344.エルフっ子と魔法練習開始…まずは思い出すところから……
翌日。
無事に魔術コンクールに向けてやることは決まったので、今日から早速猛練習…と言いたいところだが、忘れてはならない。
我々は職を持つ身である。
前は超急ピッチかつ職員の皆さんもモニカちゃんのために非常に協力的だったから許されていたが、今回は別にそこまで急を要するものではない。
むしろまだ告知前だから早すぎるくらいだ。
しかも冒険者ギルドも魔術ギルドも、魔術コンクールに向けていろいろ詰めているところなので業務が忙しかったりする。
そんな中出場するんで休ませてくださいなんて言えるわけがない。
向こうから言われても確実に断る程度には忙しいのだ。
そんなわけで俺たちは昼ご飯時に集まったときにそれを話し合い、平日は1人でもチマチマと、休日には一緒にガッツリと練習しようという方針になった。
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はい、ということでやってまいりました休日です。
今日は朝早くから全員集合→迷宮一階層にあるコロシアムの練習室のひとつに移動した。
さらに子どもだけで特訓は危ないということで久しぶりにフルールさんに同行をお願いしました。
なんだかすでに懐かしい。
ちなみにメリーは俺が、チェルシーはエストさんが背負って集合された。
メリーは本人の強い希望もあってのことだが、それはそれとしてやはり朝には弱かった。
まぁ多分魔法を見たいんだろうから、練習の前に起こすでいいか。
チェルシーもそれで大丈夫だろう。
さて、ふたりのことはふたりに膝を貸しているフルールさんに任せて、俺たちの話に移ろう。
コウスケ「それじゃあ練習…といっても、どういう練習をするかだよね」
シエル「マーガレットはもうどの魔法で出ようって決まってるの?」
コウスケ「いんや、決まってないねぇ。シエルは?」
シエル「アタシも決まってないわ。じゃあそこから決めて行きましょ?ここのふたりだけでも被らないようにした方がいいだろうし」
コウスケ「そうだね。あぁでも、同じようなものなら一緒に練習する強みが存分に活かせるから、それはそれでアリかもね」
シエル「あぁ〜、たしかにそうかも。ん〜…それじゃあとりあえず、どんな感じにするか決めちゃいましょうか」
コウスケ「うん」
てなわけで使う魔法のイメージを決めるわけだが、ここで応援のみんなの意見も聞いてみよう。
観客の声は大事だからな。
ショコラ「やっぱりバーンって派手なのがいいと思う!」
パメラ「前見た魔法のお花みたいなキレイなのもいいなぁ」
モニカ「驚かせるなら誰も見たことないようなものがいいよね」
リオ「よく分かんなくてもいいから、とにかく凄い技術なんだなってのが分かるようなやつも面白いんじゃないか?」
サフィール「見ててハラハラしないものがいいですね。そういう楽しみ方もあるのでしょうけど、少なくとも私はどうしても心配の方が勝っちゃうので……」
コウスケ・シエル「「ふむふむ…」」
なるほどね。
マグ(見事なまでに分かれましたねぇ)
コウスケ(絞れんねぇ……)
だが意見としてはとても参考になった。
コウスケ「う〜ん……人に見せるのが前提であるから、ある程度の派手さキレイさは欲しいかなぁ……」
シエル「そうねぇ…その上でコンクールの趣旨である新しさを表せるような魔法がいいわね……」
コウスケ「リオの言う技術系は派手さとかキレイさに直結するかもね。普通の人にはワー凄いって思われるけど、分かる人にはなんだあれやばってなるような感じ?」
シエル「あぁ〜、そういうのカッコいいわね……でもサフィールの言う通り危ないのはたしかに避けたいわよね」
コウスケ「晴れの舞台を事件現場にしたら呪われた大会みたいになって第2回以降の開催に支障だしそうだよね」
シエル「うん、やめましょ。安全第一。ララさんたちにこれ以上迷惑かけられないわ」
コウスケ「そうだね」
マグ(ほんとにね……)
せっかくあれこれ考えてくれたものを、俺たちの凡ミスでおじゃんにするわけにはいかないからな……。
そうでなくてもケガの心配は無限にするから、危ないことはやめてほしい。
ただ、俺が前回やらかしてマグを怖がらせたからな……正直人のことは言えない身ではあるが、だからこそ危険なことにも人一倍気を付けないとな。
コウスケ「ん〜…そうなると、私は前の花畑とか、花吹雪とか…あとは変身とかかなぁ?危ないのは周りの方だから」
シエル「披露するのは1人ずつ…あ、でも何人かで協力するのもありなんだっけ?」
パメラ「ありになってたねぇ」
そういやそうだった。
そうなると1人ずつってよりは、1組ずつって言った方が正確かも。
これからそうしよう。
と、そこでモニカちゃんが俺たちに尋ねてきた。
モニカ「ふたりは合体魔法しないの?」
コウスケ「確かに面白そうだねぇ。どうするシエル?」
シエル「う~ん……魅力的だけど、アタシじゃまだまだマーガレットとは比べ物にならないし、それに自分のチカラを試す良い機会でもあるから……」
コウスケ「なるほど」
それに最初シエルは勝負だ~って言ってたくらいなんだし、俺とは別々でやりたいって思いも強いんだろう。
シエル「あっ、イヤってわけじゃないからね!?」
コウスケ「分かってるよ。魅力的に思ってくれてるんだもんね?」
シエル「そうそう!…………っ~~~~///(ボッ)」
俺が理解を示して安心したシエルは、自分がぽろっとこぼした言葉に激しく同意し…すぐに意味を理解して顔を一瞬で真っ赤にした。
シエル「違うからねっ!マーガレットは魔法が上手だからすごいのが出来そうって思っただけだからっ!マーガレットと合体魔法を作るが嬉しかったわけじゃないからねっ!?」
コウスケ・マグ「(うんうん、そっかそっか~♪)」
コウスケ(シエル可愛いねぇ♪)
マグ(シエルかわいいですねぇ♪)
ニヤニヤ♪
シエル「ッ~~~~!!!///うわーんバカーッ!」
マグとふたりでにやけてたのがよくなかったのか、シエルは俺に(可愛らしい)暴言を吐いてサフィールちゃんのもとへと駆けていった。
シエル「サフィールぅ~…!マーガレットがぁ~……!」
サフィール「ふふふ、大丈夫ですよ~♪よしよし♪」
サフィールちゃんがとてもフワッとした内容の慰めの言葉をかけながらシエルの頭を撫で始めた。
そこで俺のせいにしないのがサフィールちゃんよなぁ。うんうん。
あとで甘やかそ。
さてと。
コウスケ(それじゃあサフィールちゃんにシエルを任せてる間に何やるか決めちゃうか~)
マグ(そうですね)
マグもサフィールちゃんに任せる気満々でした。
う~ん、さすがです。
マグ(お花畑や花吹雪はキレイで派手ですけど、前に一度見せちゃってるんですよねぇ)
コウスケ(そうだねぇ。前って言ってももう3ヶ月近く前のことだし、それ以来まったくやってないから見れた人も限られてるだろうから大丈夫だとは思うけどね~)
マグ(たしかにもう一度見たい人も多そうですね。でもやっぱり新しいものも欲しくないですか?)
コウスケ(それはまぁ確かに。ん~…でもなぁ……)
試合前の練習でやりたいこと大体やっちゃったしなぁ……。
あの中から試合で使ってなくて良さそうなやつを出すだけでも目的自体は達成できるけど……。
マグ(どうですかっ?どうですかっ?)
マグがめっちゃ期待してるからなぁ……!
そうだよこの子こういう好奇心が強い子だもの。
新しいものが見れそうなこのチャンスを逃すわけが無いなんな。
う~む…そうなると是が非でも新しい魔法をお披露目しないとなわけだが……う~ん……。
何かあったかなぁ……?
ハナから自分で考えるのを諦めて前世の記憶を漁り始めた俺をよそに、シエルがようやく立ち直ったようだ。
シエル「ふぅ……落ち着いたわ……」
サフィール「よかったです」
シエル「アタシも何をするか考えないと……」
パメラ「そもそもの疑問なんだけど、シエルの1番すごい魔法ってどんなのなの?」
シエル「えっ?あ~そうねぇ……」
コウスケ(おっと、それは俺も気になる)
マグ(私も気になります)
シエル「……あれ?アタシなに使えたっけ……?」
コウスケ・マグ・パメラ「(「えっ」)」
リオ「うっっそだろお前……?」
まさかの記憶なしとは思わなんだ。
シエル「だ、だって魔法を使う機会自体少なかったし……し、しかも全力で使うなんてこともほとんどしたことないもん!しょうがないでしょ!?」
リオ「あぁ~……まぁ言いたいことは分かる」
せやなぁ……。
長いことやってないとどうしてもブランクが出るもんだよな……。
それなら確かに仕方ないか……。
なんて考えた俺に、同じような結論にたどり着いたっぽいマグがさらっと言った。
マグ(これコウスケさんもあてはまりません?)
コウスケ(おっと?)
言われてみればそうですね?
あれ?急に心配になってきたぞ???
コウスケ「……あ~…シエルさんや…」
シエル「え~…なんでしょマーガレットさんや…」
コウスケ「…とりあえず今の実力確認しない?」
シエル「する」
というわけで練習最初にやることは、今の自分の実力を確かめる(思い出す)ことに決まった。
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チェルシー「マギーちゃんもシエルちゃんもがんばれ~♪」
メリー「……がんばれ」
コウスケ「はいよ~」
シエル「しっかり見てなさいよ~」
フルール「怪我しないようにね」
コウスケ・シエル「「はい」」
練習を始めようということで、まだ寝てたチェルシーとメリーを起こした。
寝起き(の時の素行)の悪いチェルシーに手を焼くかと思ったが、膝を貸していたのがフルールさんだったからか謝罪とお礼を言いながらすんなり起きた。
俺らのときもそれくらいスムーズに起きてほしい。
ともかく、目覚めたふたりを含めたみんなからゆる~く応援されながら、俺とシエルは練習室に配置された、ハルキの手によって魔法の威力を色で判別してくれる便利な機能が付いた魔鉄鉱製のグレーの人形の形をした的を向いた。
確かあの的は、『青→緑→黄色→赤→黒』の順で威力を教えてくれたはず……。
前に《サンダー》をぶち当てたらオレンジになって…で、普通の人なら即死するって言われたんだっけな。
う~ん…改めて考えても俺ってば超危険人物よな。
初級魔法でそれってヤバい部類だよね。
そんなんが堂々と街を闊歩してたんだ。
やばっ。
まぁ他の人もなかなかの武力を持ってる人が多いからそこまで戦闘力が目立ってないけど。
う~ん。異世界こわっ。
シエル「マーガレット?どうしたの?」
コウスケ「んにゃ、なんでもない。ちょっとぼーっとしてただけだよ」
いけないいけない。
集中せねば。
この子らを怖がらせない威力に抑えねば……あ~でも全力でってリクエストなんだよなぁ……。
しかし全力でやったら…う~ん…どうなるか分からんな……。
よく考えたら全力で魔法使った覚えがあんまりないし。
雷魔法自体が殺傷能力が高い属性だから、使うときは大体手加減してたんだよね……。
練習室でもどっちかっていうと加減の練習してたし、ルーク少年との試合ももちろん加減してた。
……あ~……ユーリさんと初めて会った日の帰り道で会ったあのチンピラたちにはどうしたっけなぁ……?
多分俺の性格上、あの手の輩を一撃で楽にしようなんて考えるとは思えないから、適当に加減して身動き奪って煮るなり焼くなりしようと考えるはずだから……多分加減してたはずだ。うん。
じゃあ…まぁ……怖がらせないの優先ということで……。
シエル「アタシから行くわよ?」
コウスケ「うん、いいよ」
どうやら順番にやるようだ。
そりゃそうか。
属性違うとはいえ同時に打ったらややこしいもんな。
シエル「ふぅ……《【風よ】![球となり]【あの的にぶつかりなさい!】[ウインドボール]!》」
シエルがひと息付いてから放った魔法は、俺が初めて魔術ギルドに行ったときに不意打ちで放ってきたやつと同じ魔法。
しかしあのときよりも威力が上がっている…気がするような感じがする…と思う……。
3ヶ月前の不意打ち魔法なんて覚えてないし、そもそも守りに必死でよく見てないもの。
ともかく、そんなシエルの魔法が当たった的は少し青みがかった緑色に変わった。
ってことはあれは…当たったらまぁ痛い、くらいの威力はありそうだな。
基準が俺の雷とか、あと《マナウォール》を高速移動させてぶつける技……そういや名前付けたっけ?
覚えてないからひとまず《交通事故》と名付けよう。
とにかく俺のそれらの魔法だと人は死ぬということしか分かってないからシエルのアレが凄いのか凄くないのか分からない。
分からないが、非力だと思ってた子がそこそこでも痛いことしてくるのって結構怖い気がする。
シエル「ふぅ……どうだったかしら?」
ショコラ「すごかったー!」
パメラ「風のカタマリがびゅーんって飛んでってたね!」
リオ「結構強そうじゃないか」
シエル「ふふん♪そうでしょそうでしょ?」
みんなに口々に褒められ得意げに胸を張るシエル。
マグ(ぺた〜)
コウスケ(マグ、指を指すのはやめなさい)
マグ(なんでわかったんですか!?)
コウスケ(なんとなく)
ある部分に関してはどこまでも吹っ切れるマグさんですもの。
大体分かる。
フルール「結構良いセンスしてると思うわよ?」
シエル「えっ!ほんとですか!?」
フルール「えぇ。基本に忠実に、それでいて自分がやりやすい工夫をしてあって、とてもよく勉強したのが見てとれたわ」
シエル「あ、ありがとうございます!」
マグが無礼を働いてる中、フルールさんに褒められたシエルは大喜びしていた。
癒し。
さて、ひとしきり喜んだシエルははしゃぎすぎたと考えて照れたのを隠すために俺に話を振ってきた。
シエル「こほん……///つ、次はマーガレットの番よ?」
コウスケ「ん」
さてさて…手加減するとは決めたものの、怖がらせない程度に本気度が分かる程度ってむずいよな……。
まぁ…なるようになれだ。(諦め)
マグ(コウスケさん。何にする予定ですか?)
コウスケ(シンプルに《サンダー》かなぁ。とにかく基本を押さえてみようかと)
マグ(なるほど~)
初歩も初歩の魔法だからな。
自分のチカラがよく分かるだろう。
コウスケ「久々だから緊張するな……」
ショコラ「がんばれーマグー!」
チェルシー「ドカーンとやっちゃえー!」
モニカ「あ、あんまり怖くないといいなぁ……」
そのふたつ満たすのムズすぎるんよ。
まぁともかくやってみるだけだ。
え~っと?確か詠唱文は……ん…確かこれだったはず……。
ふぅ…っと、奇しくも先ほどのシエルと同じような感じで息を吐いた俺は、意を決して魔法をひと息に唱えた。
コウスケ「《【的を撃て】、[蒼き一筋]の【稲妻】。[サンダー]!》」
バスンッッ!!
俺が唱えると同時に人形に着弾した魔法は、人形に突き刺さるように一瞬だけ形を残しすぐに霧散した。
後に残ったのは雷が突き刺さった部分がほんのちょっとだけ黒く染まり、それ以外が真っ赤に染まった人形だった。
これはつまり……大体の生物は即死させられると……なるほどね。
俺なんでどっちかっつーと技術を見せる大会で殺傷能力カンストしそうなことが発覚してんの?
練習パート。
でも練習パート前もやったからそことの差別化を考えないとバッサリカット案件になりそう。
まぁそれはそれで話が進むからいい…のか……?
ともかくまた来週で〜す。




