348.雷にゃんこ軍団…おやつとジュースと夢
みんなが落ち着いて席に戻ったところで、子どもたちの笑顔のために魔力削減を諦めた俺も練習に戻ることにした。
ちなみにネコたちは今、ニコニコ笑顔のメリーとショコラちゃんが抱き抱えられている。
とてもいい笑顔です。はい。
このあとあの笑顔を曇らせる事実に早くも胸が痛み出しているのをなんとか堪え、俺はさらに精度の高い3匹目のネコを呼び出すべく手をかざす。
コウスケ「《サンダーキャット!》」
同じ詠唱文で呼び出した3匹目は、2匹目同様しっかりと全身ある状態。
試しにちょいっと動かしてみると、今度はキチンと関節もある。
あとはこれがちゃんと機能してくれればいいんだけど……。
それを確かめるために早速地面に着地させてみる俺。
するとネコは着地の際に前脚を折り曲げて衝撃を和らげる素振りを見せた。
つまり…
マグ(成功……?)
コウスケ(だね)
マグ(おぉー!)
マグの喜ぶ声に、俺もふぅ…とひと息吐いて肩の力を抜く。
チェルシー「マギーちゃん…それってもしかして……?」
モニカ「成功……?」
コウスケ「うん。上手いこといけたっぽい」
子どもたち『おぉー!』
俺の言葉に湧き立つ子どもたち。
う〜む……。
調子に乗るからあまり味を締めちゃいけないってのはよく理解しているんだが…こうも喜ばれると、やっぱり気持ち良くなってしまうものだなぁ……。
その分ハードルも上がっているという事実からは目を背け楽しくなった俺は、もっと喜ばせる…もとい、さらなる実験としてネコを歩かせてみることにした。
え〜と……前脚と後ろ脚は交互に…後ろ脚もちゃんと膝とか足首が曲がるようにしてるはずだから大丈夫なはず……。
心配事は多いものの、ネコは俺が思い描いた通りに歩き始めた。
マグ(わっ!歩いた!…けど……ん〜……?)
嬉しそうに叫んだのも束の間、マグはなんとも微妙そうな声を上げた。
マグがそんな声を出した理由はもちろんネコ。
歩くことには歩いたのだが…正直違和感を感じざるを得ないのだ。
関節はしっかり曲がってるし、歩行速度もゆっくりとはいえ極端に遅いというわけではない。
のんびりお散歩してるね〜という程度だ。
だけどとても不自然。
ネコってこんなんだっけ?という困惑が容赦なく俺とマグに襲いかかってくる程度くらい不自然。
これには他の子たちも怪訝な表情を浮かべている。
パメラ「う〜ん…?」
サフィール「なんだか動きがぎこちないような……?」
リオ「うん……生き物っぽい動きではあるんだけど、なんか違うんだよなぁ……」
なるほど…確かにそんな感じだ。
なんというかこう……ロボット?みたいな?
本物の動きを真似させようと、色々プログラミングしてる最中…みたいな?
あまりうまくは言えないが、とりあえず世の製作者たちの気持ちがちょっとだけ分かった気がする。
物を作るのって大変……。
でもなんか燃えてくる。
コウスケ「ふむ……関節があるだけじゃダメか……なら次は筋肉とか……?いや、魔力で出来てる存在だからそこら辺は別にいいのか……?意識してなくても形は保ててるし……そうなると関節を付けたことも本当はあんまり……?」
ショコラ「あっ。マグがさっきのシエルみたいになっちゃった!」
俺が自分の世界に入ったのをショコラちゃんに指摘されてしまった。
それに驚いたのは今名前を言われたもう1人であるシエル。
シエル「えっ。さっきのアタシあんな感じだったの?」
リオ「おう。今のマーガレットと同じようにぶつぶつ言ってたしな」
チェルシー「いっぱいあれこれ考えてたね〜」
サフィール「とても真剣でかっこよかったですよ♪」
シエル「うぅ……そんなじっくり見られてたなんて恥ずかしいわ……///」
コウスケ・マグ「(シエルが照れてる)」
シエル「ちょっ…!?なんでこっち見てんのよ!アンタはそっちで考えてなさいよ!」
コウスケ・マグ「(ひど〜い)」
ぶーぶー、と抗議するも、シエルはぷいっとそっぽを向いてしまった。
ちぇ〜。
さてと。
シエルをからかって心を落ち着かせたところで練習に戻るとするか。
さっきの失敗をもとに、今度は関節抜きで動きにキレを出せるか試してみるか。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
コウスケ「疲れた〜……」
パメラ・モニカ「「お疲れさま〜!」」
サフィール「お疲れ様です。お水は飲みますか?」
コウスケ「うん、おねが〜い……」
サフィール「はい♪」
しばらく練習を続けて魔力が減ったのもあって疲れが溜まった俺がベンチへ戻ると、みんなが暖かく出迎え労ってくれた。
魔力が減ったとは言えど、生み出したネコたちは全て維持してますけどね!
おかげで休憩になるのかちょっと不安だぜ……。
そんな不安を隠しつつ、サフィールちゃんから受け取った水を一気飲み。
ふへぇ〜……。
やっぱサフィールちゃんの水は美味しいねぇ〜♪
リオ「で?調子はどうなんだ?」
シエル「なんかあんまり上手くいってない感じがしたけど……成功したんじゃないの?」
コウスケ「ん〜……一応動かせる事は動かせるんだけどねぇ……」
俺は、動きがどうしてもぎこちなくなる事。
ひとつの箇所に意識を集中すると他がどうしても疎かになってしまい上手くいかないこと。
考えれば考えるほど元のネコの形が朧げになっていったことを、情けなくも年下の子どもたちにバッチリ愚痴った。
ショコラ「ありゃりゃ……なんだかよくわからないけど大変なんだね……よしよし(なでなで)」
パメラ「私もあんまりわからないけど、凄く難しいんだね……よしよし(なでなで)」
リオ「オレも魔法はそんなにだけど、とにかく凄いってことだけは伝わったぜ?(なでなで)」
そしたら物凄い撫でられた。
シエル「アタシから見れば、あれだけやれるならもう十分だと思うけどね。魔法にあんな細かい動きをさせられる人なんて魔術ギルドでもそんなに見ないし(きゅっ)」
チェルシー「そうそう!ララ姉たちも見ればきっと目を輝かせていっぱい褒めてくれるよ?このネコちゃんたち、それくらいすごいもん!(にぎにぎ)」
そして両方の手をそれぞれ優しく包み込まれたり恋人繋ぎでにぎにぎされたりもしながら労われた。
コウスケ(俺そんな落ち込んでるように見えた……?)
マグ(う〜ん……少なくともいつもよりかは)
コウスケ(そりゃあまぁ…それはそうなんだけども……)
だからってこんなにしてくれるのか……?
だとしたら普段俺はどんだけ落ち込まない元気ボーイ(ガールの姿)なんだ……。
と、思ってたらマグが答えを言ってくれた。
マグ(まぁみんな隙あらばコウスケさんに恩返しを〜って思ってるでしょうからね〜。いつも支えてくれる分、こういう時にいっぱい甘やかしてあげよ〜って思ってるんじゃないですか?)
コウスケ(そうなのかねぇ……)
マグ(そうですよ。それに純粋にみんな甘やかすの好きですし。コウスケさんをからかうのも大好きですし♪)
コウスケ(ん?)
マグさん?
マグ(コウスケさん、甘やかすのは得意なのに甘やかされるのはいつまでたっても苦手ですからね〜♪それが可愛くて、そのチャンスもずっと伺ってるんですよ♪)
コウスケ(なんてこったい)
そんなハンター集団だとは気付かなんだ。
純粋な子たちだと思っていたのは俺だけだったのか。
…いやまぁ俺も正直、ショコラちゃん以外そこまで純真無垢だとは思ってないけどさ。
むしろショコラちゃんが年齢の割に知らなすぎて心配なレベル。
マグ(あとはここで励ましたらあとでお返ししてくれるかなって考えてるかもしれないですね〜)
コウスケ(打算的〜)
この天使の笑顔の裏側にそんな思惑があるなんて思いたくなかったぜ……。
でも……それでも、労われるのは嬉しい……!
そしてその見返りが自分も甘やかして欲しいなんて可愛すぎる……!
そんなんなんぼでも甘やかしたくなるじゃろて……!
ダメだな……。
俺はキャバクラとか行ったらダメな人種だ……。
沼にハマって貢いで即蟹工船コースだ……。
恐ろしい……。
まぁそれはそれとして。
練習で思うような成果を得られなかったのは確かだけど、まだまだ研究したいことはあるし、そこまで悲観したわけじゃないんだけどなぁ……。
しかし下心がある(かもしれない)とはいえ、励ましてくれるのはさっきも言った通り嬉しいし、あったかい気持ちになってやる気も湧いてくる。
まぁどんなにやる気はあっても魔力が底をついてるのでダメなんですけどね!(ドヤッ)
モニカ「あっ、マーガレットちゃん元気になってきた?」
サフィール「ほんとですね。じゃあ私たちも参加しましょう♪」
モニカ「うん♪」
メリー「……なでなで♪」
あっ、あかん。
心の中で決めたドヤ顔がちょっと表に滲み出た結果、さらなる増援を呼び込んでしまった。
こうなると長いぞ〜。
チェルシー「マギーちゃん!さっきみんなで食べたお菓子あげる〜♪あーんして〜?」
リオ「あれ?全部食ったんじゃなかったっけ?」
チェルシー「ふっふっふ〜♪実はお兄ちゃんたちとも食べようと思ってこっそり買っておいたのだ〜!でもみんなともう1回食べたいから開けちゃったのだ〜♪」
モニカ「えぇっ!?いいの?」
チェルシー「うん♪食べよ食べよ〜♪」
ショコラ「わ〜い!ショコラも食べるし、マグにあーんもする〜♪」
パメラ「私も〜♪」
メリー「……わたしも♪」
サフィール「あっ、それでは私はお水を出しますね。皆さん、コップを出していただけますか?」
リオ「おっ、悪いな」
シエル「ありがと、サフィール。美味しい焼き菓子と言っても、飲み物が無いとね」
サフィール「ただのお水で申し訳ないですけどね。いつかジュースとか出せるようになったりしたら便利ですよね〜」
パメラ「わぁ〜!そうなったら私はバナナジュースがいいな〜♪」
モニカ「野菜ジュースも出せるかな〜?」
サフィール「きっと全部出せますよ〜♪」
モニカ「すご〜い♪」
と思ったら、チェルシーの取り出したおやつから年相応の可愛らしい話にチェンジしていた。
助かったけど……おやつに負けた感じがして少し複雑なのだわ。
それはそれとして、サフィールちゃんの夢のある魔法の話は俺も興味がある。
そしてマグもこの魔法に興味深々のようだ。
マグ(ジュース魔法か〜。それが出来たらいつでもどこでも好きなジュースを飲み放題……素敵〜♪)
コウスケ(マグはこれが飲みたいとかある?)
マグ(う〜ん、そうですね〜。やっぱりリンゴは外せないですね〜。イチゴも美味しいし〜……あっ、それならミルクも出せたりしたらもっといいな〜♪)
ふふふ♪
夢が広がってるね〜♪
マグ(コウスケさんは?何か飲みたいものはありますか?)
コウスケ(そうだな〜。ん〜…やっぱ俺としては、前の世界の飲み物を出せないか試したいな〜)
まずは炭酸。
あとは作り方とか原材料がイマイチ分からないものを中心に……う〜む、悩ましい。
マグ(わっ、いいですね!出来たら私も飲みたいです!)
コウスケ(うん。俺もマグに味わってほしいな)
マグ(えへへ〜♪約束ですね♪)
コウスケ(うん。約束だね)
ふふふ…そうだなぁ……。
マグに振る舞うとしたら…クリームソーダとかかな?
あれは絶対テンションぶち上がってくれると思うんだよね〜。
それに他の子たちも目を輝かせて喜んでくれるんじゃないかな〜。
あ〜いいな〜。
本気で実現させたくなってきた。
ちょっとやってみようかな?
あっでもサフィールちゃんが思いついて楽しそうに語っているものを「ちょっと試したら出来ちゃった☆」ってテヘペロするのはなんか…どうなんだろうな……?
なんとなくダメな気がしてならないから、ここは大人しく自分の練習に集中しよう、そうしよう。
さて、俺が自制している間も夢広がりまくりの女子トークを続けていた子どもたち。
そんな中、ネコたちにもおやつをあげようとしているメリーの姿が。
ただ、残念ながら生み出したネコたちはみなただの魔力の塊であるため、食べ物も飲み物も与えたところで意味はない。
何度かトライしてダメだと悟ったメリーは、悲しそうな目をしてこちらを見つめてきた。
メリー「……マグぅ……ネコちゃんおやつ食べない……」
コウスケ「う、う〜ん……魔法だもの、仕方ないよ……だからそんなうるうるした目でじっと見ないで……」
メリー「……マグぅ……」
コウスケ「そ、そんななんとかしてあげたくなる声を出してもダメなんだからね……!というかさすがにその辺は私もどうすればいいか分からないし……!」
メリー「……(うるうる)」
コウスケ「う、うぅぅ……!」
ダメだ……耐えるんだ俺……!
出来ない約束はしない方がお互いにとって良いんだ……!
だからここは我慢しろ……!
そうやって頑張って耐えていると、見かねたフルールさんがメリーのことを嗜めてくれた。
フルール「メリー。あんまり無理言っちゃダメよ?いっぱいネコを出してくれたんだから、今日のところはそれで満足しなさい?」
メリー「……むぅ…わかった……」
フルールさんに注意されたメリーは不服そうに唇を尖らせながらも大人しく身を引いてくれた。
コウスケ「ありがとうございますフルールさん……」
フルール「これくらい当然よ。むしろメリーが無茶を言って悪かったわね」
コウスケ「いえいえそんな……」
あはは…と笑う俺に、フルールさんは「でも…」と付け加えこう言った。
フルール「あなたなら、いつか食べ物を食べられるネコを生み出せそうな気がするのよね」
コウスケ「えっ?そ、そうですか?」
フルール「えぇ。なんとなくだけどね」
そう言うフルールさんだが、なんとなくでもフルールさんが期待してくれてるというのはちょっと…いや、かな〜り嬉しい。
心が躍りそう。
……ちょっと……頑張っちゃおっかな?
メリー喜ばせたいし。
でも今断った手前、やっぱりやるとは言いづらい。
変に期待させるのも申し訳ないし。
だからやるならこっそりとだな。
そして完成したらサプラ〜イズ♪つって見せてあげる。
よし。
そうと決まれば、まずはよく動くネコの作成を完璧にしないとだな!
というわけで結構休んだし練習再開!…と言いたいところだが……。
メリー「……にゃんにゃん♪」
ショコラ「にゃんにゃ〜ん♪」
リオ「う〜ん……魔法を撫でるって凄い不思議な感じだ……」
チェルシー「だね〜。でも結構楽しいね♪」
リオ「それは確かに」
モニカ「ふふふ♪見て見て〜♪はむはむしてる〜♪」
サフィール「メリーさんもされてましたけど、痛くないんですか?」
モニカ「うん、痛くないよ。ちょっとくすぐったいけどね♪」
パメラ「このピリピリ感…クセになるよね〜」
シエル「そうねぇ…なんか触ってたくなるのよねぇ、これ」
うん。やっぱネコ出しすぎたな。
フルールさんも含めて1人1匹抱えてるもんな。
そして3匹ほど余ってるもんな。
その全てをメリーが大事に抱えてるから、メリーのとこ凄いパチパチしてる。
あれはさすがに痛かったりしないだろうか?
心配だ……。
って、それはまぁ置いといて。
おかげで休んだというのに大して魔力が回復した気がしないのは大問題だという話だ。
どうしましょうねぇこれ。
シエル印の魔力ポーションを飲んでもいいんだが……というか練習するなら飲むべきなのだが……。
美味しいおやつの後にあれ飲むのは躊躇うなぁ……。
あれ超苦いんだもの……。
どうしたもんかなぁ……?
なんて悩んでいると、ふと何かに気付いたシエルが不思議そうにこちらに尋ねてきた。
シエル「そういえばマーガレット」
コウスケ「ん?なぁに?」
シエル「ネコいっぱい出して、しかも細かい調整とかしまくってるけど、さっきようやく休んだところよね?」
コウスケ「そうだねぇ?」
シエル「ふと思ったんだけど…あなたそんなに魔力あったの?試合をした時にもう普通の人より多いなとは思ってたけど……」
コウスケ「ん〜、そうだねぇ……」
…………。
コウスケ「そういえばそうだな?なんでだ?」
シエル「マーガレットにもわかってないのね……」
いや、だって今までノリと勢いで魔法を使ってきたけど、魔力切れを起こしたのは両手で数えられる程度だしなぁ……。
それだって今日合わせての数字だし。
なんなら日を追うごとに魔力の上限が伸びてるな?
日に日に使える回数が増えてってたし。
コウスケ「でもみんな試合の練習の時とか、毎日来てくれてたけど普通に応援してくれてたからそういうもんだと思ってたよ」
シエル「そんなぐんぐん伸びるものだなんて思ってないから、単純に体力が先に切れるようになってたのかなって……」
コウスケ「なるほど……」
息が上がったりぐったりしたりって、体力切れでも魔力切れでもしてるからなぁ……。
確かにパッと見じゃ分からないかも。
チェルシー「そういえばマーガレットちゃん、いっぱい魔法使ってもあんまり疲れないよね」
パメラ「メリーに毎日魔法を使ってあげてるからとかだったりして?」
メリー「……まいにちじゃない。そんなにワガママいってない」
パメラ「ありゃ…それはごめんね?」
メリー「……ん。たまに1にちあけてるもん」
パメラ「ほぼ毎日じゃん!」
メリー「……へへ♪」
リオ「それだけやれば確かに魔力増えてそうだな〜」
あはははは、とみんなで笑う。
結局その後もなんだかんだとのんびりし続け、気付いた時にはもう夕方になっており、その日の練習はお開きになった。
…帰るためにネコたちを消そうとした段階で、それを嫌がるメリーと死闘を繰り広げることになったのは言うまでもないだろう。
大量のビリビリにゃんこに囲まれる幼女の図。
幻想的ですね(適当)
ではまた来週お会いしましょう。
ではでは〜




