346.エルフっ子の練習風景…新たな魔法の可能性
モニカちゃんが新しい扉を開く前になんとか止めることが出来てひと安心したところで、早速シエルと練習を始める。
と、その前にまずはシエルが俺に聞きたいことがあるようだ。
シエル「マーガレットはどうやって魔法を操作してるの?」
コウスケ「えっ」
正直感覚でやってるので教えようにもどうすればいいか分かりません。
しかしそれでは意味がないのでどうにか言語化を頑張る。
コウスケ「う〜ん……魔法を唱えるときに、頭の中でこういう動きをする魔法って思い描いて、詠唱文にそんな感じの言葉も入れて使ってる…かな?」
シエル「唱えるときに思い描いたことはあったけど…そっか、詠唱文ね……わかった、やってみる」
俺のアドバイスを受けたシエルが早速実践しようとしているので、少し離れて見守る俺。
さっきシエルも気付いたように、詠唱文をいじるというのは割と気付きにくい発見のようで、魔法を自在に操れないと嘆く者の理由の多くが、そのことに気付いていなかっただったりするらしい。
ハルキがそう言っていたので恐らく間違いない。
じゃあそれも教えてあげればいいじゃない、と俺は言ったのだが、その答えに自力で辿り着くのも必要な過程だよ、みたいなことを言われた。
俺も言いたいことは分かるので納得していたが、今さっきしれっと教えてしまったのは良いんだか悪いんだか……。
ま、まぁ…先に進むのも大事だから。うん。
シエル「動かしたい動きを思い描いて……詠唱文もそんな感じに……」
そんな感じって……凄い曖昧だよな……。
言ったの俺だけどさ……。
しかしそれでもシエルはどうにか考えついたようだ。
凄い。
シエル「よしっ……い、いくわ……!見ててね……!」
コウスケ「うん。いったれシエル」
マグ(がんばれシエル〜♪)
ショコラ・パメラ「「シエルがんばって〜!」」
俺やショコラちゃんたちによる数々の声援を受けながら、シエルはひとつ深呼吸をしてから的人形へ狙いを定め手をかざした。
…え?
早速撃つ気?
シエル「ふぅ……《【風よ!】[球となり]【アタシの言う通りに的に当たりなさい!】[ウインドボール!]》」
そうシエルが唱えると、かざした手から風の玉が出現した。
のはいいが…
シエル「あっ!?」
出現した風の球は先ほどと同じように的へと一直線に進んでいってしまった。
シエル「えーと、えーとぉ……!」
シエルがそのことに慌てている間にも風の球は止まることなく的へ飛んでいき、そして当たって霧散した。
シエル「あっ!あぁ〜……」
パメラ「ありゃ〜……」
チェルシー「どんまい、シエルちゃん!」
シエル「うん、ありがとう。大丈夫、次はうまくやるわ」
ショコラ「がんばれシエルー!」
リオ「いいぞー!どんどんやってけー!」
どこかスポーツ観戦味を感じるな?
でもまぁ、そのおかげかは知らないけどシエルがくじけずすぐに次のトライに移行したのはいいことだ。
シエル「そっか……今のだとすぐに飛んでっちゃうわよね……もう少しゆっくり飛ぶように詠唱文を変えて……でもあんまり変えると《ウインドボール》じゃなくなっちゃうかしら……?あっ、でもマーガレットの魔法も普通のじゃないし……」
再び的に向き直り、ぶつぶつと反省と改善策を考えだすシエル。
その中でチラッと聞こえた部分にマグが反応した。
マグ(たしかにコウスケさんの魔法は不思議なものがいっぱいですね)
コウスケ(まぁ否定はしない)
ゲームのやつを参考にしてるのばっかだし。
とはいえいくつかは誰か考えついててもよさそうだけどなぁ。
まぁ、実用性はともかく。
そんなことを話している間にシエルの考えがまとまったようだ。
シエル「よしっ…!」
モニカ「シエルちゃんファイト!」
メリー「……がんばれ!」
サフィール「落ち着いていきましょう!」
シエル「うん!」
モニカちゃんたちの声援もあって気合いを入れ直したシエルは、再び的人形に手をかざして詠唱を始める。
シエル「【風よ!】[ゆっくりな球となり]【アタシのいうことを聞きなさい!】[ウインドボール!]」
シエルが放ったのは先ほどと同じウインドボール。
だがさっきのと違い、スピードはかなり遅い。
いや遅すぎる。
俺たちの中で1番歩幅の小さいメリーが歩く速度よりも遅い。
まぁゆっくりな球って言っちゃってるし妥当ではある。
シエル「あ、あれぇ……?」
シエルも困惑しているが、これはこれでちょうどいい。
これくらいの速度なら的に当たるまでかなりの猶予があり、その間にいろいろと試せる。
コウスケ「ほらシエル!動かして動かして!」
シエル「あっ…そ、そうね!えいっ!」
俺の言葉で気を取り直したシエルが可愛らしい掛け声と共に両手を動かした。
すると…
ふわっ…
みんな『あっ!』
なんと風の球はシエルの手の動きに合わせてゆっくりと進路を変えたのだ。
シエル「や、やった!」
と、喜んだシエルが思わず腕を引いて胸の前でガッツポーズをすると、球もそれに合わせて方向を変え、シエルへと近づいていった。
パメラ「わわわっ、シエル!こっち来ちゃってるよ!?」
シエル「えっあっ、や、やばっ…!えーとぉえーとぉ……!」
焦って手をわちゃわちゃさせるシエル。
その手の動きにバカ正直従って右往左往し始める風のボール。
これでうっかり速度も乗っちゃったりしたら大変だな……。
コウスケ「シエル、とりあえず的にぶつけちゃえ!」
シエル「あっ、わ、わかった!」
テンパりながらもそう答えたシエルは、俺の助言通りに的に向かうように両手を突き出す。
これで風の球は的へと向かい始め、それを見たシエルはホッとしつつも、今度は最後まで気を抜かずに手をかざし続けた。
それを見た俺たちもふぅ…っと息を吐く。
まだちょっと危険はあるけど、とりあえず目標は達成した感じかな。
結構あっさりいったもんだ。
あとはこれに少しずつ慣れていけば、そのうちグイングイン動かしまくれるようになるだろう。
それにしても……。
咄嗟のことで焦ったからなのだろうが、最初は片手でやってたのが、両手でぐいーっぐいーっと大げさに動いてしまっているのはアレだな……。
いや、可愛さで言えば文句なしの満点なんだけども、残念ながら可愛さでは魔法はどうにもならない。
シビアな世界である。
シエル「う〜ん……いうことは聞いてくれたけど、ちょっと遅すぎたわねぇ……」
リオ「でも今のでコツは掴めたんじゃないか?」
シエル「そうね。次はもう少し速度を上げて……でも早すぎるのはアタシじゃまだ無理だから……」
少し会話をしたあと、すぐにぶつぶつ言いながら考え込むシエル。
それを見てリオが微笑みながら言う。
リオ「あ〜、わかるわ〜……オレも1個上手くいったら、次に試してみたいことがどんどん溢れてきて落ち着かなくなるんだよな〜」
コウスケ「好奇心旺盛だね〜」
リオ「そういうマーガレットもこっち側だろ〜?」
コウスケ「まぁね〜」
だって気になるんだもの。
仕方ないね。
モニカ「思いついたら試したくなるよね〜♪」
ショコラ「うん!新しいことってワクワクするよね〜♪」
チェルシー「ね〜♪」
パメラ「見てる方も楽しいよね〜♪」
メリー「……うん♪わくわくする♪」
フルール「ふふっ、そうね♪」
そしてどうやらそれは多数派…というか全員だな。
やったぜ多数派、なんか嬉しいね。
シエル「よし!次はこれでいってみるわ!」
なんて俺たちが話してる間にシエルがまた新しいことを思いついたようで、唐突に大きな声を上げた。
コウスケ「おぉ〜、やっちゃえシエル〜。何やるかわかんないけど」
パメラ「がんばれシエル〜!なに思いついたかわからないけど」
リオ「決めてやれシエル〜!何する気かは知らないけど」
シエル「なんかひと言余計じゃない!?」
コウスケ・パメラ・リオ『気のせい気のせい』
シエル「もう……」
サフィール「あはは…ダメですよ?集中させてあげないと」
モニカ「も〜、3人ともメッ!だよ?」
コウスケ・パメラ・リオ『ごめんなさ〜い』
シエル「軽いわ〜」
ショコラ・チェルシー「「あははは♪」」
メリー「……くすくす♪」
こんな感じで軽くおふざけも交えながら、俺たちはシエルの練習をひたすら見守った。
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昼休憩。
みんなで迷宮とはなんなのかと問わざるを得ない存在である、第1階層にあるフードコートで適当に食べたいものを買い込んで練習室に帰還。
そして買ったものをベンチに広げ、立ったり床に座ったりして(フルールさん以外)みんな仲良くお行儀悪くお昼ご飯を食べているときに不意に思ったことを俺は口にした。
コウスケ「そういえば私練習してなくない?」
みんな『(たしかに)』
シエルの練習を見ているのが楽しくて、午前中は結局を1回使っただけで終わってたわ。
私も何か新しい魔法を考えなきゃなんだよと。
しっかり考えなさい俺。
と、そこでさらに思った。
コウスケ「なんならシエルに教えてなくない?」
みんな『(たしかに)』
悲報。
俺の役割ナッシングな件について。
チェルシー「シエルちゃん、どんどん新しいことを思いついては試してたもんね〜♪」
シエル「アイデアが次から次へと湧いてきちゃって……おかげで気づいたときには魔力切れを起こすところだったわ……」
モニカ「フルールさんが気づいてくれてよかったよ……」
フルール「この短時間に魔法を放ちまくってたから危ないとは思っていたのだけど、息づかいが荒くなってきてたからさすがにね」
サフィール「ありがとうございますフルールさん…本当は勉強中の身といえど、医療ギルドに所属している私が真っ先に気づいて止めるべきでしたのに……」
フルール「私も保護者としての立場があるからね。今回は私に花を持たせてもらったから、次はあなたが止めてあげなさいね」
サフィール「はい!」
がんばりますっ!とやる気を漲らせながらたまごサンドを頬張るサフィールちゃん。
本人は至って真面目なのだろうが、どうしたってその姿はとても可愛らしいものである。
小さい口いっぱいにたまごサンドを頬張ったせいでちょっとハムスターみたいな頬袋が出来てしまっているのもポイントが高い。
だが残念ながら今はサフィールちゃんの可愛さを堪能している場合ではない。
シエルがテンションぶち上がりすぎてぐったりしている今のうちに何かしら掴んでおきたいのだ。
だってシエルが練習始めたらまた見入っちゃいそうだし。
とは言ったものの…
コウスケ「そんなんでサクッと思いつくなら、こんなに苦労してないんだよなぁ……」
ショコラ「なになに〜?なんの話〜?」
おっと、俺のひとり言がショコラちゃんにバッチリ聞かれてた。
ちょい恥ず。
しかしそれはそれとして話はする。
コウスケ「ん〜……新しい魔法がまだ思いつかなくてさ〜……」
ショコラ「やっぱり難しいの?」
コウスケ「そりゃあね〜。そんなホイホイ思いついたらみんなそう驚かないしね」
ショコラ「そっか〜(もぐもぐ)」
のんき〜。
いや、まぁショコラちゃんは見る専だもんね。
よく分からなくてもしゃあない。
…しっかし、マジでどうしようかなぁ……?
豚系の何かの肉を使った串肉を頬張りながら、俺はずっと答えの出ていないこの問いの答えを考え続ける。
そんなことはつゆ知らず、パメラちゃんが最近街で見かけた動物の話を切り出した。
パメラ「そういえば、最近ギルドの近くでネコをよく見かけるんだよね」
リオ「あっ、オレも見たことある。結構いろんな柄のネコがいるよな」
サフィール「そうなんですか?」
パメラ「うん。白一色の子とかシマシマな子とか……あとはくつ下履いてる子とか!」
シエル「くつ下?ネコが?」
メリー「……ネコもはだしはいやなの?」
メリーがなんか可愛い言ってら。
それにモニカちゃんが笑いながら優しく教えてあげる。
モニカ「あはは、たしかに裸足なのはケガとかがちょっと心配だけど、そうじゃないんだよ。たとえば、黒猫ちゃんなんだけど…足のこの辺までが白くなってるとか」
メリー「……そんなこがいるんだ」
シエル「へぇ〜、見たことないわねぇ」
モニカ「ウチにもたまに来るよ。お昼過ぎとかにも来てるみたいだけど、私はそのとき大体いないから、その時間で会ったことないんだよね」
チェルシー「ネコちゃんたちもどこのお店が1番美味しいか分かってるんだね〜♪」
んまっ!
モニカちゃんとこに集りに行くなんて、贅沢なネコちゃんだこと!
フルール「でもギルドの近くでってことは、誰かこっそりエサを上げてる人がいるんじゃない?それで、ネコたちの間で広がって、ネコたちがどんどんここら辺に集まってきちゃったとか」
パメラ「あぁ〜、ありそうですね〜」
サフィール「ついこっそりエサをあげたくなってしまう気持ちはよくわかります」
パメラ「私も〜。でもネコかわいいんだけど、急いでるときとか狭い道で大きなネコが道の真ん中を支配してたりすることがあって、そういうときはちょっと困っちゃうんだよねぇ」
チェルシー「あとは噛まれたり引っ掻かれたりした人が増えたかな?」
サフィール「たしかにケガ人が少し増えた気はしますね。大半がネコさんの仕業なんですけどね」
リオ「医療の無駄遣い感が半端ないな」
サフィール「まぁ仕方ないですよ。実際ネコさんを触ったら噛まれたりすることで何か別の病気にかかってしまったという人もいるくらいですし…そう考えると結構バカには出来ないんですよね」
リオ「なるほどなぁ」
コウスケ(誰が触ったかも、どこにいたかも分からないからなぁ…特に野良猫は)
マグ(しっかり洗わないと、なんですね)
コウスケ(うん。まぁネコはあんまりお風呂とか好きじゃないらしいけどね)
マグ(ありゃ〜……)
ショコラ「……あっ!」
コウスケ・マグ「(わっ!)」
平和な話をする隣で同じようにのんびりしていると、突然隣にいたショコラちゃんが大声をあげた。
コウスケ「ど、どうしたのショコラ?」
ショコラ「新しい魔法思いついた!」
コウスケ「えっ!」
マグ(なになに!?)
まさかの言葉に驚いて次の言葉を待つ俺たち。
そんな俺たちに、ショコラちゃんは堂々と自信満々にこう言った!
ショコラ「マグ!ネコちゃん作ろ!」
コウスケ・マグ「(えっ?)」
ネコちゃん?作る?
え〜っと……どゆこと?
シエル絶好調。
来週はマグのターン。
お楽しみに!




