてもおかしくないし、それならこんな風に驚かれることもないだろう。多分。
フルール「まぁとにかく上がりましょ?ご飯の時にまた話せばいいわ」
メイカ「それもそうね。ユーリちゃん、メリーちゃんのことお願い」
ユーリ「はい」
俺の答えが出ないうちにお風呂を上がり始める一同。
まぁそういう話だったからそれはいいんだけど……ご飯の時にも蒸し返されるの?
ご勘弁願いたいなぁ……。
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本当に話題に出され少し不服なご飯の後。
あっ、ご飯は美味しかったです。
ユーリさんに頼まれネコ召喚魔法を披露することになった俺は、机などを端に寄せたリビングのど真ん中で呪文を詠唱した。
コウスケ「【雷】、[無害なネコとなりて]【我が前に現れよ!】[サンダーキャット!]」
さて、今日だけで結構な数のリメイクを重ねたネコ魔法。
結局満足のいく結果にはならなかったが、とりあえず出来た範囲…ぎこちなくも簡単な動きは出来る程度のネコを生み出した。
メリー「……ネコちゃん!にゃんにゃ~ん!」
そしたらさっきまで眠気と戦っていたメリーが目を輝かせてネコを触りに駆け寄ってきた。
メイカ「ちょっ、なにその可愛さの暴りょぐふぅっ!」
そったらメイカさんが尊みの過剰供給で力尽きた。
リオ「メイカさんが死んだ!?」
ディッグ「確かに今のは可愛かったなぁ」
ケラン「子どもらしさ全開でとても微笑ましいですねぇ」
ユーリ「あんなにはしゃいでるメリーちゃん初めて見たかも」
珍しく他の大人たちが「仕方ないよね」という空気を出す中、当のメリーはネコを抱いてご機嫌な表情を浮かべていた。
マグ(メリー、ほんとに嬉しそうですね~♪)
コウスケ(そうだねぇ)
マグ(でもこのあとまた消さなきゃなんですよね……?)
コウスケ(……そうだねぇ……)
今からとっても不安です……。
ユーリ「う~ん…それにしてもこのネコちゃん魔法、私の故郷の式紙術に似てるかも」
マグ(えっ?)
コウスケ「式紙術?」
式紙って、紙をなんやかんやして精霊的なものを呼び出したりするあの式紙?
そういうのもあるんだ……。
ユーリ「うん。ヤマトの国に古くから伝わる術でね?式紙っていう魔力を込めた特殊な紙を使って、いろんな生き物を魔力で生み出して使役する魔法なの」
コウスケ・マグ「(へぇ~)」
俺の知ってる式紙と大体同じっぽいかな?
リオ「普通の紙に魔力を込めて作るんですか?」
ユーリ「ううん、違うよ。紙を作る段階からちょっとずつ魔力を込めていって、紙そのものが魔道具になるようにするの。それで完成したらその紙に術式っていう、こっちで言うところの魔法陣みたいなものかな?それを、こっちも作る時に魔力を通しておいた筆と墨を使って書いてようやくできるの」
コウスケ・マグ・リオ「(「うわぁ……」)」
とんでもない手間がかかりすぎていて思わず声が漏れてしまった。
リオ「そんなに手が込んでるんですね……」
ユーリ「そっ。でもこれが結構難しくて、自分だけが使役できる式紙を作るには最初から最後まで全部自分ひとりでやらないといけないの。他の人の魔力が混ざるとその人にも扱えるようになるかもだから~ってね」
ケラン「なるほど。確かに他の人に扱われる可能性があるのは少し恐ろしいですね。心の通じ合った中ならまだしも、ただ利害が一致したからとかだとそのあとどうなるか分かりませんし」
フルール「そうね。他人にも扱えるというのももちろん良いことはあるんでしょうけど、やっぱり自分だけ扱えるっていうほうが面倒事はなさそうよね」
ユーリ「そうなんですよね~。だからひとりでやんなきゃなんですけど…ひとりだと何回も魔力切れを起こしちゃって……」
ディッグ「あぁ~……まあそんだけ工程がありゃあなぁ……」
ユーリ「なので基本はちょっとずつちょっとずつ進めていくって感じで、かなりの時間がかかるんです」
メイカ「それは…簡単には出来ないわねぇ……」
リオ「うおっ!?メイカさんいつの間に!」
メイカ「ちょっと前から♡心配してくれてありがとねリオちゃ~ん♪(ぎゅ~)」
リオ「わわっ!?メ、メイカさん……!」
リオが復活した変態に抱きつかれてしまったが、まぁそれはそれとして式紙のことを考える。
コウスケ(そんなに手が込んでちゃ、そうほいほい試そうとはなれないねぇ……)
マグ(その準備だけで何日かかるか分かりませんもんねぇ……)
面白そうなんだけどなぁ…式紙。
こう、投げてポンッとトラやら鳥やらを出して控えさせる……。
なかなかカッコよさそうじゃないか……!
って、あれ?
コウスケ「ユーリさん。その式紙ってまさか1枚で1度切り…なんてことはないですよね?」
ユーリ「あぁ~……その……残念ながら……」
コウスケ・マグ「(うへぇ……)」
なんて効率が悪いんだ……。
ユーリ「あはは……そ、その代わり、持続時間とかは結構長いんだよ?全力で魔法を使わせても全然問題なかったりするし」
コウスケ・マグ「(へぇ~…って、えっ?)」
今なんと?
コウスケ「ちょっっと待ってください?式紙が魔法を?」
ユーリ「ん?あっ、うん。そうだよ」
メイカ「えっ。それって凄いことじゃない!」
ユーリさんの言葉に、魔法の専門家であるメイカさんも驚いた。
やっぱりそんだけ凄いことなのか……。
フルール「それ、何の魔法が使えるの?」
ユーリ「う~ん……私が知ってるのは炎だけですね。でも呼んだ人と大体同じ魔法を使ってましたよ」
ケラン「ひとつじゃないってことですか……?それは凄いですね……」
コウスケ(なにそれやば……)
マグ(あれ?コウスケさんも近いようなことはしてましたよね?)
コウスケ(ん?あぁ~……あれかな?《サンダーオーブ》から雷を飛ばすってやつ?)
マグ(ですです)
コウスケ(あれもまぁ確かに近いか……やろうと思えばいけるかもだけど……そうなるともっと魔力を込めないとかなぁ……今のままだとちっちゃい雷を1個2個飛ばして終わりだし……)
マグ(そうなると、式紙術が何回も全力魔法を使えるっていうのはとんでもないことですねぇ……)
コウスケ(うん……比較すると改めて凄さが分かるよ……)
なんてマグと話している間も、式紙談義は続く。
リオ「実質その式紙を使ってる人がもうひとりいるって感じですかね……?」
ユーリ「そうだね。それに加えて動物としての動きも加わるから…もうほとんど魔物だよね」
ディッグ「魔物を使役するテイマーと違っていろいろ制約はありそうだが……いつでも呼べる味方の魔物ってのは確かに強力だな……」
ユーリ「そうなんですよ。準備が凄い大変なのと、その割には1枚で1回だけっていうのがダメなだけで、強いは強いんですよねぇ……」
メイカ「ちゃんとかけた手間がそれ以上になって帰ってくるのはいいけどって感じね……ユーリちゃんは式紙って持ってるの?」
ユーリ「いえ…一応完成させたことは何度かあるんですけど……あはは…あんまり出来がよくなくて……」
メイカ「そう……」
メイカさんの質問にユーリさんは苦笑を浮かべながら返した。
それに何かを感じたメイカさんはそれ以上の追及をしなかった。
マグ(あんまり良い思い出がないって感じがしましたねぇ……)
コウスケ(う~ん……)
ユーリさんはあまり故郷のことを話したがらないし、あんまり家庭環境もよろしくなさそうだからなぁ……。
多分式紙に関しても何かあったのかもしれない。
それでもこうしていろいろ教えてくれたのはとてもありがたいな。
コウスケ「ユーリさん。教えてくれてありがとうございます」
ユーリ「いいよいいよ~。覚えてたことを言っただけだもん」
コウスケ「それがありがたいことだったので~。なのでなんかこう…よさげなこと考えときますね♪」
ユーリ「凄いフワッとしたお礼だ~」
あはは、と笑うユーリさんの顔には、さっきのちょっと暗めの陰はもう姿を消していた。
ふぅ。
コウスケ(できれば憂いを元から断ってあげたいけど、あんまり深入りするのもねぇ……)
マグ(そうですね……とりあえず今は、ユーリさんの笑顔が増えることを考えましょう)
コウスケ(…だね。それじゃあさっそくお礼をどうするかだけど……)
マグ(私がマッサージしてあげるというのはどうですか?)
コウスケ(ふにふにするんか?)
マグ(もちろんですよ?)
コウスケ(じゃあダメだよおバカ)
マグ(ガーン!)
いや分かりきってるでしょうに。
マグ(ちぇ~。それなら、コウスケさんが思いっきり甘やかしてあげるというのは?)
コウスケ(ふむ……)
ついこの間ユーリさんも甘やかしが必要そうだと考えたばかりだし……うん。
ちょうどいいかも。
ただちゃんと交換レートを合わせてあげないと申し訳なく思わせちゃうだろうし……超過分お返しされるかもしれないし……。
それはとても刺激が強いので避けたいところ……。
ふ~む……やっぱ尻尾や髪のメンテナンスとかかな?
一応ほぼ毎日朝にやってるけど……夜の部…追加しちゃうか。
コウスケ(というのはどうでしょ?)
マグ(アリ)
コウスケ(やったぜ)
スピード決定。
というわけでご提案。
コウスケ「ユーリさんユーリさん」
ユーリ「ん~?何か思いついたの?」
コウスケ「はい。尻尾のお手入れ夜の部、いりますか?」
ユーリ「えっ、いいの?やった~ありがと~♪」
ハイスピード解決。
そんなわけで、俺は日ごろの感謝も込めて、もふもふの尻尾をさらにもふもふにするべく丹念にクシで梳いた。
ユーリさんはときおりセンシティブな声を出すぐらい気持ちよくなってくれたようだ。
うん。
作戦としては成功だけど、ユーリさんがクシで梳いてあげるとあまり人前で出しちゃいけない声出すこと忘れてた。
コウスケ・マグ「(やっぱりユーリさんはエッチですね……)」
ユーリ「え゛っ!?」
なんでーっ!?と抗議するユーリさんをやんわり宥めながら、尻尾を梳き梳きし続ける。
ディッグさん、ケランさん。
ごめんなさいね。
次から部屋でやるね。
メリー「……くすっ♪」
そんな今までのやり取りに一切かかわらずネコを愛でていたメリーは、俺たちの姿を見て柔らかな笑みを浮かべていた。




